
【一首拾い】 第八十一首 ― 声のあとに残っていたもの
初夏の午前 家の外 田んぼのそば
家で創作の手を動かしていた。
言葉を置いては直し、また置いて、少しだけ頭の中が熱を持ってきたころ、ここでひと休みしようかな、と思った。
ふと耳を澄ますと、外から鶯の声がした。
「ホーホケキョ」
あまりにきれいに聞こえたので、思わず手を止める。
天気もよかった。
そのまま外へ出て、声に誘われるように田んぼの方へ歩いていく。
たしかにこちらの方にいたと思った。
もう一度鳴いたので、なおさらそう思った。
けれど、見上げても、枝のあいだを探しても、姿は見えない。
声はする。
でも、そこには、青空を映した大きな水鏡があるだけだった。
風がわたるたび、水面がすこし揺れる。
さっきまで鳥の声を追っていたのに、いつのまにか、空の明るさのほうを見ていた。
見えなかった、と思うより先に、
残っていた静けさが、心をほどいていく。
ほととぎす 鳴きつる方を ながむれば
ただ有明の 月ぞ残れる
ほととぎすの声がしたほうを見上げた。
でも姿は見えなくて、明け方の月だけが空に残っていた。
私の場合は鶯の声。
声に導かれて見に行った先で、別の静かな美しさに出会うことができました。
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