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お金がないわたしを、誰が救ってくれますか?

    もし
    明日から
    お金の心配がなくなったら…

    あなたは
    何をしますか。

    “好き”で生きられるとしたら。

    どんな人生を選びますか?

    このエッセイは

    わたしと同じ
    夜職をしている女性へ
    書きました。

    だけども
    夜職を辞めるためだけの
    物語ではありません。

    誰の心にも
    きっとある物語。

    そして

    もう一度
    自分の人生に戻るための
    小さな記録です。


    第一章
    わたしが、稼ぐしかなかった。


    お金がないわたしを
    誰が救ってくれますか?

    必死で、探し求めたけれども
    誰も見つからなかった。

    だから
    わたしが稼ぐしか
    選択肢がなかったんだ。

    ・

    ‥約10年前。
    28歳のわたしは

    ネットワークビジネスにどハマりし
    約1年経ったころには
    借金500万まで膨れていた。

    更には

    半年分の家賃滞納に加え

    通信費は払えず
    携帯が止まる月が続き

    電気、ガス、水道も止まった。

    夜になると
    真っ暗になる部屋の
    カーテンを全開まで開けて

    外の灯りを頼りに
    過ごす毎日が続いていた。

    そんな状態でも

    わたしは
    「″成功者″になりたい」

    という
    若者らしい夢を持ちながら

    ネットワークビジネスを
    頑張っていた。

    そして

    毎日、毎日

    そのままでは
    使えないスマホを持って

    コンビニの中。

    マクドやスタバ…。

    駅周辺。

    Wi-Fiを探して歩くことが
    毎日の日課になった。

    かと言って

    なんとか
    通信費を払えるように
    なったら、なったらで…

    鳴り止まない
    取り立ての電話。

    イヤになる。

    ねえ
    知ってる?

    お金って
    借りる時は
    みんな優しくても

    返すのができなくなると

    世界は
    急に怖くなるんだよ?

    「もう少し、待ってほしいです」

    って

    何回も、何回も…

    毎回、震えながら
    電話したから

    その怖さ
    知ってる。

    そしてね。

    こんな荒れ狂った日が
    半年も続くと

    ポジティブなわたしも

    夢を描いた過去の自分が
    憎くなるぐらいに

    しっかりと
    病んでしまった。

    ・

    ねぇ
    こういう時って

    本当は…
    普通は…

    誰に頼ったらいいんだろう?

