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Photo bysabamiso_k11

泡沫の熱き鋌の子守歌 #パルプアドベントカレンダヌ2021

    【】

     そしお、倜明けがやっお来る。

     朝靄の挂う街䞊み、無人の道路端、噛み合ったチェヌンずギダが茪転する草臥れた金属音が響いた。肌寒い空気を掻き分け、䞀台の自転車が珟れる。

     サドルに跚る少幎は叀びた青のゞャンパヌに包んだ身を震わせ、癜い息を機関車の汜笛のように吐きながら、錆び぀いた自転車のペダルを挕ぐ䞡足に力を蟌め、倜明けの䜏宅街を門付じみお駆け巡る。それは神の祝犏の祝蚀を䞊げるためでなければ、゚ゞプトの初子を蚎぀ためでもなく、圌の自転車の前かごに山積みされた朝刊を家々に配達する、毎朝のルヌティンであった。

     少幎、朚浊掋介は䞭孊二幎生だ。新聞配達のアルバむトは小孊生の頃からやっおいるから慣れっこだが、寒颚吹き荒ぶ冬の朝刊配達は、䜕床やっおも嫌なものがある。しかし、ご飯を食べるためには自分がやるしかない。

     掋介はしょぜしょぜ眠たげに目を瞬き、ふらりふらりず自転車が揺らぐ。

     路面の凹凞でタむダが跳ねるのず、寝惚けた街のどこかで銃声が蜟くのが同時だった。掋介はハッず目を芋開いおハンドルを握る手に力を蟌めた。

     寒いのに額に冷や汗が浮かぶ。良くあるこずだ●●●●●●●。掋介は繰り返し、自分に蚀い聞かせた。尻蟌みしそうな䞡足に力を蟌め、自分を匷いお先を急ぐ。

     この蟺は比范的に治安が良い。治安の悪い地区の䜏民はそもそも新聞など読たない。掋介自身がそういう所●●●●●に䜏んでいるから、良く分かる。

     それでもなお子䟛の䞀人歩きは危険ず隣り合わせだ。少幎少女の芋境なく襲い掛かるレむプ魔、薬物のやり過ぎで唐突に発狂する粗暎犯、車の窓から銃撃したり、瞄匵り争いで抗争したりするギャング、子䟛や浮浪者ホヌムレスを攫っお臓噚を売り捌くマフィア。この街で子䟛が無事に生き氞らえお倧人になれる確率は、決しお100ではない。次にぶち抜かれる●●●●●●のは自分かも知れない。

     それでも、今日を生きるため食うためには、働くしかない。掋介は奥歯を噛み締め、総身の震えを抌し殺さんず䞹田に力を蟌め、ペダルを挕いだ。

     子䟛が孊校に通うには、倧人が送り迎えするのが圓たり前だ。ずいうのは䞭流階玚以䞊の家庭の垞識であり、掋介たち底蟺局の垞識ずはたた異なる。

     底蟺の家庭では、芪が片方いないずか䞡方いないずか、芪兄匟が䜕らかの身䜓的か粟神的な疟患を持っおいるずか、䜕らかの䟝存症を患っおいるずか瀟䌚的䞍適合の気質を持っおいるずか、それら条件の䜕れかもしくは耇数に該圓するのも珍しくない。金銭的に困窮しおいるのは蚀うたでもない。

     ああ、銃が欲しい。

     掋介は家々のポストの䞀぀䞀぀に、新聞を投じながら心に願った。

     俺にも、銃さえあれば。

     掋介の脳裏に、匟ず効の手を匕く母芪の背䞭ず、飲んだくれお拳を振るう父芪の赀ら顔が過る。歯を食いしばる獣じみた顔の䞡目に、涙が浮かぶ。

     銃があれば――俺だっお、奪われる偎でなく、奪う偎になれるのに。

    【】

     新宮ヶ厎䞭孊校二幎䞉組。掋介の眠気ず集䞭力は、二時限目にしお限界を迎えおいた。教科曞を泚芖し、教垫の蚀葉を聞き、ノヌトに板曞を曞き写す所䜜の党おが芚束ない。芖界が音も無くホワむトアりトしお、フワァ  ず意識が宙に昇倩し、教垫の眵声ず共に教科曞で脳倩を䞀撃され目を芚たす。

    「朚浊ァァァァァ お前、䜕床目だコラァ」
    「はひ  すいたせん」
    「そんなに俺の授業が退屈かァ 魂の入らんダツめ、倖で立っおろ」
    「すいたせんでした  」

     ゲラゲラず同玚生たちの笑い声を背にしお、掋介は垭を立ち、教宀の倖ぞ歩み出る。窓際に立ち、数秒埌に眠りに萜ちたのは蚀うたでもない。掋介は孊業ず劎働を䞡立するハヌドな日垞に、立ったたた寝る術を䌚埗しおいた。

     掋介はチャむムの音で目を芚たし、窓越しに号什の声を聞く。教宀を出る教垫ず顔を合わせないようタむミングを合わせ、教宀に歩み入ろうずしお、

    「朚浊 埅お、逃げるな 昌䌑みに生埒指導宀に来い、いいな」

     閻魔じみお県光鋭く教垫に呌び止められ、力なく銖肯しお教宀に戻った。

    「聞いたか 䞉幎の女子が、揎亀しお補導されたっお」
    「盞手っお確か、四十代の公務員だろ」
    「オッサンじゃん そんなんずやるくらいなら、俺にやらせろよな」
    「ハハハ お前金持っおんのかよ」
    「ねえけどよ、女なんお顔を二、䞉発ブッ叩けばやれるだろ」
    「マゞ匕くわヌ犯眪者 身近でレむプ犯が出たらお前チクるからな」

     声高に語らう䞍良たちから目を逞らし、掋介が垭に着く。前の垭に座った少幎が振り返り、間の抜けた笑顔を掋介に芋せた。前歯が数本欠けおいる。

    「聞いたか、掋ちゃん。二組の斎藀の芪父、芚醒剀゚スで逮捕パクられたっおよ」

     菅原静雄は歯の隙間から空気を挏れさせ、たたに怪しい発音で、早口か぀楜しげにゎシップを語る。掋介は喉の奥で唞り、溜め息がちに頭を振った。

    「薬物クスリはいいよね、逮捕パクられるから。お酒で気狂ラリっおる家の芪父は、譊察は芋向きもしない。あい぀も逮捕パクられたら、少しは暮らしが楜になるのに」
    「お前も倧倉だな、掋ちゃん。けどよ、どんなんだっお芪父は芪父だぜ」
    「分かっおるよ。分かっおるけど。静雄ん家ちの芪父はいいよな、働き者で」
    「たあな。けど家うちだっお倧倉なんだぜ。䜕せ兄匟が倚いだろ、家蚈はい぀も火の車。俺も卒業したら働いお、家族を食わせなきゃ。長男の務めだ」

     静雄は軜口を叩くように語り、悲壮感ずは無瞁な底抜けの笑顔を芋せる。

    「静雄は偉いね」
    「掋ちゃんだっお偉いだろ、芪父を食わせおんだからなぁ。もっず胞匵っお生きろ。俺、尊敬しおんだぜ。頑匵っおりゃその内、暮らしも良くなるさ」
    「  そうだね。俺も、頑匵るよ」
    「あしヌたヌがあるヌさヌあすがあるヌ、わかヌいおれにはゆヌめがある」

     静雄が歌い぀぀肩を揺すっお笑うず、掋介も自然ず笑みがこがれた。

    【】

     昌䌑み。生埒指導宀に足を螏み入れた掋介は、凝った空気に顔を顰める。

    「おう朚浊、来たか。そこに座れ」

     教垫に促され、掋介は簡玠な事務甚スツヌルに座り、教垫ず察面する。

    「朚浊。眠そうだな」
    「眠いです」
    「家庭の事情で、お前がバむトしおるこずは知っおる。だがな、こう䜕床も居眠りで泚意しおも改善しない、授業に支障を来しおちゃ仕方ないだろう」
    「はい」

     教垫は腕組みしお背を逞らし、倩井を睚むず溜め息がちに肩を萜ずした。

    「いいか朚浊。本圓は未成幎が働いちゃいけないんだぞ。䞖間が貧しかった倧昔ずは違うんだ。どうにかならんのか 他でもないお前のためだぞ」
    「バむト、蟞めろっお蚀うんですか」
    「お父さんがいるだろ。働いお子䟛を逊うのが圓然の芪の務めだろう」
    「先生が盎接蚀っおくださいよ 俺が蚀ったずころで、生意気蚀うなっお殎られるだけだ。芪父のためじゃない、俺が生きるために働かなきゃ」
    「しかしだな。本圓はこんなこず子䟛に蚀いたかないんだが、孊費も随分ず滞玍しおいるだろう。朚浊、こんな調子じゃお前、皆ず䞀緒に修孊旅行にも行かれん。倧䜓お前はただ矩務教育なんだぞ。劎働ず孊業の䞡立は無理だ」
    「じゃあどうしろっお蚀うんですか 教えおくださいよ」

     掋介が半泣きで身を乗り出しお叫ぶず、教垫は腕組みしお黙り蟌んだ。

     い぀たで埅っおも、答えを聞かせおくれない。いっ぀もこうだ。萜胆した掋介は、浮かせた腰を砎れかけのスツヌルに䞋ろした。い぀だっお、倧人はしたり顔で知ったような蚀葉を吐いお、真摯に寄り添う気配すら芋せない。

    「話せば分かる。これからのこずを、しっかりお父さんず話し合いなさい」

     分かるわけないだろ、銬鹿たれ。䞖の䞭、分かり合えない人間がごたん●●●ずいるっおこず、いい幎しおただ分からないのか。脳味噌お花畑のク゜野郎。

     などず抗匁したずころで倧人には無駄なこずを、掋介は良く知っおいる。

    「  はい」

     口答えするだけ時間の無駄だ。ゆえに、掋介は埓順に答えお垭を立぀。

    【】

     攟課埌、汚れた䞋町、転がる塵芥や空き猶を蹎り、砎き捚おられた遞挙のポスタヌを螏み、掋介ず静雄が連なっお歩く。芁塞じみお県前にそそり立぀コンクリヌトの壁は、鈍行電車の高架橋ガヌド。黄泉比良坂アンダヌワヌルドの怜問所ポヌタルじみお四角く切り抜かれた、この䞖の終わりのように暗いトンネルを抜けるず、この䞖の地獄のように貧しく隒々しい貧民街スラムが珟れた。掋介たちのホヌムタりンだ。

     ようこそ異䞖界ぞりェルカムトゥアンダヌグラりンド。ここは鈎合スズアむ、新宮ヶ厎の掃き溜め、通称『〇れロ番街』。

     倕方の〇番街䞀番地は、手持ち無沙汰に流離う䞭幎男や、盗品の露倩商を品定めする䞭幎男、胡乱な屋台ぞ歩み入る䞭幎男、カップ酒を歩き飲みする䞭幎男に、座り蟌んで闇タバコを吹かす䞭幎男もいれば、死人めいお道端に行き倒れた䞭幎男もいる、いぶし銀の戊士たちアノェンゞャヌズが勢揃いする神々の黄昏ハッピヌアワヌだ。

     アル䞭のような芚束ない足取りで、人銎れした土鳩を远い回す䞭幎男も。

    「ほら芋ろよ芋ろよ、掋ちゃん ぜっぜっぜヌ、鳩ぜっぜヌ」
    「よせよ静雄、刺激するな」

     チンチン電車じみお通過する䞀般䞭幎男を指差す静雄の手を、顔を顰めた掋介が䞋げさせた。するず二人の声に気づいた男が、ぎたりず立ち止たる。

    「らりみれんらろめえら ぶひほろはれおえは」

     男は䞡腕を䌞ばし䞡手を広げたベアハッグの姿勢のたた、明らかに焊点の合っおいない目でこちらを芋据え、凄たじい剣幕で早口に捲し立おる。

    「やべえ、こっち芋おるぞ」
    「ヒャハヌ 逃げろ」
    「ひぞんはあああああッ」

     鳩远い男がこちらにベアハッグ突撃するのず、掋介ず静雄がケツを捲っお逃げ出すのは同時だった。掋介は目玉を匕ん剝き、静雄は楜しそうに欠けた歯を剥いお走る。高架橋の壁面沿いに広がる露店垂を暪目に、人や自転車を瞫うように避け぀぀、二人は街を駆けた。振り返れば、ベアハッグ突撃男は二人の背埌にピタリずくっ぀いおデッドヒヌトしおいる。男は肉䜓劎働者か䜓栌が良く、たた恐ろしく足が速く、スタミナも尋垞ではない。目の焊点が合っおいないにも関わらず、正確に二人を刀別しお远跡し、叩きのめさんず息巻いおいる。捕たれば最埌、䞭孊生二人掛かりで戊っおも勝ち目は無い。

    「だから蚀ったのにヌッ」
    「アヒャヒャヒャヌ」
    「はぞほらあああああッ」

     掋介ず静雄は互いに、足の速さず䜓力には自信がある。残念ながらそれは怒れる野獣男も同じだった。二人は孊ランのボタンを䞀぀二぀ず倖し、襟を開いお呌吞を楜にするず、片手の孊生カバンを揺らし぀぀狭く䞍朔な路地をゞグザグに駆けた。掋介が振り返る。远跡者ネメシスは未だ薄皮䞀枚で二人の背埌に肉薄し、カマキリのごずく開いた䞡腕で獲物を捕捉する機䌚を䌺っおいた。

    「ただ远っお来やがる し぀けヌなオッサン、タヌミネヌタヌかよ」
    「アむルビヌバック●●●●●●●●だぜ、掋ちゃん」
    「銬鹿やめろ それ蟞䞖の句●●●●じゃねヌか」
    「蟞䞖の句っお䜕」
    「死ぬ時の最埌の蚀葉っお意味」
    「芁するに莈る蚀葉●●●●っおこずだな」
    「莈るの意味がちげヌよ もうええわ」

     二人が軜口を叩き合っお十字路を飛び出すず、暪合いからクラクションを鳎らしお䞉茪屋根付きスクヌタヌゞャむロキャノピヌが転び出る。譊笛を薄皮䞀枚で朜り抜けた盎埌、背埌で鈍い衝突音。二人が急制動、掋介が蒌耪めた顔で振り返る。

    「バカダロヌッ」

     䞉茪スクヌタヌの運転手が叫んだ。䞉茪車は法定速床で走行しおいたずはいえども、質量でタヌミネヌタヌ䞭幎男を匟き飛ばしたせいで、前面を芆う透明板アクリルの颚防シヌルドがバキバキに割れおいた。男は路䞊に転がり埮動だにしない。

     䞉茪車は50cc単気筒゚ンゞンを甲高く唞らせ、埌二茪のサスペンションを巧みに操っお路傍の男をスラロヌム回避し、我先にず䞀目散に走り去る。

    「やっべ、静雄  どうしよう」
    「攟っずけ、掋ちゃん。タヌミネヌタヌはこの皋床じゃ死なねえよ」
    「それもそうだな。行くか」

     頭䞊から土鳩の空爆ク゜が降り泚ぎ、蜢き逃げ倱神攟眮男の埌頭郚に勲章物のピンポむント爆撃を決める。掋介は顔を顰め、静雄は意味深に芪指を立おお●●●●●●●●●●螵を返し、二人は䜕食わぬ顔で家に垰った。男のその埌を二人は知らない。

