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Photo byhamagautaki

いい加減トラウマに勝たせてくれよ

    一番近くにいた人が去るかもしれない。
    理不尽という暴力によって。


    同じ職場でかれこれ6年ほど付き合いがある人がいる。
    彼は私の一個下、つまり私の後輩にあたる。
    職場の先輩後輩なんて仲良くなれたところでたかが知れてそうだが、私と彼は元々価値観が似ているからか、はたまた人をよくおちょくる彼と行動にボケが絶えない私の相性が良かったからなのか、気がついたら真面目な話からどうでも良い話までひたすらよく話していた。
    3年前から組織構成上でも近しくなってからはより加速度的に関係が深くなった。普通に休日に会ったりとかして、ただただ居酒屋でずーっとしゃべり倒すようなそんな仲だった。
    ある時あまりにも仲が深くなりすぎて、「もう先輩には見えない、親友だと思ってる」と言われた。嬉しかった。

    1年前からは諸事情あって私は彼の上司になっていた。
    それによって、関係はより深く、とはいかず、どちらかといと複雑になった。
    多方面で関係性を築き上げてそれによってより仲が深まっていけば良かったし、私たちならそれができると思っていた。だが、「上司部下の私たち」と「職場同僚の私たち」と「プライベートの私たち」が色んなところでごちゃ混ぜになっていって、気がついたら何だかよくわからないことになっていた。
    たくさん笑ったしたくさん人の悪口で盛り上がったし、でもたくさん泣いたし喧嘩もしたし正直もう絶交するかと思ったことも普通にあった。
    それでも結局私は彼のことを嫌いになれずに、今も相も変わらず「これウケるよね」なんて毒にも薬にもならないことをやりとりしていた。

    そんなある日。
    私は彼の悪行を自分の上長(つまり彼の上長の上長)から聞いた。
    こんなことをしたので注意しました、他にもこんな発言を繰り返していて他部署含めて相談が来ています、という内容だった。
    話を聞いた時は、その悪の強さに絶句した。
    ただし、同時に、「彼ならあり得るな」とも思った。
    普通にあいつならやりかねないような内容だった。
    以前の彼ではなく、落ちるところまで落ちたんだなと思った。
    もし忙しさ故にそうなっているのであれば、今回の事象はちゃんと受け止めて、その上でゆっくり休んで自分と向き合って、それで元に戻ってほしいと思った。

    だから、私は上長が話した内容を信じた。


    尚、その時は彼の行いの概要しか聞けなかったので、詳しい話は後日となった。
    そして、次の評価面談で彼にちゃんとフィードバックすることになった。


    ところが。
    彼と相も変わらずチャットで話していたある日のこと。
    彼が「上長からこんなこと指導されたんだよね、理不尽じゃない?」と言ってきた。
    私は「聞いたよ」と返しつつ、とても冷めた気持ちで「でも理不尽ってどういうこと?」と追撃した。こいつフィードバックされても何も響かなかったのかなと思った。
    ただ、よくよく話を聞いていると、どうも“ 私が上長から聞いた話”と“ 彼が認識している話”が不自然なくらいズレているのだ。
    言葉をたくさん重ねて確認を続けても、「私はこう聞いたんだけど」「いや?そんなことはなかったと思うよ?」とちぐはぐなやり取りしか生まれず、総じて話が噛み合わなかった。


    なんだこれは。
    私は戸惑う。

    考えられる可能性は2つあった。
    1つ目は、彼の自己認識が歪みに歪んで、他者を傷つけていることの自覚があまりにも無さすぎた故に発生している可能性。
    そしてもう1つは、“ 上長が嘘をついていること”である。


    上長から話を聞いた時から僅かながらにあった、でも一旦私の中に眠らせておいた小さな違和感が、胸の内からフツフツと出てきた。

    そもそも上長は普段から何故か彼に対してやけにキツくあたったり自分が間違えても謝らなかったりしていた。
    私に対しても、「こんな些細なことで何でここまでムキになるんだろう」というようなくらい怒涛のフィードバックをチャットしてくることはあった。(その度に私はやり返したが。)
    そう。そもそも上長は“ 信用出来ない人”だった。

