
探し物
認知症の母との同居生活は探し物ばかりだ。
今日は、製菓用の小数点以下2桁まで量れる
キッチンスケール。
お菓子は作らないし、料理の大さじ1は適当。
でも、ペットのセキセイインコの餌の分量を
量るため、朝晩、必要不可欠なものだ。
それが、いつも置いてあるダイニングテーブルの
どこを見渡してもない。
私は必死で探しながら、考えていた。
うちの母は、よく色々なものを隠す癖がある。
(本人は片付けているつもりなのだが)
そういえば、さっきも母がテーブルの上の
タッパーや醤油差しなどを
片付けようとしていた。
嫌な予感。
母の「隠し(片付け)場所」は、
かなり多岐にわたる。
お茶碗が冷蔵庫で、
大根が丸一本のまま冷凍庫で、
ガンガンに冷やされている。
ガラスのコップがハンカチに包まれて、
クローゼットに鎮座している。
一階のテレビのリモコンが
二階の寝室に横たわっている。
なかでも包丁が、外の物置内にある
自転車のカゴに装備されていた時は、
かなり発見が遅れた。
なので——
今回も探す場所は、キッチンを中心に、各部屋、
玄関から物置まで総当たりだ。
狭い戸建てでも、こういう時は広すぎる。
私がバタバタとあちこち見て回っていると、
母も協力を申し出てくれた。
「なに探してるの?探そうか?」
以前の母は、その執念深さと推理力で
『探し物名人』と家族から頼られていた。
「最後に使ったのはいつ?」などと、
聞きながら、最後まで諦めず
大抵の探し物は、母が見つけてくれていた。
なかなか見つからないことに焦り、
猫の手も借りたいほどのこの状況だ。
昔とった杵柄で見つけてくれないか?!
そんな淡い期待をしつつ、
スケールと言ってもわからないだろうから、
なんと言えば伝わるか、少し考えて答える。
「重さを量る、はかりだよ」
「はかりって、どんな形?」
「四角くて薄っぺらいの」
「これ?」
それは、スライサーだ。
「これ?」
それは、にんにくを削るやつ。
「これ?」
いやそれは、もう全く違うもの!!
母は、さっきから同じところを
開け閉めしている。
挙げ句に、
「なに探すの?」
「はかりってどんなの?」と、
同じ質問の繰り返しが続いた……。
いや……もう説明、面倒だし、
探すのだけで、必死だし。
協力してるんだか、邪魔してるんだか。
しゃべる猫の手は余計だった。
母の相手を適当にしつつ、結局一人で
上から下まで探し回って、半ば諦めた頃だ。
もしかして?と思いついた床下収納庫を
しゃがみ込んで開けてみた。
あった!!
インコの餌と一緒に、100均のカゴの中に
きちんと収められているスケールが
目に飛び込んできた。
今朝使った時に、自分でしまっていたらしい。
母よ、疑ってごめん、私のうっかりだった。
でもせめて、疑ってたことを口に出し
責めたりしなくて本当に良かった…。
ほっと胸を撫で下ろし、見上げた母は、
探し物のことは
もうすっかり忘れているようだった。