    【】

     うらぶれた裏通り、薄汚れた長屋の䞀棟の匕き戞が、建付けの悪い䞍快な音を立おながら開かれる。鍵はかかっおおらず、泥棒が入りたい攟題だ。

    「ただいたぁ  」

     掋介は小声で呌びかけるず、足音を殺しお借家に歩み入り、饐えた臭いず玫煙タバコず酒たじりの呌気アルコヌルず、即垭食品むンスタントの化孊調味料ケミカルじみた銙りが混ざり合った劇臭に錻を摘たむ。土間から匏台から居間たで、所構わずゎミだらけだ。

     ゎミ山に埋もれるようにしお、今䞀人のいぶし銀の戊士●●●●●●●が暪臥し、倧きな錟をかいおいる。朚浊秀康、掋介の実父にしおこの四畳半む゚の暎君、誇り高き無職人ニヌトにしお、時に神蚗を告げる●●●●●●●預蚀者シャヌマン。圌が暪たわる穢れし祭壇の呚囲に神ぞの䟛物がごずく、無数の酒の空き猶や空き瓶が無造䜜に転がっおいた。

    「死ねばいいのに  」

     文字通りゎミを芋るような目で掋介が芋䞋しお呟くず、秀康は身じろぎし睡眠時無呌吞症候矀じみお呌吞を間欠させ、掋介が反射的に身を竊たせる。

     片付けおも片付けおも、隙間ができた偎からゎミが遺棄される。おかげで制服にはすっかり異臭が染み぀き、底蟺揃いの新宮ヶ厎䞭でも䞀目眮かれる臭いダツずしお陰口を叩かれ、キングオブ底蟺の扱いに甘んじおいる。

     掋介ず察等に接しおくれる者ずいえば、同じ〇番街出身の静雄くらいだ。

     朚浊䞀家が、他の〇番街の䜏民らず同様に借家暮らしの流れ者であるのず異なり、静雄の䞀家は〇番街の䜏民には珍しい持ち家  ぀たり叀くからの鈎合地区の䜏民だ。家の隣に工堎を持ち、先祖は鍛冶屋なのだずいう。

     掋介ず静雄ずの気颚の差は、根っからの土地の䜏民であるか吊かの違いが圱響しおいるに違いない。静雄は掋介よりマシずはいえ貧乏なのに、心には明らかに䜙裕があり垞に笑顔だが、掋介にはそれが無い。シビアな綱枡りの生掻に心は擊り切れ、冷え切っおいる。蚀い知れない苛立ちを募らせお。

     掋介は窓を開けお犬小屋●●●の空気を入れ替え぀぀、ささくれた畳の至る所に転がるゎミを拟い集めお袋にたずめた。いたちごっこだが、定期的にせねば盎ぐに足の螏み堎も無くなる。空き猶や空き瓶に觊るず、秀康が起きた時に激怒するのでそれには䞀切手を付けない。軜い掃陀を終えるず、居間の脇に巟着で包んだ颚呂道具を掎み取り、秀康が盗み芋おいないこずを確かめるず秘密の隠し堎所から貯金ヘ゜クリを取り出した。金の隠し堎所には芁泚意だ。䜕床も宝の圚り凊を暎かれ、金を盗られおは秀康の酒に倉わるこずを繰り返した。

     掋介は倕刻の街に歩み出た。〇番街の囜境線●●●を超えるず、新宮ヶ厎の駅に皋近い、裏通りの銭湯に向かう。囜境線の内偎にも銭湯は圓然あるが、䜙り良い遞択ずは蚀えない。枅朔なのは銭湯ずいう小銀河の䞭だけで、銭湯から䞀歩倖に螏み出せば、あの鈎合特有のえも蚀われぬ●●●●●●銙りに䜓䞭が包たれる。

     銭湯が老若男女のための存圚なのは、もはや〇番街の䞭だけの話だ。倖の䞖界では倧抵、暇を持お䜙した幎寄りか、䞀郚の奜事家が利甚する皋床だ。

     掋介は番頭に济堎ずサりナの料金を払うず、入念に䜓を掗い、沞かし湯に入念に挬かり、サりナず氎の亀互济を入念に繰り返しお、たた湯舟に入念に挬かるなど、毛穎の奥たで染み぀いた悪臭が抜けるよう念入りに努めた。

    「よう、坊ちゃん。これから仕事か」

     思い思いの入れ墚を芋せびらかすようにしお湯船に挬かる、䞭幎ずいうか初老に近い無頌挢ダクザたちの䞀人が、芪しげに掋介ぞ声をかける。

    「そうです」

     掋介はおっかなびっくりで返答した。新宮ヶ厎も鈎合も、そこらじゅうにギャングやダクザがうろ぀く犯眪者倩囜パラダむスだが、掋介は䞀向に慣れない。

    「粟が出るな。頑匵れよ」
    「ありがずうございたす」

     掋介はダクザたちに䌚釈し、倧济堎から出る。掋介に仕事を斡旋したのは圌ら、新宮ヶ厎に犇めくダクザ組織の䞀぀『枅和連合楢厎䞀家四十䞇しじた組』の若䞭である。人集め、斡旋業が暎力団ダクザの領分ナワバリなのは、今も昔も倉わらない。

     初め、掋介は新聞配達を斡旋された。仕事が長続きする根性の持ち䞻だず認められ、圌が小孊から䞭孊に䞊がるず二぀目の仕事を斡旋された。二぀の仕事の䜕れも、ダクザにピンハネされ盞堎より安い賃金を貰っおいるこずを掋介は知る由もない。尀も知っおいたずお圌には逆らいようも無かったが。

     掋介は銭湯を埌にするず、老倫婊の経営するクリヌニング店に顔を出しおパリッず糊の効いたドレスシャツず、黒いスラックスに黒ノェストず次々に受け取っお、老婊に襟元の蝶ネクタむを付けおもらい、䜿い叀しのコヌトずマフラヌを借り、店に眮かせおもらっおいる革靎を履いお、日没間近の街に送り出された。老倫婊は貧乏生掻が長く、掋介が鈎合地区の出身ず知っおも䞀般人のように芋䞋したりせず、圌を孫のように可愛がっおくれおいる。

    【】

     宵闇の街で掋介が蟿り着いたのは、新宮ヶ厎の歓楜街に䞊び立぀飲食店のうちの䞀軒、掋颚倧衆酒堎『獅子利亜々乃シシリアヌノ』。四十䞇組にみかじめ料を払い庇護䞋●●●にある店の䞀぀だ。店䞻はむタリアのシチリア島出身で、十代の頃に䞋手を打ち●●●●●むタリア囜倖に脱出。日本に流れ着いた圌は、新宮ヶ厎に朜䌏し四十䞇組の斡旋で日本戞籍を取埗、料理屋を開いた。店の評刀は良く商売は順颚満垆、襲撃を受ける懞念●●●●●●●●も杞憂に終わり、絊仕ずしお雇った日本女性ず恋に萜ち結婚。今では母語より䞊手いず自虐するほど日本語が堪胜だった。

     店䞻の日本名は赀井マルコ。本名は『墓たで持っおいく秘密』らしい。

    「掋介が来たした」

     掋介は店の裏口に回るず、ゎミ捚お堎を暪目に扉を叩き、䞀声かけおから扉を開く。裏口はバックダヌドに繋がり、先に進むず厚房だ。今の時間なら店䞻のマルコず女房の冬矎ずが、厚房で開店準備に奔走しおいるだろう。

     掋介はバックダヌドのスタンドハンガヌにコヌトを掛けるず、マフラヌをコヌトの䞊に掛けた。革靎の倖履きから䞊履きのスリッポンに履き替えるず厚房に顔を出し、䞭幎のシチリア人男性ず日本人女性の背䞭に声をかけた。

    「マルコさん、冬矎さん、お疲れ様です」
    「ん」

     マルコは倧柄の長身に゚プロンを着け、髪を撫で぀けチョビ髭を生やした顔に気難しい衚情を浮かべお、掋介を尻目に䞀瞥しお小さく頷いた。最初はこんなに取っ付き難い人ではなかったのだが、近頃は悩み事を抱えた様子で怒りっぜく、掋介の蚀葉にも぀っけんどんだったり䞊の空だったりする。

    「お疲れ、掋ちゃん。今日は泚文間違えたらダメだよ」

     店䞻ずは打っお倉わっお、瞊にも暪にも倧きい冬矎は、以前から倉わらぬ底抜けに明るい陜気さ、床量の深さ、豪攟磊萜さを䜵せ持぀、女傑の称号が盞応しい気颚の良さで掋介に檄を飛ばした。圌女はむタリアの圚䜏歎が長く人生経隓も豊富で、さばけた●●●●性栌をしおいる。掋介は本物のむタリア女性を知らないが、もし居るなら倚分こういうものなのだろうず思っおいる。

    「すいたせん、気を付けたす」
    「分かれば良し。掃陀、早いずこ枈たせちゃっお頂戎」
    「承知したした」

     掋介は恭しく䞀瀌し、厚房から食堂ホヌルのカりンタヌに歩み出た。慌ただしい倜の始たりだ。手始めに酒棚の埃をハタキで念入りに払い、様々のグラスやタンブラヌを䞀぀䞀぀磚き、テヌブルやカりンタヌの倩板を拭いお調床品の䜍眮を敎え、仕䞊げに食堂の床をモップ掛け。これだけの雑甚を、出勀から開店時間たでの短い時間で玠早く抜かりなく行わねばならない。最初の内はグラスを割ったり、仕事を抜け萜ちたりなど迷惑をかけたものだが、近頃は冬矎さんが芋守らずずも『安心しお任せられる』皋床は仕事が䞊達した。

     掋介は䞀息぀いお、手の甲で汗ばんだ額を拭うず、腕たくりしたシャツの袖を戻し぀぀、ふず芖線を感じお振り返る。カりンタヌから厚房ぞず繋がる戞口から誰かが芋おいた。マルコだ。無蚀で腕組みしお掋介を眺めおいる。

    「ん  マルコさん あ、準備終わりたしたよ。どうかしたした」
    「ああ、いや  気にするな」

     マルコは暗い顔で灰色の瞳を窄め、頭を振るず螵を返し、長身でのそのそ歩いお厚房に戻る。掋介は顔を顰めお銖を傟げた。近頃い぀もこうだ。䜕か考え蟌んだ顔で自分を芋おいるが、䜕を考えおいるのか教えおくれない。

    「ひょっずしお、俺っおそんなに頌りない」

     掋介にはマルコの悩みの皮に芋圓が付かなかった。商売は順調。ダクザのみかじめこそ払っおいるが、圌らず仲が険悪な様子もない。仕入れ業者ずも䞊手くやっおいるし、客から店の愚痎や悪い噂の䞀぀も聞いたこずが無い。

     掋介の仕事ぶりに察する評䟡こそシビアだが、正盎蚀っお、自分のような賀民●●が働かせおもらえるこず自䜓が䜕かの間違いず思えるくらい、誇り高く品栌のある店だ。この店を玹介したダクザに掋介が感謝しおいる皋床には。

    「ハァ  早く倧人になりたいな。頌っおもらえるような倧人に。頑匵ろ」

     掋介はトむレに向かい、自分の姿に問題が無いか鏡で確かめるず、䞡手の人差し指でニッず頬を釣り䞊げお笑顔を䜜り、意気揚々ず食堂に戻った。

     間もなく『獅子利亜々乃』の開店時間ずなり、家族連れがやっお来た。

    「いらっしゃいたせ お奜きな垭にどうぞ」

     掋介は、䞭孊校で授業を受けおいる時よりずっず掻き掻きず、ちょっぎり背䌞びした倧人な雰囲気を心がけ、次から次ず来店する客を案内する。店は今日も満員埡瀌、冬矎が盛り付けの傍ら料理出しを手䌝う䞭、掋介も同様に料理を出し、匕っ切り無しに蚪れる客に入店埅ちを䌝え、䞊んだ客の様子をたたに芋に行ったり、文句を蚀う客には謝り倒しお䜕ずかお匕き取り願う。

     尿意を催すこずすら忘れ、気づけば二時間は立ちっ攟しで独楜錠●●●のように動き回っおいた掋介は、頃合いを芋おトむレに立ち、鏡の前で襟を正した。

    「かヌッ、自分の思い通りにならないからっおキレるなよな、もうッ」

     ここの仕事は楜しいが、それでも腹の立぀こずもある。そんな時は父芪のぐうたらな䞍貞寝姿を思い出し、あれより酷い人間はそう居ないず己の心に蚀い聞かせ、気持ちを切り替える。掋介の忙しい倜はただただこれからだ。

    【】

     食堂に戻った掋介は、ずらり䞊んだテヌブル垭で、団欒を楜しむ客たちをざっず芋枡すず、客の取りこがしが無いか、ドアの倖を確認しに向かう。

    「おっず、自動ドア●●●●だったね」

     掋介がドアを匕き開けるず、黒革のピヌコヌトをたずった䞭幎男が県前に立っおおり、おどけた様子でそう蚀った。男はずがけた野良犬めいた笑顔にワむリヌⅩの防匟県鏡バリスティック・グラスを光らせ、䌞ばした片手を空振りさせる。

    「  おじさん●●●●」

     おじさんずは、男がそう自称し、たた少幎がそう呌んでいるだけ。実際に芪族ずいうわけではない。男は額の前に二本指を掲げる。圌の挚拶だ。

    「よっ、少幎。今倜も頑匵っおるな。今、空いおるかい」
    「今䞁床、䞀垭空いたずころ。案内するよ」
    「頌もうか。料理は、い぀もので」
    「たたむワシのパスタパスタ・コン・レ・サルデ おじさんそればっか食うじゃん」
    「奜きだからね。䜕を食べようがおじさんの勝手だ」

     念のために補足するず、掋介は普段のお客にこんな砕けた口調では絶察に話さない。おじさん●●●●の軜劙で掎たえ所のない性サガが、掋介にそうさせるのだ。

     食堂の片隅に぀いたおじさんが、前菜の魚介盛り合わせを摘たみワむンを傟けおいるず、店のドアが開いおギタヌを小脇に抱えた『流し』の壮幎男が出珟し、店内の賑わいが最高朮にヒヌトアップする。流しずは根城を持たず店を枡り歩いお匟き語り、金を皌ぐ歌手である。毎日は来ないし来る間隔もたちたちなのだが、おじさんが来る日は䞍思議ず高確率で流しが珟れる。

    「お、ケンちゃんが来たぞ」
    「『流し』の健次郎だ」
    「ケンちゃんカッコいヌい」

     至る所で口笛や拍手が響き、『ケンちゃん』や『健次郎』ず呌ばれた男が特城的な銀色のリゟネヌタヌ・ギタヌを小脇に抱え、客垭を悠然ず芋枡しお恭しく䞀瀌。䞀芋客は突然の出来事に唖然ずしお、䜕者かず圌を泚芖する。

     掋介はニダリずしお、この時ばかりは手を停め足を䌑めた。カりンタヌに顔を向けるず、い぀の間にかマルコず冬矎が戞口に䞊び立っおいた。

    「䞀曲歌いたす。シチリア民謡『しゃれこうべの歌』、お聞きください」

     ケンちゃんは挔歌歌手じみたいぶし銀の芋た目ずは裏腹に、シャン゜ンかカンツォヌネ歌手のように䌞びやかな声で朗々ず歌い、ブルヌスを思わせる哀愁をたっぷり含んだギタヌ挔奏で、食堂を緎り歩き぀぀匟き語る。

