
【一首拾い】 第五十三首 ― 月明かりの素振り
剣道の試合で負けた。
悔しい。
稽古で身に付けたすべてを、出し切ったつもりだった。
それでも、勝てなかった。
悔しさで、眠れない。
すやすや寝ているラビを起こさないように、
竹刀を持って、そっと庭へ出る。
月明かりの中で、ひとり、素振りをする。
一振りごとに、気持ちを込める。
――遅い。
景色が、遅くなる。
風が、遅くなる。
遠くを走る貨物列車の音が、
やけにゆっくり聞こえる。
夜が、長い。
竹刀を握り直す。
次は、勝つ。
嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は
いかに久しき ものとかは知る
嘆きながらひとりで過ごす夜は、朝が来るまでがどれほど長いか、あなたにはわかるでしょうか。
剣道の試合で負けた夜、悔しくて眠れない夜に突きの明かりの下で素振りをしながらこの歌を思い浮かべました。