    パパは
    わたしが20代前半の頃に
    亡くなった。

    ママは
    元気だったけれども

    わたしが小学校の頃から
    弟と2人
    母子家庭の
    女で一つで
    苦労して育ててくれた。

    「うちには、お金はないから
    絶対に貸されへんからな」

    が、口癖の人だったから

    無理な相談をしても
    怒られるだけなので

    当時のわたしは
    ママから逃げていた。

    そして

    ネットワークビジネスを
    真面目に頑張ったことで

    しっかりと…

    面白いほど
    わたしの周りには
    誰もいなくなり

    相談する相手もいない。

    世界に
    ひとりぼっち…。

    そう
    悲観的になりながらも

    ″自業自得だ″

    と思う
    冷静な、わたしもいた。

    自分で巻き起こした
    この失敗だから。

    誰かに助けてほしいなんて
    思ってはいけない…。

    わたしには
    救ってもらう
    価値なんてない…。

    って

    当時のわたしは
    本気で、そう思っていた。

    だからこそ
    わたしは

    誰にも、知られずに
    生きていける場所を探した。

    そして
    わたしは

    「風俗」

    を選んだ。



    第二章
    生き延びるために、身体を使った。


    好きでもない人との
    セックスは

    なんとなく出来ると思ってた。

    だって

    経験豊富なほうだと
    思っていたから。

    そして
    元々

    花魁がテーマの
    ドラマや映画が好きで

    ″美しい仕事だな″
    って、思っていたから。

    けどね

    全然、違った。

    ・

    はじめてのお客さまのことは
    今でも覚えてる。

    比較的、小柄で
    少しポチャッとして
    メガネをかけていた
    30代後半の男性で

    業界未経験の子ばかりを狙う

    その日が
    最初で最後だった人。

    全てがはじめての
    わたしが行った
    指定のラブホテルは

    幽霊が出てきても
    おかしくないほどの

    今にも潰れそうな
    ボロボロッな外見が
    印象的だった。

    そんな
    安そうなラブホテルの部屋に
    すでに待機してくれている

    はじめてのお客さまに会いにいく。

    正直
    逃げ出したい気持ちが
    なかったわけでもないが…。

    逃げても
    お金が入ってこない現実を

    痛いほど味わったあとに
    選択した、この仕事なので

    微かに
    怖さで
    全身震えながら…。

    ここを頑張ったら

    「普通の生活ができる」

    その喜びを
    噛み締めながら。

    お客さまがいる部屋へと
    向かった。

    ピンポーン。

    ドアが開き
    お客さまが
    中に招いてくれた。

    部屋に入ると
    ムワッとした熱気が
    肌にあたる。

    「暑いですね」

    っと、ぼそっと言ったら

    「暑いほうが、萌えるだ」

    だって。

    へぇ。
    そういうもんなんだ。

    と
    のんきに思った瞬間に

    トンっと肩を
    前から押されて

    そのまま
    ベッドに押し倒された。

    「わたし、本当にはじめてなんです」

    と、恐怖心から伝えたら。

    「大丈夫、僕が全部教えてあげる」

    って
    優しく…やらしく…
    耳元で、ささやいてくれた。

    今、思えば
    下心丸出しの答えなだけ
    だと、判断できるけれども

    当時のわたしは
    その言葉を
    素直に信じきっていた。

    いや…。

    この世界を
    信じたかっただけかも。

    だから
    言われた通りに

    お互い
    汗だくのまま

    アソコの感覚が
    麻痺するぐらいに

    大人のおもちゃで
    たくさん責めてきて…。

    そして
    なんだか、わからないうちに
    そのまま、アレを挿入された。

    気持ちいいとか
    そういう感情は
    全くなかった。

    いや…。

    少しでも
    感情を出そうものなら

    そのまま
    色々なものが、溢れ出して
    取り返しのつかないことになりそうで。

    それが
    わかっていたからこそ

    感情を、必死で
    抑えていた。

    そして
    全てが終わり

    その方は
    スーツに着替えて

    今日の
    残っている
    仕事に行かれた。

    わたしは
    淡々と…

    アソコの違和感や
    お腹の奥のほうが