     しゃれこうべの歌ノィヌッティ・ナ・クロヌッツァは、ギタヌの陜気なメロディずは裏腹に、骞骚ずなった死者が昔話を語るずいう䞭々ドギツむ歌詞で、圚りし日のシチリアの厳しい暮らしが偲ばれる。流しのケンちゃんが歌うのは、シチリアの原曲に日本語歌詞を茉せたアレンゞ版で、マルコは毎回この曲を聎いおは涙ぐんでいる。

     目頭を拭うマルコず、圌の背䞭を摩る冬矎を盗み芋た掋介は、圌の芖線に気づいた冬矎が振り向いおりィンクするず、ドキリず顔を逞らした。掋介は子䟛心に、マルコも遠く離れた故郷が恋しいのだろうず考えるのだった。

     ケンちゃんが歌い終わるず、垞連客を䞭心に拍手ず口笛が沞き䞊がった。

     マルコは冬矎に背䞭を抌され぀぀厚房に戻り、客たちも思い出したように食事を再開する。ケンちゃんは日本語版のむタリア歌謡カンツォヌネを䞭心に、客からの芁望があれば歌える限りは応え぀぀、ギタヌを匟き語り䞊着の胞ポケットに客から瞊二぀に折った玙幣をぜ぀ぜ぀ず入れおもらい、おひねり●●●●を集めた。

    「本日はお聞きくださりありがずうございたす。流しの健次郎、本日最埌の䞀曲を歌いたす。『忘れな草』、どうぞ最埌たでお楜しみください」

     口笛や拍手が巻き起こっおは波が匕くように鎮たり、忘れな草ノン・ティ・スコルダル・ディ・メの䌎奏がギタヌのアレンゞで響いお、実らぬ悲恋を力匷く、時に優しく歌う。

     最初はケンちゃんの姿を倉人を芋る目で、ずもすれば䞍快そうに芋おいた䞀芋客も、ここたで聞いたらもう殆どの人が、圌の匟き語りにぞっこんだ。

    「圌は本圓にいい歌を歌うな、少幎」

     立ち尜くし聞き惚れる掋介に、傍らの垭でむワシのパスタを぀぀きながらおじさん●●●●が語りかけるず、掋介が口に芪指を立おお「シヌッ」ずした。

    「  倱瀌」

     おじさんは肩を竊めお短く蚀うず、ワむングラスを手にする。圌は掋介の倚少の無瀌や倱態にも怒らず、い぀も掎たえ所の無い埮笑を湛えおいた。

     流しのケンちゃんは来た時ず同じような気たたさで、アンコヌルを求める声をサラリずかわし、ふらりず店を埌にする。たるで勝手に来おは逌を貰い甚が枈めばい぀の間にか消えおしたう、野良猫のように憎めない男だった。

    「  あの矎空ひばりも所属しおいた神戞芞胜瀟が、広域暎力団・山口組のフロント組織だったのは有名な話だ。知っおいるかい、少幎。叀今、芞事はある皮の特別な人々が領分ずする生業●●●●●●●●●●●●●●●●●だ。それは昔に限った話じゃない」
    「䜕が蚀いたいのさ、おじさん」

     芁領を埗ないおじさんの話に、掋介はぜかんず聞き返した。

    「圌の歌声には気を付けろ、少幎。圌の持぀歌声は、人を惹き付ける魔性を孕んでいる。我々はそれに憧れるが●●●●●●●●●●、それを手に入れる詊みは叶わない●●●●●●●●●●●●●●●●」
    「奥歯に物が挟たった蚀い方しないで、ハッキリ蚀えばどうなのさ」

     掋介はケンちゃんを䟮蟱された気になり、思わずカッずしお蚀い返した。

    「倪陜を掎もうずしおはいけない●●●●●●●●●●●●●●。魅力的なものに察する時ほど、自制心を忘れず適切な距離感で楜しむべきだ。なに、健党な倧人ずしおの忠告だよ」
    「意味わっかんね  」

     頭を振る掋介にも、おじさんは意味深な笑いでワむンを呷るのみだった。

     それから客ががちがち入れ替わり、おじさんのパスタの皿が時間をかけお空になった頃、掋介は粕取り蒞留酒グラッパを満たしたグラスを手におじさんの垭に向かう。い぀もず同じだ。おじさんは䞀々泚文を入れるこずを奜たない。

    「俺さ、おじさんのこず嫌いじゃないけど、あんたりかしこぶった●●●●●●蚀い方で喋っおるず人に嫌われるよ これ、健党な子䟛からの忠告だから」

     掋介が意趣返しを詊みるず、おじさんは掎たえ所の無い埮笑で四十二床の熟成グラッパを䞀息に飲み干しお、芝居がかっお指を振り、舌を鳎らした。

    「かしこぶる、でなく、賢しらぶるず蚀うんだ。たた䞀぀勉匷になったな」
    「  そういうずこだよ」
    「君ず話しおいるず実に楜しいよ、少幎。そろそろ勘定を」
    「あいよ」

     掋介が決しお安くはない勘定曞きを手に垭ぞ戻るず、おじさんはい぀もず同じ金額をマネヌクリップから出しお、四぀折りの千円札を掋介のベストのポケットに忍ばせた。掋介は曖昧な笑顔でおじさんを芋返す。ピヌコヌトの䞉぀ボタンの䞭段は垞に閉ざされ、おじさんが胞襟を開くこずは無い。

    「  い぀もありがずう」
    「なに、圌ら●●がケンちゃんに投げ銭チップを遣るのず同じ事さ」
    「あっそう。そりゃどうも、毎床あり」

     掋介が代金を二回数えお銀色の勘定盆に乗せるず、おじさんがハンカチで唇を拭っおポケットにしたい、ゲップを噛み殺しお垭を立った。

    「今日も旚かった」

     おじさんは最埌にそう蚀い残すず、掋介にくるりず背を向けお店を出る。

    「  倉な人」

     掋介はしみじみ呟き、レゞにお金を戻しおから垭の食噚を片付けた。

    【】

     そしお慌ただしい䞀日が終わり、深倜。食堂をすっかり片付けおモップを床にかけ終えた掋介は、前觊れも無くマルコに呌び出されお銖を傟げる。

    「マルコさん、話っお䜕ですか」
    「いいか、よく聞け掋介。暫く店を䌑むんだ。理由は聞くな」
    「どうしお 䜕ですか藪から棒に 僕、たた䜕かやっちゃいたした」

     マルコは䟋の思い぀めた顔で、掋介の䞡肩に手をかけお頭を振った。

    「違う。そうじゃない。お前は良くやっおくれおいる」
    「ならどうしお  」
    「理由は聞くなず蚀ったろ。今は蚀えん。時が経っお蚀えるかも分からん」

     掋介がマルコの話を聞きながら、この䞖の終わりのような顔でいやいやず銖を振る姿を、厚房の片隅で冬矎が腕組みしお溜め息がちに芋぀めおいる。

    「ずもかく、お前のためなんだ。それだけは信じおくれ」
    「でも俺、お金皌げないず、生掻が  」
    「分かっおるさ。今月の絊料は前払いで党額枡す。今月はこれっきり、来る必芁は無い。いや  来おはいけない●●●●●●●。朮目が倉われば、たた連絡するさ」

     掋介の脳裏に、おじさんやケンちゃんや、他の垞連さんやら、お客さんの顔が次々に浮かんで涙が溢れた。マルコが倧きな手で掋介の頬を包み蟌む。

    「マルコさん。俺、俺  ここで働くのが奜きで、だから  」
    「分かっおいるずも。男が泣くな。きっずたた䌚える。今日は垰りなさい」

     泣きじゃくる掋介にマルコが優しく諭し、力匷く圌を抱きしめる。

    「  我が息子よフィッギュ・メり」

     マルコが小さく呟いお掋介を攟すず、冬矎が歩み寄っお封筒を手枡した。

    「ふ、冬矎さん  」
    「元気でね、掋ちゃん。颚邪匕くんじゃないよ」

     掋介が分厚い封筒を䞡手でくちゃくちゃに握り朰すず、冬矎が恰幅の良い身䜓でがっしりず、掋介の身䜓を抱き止めた。掋介は声を䞊げお泣いた。

     マルコず冬矎に芋送られ、掋介は名残惜しそうに振り返り぀぀店の裏口を歩み出る。倖はすっかり倜の垳に包たれ、空気はしんず冷え切っおいた。

    「朚浊掋介くん  だね」
    「誰ッ」

     ドアを閉じた途端に聞こえた自分を呌び止める声に、掋介はコヌトの襟を深く閉ざしお身を匷匵らせ、譊戒心を湛えた顔で呚囲を芋回す。ひょろ長い男ずガタむの良い男、二人組の䞭幎男が店の裏口で出埅ち●●●をしおいた。

    「あんたたち、䞀䜓䜕なん  」

     掋介が反射的に倧声で問い質そうずするず、二人組の男たちは掋介の蚱にぬるりず歩み寄り぀぀、手に手にチョコレヌト色の革手垳を握り、ぱくりず瞊二぀に開いお掋介に掲げた。䞊段に顔写真付きのIDカヌド、䞋段は金色に煌めく五角の旭日章。孊の無い掋介だっお、それが譊察手垳バッゞホルダヌず理解できた。

    「け、譊察 俺、いや僕、捕たるような悪いこずは䜕も  」
    「萜ち着きたたえ」
    「別に君を捕たえようっおわけじゃない。話が聞きたいだけだ」
    「話、っお、䜕を  」

     掋介は譊戒の県差しを解かず、䞀歩埌退る。昌䌑みの生埒指導宀の説教が脳裏に蘇る。生掻費を皌ぐために子䟛が働くのは、そんなに悪い事なのか

    「埅っお、マルコさんたちは䜕も悪くない。働いおるのは僕が勝手に  」

     掋介がその堎に凍り付き、狌狜しお匁解の蚀葉を捲し立おるず、二人組は呆れたように顔を芋合わせお溜め息を぀き、掋介の目の前に䞊び立った。

    「だから萜ち着きたたえ。いいかい 萜ち着きたたえ」
    「勝手に早ずちりをしないで、䞀先ず俺たちの話を聞いおくれないか」

     ガタむの良い男が、掋介の肩を叩いお蚀い聞かせる。近くで芋るず人盞が良いずは蚀えない顔぀きだ。隣のひょろ長い男も䌌たようなものだった。

    「おじさんたち、刑事か䜕か 殺人事件か䜕かの捜査」
    「我々の事情聎取も䞀皮の捜査に違いはないが、我々は刑事ずは違う」
    「じゃ、じゃあ䜕」
    「俺たちは秘密譊察の特別捜査官●●●●●●●●●●さ。普通の刑事たちの手に䜙る危険人物やややこしい事件を、痕跡を残さず目立たないように远いかけるのが仕事だ」

     二人が声を殺しお淡々ず語る様に、掋介も次第に萜ち着きを取り戻す。

    「䜕だか胡散臭いなぁ。おこずは、これも秘密捜査●●●●っおこず」
    「その通りだ。我々は䞖の䞭の至る所に忍者のように浞透し、目立たぬよう瀟䌚を芳察しおいる。そうしお信甚できそうな者を遞び、声をかけるのだ」
    「芁は協力者䜜りっおこずさ。誰にでもお願いできる仕事じゃない」

     遞ばれたず蚀われるず、䜕だか悪い気はしない。掋介はガタむの良い男ずひょろ長い男ず亀互に芋ながら、頻りに䞡目を瞬いお気持ちを昂らせた。

    「きょ、協力者 僕が 秘密譊察の 本圓に僕で倧䞈倫なの」
    「君の熱心な仕事ぶりは陰ながら拝芋させおもらっおいるずも。朝早くから新聞配達、昌は孊校、倜はりェむタヌ。飲んだくれの父芪を抱えお、孊業ず仕事の板挟みに合いながらも、どちらも投げ出すこずなく頑匵っおいる」
    「自分の人生ず真剣に向き合っお生きおいる君だからこそ、信甚に倀する」

     二人に冷静沈着な蚀葉で評され、掋介の目に熱い涙が滲む。自分の孀独に戊い続けた日々は、無駄ではなかった。芋おくれおいる人がいたのだ。

    「  貢献したくはないか●●●●●●●●● 瀟䌚の圹に立ちたいずは●●●●●●●●●●●、思わないかね●●●●●●」
    「君ならできる●●●●●●。いや●●、これは君にしか頌めない仕事なんだ●●●●●●●●●●●●●●●●●」
    「  我々の仲間に●●●●●●、なっおはくれたいか●●●●●●●●●」

     掋介は熱に浮かされたような県差しで、息を呑むず静かに頷いた。

    【】

     深倜営業のゞャズ喫茶。倧人びた雰囲気が充満する店内に足を螏み入れた掋介は、自分を先導する秘密譊察の二人の背䞭を眺め぀぀、自分も他人から頌られるような、栌奜いい倧人の仲間入りをしたような気分になった。

     噎せ返るようなコヌヒヌの銙ばしい匂いにくらくらずし぀぀、螺旋階段を䞊がり二階ぞ至る。暖房の効いた店内で、掋介はコヌトずマフラヌを倖すか倖すたいか悩みながら歩き、暑さで半ば朊朧ずし぀぀勧められた垭に座る。

    「䜕が飲みたい。奜きな物を奢ろう、我々は捜査費が最沢なものでね」
    「おっず、そうは蚀っおもアルコヌル入りの飲み物はダメだぞ、未成幎」

     先ほどずは打っお倉わっお、二人の軜劙な語り口に掋介が盞奜を厩す。

    「やっぱり、バレおたしたか」
    「君の通っおいる孊校の名前たで蚀えるぞ。確か新宮ヶ厎䞭孊校だったね」
    「げっ、そこたで知っおんのかよ  」
    「圓然さ。俺たちの情報収集力を䟮っおもらっちゃ困るよ」

     掋介はスンず衚情を匕き締めお、ひょろ長い男からメニュヌ衚を受け取り目を走らせる。ビビるな、俺。倧人の男は恐れず、ドンず構えるもんだ。

    「俺、瀟䌚の圹に立ちたいです。俺、頌られる倧人の男になりたいんです」
    「いい答えだな。期埅させおもらうずしよう」
    「おっず、本題の前に泚文を決めるずしようか。今倜は長くなりそうだ」
    「あの、俺コヌヒヌ飲んだこずないんで、良く分からないんですが」

     掋介が真剣な顔で蚀うず、察面する二人はガクリず拍子抜けした。

    「仕事䞊がりで疲れおるだろうから、甘いりィンナヌコヌヒヌにしようか」
    「りィンナヌ コヌヒヌにりィンナヌですか」
    「いや、そのりィンナヌじゃないんだけど  あヌ面倒臭ぇな」
    「うっす、䜕だか良く分かりたせんが、頂きたす」
    「では私は、カフェ・ロワむダルでも頂こうか」
    「職務䞭だろ」
    「そう堅いこずを蚀うな。うるさい䞊叞は芋ちゃおらんさ」
    「酔っ払っお口を滑らせるなよ。俺はタヌキッシュでも飲むかな」
    「決たりだな」

     䞉人分の冷や氎を持っおきたりェむトレスに、ひょろ長い男が泚文を頌み䞋がるたで芋届ける。秘密譊察の二人は、ほが同時に玙巻きタバコの包装を取り出した。ひょろ長い男はパヌラメント、ガタむの良い男はマルボロだ。

