
【掌編小説】きらきら、ふわふわ
たんぽぽの綿毛に乗って、それはやってきた。
ぼくは思わず飛び跳ねて、わんっと声をあげる。
「こーら、静かにしなさい」
ご主人様にたしなめられて、ぼくはクーンと尻尾を下げた。
どうやら、これはヒトには見えないものらしい。
それは、あちこちにある。
あたたかくて、きらきらしていて、やわらかい。
シャボン玉が弾けたとき。
ご近所のおじさんがフルートを吹いたとき。
子どもがサッカーボールを蹴ったとき。
そのたびに、それはふっと生まれる。
⸻
ご主人様は、最近よく椅子を揺らしながら机に向かっている。
ときどきポケットの中で、小さな板が鳴る。
話し声が聞こえるけれど、
なんだか、あまり楽しそうじゃない。
⸻
散歩の時間になった。
ご主人様はまだ、難しい顔をしている。
ふと道の脇を見ると、あるものを見つけた。
お日様を映す、大きな水たまりだ。
ぼくはご主人様を引っ張って、
思いきり、その中へ飛び込んだ。
ばしゃん、と水がはねる。
ご主人様は、一瞬きょとんとした。
それから——
大きな声で笑った。
その瞬間。
それは、弾けるようにあふれ出した。
きらきらと光って、
ふわふわと舞って、
やさしくあたりに広がっていく。
⸻
ぼくは嬉しくて、
べしゃべしゃになりながら駆け回った。
たんぽぽの綿毛が、風に乗って揺れている。
きらきら、
ふわふわ。