    締め付けられる感覚…
    変に高鳴る鼓動を

    無理やり抑えこんだまま

    スタッフや
    待機の女の子がいる
    事務所に戻った。

    ・

    その日の
    仕事が終わり

    はじめてのお給料を
    手渡しで、35,000円
    現金でもらった。

    身体の違和感は
    あったのだけれども

    わたしの手の中に
    お金があることが

    何よりも
    嬉しかった。

    「これで電気・ガス代と
    Wi-Fi代が支払える…」

    と

    早速、コンビニに寄り

    晩御飯を選び
    支払いを済ませた。

    手元には
    まだ10,000円も残っていた。

    お金がある
    明日も食べていける…。

    そう思えるだけで

    あんなに疲労していた身体も
    少しだけ軽くなった。

    家に帰って
    壁のスイッチを入れると
    部屋の電気が
    全部ついた。

    今は
    なにも入っていないけれども
    冷蔵庫の振動音が
    嬉しい。

    洗濯物を溜めて
    コインランドリーに行かなくても
    洗濯機で
    簡単に洗える。

    3日に一回
    銭湯に行かなくても
    いつでも
    あたたかいお風呂に
    入れる。

    そんな
    当たり前の暮らしが

    今日1日の稼ぎで
    できるようになった状態が
    嬉し過ぎた。

    「普通の生活がしたい」

    この時のわたしが
    常に思っていた望みが

    少しできるようになった。

    改めて
    部屋の明かりを
    眺めて…

    身体全身で感動したのを
    覚えている。

    けどね
    この日。

    部屋の電気を消し

    布団に入って
    寝ようとしたら
    全く寝れなかった。

    身体は
    十分すぎるほど
    疲れているはずなのに…。

    目が冴えて
    全く寝れなかったんだ。

    真っ暗ではない
    部屋の天井を
    ボーっと見つめていたら

    数時間前に体験した
    あのイヤな感覚を思い出した。

    そして

    頬が
    静かに濡れはじめ…

    気づいた時には

    布団を全身に巻きつけて

    ワンワンと
    子供のように声を出して
    泣いていた。

    この
    ″はじめて″の体験は
    今でも忘れられない。

    不安?
    恐怖心?

    それとも
    安心感?

    取り返しのつかないことを
    してしまったという
    罪悪感…も?

    色々な感情が
    入り混じった

    悲しすぎる
    涙だった。

    お金は手に入った。

    電気もついた。
    お風呂にも入れた。

    普通の暮らしも
    少しだけ戻ってきた。

    なのに

    身体だけが
    ずっと、ずっと、ずっと…
    泣いていた。



    第三章
    頑張るほど、身体が動かなくなった。


    わたしが憧れていた

    ″普通の生活″が
    やっとできるようになった。

    半年の家賃滞納分の
    支払いができてきて

    スマホも
    毎日充電できる。

    債務整理をして
    毎日かかってくる
    取り立て会社からの電話も
    なくなった。

    トイレも
    近くのコンビニに行く
    必要がなくなり

    夜になっても
    部屋の電気は
    明るいまま。

    なのに
    どうして

    頑張れば
    頑張るほど

    身体が動かないんだろう。

    ・

    風俗の仕事は
    わたしが思っていた以上に
    頑張れた。

    だって

    少し大変な仕事だけども
    わたしの身体を精一杯使って

    頑張った対価として

    ちゃんと
    その分のお金がもらえたから。

    毎日3〜5万
    現金で。

    そして

    何よりも

    過去のわたしを
    全く知らない

    そんな人たちばかりがいる
    この世界が

    少しだけ
    生きやすかった。

    だけどね

    働きはじめて
    1ヶ月ぐらい
    経ったときから

    朝起きたときに
    感じる

    「なんか、体調が悪い…」

    という感覚が
    増えてきた。

    熱があるわけではないけど
    身体が重い感じ…。

    お腹は
    なんか痛い気がする…。

    頭の奥も
    ジンジンするような…。

    そして
    頭の中は

    今月は家賃滞納しないか…
    借金の支払いは間に合うのか…
    スマホはいつまで使えるのか…
    昨日のお客さんキモかったな…
    けど、頑張らないといけない…
    そして、みんなに謝らないと…

