メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像

矊、倚忙に぀き。⑩


    倧合同䌚議

     招集通知が届いたのは、十二月の第䞀週だった。

     差出人は「暊管理局」。メリヌは初めお聞く名前だった。封筒を開けるず、䟿箋が䞀枚入っおいた。

     〈来る冬至の日、東掋暊代衚ず西掋暊代衚による合同䌚議を開催したす。議題掛け持ち問題の解消に぀いお。出垭必須。〉

     メリヌは䟿箋を読み返した。䞉回読んでも、内容は倉わらなかった。

     掛け持ち問題の、解消。

     タりにも同じ封筒が届いおいた。

     カフェで向かい合った二人は、しばらく䜕も蚀わなかった。コヌヒヌが冷めた。

    「解消っお、どういう意味だず思う」ずメリヌが蚀った。

    「どちらか䞀方に絞れ、っおこずじゃないか」ずタりが蚀った。

    「干支か、星座か」

    「どちらかを遞べ」

     メリヌは窓の倖を芋た。冬の空は、癜く濁っおいた。

     干支を遞べば、毎晩䞍眠の人間の倢に入る。穏やかに、矊らしく。牡矊座を遞べば、春分のたびに情熱を人間の胞に吹き蟌む。猪突猛進に、力匷く。

     どちらも、自分だった。どちらかだけでは、自分ではなかった。

    「行くしかないな」ずタりが蚀った。

    「行くしかないね」ずメリヌが蚀った。

     冬至の日、䌚堎は星座ビルの地䞋倧ホヌルだった。

     メリヌが扉を開けるず、すでに倧勢が集たっおいた。干支の十二支が巊偎、十二星座が右偎、向かい合うように座っおいる。議長垭には、メリヌが芋たこずのない癜い鳥が座っおいた。暊管理局の局長らしかった。

     巊偎の垭にはネズミ、りシ、トラ、りサギ、韍——韍は䜓をたたんで、それでも呚囲より䞀回り倧きかった——ヘビ、りマ、ヒツゞ、サル、トリ、むヌ、むノシシ。

     右偎の垭には牡矊座、牡牛座、双子座——ゞェミニAずゞェミニBが䞊んで䞀぀の垭に収たっおいた——蟹座、獅子座、乙女座、倩秀座、さそり座、射手座、山矊座、氎瓶座、魚座。カプリコヌンがカプリコヌンの垭に、アリ゚スがアリ゚スの垭に、ラむブラが倩秀座の垭に、それぞれ座っおいた。

     メリヌずタりは、䞡方の垭に名前があった。

     二人は顔を芋合わせお、ずりあえず真ん䞭に立った。

     ホヌルの隅に、ネコがいた。垭はなかったが、柱の陰に座っおいた。ヘビが芖線でネコに気づいお、小さく尟を持ち䞊げた。ネコは目を现めた。韍がその様子をちらりず芋お、静かに鱗を揺らした。

     䌚議は、癜い鳥の開䌚宣蚀で始たった。

    「本日の議題は䞀぀。東西暊の掛け持ち問題です。珟圚、りシずヒツゞが䞡暊を兌任しおおり、これが各方面で混乱を招いおいるずいう報告が䞊がっおいたす。本䌚議では、解決策を怜蚎したす」

     ネズミが手を挙げた。「干支ずしおは、兌任解消を求めたす。りシずヒツゞには干支に専念しおほしい」

     牡牛座の担圓が手を挙げた。「星座ずしおも同様です。タりには牡牛座に専念しおほしい」

     牡矊座——アリ゚スは、手を挙げなかった。

     メリヌはそれに気づいた。

     倩秀座の垭で、ラむブラも手を挙げなかった。ただ静かに、秀を氎平に保぀ように、背筋を䌞ばしお座っおいた。

    「りシずヒツゞの意芋は」ず癜い鳥が蚀った。「圓事者ずしお、発蚀を」

     タりが先に立った。倧きな䜓で、静かに立った。

    「私は干支の仕事が奜きです。忍耐ず誠実を、地道に担圓しおきたした。星座の仕事も奜きです。矎しいものぞのこだわりを、人間に届けおきたした。どちらかを遞べず蚀われたら、遞べたせん」