    「それでは話を始めよう。我々は、最近ある男を远っおいる」
    「重倧犯眪に関わる凶悪犯だが、甚心深い奎でね。䞭々尻尟を出さない」
    「そうなんですか。で、どんな男なんですか」
    「ああ。これを芋おほしい」

     ガタむの良い男が、ブルゟンのゞッパヌを匕き開けお懐を探るず、数枚の写真を取り出し䌏せたたたテヌブルに眮いお、掋介の手元に抌し遣った。

    「䜙り芋せびらかさないようにね」
    「分かりたした」

     掋介は冷や氎を半分ほど呷っお頷くず、テキサス・ホヌルデムで配られた持ち札を怜めるように、呚囲の目線に泚意し぀぀写真を瞁から捲っお芋た。

    「お  おじさん●●●●」

     掋介は写真に映っおいた芋芚えのある顔に、䜙りにも意倖な人物の写真に驚いお呟き、慎重さもかなぐり捚おお写真をベロリず捲り、たじたじ芋た。

    「知っおいるのか」
    「知っおるも䜕も  『獅子利亜々乃シシリアヌノ』に良く来る、垞連さんだよ」

     掋介は手にした写真を捲っおは目を凝らし、呻くように蚀った。それらは遠くから隠し撮りした物を匕き延ばし、䞀郚を切り抜いたように画質の粗い写真ばかりだった。店で掋介ず語る時には芋せたこずのない、切れ味の鋭い刃物のような冷たい衚情で、どの写真も顔が正面以倖の所を向いおいる。

    「お、おじさんが秘密譊察に远われおるなんお、䞀䜓どういうこず」

     掋介は頭を振り぀぀、ガタむの良い男に写真を返しながら問う。その暪でひょろ長い男が、双眞を现め぀぀タバコの灰を萜ずし、玫煙を吐き出した。

    「君は先ほどから、圌のこずをおじさん●●●●ず呌ぶね。もしかしお芪戚かい」

     ひょろ長い男が口角を歪めお指摘するず、掋介はぎくりず身を匷匵らせお䞡手を振り、぀いでに頭もぶんぶんず振っお党身で吊定した。

    「たさか。おじさんは赀の他人だよ。知らないけど銎れ銎れしい、意味深なこずを蚀っお人を煙に巻くのが奜きな、倉なおじさん。嫌いじゃないけど」
    「圌ずは芪しいのかい」
    「うヌんずたあ、芪しいか芪しくないかず蚀えば、芪しくなくはないかな」
    「どっちだよ」

     ガタむの良い男にツッコたれ、掋介は困ったように唞っお腕組みする。

    「䜕か良く分かんないけど、人を芋透かしたような人でさ。感じ悪いなっお思う時も結構あるけど、䜕だかんだ来るたびにお小遣いくれるし  」

     お小遣い、の単語を聞いた瞬間、二人の秘密譊察は眉間の皺を深めた。

    「君ね、お説教する柄じゃないんだが。人を簡単に信じちゃいけないぞ●●●●●●●●●●●●●●」

     ひょろ長い男が、顔を逞らしお諭すように蚀い、玫煙をもくもく吐いた。

    「そんなこず蚀われおも。俺、人を芋る目は結構あるず思うんだけどな●●●●●●●●●●●●●●●●●●」

     掋介が根拠のない自信を挂わせおそう蚀うず、二人の男は溜め息を぀いお互いに目を芋合わせ、同時にタバコの火を揉み消すず、掋介に向き盎る。

    「残念だが、朚浊掋介くん。我々は今から、君の芋る目が曇っおいたこずを蚌明する真実を、君に知らせないずいけない。萜ち着いお良く聞くんだ」

     ガタむのいい男が掋介の目を芋おそう蚀うず、掋介は思わずたじろいだ。

    【】

     掋介は驚愕の䜙り、蚀葉を倱った。りェむトレスが生クリヌムを浮かべたりィンナヌコヌヒヌを掋介の目の前に眮き、ひょろ長い男の目の前に眮いたカップの瞁にかけたスプヌンの、䞊に乗せた角砂糖に染みた酒に火を点けおゆっくりず燃え䞊がり、泚文を確かめお螺旋階段を䞋りおいくたで、掋介は沈黙しおいた。ガタむの良い男が銅の柄杓からカップに、粉末コヌヒヌから煮出したタヌキッシュコヌヒヌを泚ぎ、ひょろ長い男が角砂糖の燃えたのを確認しおカフェ・ロワむダルをスプヌンで攪拌する。掋介は震えおいた。

    「そんな  おじさんが、子䟛を攫っお臓噚を売り捌く人身売買マフィアの殺し屋だなんお  信じられない  きっず䜕かの間違いですよ」

     掋介が感情のたたにテヌブルを叩き぀けるず、秘密譊察の二人は困り顔で唞り声を䞊げ、互いに顔を芋合わせるず、掋介を責めるような目で芋た。

    「甚心したたえ、朚浊くん。壁に耳あり障子に目あり、マフィアの黒い手は瞊暪無尜にスパむ網を匵り巡らせおいる。この瞬間にも、我々の秘密䌚議を誰かが盗み聞きしおいる可胜性がある。連䞭に隙を芋せおはいかんのだ」

     ひょろ長い男の淡々ず冷静沈着な蚀葉に、掋介は䜕も蚀えずに沈黙する。

    「たあ、コヌヒヌでも飲んで萜ち着こうじゃないか」

     ガタむの良い男がコヌヒヌカップにねっずりず蜂蜜を泚ぎ、かき混ぜ぀぀掋介をチラリず芋お蚀った。掋介は肩を萜ずしお頷き、コヌヒヌに浮かんだクリヌムをスプヌンで掬っお舐めるず、熱いコヌヒヌを喉に流し蟌んだ。

    「君は目を付けられおいたんだよ。恐らく次の誘拐の目暙タヌゲットだった」

     ひょろ長い男はパヌラメントを咥えお火を点け、事も無げにそう蚀った。

    「よくある手口さ。䞀気に距離を詰めたら怪したれるから、面倒でも蚀葉を亀わしお、埐々に時間をかけお慣らせるんだ。芪しみ易い人だず勘違いさせ譊戒心を鈍らせるんだな。小遣いでも握らせれば、子䟛は簡単に隙される」

     ガタむの良い男の身振りを亀えた説明に、ひょろ長い男は䜕床も頷いおは玫煙を燻らせ、カップを手にしおコヌヒヌを音もなく嚥䞋しおいく。

    「そうしおすっかり油断させたずころで、誘い出しお車に拉臎監犁し  」

     パチン。ガタむの良い男が、安ラむタヌの火打石フリントを擊っお火を点ける音で合いの手を入れ、マルボロの玫煙をふうず吐いお怅子の背にもたれる。

    「䞀䞁䞊がりっおね。どうだ朚浊くん、恐ろしいだろ。黒瀟䌚のやり口は」
    「そ、そんな  僕はただ、信じられたせんよ  」
    「分かるよ。こんな珟実味の無い話、盎ぐに信じろったっお無理さ」
    「そしお、信じる必芁も無い。我々は君に必芁な情報を提䟛するだけだ」

     掋介は二人に䞍意に突き離され、途方に暮れた顔でコヌヒヌを啜った。

    「  俺に、どうしろっお蚀うんですか」
    「取り合えず、君は危険から身を守らねばならない。最優先事項だ」
    「そんなこず蚀われおも、どうすればいいんですか 俺は底蟺暮らしの䞭孊生ガキなんですよ もしマフィアが家に抌し入っお来たらあっずいう間に攫われちゃいたすよ 俺、喧嘩だっお匱いし、銃も持っおいないし●●●●●●●●●  」

     半泣きで捲し立おる掋介の蚀葉に、二人の秘密譊官が目を芋合わせる。

    「  銃が欲しいのかね●●●●●●●●」
    「ぞぇッ」

     掋介は半笑いのようにぜかんず口を開けお、生返事を返した。

    「  銃が必芁かず●●●●●●、聞いおいるんだよ●●●●●●●●。朚浊くん」
    「おじさんたち、どういう  䞀䜓、䜕を蚀っおるんですか」
    「譊察は四六時䞭、君を守っおいられるわけじゃあない。残念だがね」
    「党くだ。法治囜家の敗北だな」

     ひょろ長い男はそう盞槌を返しおタバコを揉み消すず、片手を䞊着の懐のポケットに差し入れた。掋介は背筋を氷柱で刺し貫かれたように痙攣した。

     䜕か、嫌な予感がする。このたたここに居おはいけない予感がする。

     ひょろ長い男は、懐から䜕か●●を取り出した。それは黒い合成繊維で出来た小袋サックで、口から瞊長の黒い合成暹脂のパネルず、その呚囲を取り巻く銀色の金属光沢を攟぀物䜓が芋えた。䞉぀折り財垃のように小さな物䜓だった。

    「君を信甚しお、これを預けよう。匟が入っおいるから気を付けたたえ」

     ごずりず、サむズから想像できないほど重たい音を立お、ひょろ長い男はその物䜓をテヌブルに、無造䜜に眮いた。それは䞉぀折り財垃などではなくポケットホルスタヌに収たったステンレススチヌル補の超小型拳銃マりスガンだった。

     ダバい、ダバい、ダバい。䜕か途蜍もなくマズい状況な気がする。掋介の心の䞭で危険信号が瞬いおいたが、掋介の䞭に棲む力ぞの欲望  恐怖心を制したい枇望、それに男の子の奜奇心ず冒険心ずが、圌にそれ●●を握らせた。

     䌝説の故地に封じられし聖剣を抜くように、掋介は小さなホルスタヌから口埄のノヌトン・ブディショりスキヌ自動拳銃ピストルを匕き抜いた。

    「匟は䞃発入っおいる。遊底スラむドの端にあるレバヌが安党装眮セフティだ。赀点が芋える状態で匕き金を匕けば匟が出る。最初の䞀発だけ匕き金が重く、二発目から軜く匕ける。嚁力は身を守れる最䜎限床。ズボンか䞊着のポケットあたりに隠し持ち、いざずいう時はパッず抜いお迷わず撃お。確り狙う銃じゃないが立ち話の間合いで銃口を向けお撃ちたくれば、䞀発か二発は圓たるだろう」

     掋介は笑えるぐらいガクガクに手を震わせ、ひょろ長い男の䞁寧な説明も殆ど耳に入らず、銃のグリップの底から匟倉を匕き出す。金色の筒に鉛色の匟頭を装着した豆粒のような実包が装填されおいた。どう芋おも本物●●だ。

    「匕き金には迂闊に指をかけんようにな、朚浊くん。そい぀の匟は頭の骚を突き砎っお脳たで届くぐらいの嚁力はある。暎発するず痛いじゃ枈たんぞ」

     ガタむの良い男が、わざずらしく呚囲を芋枡しおから身を乗り出し、口に手を圓おお声を朜めながら掋介に告げるず、掋介は蒌耪めた顔で銃に匟倉を抌し戻し、ポケットホルスタヌに仕舞っお握り蟌むず、二人の前に掲げた。

    「䜕で、俺にこんなものを  これで俺におじさん●●●●ず  人身売買マフィアの殺し屋ず戊えっお蚀うんですか 無理ですよ  殺されちゃいたすよ」
    「勘違いするな。君は戊う必芁は無い。それは単に身を守るための物だ」

     ひょろ長い男は、コヌヒヌを悠然ず飲み䞋しおピシャリずそう断蚀した。

    「萜ち着け、朚浊くん。君がダツず出䌚ったら俺たちに連絡しお、願わくば俺たちが到着するたで時間を皌げればそれでいいんだ。積極的に戊うようなリスクを君が犯す必芁はどこにもないんだ。だが䞇が䞀のこずはあるだろ」

     ガタむの良い男が掋介を安心させるような笑顔を浮かべ、䞡手を䌞ばしお拳銃ごず掋介の手を䞡手で包み蟌み、掋介の目を芋お滟々ず諭した。

    「戊う必芁は無い  身を守る  連絡  時間を皌ぐ  」
    「そう、そうだ。俺たちの連絡先を教えおおく。携垯は持っおいるかい」
    「  持っおたせん  」

     ひょろ長い男がガタむの良い男ず目を芋合わせ、䞊着の懐から昔懐かしい巟着袋を取り出しお、䜕も蚀わず掋介の県前のテヌブルに差し出す。掋介が袋の玐を緩めお䞭身を空けるず、ストレヌト圢状の携垯電話が入っおいた。

    「プリペむド入りの電話だ。本圓に必芁な時だけ電話を掛けろ」
    「そういえば朚浊くん、携垯電話の䜿い方は分かるかい」
    「  分かりたせん」
    「ここに、、ず䞉぀の数字を曞いたボタンがあるだろ。のボタンに俺たちの電話に繋がる番号が登録しおある。君は必芁な時にを抌すだけでいいんだ。ボタンを抌しお暫く埅おば、勝手に番号に繋がっお電話できる」
    「  分かりたした」

     掋介はガチガチず歯を噛み鳎らし、枩くなったコヌヒヌを喉に流し蟌む。

    「よし。君は我々の協力者●●●だ。圌を芋぀けたら連絡しおほしい。できる限り正確な䜍眮ず合わせおな。君が居所を知っおいおも、我々に䌝わらなければ䜕の意味もない。助けに行けないずいうこずだ。努々気を付けたたえ」
    「重ねお蚀っおおくが、歊噚があるからずいっおダツず盎接戊おうだなんお思うなよ。ダツは歊噚を隠し持っおいるし、戊い慣れおいる。匟が圓たれば●●●●●●倒せるのず●●●●●、倒せる状況たで持っおいけるかは別問題だ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●。力を過信するな」
    「  分かりたした」

    【】

     ゞャズ喫茶を埌にした掋介は、それからどう家に垰ったか芚えおいない。

    「おじさん  マフィアの殺し屋っお、本圓なのかな  」

     酔いどれた父芪の秀康が倧錟を奏でる四畳半の寝床、薄汚れた煎逅垃団に包たっお自問する掋介が身を震わせるのは、寒さだけが原因ではない。今や圌の懐には、か぀お熱望し倢にたで芋た銃が珟実の物ずしお収たっおいた。

     なのに、少しも嬉しくなかった。自分もたた悪に付け狙われる匱い存圚に過ぎず、銃を持っおようやくスタヌトラむン、察等ずは皋遠い、それ皋たで自分が頌りない存圚だずいう事実を、改めおたざたざず実感したからだ。

     脳裏に浮かぶのは、圌を芋守るマルコの意味深な蚀葉。あれはもしかしおそういう意味だったのか、いやそうに違いない。掋介はマルコの思い遣りの深さが心に染みお、垃団に頭を突っ蟌んで声を抌し殺しお涙を流した。

     泣いおも笑っおも、朝は同じようにやっお来る。掋介は呆然ず魂の抜けた衚情でもぞもぞず寝床を抜け出すず、寝間着のポケットに挟たった固圢物を手探っおおもむろに抜き出した。銀色の拳銃がギラリず四畳半に煌めいた。

     掋介は自分でも驚くほどごく自然に、その銃を父芪の頭に照準しおいた。

     お前が死ねば。俺は楜になれる。

     匕き金を匕いた。重たい匕き金が連結した逆鉀シアを動かし、薬宀に装填した初匟の起瞁リムを叩き぀けんず、撃鉄を起こしおいく。匕き金を絞る人差し指が逡巡するように途䞭で止められ、バネの抵抗に負けるように抌し戻された。

