
少し、そのまま|俳句連作三十句
片づかないものがある。
季節は進む。
でも、物だけが残っている。
そういう時間を、三十句に置きました。
第一章|紙に残る時間
秋冷や
少しずれたる
栞紐
秋灯や
角のみ濃ゆき
栞跡
花冷や
輪の跡淡き
封筒に
秋冷や
片のみ減れる
鉛筆に
花冷や
端のみ曲がる
葉書かな
花曇
反りきらぬまま
写真紙
春の暮
机に残れる
紙の癖
秋灯
綴目ゆるく
帳簿閉づ
第二章|光と微動
花曇
開きしままの
薄き本
花冷や
湯気の遅れて
消ゆる椀
冬の日や
少し揺れたる
衣紋掛
秋冷や
戻りきらざる
襖かな
春寒し
封の浮きたる
薬包紙
春の暮
透けて波打つ
買物箋
冬の日や
頁の端の
浮き上がる
梅雨深し
頁めくるる
風ばかり
第三章|触れていた形
春寒し
伏せたる匙の
水ひかり
冬の日や
椅子に残れる
シャツの皺
冬の日や
指の沈める
座布団に
冬ぬくし
裏地の残る
膝の跡
花曇
薄き指跡
硝子鉢
春寒し
ぬるみ残れる
湯呑かな
秋冷や
端のみ濡れし
便箋紙
秋灯や
少し離れて
写真立
第四章|そのまま暮れていく
年の暮
少し湿れる
鍵袋
冬深し
裏返りたる
手袋に
年の暮
綴紐ほどけ
かけしまま
冬ぬくし
少し沈める
座のくぼみ
年の暮
少し開きし
抽斗に
霜夜かな
硝子の奥の
紙コップ