    更に。
    仮に彼の悪行により印象が下がっているのであれば、なぜその事象が発生した時点で誰からも私に連絡がいかなかったのだろう。
    なぜ私は彼の直属の上長であるにもかかわらず、私に彼の立ち居振る舞いを相談してくる人がいなかったのだろう。

    その時は、私と彼が仲良すぎるが故に私が蚊帳の外に置かれてるのだと思っていた。
    でも、もし、上長が彼を貶めたいが故に、ほんの小さな火種を「火事」のように私に見せてきたら…?
    上長が話を盛っていたら…?



    彼と話すうちに、私は自分が何をすれば良いのか分からなくなっていた。もし、彼が上長の言った通りの悪行をしていたのであれば、私は上長としても彼の近しい人としてもちゃんと伝えないといけない、でも彼はそんな悪行をしてないかもしれない。

    わけが分からなくなって、だからもう本人に聞いた。


    「ねえ」
    「ちゃんと正当に今度の評価面談の時にあなたの評価について聞くのと、今この場であなたが一体どう評価されてるのか聞くのどっちが良い?」
    「ただし、私は今断片的な又聞きの内容しか聞いてないから、事実かは分からない」
    「どうしたい?」


    彼は後者を選んだ。
    だから話した。
    すると、


    「何それ、そんなことしたことないけど」

    とかえってきた。



    ああ。
    もう99%上長は話を盛っている。
    そう確信した。

    それでも、聞いていた良くない行動そのものでなくても、それに近しいことはやっていたんじゃないかな、それによって職場全体での彼の印象が下がっていることは可能性としてはあるんじゃないなとは思い、それは彼に伝えた。完全に彼側にならないようセーブしようという私なりのバランス感覚だった。
    彼のことは完全に嫌いにはなってなかったけど、でもやっぱり私は彼に傷つけられたのは事実だったから、同じように傷つけられた人がいた可能性は十分にあると思っていた。


    それでも、どうしても、話を聞けば聞くほど、「彼は何もやってないのではないか?」と思えてきた。
    私はとても混乱ていた。



    さて。
    ここまで読んでくださった皆様に質問です。
    私の話を聞いた彼は、どんな気持ちになったでしょうか。
    想像つきますか。



    答えは「虚無」です。



    彼は、この1年明らかに人の何倍も仕事をして人の何倍も成果を出していた。
    この1年、彼の口から「忙しすぎる」「疲れた」のようなワードが何百回も零れ落ちていた。
    何なら、自分の評価にならないことも、人のために良かれと思ってやっていた。
    やり遂げた。


    なのに。
    自分の身の覚えがないことで悪評立てられて、しかもその張本人が自分の評価をする人である可能性が高くて。



    そんなことなら、
    こんなに仕事やらなきゃ良かった。



    彼はそう漏らした。
    私は何も言えなかった。



    どうして、上長から話を聞いた時に、「彼に事実確認をしたんですか?」と聞かなかったんだろう。
    どうして、多少勘ぐったまま彼に上長から聞いた話を伝えてしまったのだろう。

    どうして、双子の片割れみたいな存在が、自分の頑張りを信じられずにいるんだろう、その状況を私が作ってしまったのだろう。

    頭の中は無数の「どうして」で埋まる。
    でも私が悔やんだところでもう遅い。



    虚無感から脱して欲しくて、私は真剣に励ました。
    電話して、なんなら飲みにも行った。
    私が聞いた話が事実ではないのであれば、と、上長と戦って貶める筋道はあるよ、と指し示した。(私はこういう時に、他人を完膚なきまでに悪者に陥れるのがとても得意なのだ。)
    何ならすぐチャットでジャブを打って上長からの反応を引き出す、という行動まで移した。
    おそらく上長は「フレネミー」という、表向き親切だが裏で敵行動をとるような者のようなので、私が知り得る事実を踏まえて社内政治を上手くやれば、普通に上長の評価は下がる。
    私は絶対に上手くやる。
    だから、彼が自分のこれまでの頑張りが台無しになったんだなんて思わなくても、良い。


