
いざゆけ!無敵の若鷹軍団⚾
朝起きると、まず天気予報を見る。
そして、そのあと調べる。
「今日はソフトバンクホークスの試合、あるかな?」
私は野球にはまったく興味がない。
ルールもよく分からないし、選手の名前も覚えられない。
それなのに、毎朝、試合があるかどうかを気にしている。
理由は、母である。
母はソフトバンクホークスの大ファン。
そして、口から生まれたんじゃないかと思うくらいのおしゃべりである。
父が元気だった頃は、父の世話をしたり、おしゃべりをしたりしていたので、私は少し放っておいてもらえた。
食器を洗いながらぼんやりしたり、一人でコーヒーを飲んだり。
そんな時間が、ちゃんとあった。
でも今は、父が入院している。
私が帰省すると、おしゃべりの相手は、私一人。
私は普段、どちらかと言えば寡黙な人間だ。
母の話を「うんうん」と聞く。
同じ話でも「うんうん」。
また同じ話でも「うんうん」。
だんだん、「うん」のバリエーションだけが上達していく。
そんな母にも、唯一、私を解放してくれる時間がある。
ソフトバンクの試合だ。
試合が始まると、母はテレビの前に陣取る。
「〇〇、打てーー!打てーー!」
「△△は久しぶりだから、今日は打てんのよね」
「もう、なんしよるんねーー!つまらんねー!」
「よしよし、よくやった👏」
母いわく、
「私は影の監督なんよ」
本人はいたって、本気である。
テレビに向かって、影の監督は忙しい。
一度はペイペイドームに応援に行ったが、トイレに行って戻ったときに、
自分の座席がわからなくなり、苦労したと言っていた。
それ以来、やっぱり、テレビの前が特等席らしい。
私は「うんうん」と聞いているけれど、野球に興味がないので、選手の名前は右から左へ流れていく。
勝てば、ヒーローインタビュー。
その後のスポーツニュースへと続く。
負けそうになると、
「今日は面白くない!」
ブチッ
テレビを消した。
そして、その瞬間から、おしゃべりが再開する。
もう一つ困ることがある。
母のおしゃべりには、CMがない。
「今ならトイレ!」
と思った瞬間に、
「そうそう、それでね」
第二章が始まる。
結局、私は話の切れ目を探しながら、トイレまで我慢することになる。
でも、試合中だけは違う。
私は自由になる。
ゆっくりお茶が飲める。
スマホも見られるし、何よりボーッとできる。
好きなタイミングでトイレにも行ける。
同じリビングにいるのに、母は野球、私は自由時間。
2階に避難して、ウクレレも弾ける。
お互い、とても平和なのである。
昨日と一昨日は、千葉で雨。
ソフトバンク戦は二日続けて中止だった。
母はつまらなそう。
私は……ちょっと困った。
野球がないと、放っておいてもらえないのである。
もちろん、母のことは大好きだ。
でも私は、一人の時間がないと充電できない人間。
一人なら、何時間でも機嫌よく過ごせる。
今日の福岡は久しぶりの晴れ。
千葉のZOZOマリンスタジアムは、日中を通して曇りや
時々小雨のぐずついた空模様らしい。
どうか、今日は試合がありますように。
できれば、四六時中ソフトバンクの試合がありますように。
いや、せめて朝9時から夜9時くらいまで。
母は影の監督として采配を振るい、
私はゆっくりお茶を飲んで、ウクレレを弾く。
これが、私の切実な願いなのである。