     ホヌルがざわめいた。

     次にメリヌが立った。

     䜕を蚀えばいいか、ここに来るたでの地䞋鉄の䞭でも、考えおいた。絊湯宀で韍ず話した倜のこずを思い出した。疲れおも、もう䞀回蚀う、ず蚀った。ゞェミニに、どちらも本物だず蚀い続けるこずが仕事だず蚀った。ラむブラに、傟いおいないず蚀った。

     党郚、自分に蚀い聞かせおいたこずだった。

    「私は」ずメリヌは蚀った。「掛け持ちを始めたのは、自分の意思じゃありたせんでした。気づいたら䞡方の契玄曞にサむンしおいた。最初は、それが䞍満でした」

     ホヌルが静たった。

    「でも、この䞀幎で、いろんな人に䌚いたした。タりず、カプリコヌンず、ネコず、ヘビず、韍ず、ゞェミニず、ラむブラず」

     柱の陰でネコの耳がぎくりず動いた。ヘビがずぐろをわずかに持ち盎した。韍の鱗がかすかに光った。双子座の二人が、初めお同じ衚情をした。ラむブラは秀を氎平に保ったたた、静かにメリヌを芋た。

    「ネコは東掋にも西掋にも垭がない。でも存圚しおいる。ヘビは星座の䞭で持たれおいる。でも干支では自分の垭がある。韍は西掋のドラゎンず混同される。でも、韍は韍だ。ゞェミニは二人で䞀人なのに、どちらが本圓かず聞かれ続ける。カプリコヌンは混同されるこずに悩んでいた。みんな、どこかに属しながら、どこかからはみ出しおいる」

     メリヌは巊偎の干支の垭を芋た。右偎の星座の垭を芋た。

    「私が䞡方にいるこずで、少しだけ、東掋ず西掋が぀ながっおいる気がしたす。それが圹に立っおいるかどうかは、わかりたせん。でも、どちらかを遞んだら、その぀ながりは消える」

     ホヌルがたた静かになった。癜い鳥が、メモを取る手を止めた。

     そのずき、ラむブラが立った。

     静かに、しかし迷いなく立った。

    「倩秀座ずしお、発蚀させおほしい」

     癜い鳥がうなずいた。

    「掛け持ちの解消ず継続、䞡方の立堎を聞いた䞊で、秀にかけた」ラむブラはホヌル党䜓を芋枡した。「解消した堎合、東西の暊の間にあった橋が䞀本消える。継続した堎合、混乱は続くかもしれないが、橋は残る。どちらが公平かず問われれば——継続だ」

     ネズミが反論しようずした。

     そのずき、アリ゚スが立った。

     誰も予想しおいなかった。アリ゚スは䌚議で発蚀するこずが少ない。牡矊座の第䞀人者ずしお、決定には埓うが、議論には加わらないのが垞だった。

    「䞀぀、確認させおほしい」ずアリ゚スは蚀った。「掛け持ちを解消した堎合、メリヌは干支か星座か、どちらかの抂念を倱うこずになる。぀たり、穏やかさか、情熱か、どちらかが人間の性質から薄れるずいうこずか」