    そんなこと
    ばかりを考えている。

    大丈夫。
    病気ではないのは
    わかってる。

    だから
    今日も、頑張る。

    頑張れば
    普通の生活を
    続けられる。

    頑張れば
    いつか
    借金返済ができる。

    頑張れば
    みんな認めてくれるはず…。

    だから
    大丈夫。

    って。

    身体が重いのをわかりながらも
    頑張り続けた。

    けれども

    また更に
    1ヶ月経った頃には。

    「もう、本当に行きたくない」

    という感じで

    当日欠勤をするのが
    当たり前になっていた。

    そして

    ついには

    朝起きれなくなるぐらいに

    風俗の仕事が
    イヤになっていたんだ。

    ・

    風俗のお店からの
    全ての連絡を
    無視して

    最終的に
    着信拒否に
    LINEブロックした。

    それほど
    イヤになった。

    そして
    ずっと寝込んでいた。

    「もお
    行けないなぁ…」

    って思いながらも

    「あああ
    お金どうしよう…」

    と、いう

    何度も経験した
    気持ち悪い感覚が
    身体全身を覆う。

    普通の生活が
    できるようになった
    と、いっても

    実際は
    毎日が不安定なのは
    変わりはない。

    まだ借金500万は
    しっかり残っているし

    いつ、またすぐに
    支払い滞納になるか
    わからない。

    明日の晩ご飯までは
    あるけども

    明後日の朝ごはんまで
    あるかはわからない。

    そんな
    カツカツな状態で
    暮らしている。

    だから
    わたしは

    また
    ″身体を使う″
    仕事を選んだ。

    だって

    今のわたしには
    これしか、できないから。

    ・

    「風俗よりかは
    しんどくないでしょ」

    っていう
    軽いノリで

    ピンクサロンで
    働きはじめた。

    稼ぎは
    風俗時代に比べると
    半分以下になった。

    けどね
    不思議なんだけども

    ″アソコに
    アレを入れない″

    と、いう
    ″お店側のルール(守り)″が
    あるだけで

    少しだけ
    ホッとできたの。

    そして

    朝起きれなかった身体が
    しっかりと起きれるようになった。

    だから
    この仕事なら

    お金のために

    わたしは
    頑張れると思った。

    だけどもね。

    頑張れば
    頑張るほど…

    お金を稼ぎに行けば
    行くほど…

    あの時と
    同じように

    朝、身体が
    動かないようになった。

    お店は変わった。

    仕事内容も
    少し変わった。

    なのにどうして
    同じことが起きるの。

    わたしの身体は

    いったい、なにを
    伝えようと
    してくれているのだろうか。


    第四章
    わたしは、本当は何から逃げていたんだろう。


    わたしは
    お金が必要だった。

    だから
    夜職を選んで
    頑張った。

    だけど
    本当は

    お金のためだけに
    この仕事を
    選んだんじゃないことを

    当時のわたしは
    薄々、感じていた。

    けど

    ″それ″を認めたら
    生きていけなくなりそうで。

    見ないようにしていたんだ。

    ・

    夜職を
    はじめる前の話。

    わたしは
    美容師の仕事をしていた。

    19歳からはじめた
    この仕事は

    当時で、8年目に
    差し掛かるぐらいだった。

    人と関わるのが大好きで
    誰かに喜んでもらえるのが嬉しくて
    コツコツ努力するのも楽しくて

    だから
    ずっと

    この仕事を
    続けて行きたい!

    将来は
    自分のお店を持ちたい!

    そう
    思いながら
    働いていた。

    だけども

    よくある
    現実的な話。

    目標だった
    スタイリストになり

    ある程度
    指名のお客さまも増えて

    よしっ
    これからわたしは
    美容師で、どんどん頑張るぞ!

    っていう時に

    はじめて気づいたの。

    このまま
    美容室で勤めるだけでは

    お給料は
    そんなに増えないことを。

    そして

    夢だった
    自分のお店作りまでは
    程遠い…

    と、いうリアルを。

    だからこそ
    その現実を知った
    わたしは

    他の収入源も
    考えないといけないな…
    って思ったわけ。

    その時に
    タイミングよく出会ったのが

    ネットワークビジネス
    だったんだ。

    美容師以外の世界を
    全く知らない

    世間知らずな
    わたしにとって

    ネットワークビジネスは

    シンデレラに出てくる
    魔法使いのようになって

    誰かをキラキラさせることができる
    素敵な仕事だと

    心の底から
    思ったのを覚えている。

    だからさ

    大好きなママに。
    弟に。

    地元の友達に。

    仲の良いお客さんに。

    久々の友達に。

    そして
    全然親しくない人にも。

    ひたすら会って

    みんな喜んでくれるって
    心から思って

    「夢を叶えて一緒に遊ぼう」

    って、伝えていったんだ。

    じゃあさ…。

    「そんな簡単じゃない」
    「ネットワークビジネスで夢は叶えられない」
    「わたしは普通の暮らしでいい」
    「別の収入は要らない」
    「そもそも騙されてるで」
    「そんな話なら帰るわ」

