
【食エッセイ】タルタルソースの丘
とあるファミレスに頻繁に通っていた時期があった。
新社会人になって何か新しいことを始めたくなり、同期と同じジムに通い始めた頃だ。
ジムでランニングをした後、意識高くサラダランチを食べることに私はハマっていたのだった。
とある日、母と一緒に昼食をとることになった。
自然な成り行きで、私行きつけのファミレスは選ばれた。
私が頼んだのは、確かポークソテーにタルタルソースがかかったプレートだった。
それなりに美味しかった気がする。
母と他愛もない話をして、食事を済ませた。
食べ終えてふと気が付くと、プレートの端に一匹の蠅がとまっている。
手で払えばよいものを、私は好奇心から蠅の行動を見守ることにした。
一歩一歩、小さく、けれど確実に歩みを進める蠅。その先には、余ったタルタルソースの丘が聳えている。
蠅もタルタルソースが好きなのかなあ。同志だね、うふふ。
なんてことを悠長に考えながら、引き続き観察を続けた。
もそっ。ついに小さな蠅は、タルタルソースに頭から突っ込んだ。
そして、微動だにしなくなってしまった。
しばらくその光景を凝視していた私は、なぜか確信を持って「蠅が窒息死した」と呟いた。
蠅を見守る私を見守っていた母は、「あら…」と残念そうな顔をした。
私たちはなんとなく、そーっと席を立ち、お会計を済ませ、そそくさと店を出た。そうしなければいけない気がした。
蠅が本当に死んだのか、実際のところは分からない。
今考えると、蠅はタルタルソースの美味さに「な、なんだこれはーッ!」と感動して固まっていたのかもしれない。きっとそう。そうかなあ。それか足を取られて動けなくなってしまったとか。
蠅とタルタルソースの関係について調べたところ、Googleは「匂いの強い食品に卵を産み付けている可能性」を示唆した。ふーんなるほどね。
でも私の頭の中では、あの蠅は幸か不幸かタルタルソースの中で窒息して死んだことになった。
タルタルソースを目の前にすると、私はあの蠅を思い出して、心の中で勝手に合掌するのである。