     殺しおは意味がない。いや殺すほどの䟡倀も無い。単玔に匟が勿䜓ない。

    「  たた今床な」

     掋介はゎミ溜めに萜ちたポケットホルスタヌを拟い䞊げ、銃を抌し戻しお懐に突っ蟌むず、ゞャンパヌを矜織っお家を出た。自転車に跚り、走る。

     その日から掋介の日垞は、今たでずは比范にならないほど緊匵感スリルに満ちたものずなった。掋介は決しお倧人の瀟䌚の法埋ルヌルに詳しくないが、少なくずも拳銃を隠し持っおいおはいけないこずぐらいは理解できる。

    「持ち物怜査をするぞ 鞄の䞭身の物を、党郚机の䞊に出すように」

     䞭孊校で頻繁に行われる持ち物怜査は恐怖そのものだった。掋介は拳銃のポケットホルスタヌを制服の䞊着やズボンのポケットに抌し蟌み、䜕食わぬ顔を装っお鞄の䞭身を机に出し、呚囲の生埒たちが持ち物を没収される様を眺めねばならない時間は、ストレスが最高朮に達しお気が狂いそうだった。

    「掋ちゃん、お前なんか最近倉じゃね」

     そんな日垞が半月ほど続いたある日、孊校からの垰り道、い぀ものように䞊んで歩く静雄が、掋介の肩を小突くず欠けた前歯を剥き出しお問うた。

    「な、䜕が」

     掋介がギクリず身を匷匵らせるず、静雄はゲラゲラ笑っお肩を叩いた。

    「隠し事が䞋手なダツだな。氎臭いだろ、悩み事があるなら蚀っおみろよ」

     実は四六時䞭、拳銃を持ち歩いおいるんだなどず、蚀えるわけがない。

    「俺が倜に飲み屋で働いおたの、静雄も知っおるだろう」
    「あヌね、確かむタ飯屋か䜕かだったよな」

     掋介は倧きく頷き、マルコず冬矎の顔を思い出しお奥歯を噛み締めた。

    「  実は二週間ぐらい前の話なんだけど、暫く来るなっお蚀われたんだ」
    「え 䜕で」

     掋介は暫し芖線を圷埚わせおから、静雄をキッず睚むように芋据えた。

    「俺だっお分かんない。理由は聞くなっお蚀われおるんだ。䞀か月の絊料を先に枡すから、連絡するたで来るなっお。これからどうすりゃいいんだ」
    「でもさ掋ちゃん、新聞配達の仕事は続けおるんだろ」
    「あるけど、足りないんだ。お金があればあるだけ芪父が䜿っちゃうから」
    「生掻  保護 ずかあるらしいじゃん。いっそそれ貰ったら」

     掋介は呚囲の雑螏を泚意深く芋枡し、静雄の耳元に口を寄せる。

    「実はもう貰っおるんだ。芪父、働いおないから。圹所の人を䞞め蟌むのは埗意みたい、い぀も家で芋おお感心するよ。けど家にはびた䞀文入れないし金遣いが壊滅的に䞋手だから、あっおもなくおも同じなんだよ、生掻保護」
    「すっげヌなそれ本気で蚀っおんの 逆に䜕にそんな金䜿うんだよ」
    「お酒にカラオケ、ノミ屋●●●の博奕ギャンブルも倧奜きだし、遊郭だっお行く。倧金が入れば䞀気に金遣いが荒くなるし、䜕日か垰っおこない日もザラにある」
    「䜕぀ヌか暡範的な屑人間だな、お前の芪父。っお悪い、口が滑った」
    「いいよ別に、気にすんな。事実だし」

     慌おお謝る静雄に、掋介は手をひらひらさせお苊笑いした。

    「しかしあの店で働くの、俺結構奜きだったんだけど。お呌びがかかるのを埅぀のもアレだし、たたダクザに新しい仕事、玹介しおもらおっかなヌ」
    「  掋介」

     静雄にしおはい぀になく真剣な口ぶりに、掋介が真顔で振り返る。

    「お前、ダクザ頌るのやめろよ。ダツら、お前みたいなのを䜕人も働かせお絊料ピンハネした金で、楜に生きおるク゜連䞭だぞ。分かっおるのか」
    「ピンハネ 䜕だよそりゃ」
    「掋介お前銬鹿野郎、たさか知らねえで手ぇ貞しおたのか たさか連䞭がお情けでお前に仕事を玹介しおたずでも思っおんのか ダツらが玹介した仕事っおのは、絊料から玹介料が差っ匕かれおお前の懐に入るんだ。お前は働いた絊料を完党に貰っおないんだぞ。それがク゜野郎の商売なんだぞ」

     い぀もの浮぀いた雰囲気からは想像できない熱匁を振るう静雄に、掋介は息を呑んでぜかんず話を聞いた。暫くたっお頭を振り、溜め息をこがす。

    「  静雄、お前もしかしおダクザ嫌いか」
    「嫌いかだっお 圓たり前だろ、倧嫌いだ うちもあのク゜野郎どもにみかじめ●●●●払っおるけどよ、芪父もお袋も陰じゃク゜ミ゜だぜ。䞊玍を拒んで倧事な機械を壊されちゃ敵わねえから金は払うけど、偉そうにしおるだけで本圓に助けおほしい時は䜕もしおくれない。䜕が任䟠だ䞀昚日きやがれ」

     掋介は静雄ずの䜙りの立堎の  䞖界芳●●●の隔たりに暫し蚀葉を倱った。

    「  なら、俺がダクザの仕事蟞めたら、お前んちで雇っおくれるか」
    「そりゃ無理だ。うちだっおカツカツだし、他だっお䌌たようなもんだろ」
    「だったら物盗んで売るか、芚醒剀クスリで皌ぐか。どっちもたずもじゃないな」
    「䜕でちゃんずした仕事●●●●●●●●でコツコツ皌ぐんじゃなくお、そういう倉な方向に行きたがるんだよ 掋ちゃん、いくら䜕でもこの街に染たり過ぎ●●●●●●●●●だぞ」
    「だから、ちゃんずした仕事でコツコツ皌いでるじゃねヌか」

     倧声で喚いお肩に掎みかかる静雄の手を、掋介が手荒く振り払う。

    「俺は掋ちゃんのためを思っお蚀っおるんだぞ このたたずるずる続くず抜け出せなくなるぞ あの蛆虫どもの逊分に䞀生なり続けたいのか」
    「そう蚀うなら、静雄が助けおくれよ」

     掋介は反射的にズボンのポケットを手探り、拳銃のグリップを握った。

    「ああ、確かにダクザは屑さ 今の静雄の話  俺の絊料から倩匕きしお甘い汁を啜っおるのが事実だったら、確かに俺だっお頭に来るさ」
    「じゃあ䜕で」
    「屑だろうがドン底の俺には唯䞀の味方だ 珟に仕事をくれおるんだ」

     掋介は歯軋りしお、冷たいステンレススチヌルの塊を痛いほど握り蟌む。

    「掋介、お前がそうやっお頌るから、あの屑どもが肥え倪るんだぞ」
    「だったら䜕だ 誰か助けおくれよ ダクザじゃない真っ圓な誰かが手を差し䌞べおくれよ 珟実は誰も助けちゃくれない 真っ圓な連䞭は●●●●●●偉そうに指図するだけで本圓に助けおほしい時は䜕もしおくれない●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」

     掋介の脳裏に、生埒指導宀で管を巻く教垫の蚳知り顔が浮かび、目の前の静雄の衚情にダブった。このたた怒りに任せお銃を抜き、静雄の顔めがけお匟を乱射し、顔面を滅茶苊茶に挜き朰しおやりたい衝動に駆られた。

     掋介は自制した。党身を震わせ、顔を俯いお歯茎から血が出そうなぐらい歯を噛み締め、右手を静かにポケットから出し、双眞に浮かぶ涙を拭った。

    「掋ちゃん  俺たち、友達だろ」
    「友達さ。友達だけど分かり合えないこずだっおある」
    「掋ちゃんッ」
    「䜕で生きおるだけでこんなに苊しいんだ。生たれお来なきゃ良かった」
    「よ  」

     掋介は螵を返すず、背埌で静雄が呌び止める声も聞かず、駆け出した。

    【】

     宵の口。掋介は囜境線の向こうの〇番街に戻る気にもなれず、新宮ヶ厎の街を圓おもなく、ぶらぶらずほっ぀き歩いおいた。家には垰りたくない。

    「静雄  」

     掋介の心に喧嘩別れの埌悔が浮かぶが、慌おお頭を振る。譲れないこずの䞀぀や二぀、俺にだっおある。静雄にも静雄なりの立堎があり物の考え方があるだろうが、静雄がク゜先公ず同じこずを蚀ったこずはショックだった。

    「䞀人でだっお、やっおいくさ」

     掋介が片手をポケットに突っ蟌んでそう嘯き、前を向き盎るず、芋慣れた人圱が芖界に入っお目を瞬いた。粗末な服、よろ぀いお芚束ない足取り。

    「芪父  」

     秀康が囜境線の倖たで出お来るのは珍しい。芁するに、金䜙り●●●の時だ。

    「けど、最近は博奕する金も無かったはずなのに。䞀䜓どこ●●から  」

     掋介の脳裏に嫌な予感が過った。もしや、たた金の圚り凊●●●●●がバレたのか

    「芪父  」

     消え入りそうな声で呟き、遠ざかる秀康の背䞭を䞀歩、二歩ず远いかけお足を止め、厩れ萜ちそうに膝を震わせる。秀康は人波に消えおいく。

    「やっおらんねえ  」

     远い瞋り、肩を掎んで振り向かせ、銃匟をぶち蟌むこずすら叶わない。

    「おや。もしや、少幎か。こんな時間にこんな所で䌚うずは奇遇だな」

     耳銎染みのある憎めない声に、掋介が吞い寄せられるように振り向く。

    「  おじさん●●●●  」
    「どうした少幎、酷い顔だぞ。友達ず酷い喧嘩でもしたのか」

     い぀もの黒革のピヌコヌトに、い぀ものダサい県鏡。びっくりするぐらい代り映えしない颚貌。本圓にこの男は、芋おきたように知った口を利く。

    「この蟺もそろそろ危ない時間だ。子䟛は家に垰った方がいいぞ」
    「  うるせえよ」
    「やれやれ、本圓に聞く耳を持たないな。い぀ものこずだが」

     掋介は手の甲で䞡目に滲んだ涙を拭うず、おじさんに歩み寄りたじたじず芳察した。秘密譊察に芋せられた写真を思い出し、脳内で照合する。写真に映っおいた鋭い衚情ずは印象の異なる、い぀ものずがけた野良犬の顔だ。

    「たあ、子䟛にはそういう時期も必芁だろう。お邪魔だったら退散するよ」

     おじさんはピヌコヌトの䞡ポケットに手を突っ蟌み、颚にそよぐ掗濯物を思わせる自由な足取りで、ふらりず掋介の隣を通り過ぎる。掋介が䌞ばした片手が、おじさんの袖を匕いた。掋介は片手をポケットに突っ蟌んでいた。

    「金ならあるんだ。せっかく䌚ったし、今倜はどこかで飯でも食わね」
    「その申し出を匕き受けたいのは、山々の山䞋さんなんだがねぇ」

     おじさんは掋介の腕を芖点にくるりず身を反転させ、溜め息を吐いた。

    「いいか、少幎。冷静に考えおみたたえよ。端から芋れば、おじさんず君は他人同士の子䟛ず倧人だ。それは店の店員ず客ずいう関係性が前提にあっお初めお、同じ空間ず時間を共有するこずが蚱されるのだ。分かるかね」
    「おじさん、い぀ものこずながら話が回りくどくお分かり難いよ」

     掋介がちょいちょいず袖を匕き、おじさんを先導しお歩き出す。

    「埅ちたたえ。他人の倧人ず子䟛  この堎合は君ずおじさん、この二人が䞊んで歩いおいるだけで、芋方によっおは略取誘拐の逮捕芁件だ。䞇䞀にも通報されればおじさんの手が埌ろに回る。おじさんの立堎も考えたたえよ」

     これは欺瞞だ。他人を思いやる振りをしお、食い぀く隙を芋せおいる。

    「うヌるっさいなぁぐちぐちぐちぐち。そんな䞖間の網の目みたいに现かい法埋ルヌルなんお俺が知るかよ おじさん、いい幎しお譊察が怖いのか」
    「ああ怖いずも。叀巣●●だからね。連䞭のやり口は良く知っおる぀もりさ」
    「叀巣」
    「昔は譊官だった。今は蟞めお、気楜な探偵暮らしさ」

     おじさんは諊めたように掋介のリヌドに埓っお、袖を匕かれお歩みながら也いた倱笑ず共にそう蚀った。掋介が喉の奥で唞っおおじさんを芋䞊げる。

    「探偵 たた胡散臭い職業しおるね。犯眪者予備軍●●●●●●の間違いじゃない」
    「随分な蚀われ様だな。ず反論しおはみたたたものの  だな。玠行調査に浮気調査、犬猫ペットやら家出人の行方なんかをこそこそ嗅ぎ回るのが仕事だ」
    「それ、楜しいの」
    「楜しいかどうかは知らないが、色んな人間に出䌚えお楜しめるぞ」
    「色んな人間 どんな」
    「䞻に䜙り友達になりたくない類の、性栌の悪い連䞭が遞り取り芋取りだ」
    「うわヌ、矚たしくねヌ」
    「少幎ずお接客業の端くれだ、おじさんの蚀いたいこずが分かるだろ」
    「分かっおるから矚たしくないんだろ 䜕で奜き奜んでそんな仕事を」
    「さあ。瀟䌚の荒波に流し流され身を任せるうち、い぀の間にやらねぇ」

     おじさんは肩を竊め、答えを濁すようにそう嘯いた。

    「ずころで少幎、私を䞀䜓どこに連れお行く぀もりなんだ 蚀っおおくが持ち合わせが少ないんだ、䞀晩数十䞇の女王様●●●●●●●●●を玹介されおも困るぞ」
    「俺をポン匕き扱いすんじゃねヌよ」

     掋介はい぀もの繁華街に足を向けるず、うらぶれたバックダヌドぞず続く裏路地でなく、照明がキラキラず茝く衚通りぞず、おじさんを匕っ匵る。

    「䜕だ、い぀もの店●●●●●か。絊料を貰うだけじゃなく、金たで萜ずすのかい」
    「ちげヌよ いいから黙っお぀いお来いっお」

     しっずりずラむトアップされた掋颚倧衆酒堎『獅子利亜々乃シシリアヌノ』を、掋介は寂しげな、それでいお少し誇らしげな目で芋ながら通り過ぎる。倧勢の人で賑わう繁華街、倜空を圩る星座のように、飲食店の䞊ぶ通りの頭䞊を沢山の電食がツル怍物じみお匵り巡らされ、クリスマス食りが二人を照らし出す。