    って…

    目の前の人を
    笑顔にしたいだけだったのに

    それが
    全くできなかった。

    それに加え

    「ああ、また既読にならない…」

    という
    LINEブロックの嵐。

    また

    あんなに
    大好きだった美容師の仕事も

    ネットワークビジネスを
    最優先にしていたおかげで

    月の収入はほとんどない状態に。

    だから
    お金がない。

    ネットワークビジネスの先輩たちから…
    一緒に頑張っている知人から…
    カード会社から…

    借りれるだけ
    お金を借りた。

    …カッコ悪すぎる。

    キラキラしたい!
    って表面上で
    どんなに頑張っても

    実際は

    家に帰ったら
    電気がつかない
    お風呂に入れない
    トイレも使えないからコンビニに。

    ママと弟には愛想つかれ
    友達にも嫌われ

    そして
    まともな生活が
    できない…。

    キラキラどころではない。

    そんな
    現実に

    わたしの心は
    十分に病んでしまった。

    「意味がわからない」
    「なんでこうなったん?」
    「みんな喜んでくれるって思ったのに」
    「だから頑張っただけやのに」
    「どうしたらいいのか、わからん」
    「もう、カッコ悪い姿見せたくない」
    「もう、誰にも会いたくない」

    「もう、わたしのことを
    誰も知らない世界に行きたい」

    って思うように…。

    そして
    最終的に
    わたしは

    当時働いていた
    美容室に

    思い入れがたくさん詰まった
    宝物を置いて
    逃げた。

    そう

    美容師の命ともいわれる
    ハサミが入ったシザーケースを
    お店に置きっぱなしにして

    あんなに大好きだった
    美容師の仕事を
    続けられなくなって

    大好きだった
    みんなとも
    会えなくなって

    ″わたしの世界″
    全てから
    逃げ出したんだ。

    ・

    ・

    大失敗したわたしを
    知っている世界から

    消えてしまいたかった。

    だから
    誰もわたしを知らない
    世界へ行った。

    その場所が
    たまたま風俗だった。

    だけどね。

    逃げてきた
    わたしにとって

    ″性″を扱うこの仕事は
    一番嘘がつけない場所だった。

    そう…。

    逃げた先でも
    わたしは
    わたしのままだったんだ。


    第五章
    性は、一番嘘がつけない場所だった。


    風俗の仕事は
    過去のわたしのことなんて
    誰も知らない。

    そう思っていた。

    だから
    失敗して逃げてきた話なんて
    誰にもするつもりはなかった。

    なのに。

    気づいたら
    はじめて会ったおじさんの胸の中で
    わたしは泣いていた。

    不思議だった。

    名前も知らない人なのに。

    二度と会わない人かもしれないのに。

    どうして
    わたしは
    本音を話していたんだろう。

    ・

    風俗を
    やりはじめの頃

    アソコは常に違和感だし
    お腹も痛い…。

    なのにさ

    今この瞬間しか会わない
    男性の胸のなかで

    よく、号泣した。

    わたしが
    なんで風俗をしだしたのかを
    聞いてくれたから

    質問に答えたら

    いや、はじめは
    ちゃんと答えるつもりは
    なかったんだけども

    人肌のおかげか
    相手に敵意が見られないからか
    その人が本当に優しかったからか

    理由はわからないのだけれども

    適当に話しているうちに
    気付かぬうちに

    本音で話してて…。

    そして
    気づいたら

    わたし、涙を流してて

    その方が
    優しく抱き寄せてくれた。

    だから
    さらに号泣した。

    しかも
    この経験ね