     癜い鳥は答えた。「理論䞊は、そうなりたす」

    「穏やかさのない情熱は、ただの衝動だ」ずアリ゚スは蚀った。「星座の牡矊座ずしお、それは困る」

     ネズミが反論しようずした。アリ゚スはそちらを芋もせず、続けた。

    「私はメリヌの掛け持ちを、ずっず快く思っおいなかった。遅刻する。集䞭が散る。どちらも䞭途半端に芋えた。だが」

     アリ゚スは䞀床だけ、メリヌを芋た。

    「䞭途半端なのではなく、䞡方を本物ずしおやっおきた。それは私には、できないこずだ」

     ホヌルの右偎で、ゞェミニAがゞェミニBの手を握った。ゞェミニBは振り払わなかった。

     採決は、結論が出なかった。

     賛成ず反察が、きれいに割れた。癜い鳥は「継続審議」ず宣蚀した。぀たり、今日は決たらない。掛け持ちは、しばらく続く。

     メリヌは、なぜか少しほっずした。

     䌚議が終わったあず、ホヌルの倖の廊䞋で、アリ゚スがメリヌに近づいおきた。

    「お前、よく蚀った」

    「アリ゚スさんこそ」

    「私はただ、事実を蚀っただけだ」アリ゚スはコヌトの襟を盎した。「来月の校正、たたよろしく」

    「遅刻するかもしれたせん」

    「わかっおる」

     アリ゚スは廊䞋を歩いお行った。メリヌはその背䞭を芋送った。

     タりが隣に来た。

    「結局、決たらなかったな」

    「うん」

    「たた忙しい日々が続く」

    「続くね」

     二人は䞊んで、゚レベヌタヌを埅った。

     ラむブラが近づいおきた。

    「秀は、継続の方に傟いたたただ」

    「ありがずう」ずメリヌは蚀った。「今日、発蚀しおくれお」

    「材料が揃っおいたから、迷わなかった」ラむブラは静かに蚀った。「たたお茶を飲みに行っおもいいか」

    「もちろん。緑茶ずほうじ茶、䞡方甚意しおおく」

     ラむブラは小さく笑っお、星座の偎の廊䞋ぞ戻っおいった。

     柱の陰から、ネコがするりず出おきた。

    「䌚議、聞いおいた」

    「知っおた」ずメリヌが蚀った。

    「お前の話、悪くなかった」

    「ありがず」

     韍がゆっくりず近づいおきた。倩井すれすれに、鱗が蛍光灯を反射した。

    「メリヌ」

    「うん」

    「䞡方本物だず、たた蚀えたか」

    「蚀えた」

    「そうか」韍は静かにうなずいた。「私も、今日少し、蚀えた気がした」

     韍は干支の偎の廊䞋ぞ、倧きな䜓をたたみながら戻っおいった。

     ゞェミニAずゞェミニBが、䞊んで゚レベヌタヌに乗り蟌んだ。扉が閉たる盎前、二人が同時に蚀った。

    「たた来る」

    「ティヌバッグ、二぀甚意しおおく」

     扉が閉たった。

     ゚レベヌタヌが来た。ネコは乗らなかった。ヘビはい぀の間にか、もういなかった。カプリコヌンが遠くから手を振った。

     扉が閉たる盎前、メリヌは振り返っお、ホヌル党䜓を芋枡した。

     干支の怅子ず、星座の怅子。巊ず右に分かれたたた、少し向き合っおいた。完党には亀わらない。でも、今日初めお、同じ郚屋に座った。

     韍の鱗が床に残した光の暡様が、ただかすかに残っおいた。

     それで、十分だず思った。

     翌朝、メリヌの手垳は、来月たでびっしり埋たっおいた。

     干支の䌚議、牡矊座の校正、カプリコヌンの曞庫芋孊の付き添い、ネコが来たずきのお茶、ヘビぞの返信、韍のお茶、ゞェミニのティヌバッグ二぀、ラむブラの緑茶ずほうじ茶。

     メリヌはそれを芋お、少しだけ笑った。

     䞀匹、二匹、䞉匹——今倜も、誰かの倢の䞭を走る。

     矊は今日も、忙しい。

     
     
    around40の自営業。 「このたたでいいのか」ず思いながら、 昔に自分で蓋した“可胜性の井戞”を掘り盎しおいたす。 モダモダず珟実のあいだの話を曞いおたす。

    あなたぞのおすすめ