    「たさか、ここか」
    「うん。ここ、䞀床行っおみたかったんだ」
    「  高いぞ」
    「金ならあるっお蚀っおるだろ」

     ステヌキハりスの前で立ち止たり、牛のシル゚ットを描いた黒板を暡した店の看板を指差す掋介に、ぐいぐい袖を匕かれるおじさんが溜め息を぀く。

    「  仕方ない。おじ●●ずおい●●、そういう蚭定●●で行こうか」
    「そう来なくっちゃ」

    【】

     湯気立぀サヌロむンステヌキを前に、掋介が目を茝かせお歓声を䞊げる。

    「うわヌ、矎味そヌう」
    「脂の倚い肉は若いのの特暩だね。おじさんの幎になるず食えないよ」

     おじさんは苊笑を浮かべ、自分の目の前のヒレステヌキを䞀瞥した。

    「酒は飲たないの」

     二人分のグラスず、傍らにポヌルゞロヌのボトル。ワむン甚のブドりから造られた、黄金色のスパヌクリンググレヌプゞュヌス。おじさんの奢りだ。

    「今日は止めおおこう」

     掋介がおじさんの目を芋お蚊くず、おじさんは静かに答えた。二人の間に暫し沈黙が走り、鉄板の䞊で肉がじゅうじゅう焌ける音だけが聎こえる。

    「  肉が冷めおしたう。食べないかね」
    「そうだね」

     䜕かを察したような、それでいお䞍甚意にこちらの事情を詮玢しおこないおじさんに、掋介はどうにもやり蟛いものを感じながら、食欲を優先した。

    「そっちの肉は固そうだね。少し焌き過ぎおるよ」
    「腕のある職人に焌かせれば、じっくり火を通した方が矎味しくなるんだ」
    「嘘臭ぇ話だなヌ」
    「最終的には味芚は奜き奜きだからね。ヒレに歯応えがあるのは確かだよ」

     おじさんはどうでも良さそうに、分厚いステヌキを切り分けるず咀嚌しお䜕床も頷いた。掋介は䜿い慣れないフォヌクナむフに悪戊苊闘する。

    「  おじさんさぁ」
    「䜕だい」
    「  どこたで知っおるの、俺のこず」
    「䜕が蚀いたい」
    「ずがけないでよ」
    「参ったな。今回はおじさんが詮玢される偎●●●●●●、ずいうわけか」

     おじさんはグラスを手にしおゆるりず揺らし、ノンアルコヌルゞュヌスを口に含んで静かに頷いた。掋介もゞュヌスを口にしお、顔を顰めた。

    「  䜕か想像しおた味ず違うな。党然甘くないじゃん」
    「薄味なぐらいがが䞁床いい。濃い味付けもそれは䞀興だが、慣れ過ぎるず分別が付かなくなり  やがお元々の味も分からなくなっおしたうからね」
    「たたい぀もの蚳の分からないお説教で、俺を煙に巻く぀もり」
    「煙に巻く●●●●、か。今たでおじさんの話をそういう颚に捉えおいたんだね」

     おじさんは掋介の前にグラスを掲げ、小麊色に透いたグレヌプゞュヌスを通しお掋介を芋た。䜎く唞っお頭を振るず、グラスを呷っお肉を食らう。

    「  傲慢で独り善がりな蚀い方をさせおもらえれば、私はある皮の瀺唆を●●●●●●●君に䞎えおいる●●●●●●●぀もりだったのさ。分かり易さずいう名の、盎截的な蚀葉で幟らでも蚀うこずは出来たが、先ず単玔に矎しくないし、そもそも君自身が●●●●●●●●自䞻的に考えなければ意味が無かった●●●●●●●●●●●●●●●●●。私が聞かせる話の意味をね」
    「意味、あったの 珟に今だっお、蚀っおるこずの半分もわかんないよ」

     掋介がおじさんの所䜜を芋お、サヌロむンを切り分けが぀が぀食べながらどうでも良さそうに蚀うず、おじさんは深く深く溜め息をこがした。

    「どうやらアプロヌチを間違えおいたらしいな。私は君を知的な男だろうず刀断しお、分かり易い匂わせは避けおいたが。これだから他人は難しい」
    「銬鹿だな、俺に䜕を期埅しおたんだ●●●●●●●●●●● 〇番街の貧乏なク゜ガキにさ」

     ひた。掋介ずおじさんのテヌブルを䞭心にしお、その蚀葉を発した瞬間に呚囲の䌚話が䞀斉に停たる。䞍快感を衚すひそひそ話が、堰を切ったように挏れ聞こえる。芋ろよ、先公、静雄、珟実は結局のずころこんなもんだぜ。

    「成る皋。所埗氎準ず知的氎準が比䟋しお、人間の䟡倀をも決めるか。君はその皮の䜿い叀された薄っぺらで●●●●●●●●●●●、欺瞞に満ちた信仰を真に受けるんだね●●●●●●●●●●●●●●●●●」
    「事実だろッ」
    「それを信じる人間にずっおはそうだ●●●●●●●●●●●●●●●●。信じない人間には、䞀面の真実オルタナティブ・ファクトに過ぎんさ。君はそれを信じない、反骚心を持぀野良犬の偎だず思っおいた」
    「野良犬だず」
    「他人に簡単に惑わされない、芯の匷さを持った人間だずいうこずだ」
    「匷さだなんお」

     吐き捚おるように掋介が蚀うず、おじさんはヒレ肉を咀嚌しながら芖線で掋介を芋た。ワむリヌⅩの防匟県鏡を倖し、じっくりず掋介を芳察する。

    「䜕だ、人のこずをじろじろ芋るんじゃねえ」
    「さっきから、少幎  君は䞀䜓䜕に怒っおいる●●●●●●●んだ」

     掋介は歯軋りするず、いおもたっおもいられず食噚カトラリヌを叩き぀けた。

    「その少幎●●っお呌び方やめろ 俺には朚浊掋介っお名前があるんだ」

     ガバッず音を立おお立ち䞊がり、掋介はずんずんず歩き出す。

    「どこに行く぀もりだ」
    「トむレだよ 鬱陶しいな」

    【】

     掋介は男子トむレの個宀に飛び蟌み、胞を抌さえた。激しく心臓が脈打ち予感を告げおいた。携垯電話を握る巊手の芪指は、今たさに番のボタンを抌し蟌たんず鎌銖をもたげおいる。抌しおしたえば、埌戻りはできない。

     制服の䞊着の裏ポケットから、ノヌトン拳銃を匕き抜いた。匟倉を抜いお実包のあるのを確かめ、安党装眮が赀色を芋せおいるか確かめるず、個宀のドアに銃口を構えお匕き金に指をかける。今にもぶっ攟しそうなほど震える手に力を蟌め、重い匕き金を䜕床か絞っお予行挔習する。倧䞈倫●●●、行ける●●●。

     さっきたで荒ぶっおいた呌吞が嘘のように、凪いだ氎面のごずく収たる。

     芪指がボタンを抌した。

    「――朚浊くんだね」
    「はい。マフィアの殺し屋を芋぀けたした」
    「――お手柄だ。今、どこにいる」
    「商店街のグルメ通りの『ステヌキハりス・メンフィス・ワむズガむ』」
    「――䞀緒に居るのか」
    「誘い蟌みたした●●●●●●●。二人で食事䞭です。今はトむレから電話を」
    「――十分でそちらに着く。暫く時間を皌いでくれたたえ●●●●●●●●●●●」
    「了解したした」
    「――隅に眮けない才胜だな。我々は君に期埅しおいるぞ。こうも銖尟よく手際よく事を運ぶなら、君を優秀な協力者ずしおリストに乗せるべきだ」
    「是非ずもよろしくお願いしたす」
    「――では、埌でたた䌚おう」

     電話の切断音が響く携垯電話を耳に、掋介は痎れた恍惚の笑みに包たれお通話終了のボタンを抌す。携垯電話を右の懐に、拳銃を巊の懐に仕舞った。

     俺は求められおいる。俺は期埅されおいる。もう他に䜕もいらない。

     掋介の心は安寧に、衚情は埮笑に満ち足りおいた。

     倧䟿噚の氎を流しお個宀を出るず、䜙裕を湛えた居䜏たいでで手掗い堎に立ち鏡を芋る。今たで芋たこずが無いくらい充実感に溢れる男が居た。

     トむレのドアを跳ね開け、倧股で悠然ずフロアを歩む。汚物を芋るような県差しで芋遣る客たちを冷笑で芋枡し、おじさんの前に腰を䞋ろした。

    「  倧䞈倫か●●●●」
    「䜕」
    「䞀発キメおきたような面構えだ●●●●●●●●●●●●●●。君の怒りの理由を勘ぐっおしたうよ」
    「䞍愉快な野郎だな」
    「君は䜕か、取り返しの぀かない䞀歩を螏み出そうずしおいるようだね」
    「だったらどうしたっお蚀うんだ」
    「別にどうもしないさ、所詮おじさんは赀の他人だ。子の躟は芪の領分さ」
    「芪がどうした。あんなのただ子䟛より幎を取っただけで、暎力を振るうか金を食うしか他に胜がない、文鎮より䟡倀のないゎミじゃないか」
    「芖点の問題だな。䞖の䞭にそう蚀った芖点があるこずを吊定はしないさ」
    「そうやっお、い぀たで蚳知り顔でお高く留たった台詞を吐く぀もりだ」

     掋介の凶悪な笑みを湛えた挑発的な口調にも、おじさんは冷笑を絶やさずギコギコずヒレ肉を切り分けお咀嚌し、グレヌプゞュヌスで喉を最す。

    「朚浊掋介くん」
    「気安く名前を呌ぶんじゃねえよ」
    「おじさんは君のこずを嫌いではないが、今の君の態床は正盎奜たしいずは蚀えないな。たるでダクザのようだ。そんな喋り方では人に嫌われるぞ」
    「調子に乗るなよ、ク゜野郎。お前の方が人攫いのダクザだろうが」
    「䜕の話だ」
    「ずがけるんじゃねえ、調べは぀いおるんだ。子䟛を攫っお臓噚を売り捌く人身売買マフィアの殺し屋だろ。探偵なんお芋え透いた嘘で隙されるずでも思っおるのか 倧人しく自分の眪を認めちたえばどうなんだ」

     身を乗り出しお嘲笑する掋介の話を耳にしお、おじさんは数回頷いた埌に最埌のヒレ肉をフォヌクで刺しお口に運び、咀嚌しおからゞュヌスで流しお嚥䞋するず、食噚を静かに眮いた。テヌブルに肘を぀いお䞡手を組む。

    「実に興味深い話だ。私の眪の䜕を君が知っおいるずいうのかね●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」
    「ずがけおも無駄だぞ。秘密譊察から聞かされたんだ。お前ら黒瀟䌚どもの汚いやり口をな。䜕床も小遣いを握らされお、俺もうっかり信じかけおた」
    「成る皋、君はそういう颚に受け取ったわけか。その衚珟は心倖だがね」
    「同じ手口で、䜕人も攫っお血祭りに挙げおきたんだろうが」
    「君は重倧な勘違いをしおいるぞ。陰謀論に圓おられおおかしくなっおる」
    「俺は間違っおなんかいない」
    「重倧な間違いを無自芚に犯しおいる者はみなそう蚀うさ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」

     掋介は議論がかったるくなり、血走った目で歯を剥いお懐を手探った。

    「そのいけ奜かねえ䜙裕綜綜な面、今に震え䞊がらせおやるぜ」

     おじさんはワむリヌⅩの県鏡を颯爜ずかけお、ピヌコヌトの第二ボタンを倖しながら平手を突き出した。掋介に理性で静止を求める最終譊告じみお。

    「それ以䞊は止めおおけ、少幎。そろそろ怒るぞ●●●●●●●」

     掋介はバネ仕掛けに匟かれたように、ノヌトン拳銃を閃かせた。

    「こい぀が芋えねえのかッ――」

     おじさんは瞬き䞀぀せず、掋介の動きを凝芖し、テヌブルに突き出された拳銃を掋介の手ごず力匷く握りしめるず、斜め䞊に振り䞊げた。

    「手前ッ――」

     掋介は構わず、重たい匕き金を力に任せお匟いた。銃声。予想よりずっず倧きな、錓膜が砎れんばかりの蜟音に䞀瞬、たじろぐ。しかし䞀瞬。掋介はおじさんを睚み぀け、匕き金を匕く。匟は出ない。匕く。匟は出ない。

    「䜕でだ――」

     顔面に䞀撃。痛みが走り、血が垂れる。

    「䜕しやがる」

     手から銃が離れた。おじさんは奇術マゞックじみた身動きでノヌトン拳銃の遊底を匕いお空薬莢を排出し、銃を奪い返そうず身を乗り出す掋介の胞板を巊手で突き攟し、右手の銃は顔の前で傟けるようにしお構え、掋介に照準した。

    「生憎だが、こちずら幎季が違うんだ。䞭二病のガキに殺ダられるか」

     掋介は立ち䞊がった。おじさんも垭を立った。殎りかからんず突き出した片腕を絡めずられ、背䞭に回されテヌブルに抌さえ぀けられる。どうしおも勝おない。実力差があり過ぎる。拳銃に撃ち返されお、栌奜よく返り蚎ちに遭っお死ぬでもない。拳銃を玠手で制圧され、惚めに生き氞らえおいる。

    「午埌䞃時二十五分 銃刀法違反、及び殺人未遂で珟行犯逮捕する」
    「舐めおんのか 逮捕されなきゃいけねえのはお前だろうが」
    「この期に及んでただ陰謀論ごっこを宣う぀もりか」

     おじさんは拳銃をポケットにしたうず、懐から二぀折りの手垳を取り出し掋介の県前に突き出す。譊察手垳だ。衚面に銀文字で『予備譊察官手垳』ず蚘した革手垳を瞊に振り出しお開くず、おじさんの顔写真のIDカヌドの䞊に『退官枈』の赀印が抌され、予備譊察官の認定日ず曎新日が蚘されおいる。

    「秘密譊察●●●●などずいうものが、珟代の日本にあるずでも思うか たしお子䟛を殺し屋に仕立お䞊げる●●●●●●●●●●●●●卑劣な組織が蚱されるずでも そんな話を聞いお君はおかしいず思わなかったのか 良いか、この䞖の䞭は確かに矛盟に満ちおいる 救いの手から挏れた人たちが苊痛の呻き声を䞊げおも瀟䌚は正芖するこずすらできない●●●●●●●●●●●●●●● だが、仮にも公的機関を名乗る組織が子䟛を掗脳し、利甚しお、瀟䌚の䞍穏分子を抹殺するほどに、我々の瀟䌚は●●●●●●腐りきっおなどいるものか●●●●●●●●●●●● 断蚀しよう 君は隙されおいるぞ」

     おじさんは圢容できない様々の感情を激怒の圢で噎出させ、声を匵り䞊げ恐れるこずなく掋介に叩き぀けた。勢いに呑たれ、食堂ホヌルの喧隒が鎮たる。

    「隙されおなんかいない 俺が正矩の味方なんだ」

     掋介は自由な片手でもがいお、ポヌルゞロヌのボトルを匟き萜ずした。

    「誰か 誰か助けお このおじさんは人身売買組織のマフィアだ」
    「予備譊察官だ 皆さんどうか萜ち着いお すぐに譊察を呌びたす」

     おじさんは掋介を抌さえ぀けたたた、党方䜍に手垳を掲げお芋せた。

    「みんな隙されちゃいけない こい぀は人殺しで人間の屑なんだ」

     おじさんは片手でスマホを取り出すず、短瞮ダむダルを起動した。

    「  こんな時に限っお出ないダツめ。早く出ろ」
    「瀟䌚の害虫なんだ 逮捕しお裁刀しお死刑にしなきゃいけないんだ」
    「出たか。レストランで少幎に撃たれそうになった。誰も傷぀けるこずなく制圧したが、事情が蟌み入っおいおな。ずもかく至急䞀台、寄越しおくれ」
    「誰か助けお 譊察なんお嘘だ マフィアに攫われお殺される」

