
【一首拾い】 第七十五首 ― 約束の先で、ひとり面紐を結ぶ
一緒に剣道二段を受けよう。
そう言っていた人がいた。
その約束を、私はずっと胸のどこかに置いていた。
稽古に行く日も、形を覚える日も、
面紐を結び直すたびに、少しだけ思い出していた。
剣道は、思い立った日にすぐ次の段を受けられるものではない。
昇段してから、また時間をかけて稽古を積まないと、次には進めない。
だから一回ぶん早く進むことには、ちゃんと意味がある。
今回、私は二段を受ける。
けれど、隣にあなたはいないのだろう。
もう竹刀を握らないのかもしれない。
少なくとも、今回の受審には来ない。
それでも私は、待たない。
約束がかなわなかったことと、
その約束に支えられてきたことは、たぶん別だ。
あなたと受けるはずだった二段を、
私はひとりで受ける。
その先へ行くために。
契りおきし させもが露を 命にて
あはれ今年の 秋もいぬめり
あなたが以前かけてくれた言葉を心の支えにして待っていたけれど、今年の秋もむなしく終わってしまいそうだ。
剣道一級、初段と、同じタイミングで受審して昇段していた人がいて、初段の後は1年後に二段になるので「じゃあ、次は二段であいましょう」と約束していた人がいたのだけれど、二段の審査会場にその人は現れなかった。そんなときにこの歌を思い浮かべました。