    何度もあるんだ。

    もう
    顔なんて覚えていない
    人ばかりなのに。

    なんだろう。

    この仕事って。
    不思議なんだよね。

    社長さんも。

    サラリーマンも。

    わたしも。

    みんな
    社会では、鎧を着てる。

    でも
    この部屋の中では
    自然と、鎧が脱げる。

    そして
    心までも
    裸になる感じ。

    だから
    本音が出るのかな。

    だから
    泣くのかな。

    だから
    笑うんかな。

    だから
    癒やされるのかな。

    だから
    わたし自身も
    鎧を脱いでしまったんかな…。

    ・

    風俗を経験して
    ピンクサロンを経験して
    メンズエステを経験して

    たくさんの男性の胸のなかで
    泣かせてもらった。

    はじめは
    自分自身が
    なんで泣いているのか
    全くわからなかった。

    けど

    何度も何度も
    本気で泣くうちに
    気づけた。

    わたしの
    本音に気づけたの。

    そう…

    美容師の仕事を
    逃げてしまったからでも

    親や友達から
    嫌われたからでも

    お金の支払いができない
    ダメな自分でも

    それらの
    過去の失敗のことじゃなくて。

    一番
    向き合いたかったのは

    ″わたし自身″だった
    ってことを。

    心が痛すぎるから
    泣きじゃくってしまうから
    もう、前を向けなくなってしまうかもだから

    必死で見ないように
    隠してきたのに。

    なのに

    丸裸になる
    ″性″の、この場は

    最後まで
    隠させてくれなかった。

    ・

    「カッコ悪いわたしを
    誰にも見せれない」

    それは
    十分にわかっている。

    だけども
    本当は、わたしは
    どうしたいの?

    本当は、今
    どうしたいの?

    ・

    ・

    また
    みんなに逢いたい。

    また
    美容師したい。

    ママに逢いたい。

    ・

    ・

    ごめんなさい。

    わたしは
    また

    わたしの人生に
    戻りたい。


    第六章
    安心を見つけてしまった。


    「辞めたい。」

    その気持ちは
    何年も変わらなかった。

    なのに
    辞められなかった。

    わたしは
    どうして

    やり続けたいと
    ″思わない″仕事を

    今も
    やり続けているのだろう。

    ・

    普通に暮らしていたら
    知ることがなかった

    男性の

    大きく包み込んでくれるような優しさや
    ピンクレディの曲を思い出すような
    オオカミになる瞬間の感じ。

    それに
    加え

    性を扱うことへの
    面白さや、怖さを知り
    探究心が芽生える感覚。

    そういったものが
    わかってきて

    長く続ける気は
    ないものの

    この仕事の
    やりがいも
    十分に見えてきた。

    さらには

    借金返済の目処も
    経ちそうになっていた
    そんな、ある日。

    その日は

    本指名のお客さまばかりで
    手元のお金が増えたことに
    上機嫌だった。

    そんな
    わたしに

    すっかり
    親しくなってしまった
    お店のオーナーから

    今後の人生が変わる
    ある問いをくれた。

    「君は
    夜職を卒業した時に
    何をして生きてるん?」

    「…え?」

    「この仕事はね
    どうしても女性の賞味期限がある。

    もちろん
    熟女店に行く選択もある。

    けれども
    本当に、君は
    数年後も、この仕事で生きたいの?」

    「ちゃんと、考えたことなかったけど…。
    借金返済したら
    辞めてるもんやと思ってた」

    「じゃあ、それ、いつ?