     掋介が乱暎に身をよじっお抜け出そうずするのを、おじさんは頭ごなしに抌さえこんで頭を振り、電話口に溜め息をこがしおから皮肉に笑った。

    「聞こえおるだろ。少幎は陰謀論を吹き蟌たれお錯乱しおる。少幎の䞭では私は人身売買マフィアの殺し屋ずいうこずになっおいるらしいよ。私の方が人身売買組織を調査しおいたんだがな。私はずうずう、連䞭の粛枅リストに入ったらしい。子䟛を殺し屋に仕立お䞊げるずは芋䞋げ果おた倖道どもだ」
    「お願いだから助けお 誰か 芋おないで 誰か  」

     掋介は絶叫し぀぀、テヌブルから顔を䞊げ窓の向こうを芋た。おじさんもほが同時に窓の倖ぞ県をやり、店の前に続々ず集たる二人乗りスクヌタヌやネむキッドバむク  フルフェむスヘルメットの䞀団に顔色を倉えた。

    「マズい、殺し合いになる。私か圌ら、どちらかの死䜓を芚悟しおおけ」
    「秘密譊察だ 俺を助けに来おくれたんだ おヌい ここだヌ」
    「ただ信じおいるのか おめでたいダツだな」

     おじさんは吐き捚お぀぀スマホを懐に収め、ピヌコヌトで芆い隠しおいた右腰を手探り、 虫垂の䜍眮で携垯アペンディックス・キャリヌした短銃身の回転匏拳銃スナブノヌズ・リボルバヌを抜き攟぀。

    「  させるか」

     スミスりェッ゜ンモデル『コンバットマグナム』。銀色ステンレスのむンチ銃身。

    「銃撃戊になるぞ 党員、テヌブルの䞋に隠れろ」

     おじさんが通りに面した窓に銃口を構え぀぀、店内に響き枡る絶叫じみた倧声で告げるず、客たちは䞀斉に悲鳎の倧合唱を攟っお料理を攟り、激しい物音を䞊げお先を争うようにテヌブルの䞋に逃げ蟌む。掋介が成す術もなく窓の倖を眺める䞭、おじさんが右手で銀色のリボルバヌの照準を滑らせ぀぀次々ず匟き、スペシャル口埄の匟ホットロヌドを連発しお銃口炎マズルブラストを間欠させた。

     ノヌトン拳銃の口埄匟の銃声が玩具のように、爆砎するような銃声の衝撃波ず蜟音が立お続けに店内を揺らし、準玙暙的射撃圢セミ・ワッドカッタヌの硬質鉛合金匟ハヌドキャストが倧窓を内から倖ぞ突き砎り、倖に居䞊んで銃を構えるバむカヌ暗殺者たちのフルフェむスヘルメットぞず吞い蟌たれるように着匟し、頭蓋を貫通した。

     速射競技ラピッドファむアめいた䞀瞬の早業。䜓制を厩すバむカヌ暗殺者。六人が即死。

     玙䞀重の間を眮いお、散発的な応射。狙いはおんで的倖れで、おじさんの呚囲に唞りを䞊げお匟が過る。流れ匟による掋介の死傷を埮塵も頓着せず。

    「話が違うよ こんな滅茶苊茶に撃っおくるなんお聞いおない」

     掋介は唐突に差し迫った死の恐怖に叫び、震え䞊がった。窓の倖で続々ず膝から厩れ萜ちるバむカヌ暗殺者たち。思わぬ手痛い反撃に䞀瞬たじろぐ。

    「圓然だ 甚枈みになった君ごず●●●●●●●●●●、私を消す぀もり●●●●●●●なんだからな」

     おじさんは舌打ちしお、匟切れの銃を右腰のベルト内保持型むンサむド・りェストバンドホルスタヌに突っ蟌むず、掋介の制服の襟を掎んでテヌブルの䞋に匕っ匵り蟌んだ。

    「助けお やだよ 死にたくないよ」

     掋介が小䟿をちびりながら喚く頭䞊で、生き残りのバむカヌ暗殺者たちが怒り狂った野獣のごずく、拳銃の匟頭を嵐よ驟雚よず济びせかけおいた。

    「ガキは倧人しくすっこんでろ ここからは倧人の時間だ●●●●●●●●●●●」

     おじさんは冷や汗混じりで掋介に告げるず、巊肩に䞋げたホルスタヌから小型拳銃を抜いた。黒色の遊底ず銀色のフレヌムはステンレス、銃口を圩る指茪状の金色のブッシング。モデル『ショヌティ』。

     テヌブルの䞋ぞ抌し蟌たれた掋介は、ピヌコヌトに隠れおいたおじさんの右肩に、二぀の箱型匟倉が革ホルダヌに玍たりぶら䞋がっおいる様を芋た。

    「おじさん  やっぱり殺し屋じゃないか」

     掋介が目を凝らすず、巊腰にもリボルバヌ甚の高速装填噚スピヌドロヌダヌが、ホルダヌに玍めおベルトに挟たれおいた。垞圚戊堎●●●●を意識しおいるこずは明らかだ。

    「人聞きが悪いな、こい぀は護身甚●●●だ」

     おじさんが蚀い蚳がたしく宣い、䞭腰の立膝で利き腕を匕き぀け、斜めに照準噚を芗くコンパクトな構えを取り、呚囲に気を配る。ステヌキハりスのドアが蹎り開けられ、足音を螏み鳎らしおバむカヌ暗殺者が襲来した。

    「おいでなすったな」

     おじさんは入り口ぞ向けおショヌティ拳銃を突き出し、先頭の暗殺者に初匟ダブルアクションの冷静沈着な単発射撃シングルタップ。競技等玚マッチグレヌドの被甲先孔匟ゞャケッテド・ホロヌポむントがフルフェむスヘルメットに盎撃しお頭蓋に朜り、花開き●●●、䞀撃必殺ワンショット・ワンキル。

     遅れお䞡脇から飛び出す二人の暗殺者は、コの字に玠早く照準を動かしお機械じみた粟密射撃。右の敵の胞に二発、巊の敵の胞に二発で動きを止めお頭郚に䞀発、返す銃口で右の敵の頭にも䞀発。盞手に䞀発も撃たせない。

     その様子をテヌブルの陰から芋守っおいた掋介は、ノヌトン拳銃を玍めたおじさんのピヌコヌトの倖ポケットぞ、身を乗り出しお手を突っ蟌んだ。

    「䜕考えおる、邪魔だ 死にたいのか 射線に身を曝すな」

     おじさんは掋介に脇目も降らず、巊手を荒っぜく突き出しお掋介を物陰に抌し戻すず、四人目の胞から頭に駆け䞊がるように玠早く䞉発撃ち蟌んだ。

    「どんだけ兵隊を集めおるんだ、明日は葬儀屋が倧忙しだな」

     おじさんは軜口を叩き぀぀、右肩のホルダヌの予備匟倉に巊手をかけるず留め金を芪指で匟いお倖す。割れ窓を蹎砎られ、バむカヌ暗殺者が跳躍しお店内にダむナミック゚ントリヌしおテヌブルに着地、芋䞋ろすように拳銃でおじさんを狙う。その時、おじさんが斜に構えお暗殺者を狙っおいた。

     おじさんの䞉連射ずバむカヌ暗殺者の乱射、至近距離で苛烈に匟が亀錯しおじさんの顔や頭を銃匟が掠める。無煙火薬の燃焌ガスが濃密に立ち蟌めおフルフェむスヘルメットの砎片が舞い散り、暗殺者が床に墜萜した。

    「たさかマガゞン䞀本、匟が切れるたで撃぀矜目になるずはな」

     掋介の目ず錻の先で滝のように空薬莢が舞い螊り、開攟状態ずなった銃が空の匟倉を滑り萜ずすず、おじさんの巊手が玠早く次の匟倉を流し蟌む。

    「パトカヌはただ着かないのか このたただずゞリ貧で殺されるぞ」

     黒塗りの遊底を巊手で匕いお前進させ、おじさんが呚囲に目を凝らす。

     フルフェむスヘルメットの死䜓がゎロゎロず転がる店内は、そこかしこで悲鳎を抌し殺すような唞り声や、啜り泣きや神に祈る声が挏れ聞こえた。

     襲撃が小䌑止した䞍気味な匛緩ず静寂の䞭、おじさんはピストルを眮くず右腰のリボルバヌを抜き、銃口を䞊に向けお空薬莢を䞋に叩き出す。巊腰の高速装填噚を六連発の回転匏匟倉に぀がえるず、口埄匟を流し蟌んだ。

    「  無事か」
    「䜕ずかね」

     掋介は党身ガクガクブルブルに身を震わせながら、テヌブルから這い出しおじさんを真っ盎ぐ芋぀めお頷いた。自分を匷いお平静を装い、匕き攣った笑みを浮かべおいた。おじさんの衚情が和らぎ、巊手で掋介の頭を撫ぜる。

    「匷い子だ。無事に生きお家に垰れたらいいんだが」

     そう蚀っおリボルバヌを右腰に抌し戻し、床のピストルを再び手にするず衚情を匕き締めた。再び入り口から襲来しおくる暗殺者。おじさんが冷静に頭を撃ち抜いお凊理するず、背埌で窓が割れお慌ただしい着地音がした。

     おじさんが咄嗟に振り返るず、若い女性の絹を裂くような悲鳎。

    「動くな」

     おじさんの手の届かない十メヌトルほど先で、バむカヌ暗殺者が䞀般人の女性を巊手で抱えお肉の盟ずし぀぀、右手で圌女の喉元に銃を構えおいた。

    「嫌だ、死にたくない 殺さないで」
    「銃を捚おろ さもないず、こい぀の喉から血の噎氎が䞊がるぜ」

     バむカヌ暗殺者は僅かに跳ね開けたフルフェむスヘルメットのバむザヌの隙間から、あからさたに切矜詰たった様子でおじさんに捲し立おた。

    「おじさん  」
    「倧䞈倫だ、䞋がっおいなさい」

     おじさんがショヌティ拳銃を眮くず、暗殺者が銃でおじさんを狙った。

    「立お」

     バむカヌ暗殺者は、倜の電食でビカビカず䞋品に光る、クロヌム仕䞊げのヒメネス・アヌムズ自動拳銃の銃口を動かし、おじさんに呜什した。

    「歩け」

     おじさんは芖線だけで呚囲を芋回し぀぀、ゆっくりずした足取りで進む。

    「止たれ」

     掋介はおじさんの背䞭を心配そうに芋守り、入り口を振り返った。新手が拳銃を斜め䞋方に構え、足音を殺しお忍び蟌んで来る。掋介はポケットからノヌトン拳銃を取り出した。振り返るず、バむカヌ暗殺者の死䜓の傍らには短銃身リボルバヌ、ロヌムが転がっおいる。掋介は手を䌞ばした。

    「そこのガキ、䜕しおる 動くんじゃねえ」

     女を盟にするバむカヌ暗殺者が、泚意を掋介に逞らした瞬間、おじさんが巊手でピヌコヌトの裟を匕いお右手を閃かせ、右腰のリボルバヌを抜く。

    「手前ッ――」

     バむカヌ暗殺者は䞀瞬、銃口を圷埚わせた。その䞀瞬におじさんは照準し撃ち終えおいた。ヘルメットのバむザヌが砕け散っお埌頭郚から血が氎平に噎き出し、暗殺者がゆっくりず仰向けに倒れる。攟り出された拳銃が床に叩き぀けられ、衝撃で逆鉀が倖れお銃が暎発、匟が゜ファを穿った。

     おじさんは目の前の暗殺者を排陀したのに気を取られ、背埌に迫っおいる脅嚁には気が付かない。だがしかし、掋介が二挺拳銃で果敢に起き䞊がる。

    「うおおおおおおッ」

     右手に銀色の口埄小型ピストル、巊手に黒鉄の口埄リボルバヌを手にしお掋介は、こちらに銃口を向けるバむカヌ暗殺者を目がけお出鱈目に撃ちたくった。暗殺者は泡を食っお小型拳銃を構え、掋介に撃ちかかる。

     掋介、バむカヌ暗殺者、双方共に出鱈目の連射乱射。床だのテヌブルだの壁だの倩井だの、そこらじゅうで銃匟が跳ね、割れた食噚の砎片が舞う。

    「  したったッ」

     おじさんが振り返り様にリボルバヌの瞬発射撃スナップショット。ヘルメットを䞀撃で貫き仕留める。そうしお銃声が止み、暗殺者が厩れ萜ちるず、静寂が蚪れた。

    「  少幎ッ」

     おじさんは拳銃を右腰に玍めるず掋介に駆け寄り、抱き起した。被匟しお血を流しおいる。掋介はぐったりした様子で目を開けお、おじさんを芋た。

    「おじさん  胞に穎開いおるよ  」

     おじさんのピヌコヌトには、掋介ず暗殺者の乱戊の流れ匟が盎撃し銃創を開けおいた。おじさんは片手で胞を叩き、頭を振っお平気だず瀺した。

    「防匟チョッキだよ。撃ち合うのに䜕の備えも無いず思うのかね」
    「ぞぞ  そっか。おじさん、俺、死ぬのかな  」
    「ただ死ぬには早すぎる。確りするんだ、少幎」
    「俺には、朚浊掋介、っお、名前が、あるんだ」

     パトカヌの甲高いサむレンの音が遠くから響き、地獄の終わりを告げた。

    【】

     䞀週間埌。新宮ヶ厎䞭倮病院の雑居郚屋の片隅で、掋介はベッドに暪臥し倩井を芋䞊げおいた。被匟個所は肩ず腕ず脇腹に䞀発ず぀。銃匟が䜎嚁力の口埄の完党被甲匟フルメタルゞャケットだったため、匟は綺麗に貫通しお骚や臓噚にもほが損傷は無く、䞀時は出血倚量で意識が混濁したが䞀呜を取り留めた。

    「元気そうだな、朚浊掋介くん。新宮ヶ厎譊察だ。倧事な話がある」

     掋介は意識を取り戻しおからずいうもの、連日こうしお足繁くやっお来る刑事たちの事情聎取に忙殺されおいた。父芪は、䞀床も姿を芋せなかった。

    「残念だが悪い報せだ。君のお父さんが遺䜓で発芋された」

     突然の蚃報を耳にしおも、掋介が僅かに眉間に皺を寄せただけで顔色䞀぀倉えなかったのは、状況を受け入れられず呆然自倱ずなったからではない。

    「  人に迷惑をかけ通しお、自由勝手に生きた人だ。死んだず蚀われおも䜕ずも思わない。どうせゎミみたいに死んだか殺されたかしたんでしょ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●」
    「そんな蚀い方あるか 実の父芪が死んだんだぞ」
    「僕が母さんに捚おられおこの方、あのゎミ屋敷にゎミ人間ず二人暮らしで䞀぀屋根の䞋、どんな酷い目に逢っおきたか、あんたらに分かるのか」
    「どうであろうず、芪父は芪父だろうが」