    彼もその案に同意した。
    ありがとうと言ってくれた。
    でも。


    もし評価面談で根も葉もないことで評価を下げられていたら、辞めるとも言った。
    私のことなんて全く見ないまま。


    人間関係は不可逆だ。
    人との縁だって、永遠なんてものはなくて、ある日ふとしたことで簡単に途切れる。

    そんなことは分かっているんだよ。
    何十回も何百回も頭で考えて受けいれてきたんだよ、そんなことは。



    それでも悲しい。
    彼が辞めることが、というより、私が理不尽に勝つ力を有していないことが、とてもとても悲しい。


    本当は、彼ともっと話したかった。
    色んなことがあったけど、それでも少年ジャンプのような絆で困難を乗り越えていきたかった。
    今は関係が拗れて居るけれど、なんかお互いがお互いそれぞれ頑張っていれば、また巡り会う形で関係を築けるのではないかと信じていた。


    でも、それは私の一方的な気持ちで、
    今の彼の虚無感の世界観に私はいない。
    私がどんなに上長をボコボコに殴り倒したって、多分彼の心は完全に晴れない。
    虚無感が残るのであれば、おそらく彼は私を含めた今身を置いている世界からは遠のいていく。
    その場合、彼の歩みが私の歩みと混じり合うことは、もう二度と無いかもしれない。


    私は、その事実が、とにかく一番悲しい。



    学生時代からずっと、私は人の分かり合えなさに悩んでいた。
    両親、部活の同僚、同級生、世の中のあらゆる加害者と被害者。
    毎日毎日、すれ違って仲違いしていく様子を見ていた。
    みんなで仲良くして欲しい私の価値観に皆は賛同してくれない。
    おそらく、あまりにも高すぎる私の理想は、皆にとって現実的ではなかったのだろう。
    その結果、私はあらゆる他者から置いてけぼりにされた。
    分かり合える人はいなかった。
    悲しくて寂しかった。

    どうにか何とかみんなが仲良くなる世界線を作れないかという一心で、私は10数年必死で自分を成長させてきた。
    心理学、社会学、世の中の流れ、歴史、文学、組織開発や人材育成のような知識から、適切な判断を下すための思考力や人と円滑に関係を構築しその上で自分の主張を理解してもらうためのコミュニケーションというスキルまで幅広く自分を成長させた。何なら「見た目が良い女の言うことの方がみんな聞くだろう」という思いで外見にも気を配った。愛嬌の要諦も掴んだ。

    そうやっていれば、悲しいことなんて起きなくなるんじゃないかと思ったから。
    みんなのヒーローになれると思ったから。


    でも。
    私は、また、目の前の人が苦しむ姿を目撃してしまった。
    それも、私自身もその要因に関与している、という、最悪な形で。


    ハンプティダンプティ、壊れた卵は戻らない。
    壊れた関係も、戻らない。


    どうして、神様は私をずっと敗者側に置いておくのだろう。
    こんなに宝物みたいなキラキラした思い出ばかりだったのに、また一緒に作れるかなと思ってたのに、もう無理なのかな。


    文章書いてたら泣けてきたよ。
    いい加減、10数年前のトラウマに勝たせてくれよ、神様。



    どうか今一つだけ願いが叶うのならば。
    本当に信じ合える人と全てを乗り越えていけるような、そんな淡い情熱を、私にください。

     
     
    ひたすら1人で自分の考え・思いを書き続けてきた27歳、世の中にエッセイという形で公開してみようと思いました。 日常、仕事、人と組織、本からの学び、哲学などなど、徒然なるままに書いていきます。

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