
【一首拾い】 第三十三首 ― 花びらの合図と、ラビの体温
春。
あたたかい日差しの午後〜夕方、家の庭。芝生の上。
春の光って、いつも「ここから先へ行けるよ」って顔をしている。
窓の外を誘うように飛ぶあげは蝶に、ふっと背中を押されて、ラビと庭へ出た。
ラビは芝の上を走り回って、端っこに小さな穴を掘ったりしている。
わたしはその様子を眺めながら、芝生に仰向けに寝転んだ。まぶしさの中で、呼吸だけがゆっくりになる。
うとうとしていると、顔に何かが落ちてきた。
気づけばラビも隣に来て、わたしにもたれかかるように眠っている。小さいのに、温かさはちゃんとある。
指でつまんで確かめると、それは桜の花びらだった。
淡いピンク色。まだきれいで、まだここにいてもよさそうなのに、もう「行く側」のもの。
夕方が近づくと、風が強くなる。
吹くたびに花びらは増えて、散り飛ぶ量が変わっていく。のどかな光のままなのに、世界だけが少し先へ進んでしまう。
少し肌寒くなってきた。
でも、もう少しだけ目をつむっていよう。ラビの体温を感じていよう。
散るものがある日ほど、「いま」が輪郭を持つ気がするから。
ひさかたの 光のどけき 春の日に
しづ心なく 花の散るらむ
日の光がのどかに差す春の日なのに、どうして桜は落ち着かないように散っていくのだろう。
ラビと一緒に、散りゆく桜を見ながらこの歌を思い出しました。