    借金返済し終わっても
    普通の生活するだけでも
    お金はずっと必要になるんやで。

    そこを、しっかり考えないと

    ある程度、稼げるようになっちゃったから
    ずるずる辞められへんようになるで」

    だって。

    身体の奥の奥に
    グサッと深く刺さるような…

    愛のある

    リアルな現実を
    教えてくた。

    ・

    その日の帰り道。

    わたしの頭の中は

    さっきの問いへの
    答え探しでいっぱいだった。

    まず、はじめに
    頭に浮かんだ言葉は

    「…確かに」

    そして

    「え、じゃあ辞めたらどうしよう。
    やっぱ美容師一本で頑張ろうかな」

    だった。

    が
    すぐに
    その考えは撤回した。

    理由は

    「正社員は絶対にイヤだ」

    というのが強かったから。

    この時期の
    わたしは

    今まで逃げていた
    過去の自分と向き合うことが
    できたことで

    美容師の仕事を
    復活していた。

    一度、逃げるように
    辞めたからこそ

    わたしにとって
    大切な仕事なんだと
    再確認した。

    だから
    こだわったんだ。

    それは

    わたしの過去の失敗を知っていながら
    それでも「行きたい」って言ってくれた
    そんな大切なお客さまだけをする

    わたしオリジナルの
    ″フリーランス″という形。

    だから

    週1、2回
    あるかないか程度の

    この時間が何よりも
    大好きだった。

    そして
    大切にし続けたかった。

    だからこそ

    正社員で働いて
    そこのルールに合わすのが
    どうしても、イヤだったのだ。

    「じゃあ、どうしようかな…。

    夜職ほど稼げなくても
    月30万程度稼げるバイトを
    したらいっか。

    まあ、まだ
    急な話でも無いし。
    その時考えよぉ」

    と
    単純すぎるわたしは
    その答えが出たことに
    納得し

    今日の稼ぎが良かったことで

    自分へのご褒美だという
    都合の良い言い訳を使い

    ずっと食べたかった
    百貨店のケーキを

    上機嫌で食べた。

    その三ヶ月後に
    お店が閉店するのを知らずに。

    ・

    「今月末でお店締めるから」

    って。

    急に言われたことで
    わたしはパニックになった。

    え、お金どうしたらいいの。
    バイト探さないと…。
    今月40万ぐらい稼いでるけど
    この金額普通のバイトで稼げるん?
    え、どうしよう…。
    他の夜職のお店探す?
    いや、いい機会やし
    夜職卒業しよう。

