
【一首拾い】 第七十三首 ― 向こう岸の桜
学校へ通う川沿いの道。
入学式を迎え、新しく学校に通う人が増えた。
ちょうど同じ時間に、川の向こう岸を歩いて学校に通う女の子がいる。
この春入学したのだろう。まだ歩き方が少しだけ初々しい。
部活が始まれば、朝練も始まる。
この時間に見かけることも、きっと減ってしまうかもしれない。
だから、今のうちに――同じ朝の景色として、ちゃんと目に入れておきたい。
川から霧が立ち上がる。
白く、やわらかく、景色を隠してしまう。
せめて同じ時間に見かける今。
川から上る川霧よ、出ないでくれ。
この春に咲いたものを、もう少しだけ見せてくれ。
高砂の 尾の上の桜 咲きにけり
外山の霞 立たずもあらなむ
山の上の桜が咲いた。霞が出ないで、はっきり見えたらいいのに。
川の向こうの道を歩く新入生らしき生徒。川面から立ち上がる霧。もっと新入生を見たいのに霧が邪魔。そんなときにこの歌を思い出しました。