
心が動く瞬間
トップスタイリスト長友妙子先生の『信頼を着る』講座をとっている。
セオリーを一通り学んだあとの実習は、銀座シックス。
ヴァレンティノのサロンに先生の先導で入った。
「目についたものがあったら、教えてね。試着させていただきましょう」
その時、わたしの脳は完全に錯覚していた。
ずっと遠い記憶。30代のわたし。
円が強い頃で、ロンドンのバーバリーでもフェラガモでも日本人は上客。
そのかすかな記憶を引き寄せるように、わたしは手をあげた。
きれいなピンクの薄手のブラウス
するりと、ほとんど重さを感じない。
たくさんの蝶々が飛んできて
とまってくれているような、
ちょっとくすぐったくて、
ほがらかな感覚だ。
せっかくだからと、合わせるパンツは、
プラダを着た悪魔2でアンディが着用したのと同じデザイン。
ピッタリ合わせて裾上げをする前提だから、長さは完全に余るし、、、
ウェストは、ぱっつんぱっつん、入りません。
恥ずかしい!という声にならぬ声を店員さんは受けとめて、何も言わず、そっと手をとって、みんなの前に連れて行ってくれる。
いつのまにか背筋がピンと伸びた。

服の力って、筋肉にも内面にも、芯を作ってくれるんだな、と思った。
お値段は、、、いつも買う価格帯の、、、そうだなあ、10倍?20倍?
オーダーメードのスーツよりも高価かもしれない。
だっこしていた赤ちゃんを返すように、試着の品は丁重にお返しして、自分の服に戻る。自分の服と言っても、春からのレッスンの中で、少しずつ本当の自分らしさを探してきた結果だから、鏡に向かって、にっこりできる。
帰り道の足取りは軽かった。
二度と戻らないと封印していた記憶がよみがえったからだ。
手術をする前のふたつそろったオッパイと
サラサラストレート髪でロンドンを闊歩していた私は確かにいたのだ。
こみ上げる思いを先生にチャットで送信。
年齢を重ねたからこその美しさをみつけていきましょうね、
との先生のお言葉が温く胸に沁みた。