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魂のストップを。

    深夜のサービスエリア。
    「ストップ!止まれ!!行っちゃだめ!!
     ストップーー!!」

    あの悲鳴はいまだに耳に残っている。
    父親の頬を濡らした“それ”の光景ごと。

    二十代前半、気の合う友人四人で軽井沢へ遊びに行った。
    一泊二日で散々はしゃぎ倒し、帰りの高速は大渋滞。
    疲れ切った車内で、全員が次々と寝落ちしていく。
    運転手の私は赤いブレーキランプの海を睨みながら必死で耐えた。

    三時間後。ようやく渋滞を抜けた。
    日付が変わりそうな頃、埼玉のサービスエリアに寄ることにした。

    友人たちは寝ぼけながら散っていく。
    私はトイレへ。混雑していて、奥から二番目の便器がなんとか空いた。

    そこで用を足しながら、旅の終わりの寂しさに浸っていると、
    親子が入ってきた。
    父親は三十代後半、息子は三歳くらい。
    混み合うトイレで、父親は息子を少し離れた便器に立たせ、
    自分は入口付近で見守る形になった。

    しばらくして、息子が用を足し終えた。
    ズボンを上げ、父親をチラリと見て──
    「パパ、先に行ってるねー!」

    絶賛小便中の父を置き去りにし、
    真っ暗な外へ向かってまっしぐら。
    父親は顔色を変えた。

    「ストップ!ストップ!ストップ!!」

    しかし息子は全無視。雑音認定である。
    ここで父親の腰が上下に揺れはじめた。
    男性なら分かるだろう。
    終盤の、あのどうにもならない揺れだ。

    だが終わらない。
    揺れは激しくなる。声も荒ぶる。

    「止まれ!ダメだ!ストーーップ!!」

    そして、運命の瞬間。

    父親が残量チェックのために一瞬だけ視線を落としたその時。
    腰の上下運動の余波で、
    小便中の“息子”が暴れた。

    ピシャッ。

    父親の頬に、直撃。

    「ストップ!!!!!!!」

    魂の叫びだった。
    濡れた頬のまま、出口に消えた息子に向けた最後のストップ。
    あれほど切実で、あれほど報われない声を私は知らない。

    ……ちなみに息子は、トイレ出口で母親に無事捕獲されていた。
    すべてを見越したかのような母の慧眼に、ただただ震えた。

     
     
     
    ようこそ、ブルーモカヘ。 ここは、珈琲の香りとため息の間にある小さな喫茶店。 笑いも愚痴も、全部ひと口のエッセイに。 熱すぎず、冷めすぎず、そんな文章をお出しします。

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