    「わたしも、やっと″普通の人″になれる」

    と
    新しいチャレンジに
    少しだけ胸をワクワクさせながら

    バイトを探し
    見つけて
    面接に行き
    受かり

    そこで

    ″普通の人″として
    働いた。

    が…。

    半年も
    続かなかった。

    お金が。

    メンタルが。

    そう
    また、あの時と一緒。

    支払いが
    出来なくなっていた。

    本当に、わたしってバカだぁ…。
    ″普通の仕事″ができひん。
    お金管理もできひん。
    ほんまにアホすぎる…。

    と、自己否定をして

    そして
    わたしは

    「やっぱ
    わたしには夜職しかないわ」

    と

    「絶対に辞めたい」
    って思っていた

    夜職に

    自ら、出戻ったんだ。

    ・

    戻った初日。

    あんなに
    辞めたかった場所なのに

    夜職ならではの
    独特な雰囲気に

    なぜか
    少しだけ
    ホッとしている
    わたしがいた。

    そして

    初日の売り上げ
    30,000円を
    手にしたときに

    「良かった…。
    これで、支払いできる。
    明日から、また普通に暮らせる」

    って

    スゥッと
    肩の力が抜けたのを
    覚えてる。

    ・

    夜職を辞めたい
    絶対に辞めたい
    若いうちに辞めたい
    早く辞めたい

    って
    思う気持ちは
    ずっと消えないんだけども

    この時
    わたしは
    はじめて認めた。

    わたしにとって
    夜職は

    ″安心してお金を稼げる場所″

    になっていたんだ。

    ・

    そして

    大切な美容師スタイルを
    壊したくない

    その思いから
    気づいた。

    それは

    わたしは
    お金に困らない生活がしたい
    だけではなくて

    誰かに決められた正解を
    なぞることでもなくて…。

    わたしが
    本当に欲しかったのは

    お金の心配せずに
    心から安心した
    その先で

    「これが、わたしの″好き″です」

    と、言える人生
    なんだと。

    怖くても
    カッコ悪くても
    何度、出戻っても

    それでもまた
    自分の決めた道を
    歩き続ける人生がいい。

    だから

    夜職を辞めることだけが
    ゴールじゃないの。

    わたしは

    わたしの″好き″の気持ちを
    大切にして
    生きていきたいんだ。


    第七章
    だから、好きで生きる。


    わたしの
    一番大切な人が
    この世を去った。

    頑固で
    言うことを聞かない
    わたしを

    ずっと見守ってくれた人。

    結局…

    わたしが
    夜職をしていることは

    生きてる時には
    言えなかった。

    ママ
    ごめんね。

    ・

    人生って
    本当にあっけなく終わるんだ。

    と

    65歳で
    一週間前まで元気だった
    ママを急に亡くしたから

    わたしは
    強く思うようになった。

    まだ、孫の顔を見せれてない…。
    わたしが自分の美容室を作った時に
    ママに来てほしかったのに。
    夜職で稼いでいること
    内緒のままにしたくなかったのに…。

    もう
    暇な時に
    突然、ママに電話をかけることも

    直接
    話をすることも
    手を触れ合うことも

    なにも、できない。

    本当に
    人生って、終わるんだね。

    ・

    ・

    じゃあ

    わたしは、この人生
    どう生きたら満足なんだろうか?

    もし
    1年後
    人生が終わるのならば

    その時
    わたしは
    どう生きていたら

    「本当に、いい人生やった」

    って
    心からの笑顔で
    人生の最後を
    旅立てるのだろうか。

    わたしの好きなことって
    なんなんだろうか。

    わたしが昔っから
    好きで続けていたことは
    なんだったっけ。

    わたしは
    どう生きれたら幸せなんかな?

    ・

    ・

    わたしは
    わたしの人生で感じたことを
    文章にして伝えたい。

    きっと
    あの頃のわたしのように

    誰にも言えず
    ひとりで苦しんでいる人がいる。

    その人へ
    「あなたは、ひとりじゃない」
    と伝えたい。

    わたしの人生は
    誰かが書いてくれた
    本やブログの文章で
    本当に、救われてきた。

    だから
    わたしも
    そうなりたいんだ。

    そして
    わたしは、やっぱ
    美容師が好きだから

    「ただいま」
    「おかえり」

    が、言い合えるような
    笑顔が溢れる
    プライベートサロンを作りたい。

    あとね
    大好きな彼と
    ほのぼの暮らしたい。

    お互いの人生を応援しあう
    この関係性を
    今後もずっと続けたい。

    そして…

    夜職は、必ず辞める。

    だけどもね

    わたしの夢が叶うまで
    今はまだ、働きたい。

    今のわたしがいるのも
    この夜職のおかげ。

    そして
    過去を消したいとは
    もう思わない。

    遠回りだったかもしれない。

    だけど
    あの痛い日々が
    あったからこそ

    今のわたしは
    伝えたい言葉たちを
    見つけることができた。

    ・

    ・

    ママ。

    わたしね。

    やっと分かった。

    人生は
    長いようで
    本当に短いね…。

    だから
    わたしは

    もう
    ″好き″の気持ちを
    後回しにしない。

    誰かの人生ではなく
    わたしの人生を
    わたしの足でしっかりと立って
    生きるね。

    だから
    見守ってて。


    最終章
    まずは、わたしが生きる。


    一年後。

    わたしは
    彼と
    他愛もない話をしながら
    笑っている。

    美容師の仕事をして。

    文章を書いて。

    ″好き″で
    生きている。

    性のことユニバースには

    「辞められました」
    「好きなこと見つかりました」

    そんな報告が
    毎日届くようになった。

    あの頃のわたしが
    夢見ていた景色が
    少しずつ日常になっていた。

    そして

    ふと
    思い出した時に

    noteのアプリを開き
    このエッセイを見直す。

    「懐かしいな」

    そう笑って
    指でスクロールする。

    あの頃のわたしは
    まだまだ必死だった。

    泣いて。

    逃げて。

    迷って。

    何度も戻って。

    それでも
    ちゃんと、前を向こうとしていた。

    かわいいな
    この子。

    ここから
    全部はじまったんだね。

    ・

    ・

    あの日のわたしへ。

    大丈夫。

    あなたはちゃんと
    好きで生きてるよ。




    #創作大賞2026
    #エッセイ部門

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