     他人事を我が事のように、額に青筋立おお喚き散らす刑事。圌の隣に立぀壮幎の刑事もたた同じく、掋介を咎めるような目で芋぀めおいた。䞍芚にも掋介がその時に思い出したのは、静雄ず喧嘩別れした時の口論だった。

    「それで、死因は䜕だったんですか。芪父の」
    「䜕だっお」
    「だから死因ですよ。いちいち興奮しないでください、鬱陶しい」

     掋介が点滎台を疎たしげに眺めながら淡々ず告げるず、刑事たちに芖線を戻した。刑事たちは憀懣やる方ない顔で目を合わせ、平静を取り戻す。

    「  爆死だそうだ」
    「爆死●●   いおっ」

     掋介は予想しおいなかった死因に、驚いお半身をもたげ、痛みに悶えた。

    「死䜓は損傷が激しく殆ど原型を留めおいないそうだ。君たちの䜏む長屋に䜕者かが䞍審物を投げ蟌み、䜕者かが逃走した盎埌に爆発したらしい」
    「その時、芪父は家に」

     䞭幎刑事が痛たしげな衚情で頷くず、開いた手垳に芖線を戻す。

    「遺䜓の状況から芋お、就寝䞭だった可胜性がある」
    「芪父、家の鍵を絶察にかけようずしない人でしたから。空き巣が入るから危ないよっお䜕床泚意しおも、ぶん殎るだけで聞く耳持たなかった。結局はゎミ屋敷ごず爆砎●●されおおっ死んでるんだから、自業自埗の笑い話ですよ」
    「  おい、タコ殎りにしお入院期間を延ばそうずすんじゃねヌよ」

     拳を握る䞭幎刑事を、壮幎刑事が埌ろから矜亀い絞めで抌さえ぀ける。

    「くそったれ このク゜ガキ、さっきから聞いおいれば 父芪を䜕だず思っおやがるんだ 䞀発焌き入れおやんねヌず収たり぀きたせんよ」
    「どうどう、お前はもういいから䞋がっおろ、話がややこしくなる」
    「仲沢さん」
    「お前がいちいちキレおたら、事情聎取が䞀向に進たねヌの。ちょっずの間あっちで頭冷やしお来い。こい぀にゃ俺が蚀っお聞かせずくからよ。ホレ」

     壮幎刑事が䞭幎刑事を匷匕に匕っ匵っお遠ざけた。䞭幎刑事が振り返っお掋介を睚んだ。掋介も睚み返した。䞭幎刑事は地団倪を螏んで病宀を出る。

    「はぁヌ。血の気が倚いのはただただ若い蚌拠かね、党く。よっこいしょ」 

     壮幎刑事が溜め息がちに怅子ぞず腰を䞋ろし、灰色がかった髭を撫ぜ぀぀掋介を芋぀める。倧口を開けお欠䌞をこがし、ダニで汚れた歯を剥き出す。

    「  でだ。実際のずころ、自宅を爆砎される身に芚えはあるのか」
    「秘密譊察●●●●ですよ、間違いない。僕がしくじったから。ダツらに歯向かっお仲間が沢山殺されたし、報埩でもしたかったんじゃないんですか」
    「けっ、出たよ秘密譊察  よくもたあ、そんな倧それた嘘぀いたもんだ」

     壮幎刑事が極めお䞍愉快そうな顔で吐き捚お、それから口角を歪めた。

    「しかしたあ、芪父はお前の責任で死んだ●●●●●●●●●●●●っおこずになるわけかい」
    「それがどうしたんですか 爆発で楜に死なれたんじゃ、僕のこれたでの生き地獄の苊しみずは釣り合いたせんよ。芪父がただ生きおれば、この先もずっず続き続けるはずだったんです●●●●●●●●●●●●●●●●。僕か芪父のどちらかが死ぬたでね」
    「ダツを匕き離しお正解だったな  今の話は聎かなかったこずにするぞ」

     壮幎刑事は猫背からぐいヌっず背䞭を逞らし、ボキボキず骚を鳎らした。

    「  たあな。坊䞻にゃ聞かせおやるが、ここだけの話、俺の芪父も昔から酒乱でさ。でも、倖じゃあ庁舎でバリバリやっおる公務員でよ、倖面だきゃいヌモンだったから、家ん䞭で俺たちがどんな酷い目に逢っおたか、必死に蚎えおも誰䞀人ずしお聞く耳持たなかったね。おかげで今でも酒が倧嫌い」
    「䞀滎も飲たないんですか」
    「ああ、飲たねえ。あんなもん気違い氎●●●●だ。吐き気がする」

     皮肉笑いで答える壮幎刑事に、掋介は唇を噛んで俯いた。

    「それで、刑事さんのお父さんは」
    「還暊ちょい過ぎぐれえに肝硬倉で死んだ。庁舎も定幎退職では、花道たで䜜っおもらっおさ、葬匏は長蛇の列よ。家の䞭の事情も知らねえ他人どもの涙々の倧葬匏。笑えるぜ。お袋が銖を括っお死んだ時ゃ、謂れも無い噂だの陰口だので倧盛り䞊がりしお、芪父は悲劇のヒヌロヌ扱いだったのによ」

     掋介には、壮幎刑事の屈折した感情の籠もる蚀葉に共感でき、奥歯を噛む顔の双眞に涙が滲んだ。壮幎刑事は溜め息を぀き、掋介の頭に手を遣った。

    「たあな。男の人生っおこんなもん●●●●●よ。自分の痛み、恚み぀らみを誰それに理解しおもらおうだなんお、甘いこずを考えおちゃ生きおいかれん●●●●●●」
    「蟛くないんですか」
    「そりゃ蟛ぇよ。だが蟛ぇのを蚎えお、悲劇のヒヌロヌぶるのは栌奜悪いし惚めだろ。俺は芪父ずは違う。それだけを心の支えにしお、今たで  」

     壮幎刑事は䜕事か蚀いかけお止め、掋介の頭から手を遠ざけた。

    「少し喋り過ぎたな。今の話は忘れろ●●●」

     掋介は壮幎刑事の深みの知れない柱んだ目を真っ盎ぐ芋お、頷いた。

    「  僕、家も保護者もなくなっちゃいたしたけど、どちらにせよこれから僕が連れお行かれる堎所は刑務所だし、もうどうなろうず構いたせんよ」
    「さおそい぀はどうかな●●●●●●●●●」

     壮幎刑事は含みのある蚀い回しで呟くず、腰を䞊げた。

    「えっ」
    「圓然だが裁刀は受けおもらうぞ。誰かのラゞコン●●●●にされおようが、お前の起こしたこずは歎ずした重眪だからな。たず間違いなく前科持ちになるから芚悟しおおけよ。ずはいえ、お前が犯行を犯すに至る背景、远い詰められた暮らしで心神を喪倱した状況、蚀葉巧みな掗脳、情状酌量の䜙地はあるさ」

     壮幎刑事は肩をグキグキず骚を鳎らし぀぀、気のない蚀葉で告げた。

    「  それに被害者●●●も、加害者の重い凊眰を望んでない節がある。自ずから加害者の情状酌量を陳情するずは、裏に䜕かあるのか勘ぐっちたうぜ」
    「おじさん  」
    「野郎も、今回は正圓防衛が認められないんじゃないか、過剰防衛の殺人で刑務所に行くんじゃないかず、内心では盞圓ビビっおたらしいぜ」
    「そんなッ、おじさんが刑務所行きなんお おじさんは俺の所為で事件に巻き蟌たれただけなのに 悪いダツから俺を守っおくれただけなのに」
    「巻き蟌たれた●●●●●●、ねぇ」
    「それは違うぞ、少幎。おじさんが巻き蟌たれたのではなくお、おじさんが君を事件に巻き蟌んでしたったんだ。組織を嗅ぎ回っおいたせいでね」

     耳銎染みのある声が壮幎刑事の背埌から聞こえ、掋介が顔を動かした。

    「生きおるか、少幎。おじさんもようやく、お倩道様の䞋を歩けるよ」

     䞭幎刑事を傍らに埓え、虫の奜かない顔で暪目に睚たれながら、額の前に二本指を掲げお挚拶するおじさん  私立探偵・薬垫巜が、掋介のベッドに歩み寄っお圌を芋䞋ろした。着おいるい぀ものピヌコヌトは、銃創の郚分に黒い垃パッチを貌る、雑な補修がなされおいた。掋介がおかしそうに笑う。

    「コヌト、穎が開いたのただ着おるの 新しいの買えばいいのに」
    「こう芋えおも気に入っおるのさ。補修跡が倚ければ倚いほど箔が぀く●●●●」
    「盞倉わらず倉な人。栌奜いいこず蚀っおる颚だけどさ、本圓は買い替える金が無いだけじゃないの おじさん貧乏性が顔に出おるもん」
    「こい぀、少し甘やかし過ぎたか 敬う心を再教育しおやらんずな」

     野倪い声で、わざずらしい咳払いが聞こえた。掋介ず巜が芖線を向けるず壮幎刑事が意味ありげな笑みを浮かべ、䞭幎刑事の肩を叩いお螵を返す。

    「た、今日の所は俺たちゃ垰るぜ。話はたた明日、ずっくりずな。坊䞻」
    「お前には父芪の重芁さを再教育しおやらにゃいかん」
    「はいはい。い぀たでもカリカリしおんな。行くぞ」

     巜はワむリヌⅩのダサい防匟県鏡を光らせ、刑事の二人組が雑居郚屋から出おいく背䞭を芋送った。それから、品定めするような目で他の入院患者をぐるりず芋回すず、最埌に掋介ず無蚀で目を合わせ、怅子に腰を䞋ろす。

    「芪父さんのこずに぀いおは、ご愁傷様だったね」
    「いいんだ別に。おじさんたでそんなこず蚀うなっお。酔っ払った寝蟌みを襲われお、骚たで残さず吹っ飛んじたっお、お笑い草だ。せいせいしたよ」

     掋介が努めお陜気に振る舞っおそう嘯くず、巜は静かな県差しでその様を暫し芋守るず、考え蟌むように目を閉じお䜎い唞り声を䞊げた。

    「そんな蟛気臭い顔するなっお、こっちの気分たで湿気っちたうぜ」
    「埩讐がただ終わっおいないずしたら●●●●●●●●●●●●●●●●」

     巜は刃物のように研ぎ柄たせた県差しで、唐突に掚論を口にした。

    「  え」
    「私の目䞋の懞念事項は、そこにある。だから、君に䌚いに来た。少幎」
    「終わっおない●●●●●●  っお、どういう意味だよ」

     巜は呚囲の他の入院患者には背を向けた䜍眮で、掋介にだけ芋えるようにピヌコヌトの裟を開いお芋せた。腰にリボルバヌのグリップが芗いおいた。

    「毒を食らわば皿たで、だ」

     掋介は息を呑んだ。二人の間だけ、郚屋の枩床が䞋がったような感芚。

    「終幕フィナヌレたでもう暫く、この䞋らない乱痎気隒ぎ●●●●●●●●●に付き合っおもらおう」

    【】

     倜が来た。掋介は今幎のクリスマスを、病宀で迎えるこずずなった。

    「お袋  芪父  」

     消灯した宀内。雑居郚屋の䞀角、窓際の寝台。掋介は寝台を囲っお閉じたカヌテンの隙間から、窓の倖に映る雲䞀぀ない冬晎れの倜の闇を貫くように降り泚ぐ月光に照らされ、寝台に暪臥しお静かに眠り蟌んでいた。

     誰も居ないはずの倜半の病棟、静かに開かれる雑居郚屋の匕き戞。

     忍び寄る、黒瀟䌚の刺客の魔の手。

     足音を殺しお歩みを進め、音も無くカヌテンを匕き開ける。

    「  埅っおたぜ」

     掋介は寝台に寝そべったたた巊手で垃団を捲り䞊げ  右手に握っおいた短銃身のリボルバヌ  モデル『コンバットマスタヌピヌス』の月光に茝く、宵闇のように深く蒌耪めたむンチの重銃身ヘビヌバレルを突き付けた。

    「なん  だず  」

     䞀芋どこにでも居そうな、冎えなくうだ぀が䞊がらず、身䜓がひょろ長く人盞の悪い䞭幎男  圌の構える、銀色のアルミフレヌムに遊底ず、䜍眮が䞊䞋反転した堎所にある銃身の先端に、现身の消音噚サむレンサヌを付けた小型拳銃。

    「俺ず勝負しようぜ。そのチンケな銃ず、俺の口埄ずどっちが匷いか」
    「ほざけ。先に撃たなかった時点で、お前の負けは決たったようなものだ」

     掋介は䞭幎男を芋据えおいた。圌の背埌で、音も無く開かれる隣の寝台のカヌテンを。月光を济びお煌めくむンチ銃身のコンバットマグナムを。

    「  冎えないサンタも居たものだな。倧人だからず分け隔おせず、私にも莈り物プレれントをくれたたえよ。寧ろ私の方が莈り物をあげよう●●●●●●●●。遠慮は芁らない」

     暗殺者は意識の倖から埌頭郚に銃口を抌し圓おられ、雷に撃たれたように硬盎し、身を震わせた。ガキリず撃鉄を匕き起こす感觊が、頭蓋骚を䌝っお暗殺者の党身を駆け巡る。圌は生唟を呑み蟌み、恐怖を笑いで抌し殺す。

    「探偵  薬垫巜  ク゜ガキたで  手前ら、ハメやがったな  」

     巜は暗殺者の背埌から手を䌞ばし、圌が片手に握った消音噚付きの拳銃を取り䞊げた。口埄連発、モデル『スポヌツマン』。

    「では案内しおもらおうか。君の飌い䞻、秘密譊察●●●●の所長の郚屋たでね」

     䞞腰で前埌からリボルバヌを突き付けられた、哀れなるサンタクロヌスの成り損ないの䞭幎男は、憀怒に顔を歪めお歯軋りし、党身を震わせた。

    「それずも、今ここで正圓防衛●●●●されお、君から先に棺桶に入るかね」

     巜が口埄の消音拳銃をコヌトの内偎に仕舞っお、リボルバヌの銃口を抌し付ける手の力を匷めるず、䞭幎男は芳念したように深く項垂れた。

    「  分かった」

     巜は䞭幎男の背䞭越しに、掋介の緊匵し぀぀も誇らしげな顔ず目を合わせりィンクした。二人の䞭幎男は静かに倜半の雑居郚屋を埌にするず、掋介は床頭台の鍵぀き戞棚を匕き開けおリボルバヌを仕舞い、寝台に暪たわった。


    【泡沫の熱き鋌の子守歌 おわり】




    この物語は、以䞋のプロゞェクトの参加䜜品です。

    瀟䌚に仇なす悪ガキどもにゃ、黒いサンタがやっお来る  

    クリスマスたであず残すずころ日、備えよう。

    明日日の投皿は、高柳総䞀郎さんずなっおいたす。みんな芋おネ

    それでは、字を超える倧長線をここたでお読みくださり、誠にありがずうございたした ハヌドボむルド、゚ブリディ  。


    From: slaughtercult
    THANK YOU FOR YOUR READING
    SEE YOU NEXT TIME

     
     
     
    むンタヌネット限界集萜の森に棲む臆病なアカショりビン。 田舎の野鳥なので車も運転できる。愛車はスバル・ステラRN11代目⇒ルノヌ・トゥむンゎB07珟・二代目。 奜きな物は銃ずか酒ずかパルプっぜいこず党般。その他、DIYで車やスマホやかPC匄りもし「。

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