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「英語史ライヴ2024」で出題した英語史クイズ(解答・解説つき)

    昨日(9月8日)、「英語史ライヴ2024」に参加してきました!英語史を専攻する先生方、学生のみなさん、heldioリスナーのみなさんが全国各地から一堂に会し、朝から晩まで大盛り上がりの英語史イベントでした。多くの方と交流することができとても楽しかったです。このような前代未聞のイベントを企画し、運営してくださったkhelfのみなさん、主宰の堀田先生には心から感謝いたします。本当にお疲れさまでした。

    私は出題者として今回の目玉企画の一つである英語史クイズに参加しました。クイズでは矢冨弘先生(熊本学園大学)、小河舜先生(上智大学)、森田真登先生(武蔵野学院大学)とご一緒させていただきました。最終問題は堀田先生からのスペシャル問題でビックリしましたね!イベントの様子などはまたあとで(後日)記事にまとめられたらと思いますが、とりあえず今回は私が出題したクイズとその解答・解説をお届けしたいと思います。基礎編2問、発展編1問の計3問です。

    問題

    基礎編①

    以下の語のなかで、関係代名詞としての使用が最も遅くに一般化したものはどれでしょうか?

    1. which
    2. who
    3. whom
    4. that

    基礎編②

    English-Corpora.orgで公開されているNOW Corpus(News on the Web)は、2011年以降のインターネット上の新聞や雑誌記事を収録したコーパスです。毎日更新されており、言語変化をリアルタイムで調べる際に役立ちます。NOW Corpusによると、2023年以降、大幅に頻度が増えている副詞があります。その副詞は以下のうちどれでしょうか。

    1. actively
    2. clearly
    3. formerly
    4. unfortunately

    発展編

    以下の3語の共通点は何か。
    fowl, courage, liquor

    1. フランス語からの借用語である。
    2. 大母音推移の影響を受けている。
    3. 語源的綴字が挿入されている。
    4. 意味の特殊化が起こっている。



    解答と解説

    基礎編①
    正解は2番のwhoです。whoは後期中英語期(1300-1500)から関係代名詞としての使用が散見されるようになり、初期近代英語期(1500-1700)に徐々に一般化していきます。中英語期の代表的な作家であるジェフリー・チョーサーはwhomとwhoseを用いる一方で、whoは用いていません(Baugh and Cable 2013: 239)。

    whoの導入以前には人が先行詞の場合にどのような関係代名詞が使われていたのが疑問に思いませんか?実は、thatに加えて、whichが人間を指す関係代名詞としてよく用いられていました。『欽定訳聖書』(1611年)の主の祈り(Lord’s prayer)において、Our father, which art in heavenのように、our fatherに対してwhoではなく、whichが用いられていることはとても有名です。対照的に、whoには人以外を指す用法もありました。先行詞の種類を問わずwhoとwhichのどちらを使ってもよいという時代があったのです。「人にはwho, 物にはwhich」という厳密な使い分けは18世紀の規範文法にまで遡ります(初期近代英語期の文法書にも使い分けに言及したものがあります)。

    ちなみに、選択肢の中で最もキャリアが長い関係代名詞は、古英語にまで遡る4番のthatです。thatは中英語期に最も一般的な関係代名詞でしたが、中英語期に徐々に使用が広まっていったwh関係代名詞と競合していくことになります。whichとwhom、whoseは、whoよりも早くから使用が始まり、初期中英語期(1100-1300)から見られるようになります。関係代名詞の歴史については、いのほたチャンネルの以下の動画も参照してください。

    当日知りましたが、多くのheldioリスナーの方が「菊地先生は関係代名詞の問題を出題するはずだ」と予想していたそうです。大当たりでしたね(笑)。私もなんとなくそんな期待がされているような気がして、関係代名詞に関する問題を第一問に選んだ次第です。

    基礎編②
    正解は3番のformerlyです。以下のグラフによると、2022年には100万語あたり約15回の頻度でしたが、2023年には約28回、2024年には約35回にまで頻度が増えています(PER MILと書かれた行に着目してください)。

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    NOW Corpusにおけるformerly(100万語あたりの頻度)

    なぜでしょうか?これには社会的な出来事が関係しています。2023年7月24日にTwitterの名称がXに変更されたことで、X formerly known as Twitter「以前はツイッターとして知られていたX」や X (formerly Twitter) 「X(旧ツイッター)」のような言い回しが増えたことが原因だと考えられます。

    実際にformerly known as Twitterとformerly Twitterの頻度を調べてみると(以下のグラフを参照)、formerlyの増加分のほぼ全てが両表現に起因しているように見えます。2022年を基準にすると、2023年にはformerlyは100万語当たりの頻度が約13回分増加しています(2022年 約15回→2023年 約28回)。これに対して、formerly known as twitterとformerly twitterの合計の頻度はなんと約13回(両者ともに約6.5回)です。2024年についても同様のことが言えます。

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    NOW Corpusにおけるformerly known as twitter(100万語あたりの頻度)
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    NOW Corpusにおけるformerly twitter(100万語あたりの頻度)

    この問題の狙いは、英語は現在も変化しているということ、ならびに社会の変化(外面史)と言語の変化(内面史)は不可分の関係であることを身近な話題を通じて学んでもらうことでした。

    ちなみに、activelyとunfortunatelyには大きな変化は見られませんでしたが、以下のグラフが示しているように、clearlyには減少の傾向が見られます。他の同義表現と競合が起こっているのでしょうか?この副詞が使用されるような機会や話題自体が減っているのでしょうか?(はっきり言えること自体が減っている?)個人的に掘り下げて調べてみたい問題です。

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    NOW Corpusにおけるclearly(100万語あたりの頻度)

    NOW Corpusなどのコーパスについての情報は以下のページにまとめてあります。会員登録方法も紹介しているので、是非登録して使ってみてください。


    発展編
    正解は4番の「意味の特殊化が起こっている」です。意味の特殊化(specialization of meaning)は一般的な意味を持つ語が限定的な意味を発達させる変化を指します。fowlはよく知られている例の一つで、「鳥(全般)」から鳥の一種である「家禽、鶏」に意味を特化させました。courageは元来は広く「心」を指していましたが、数ある心の状態の中から「勇気」に意味を特化させました。liquorも同様に「液体」から液体の一種である「酒類」に意味を狭めました。堀田先生の以下のnoteでは、意味の特殊化の代表例の一つであるmeatについてわかりやすい解説があります。

    なお、逆方向への意味の変化、すなわち特殊性を示す要素が抜け落ち一般的な意味を帯びるようになる変化は、意味の一般化(generalization of meaning)と呼ばれます。代表例であるcarryは、「乗り物で輸送する」から「(乗り物でなくても)手で持って運ぶ」へと意味の一般化が起こりました。

    ちなみに、fowl、courage、liquorの三語は、チョーサーの代表作『カンタベリー物語』の総序歌(the General Prologue)の最初の11行に現れます。それぞれ現在の一般的な意味では用いられていない点に注意です。

    他の選択肢について
    1:フランス語からの借用語はcourageとliquorのみです。fowlは英語本来語です。
    2:大母音推移の影響を受けたのはfowlのみです。/fuːl/から/fəʊl/を経て/faʊl/へと変化したと考えられます。大母音推移については、公開されたばかりの『英語史新聞』第10号の2面の記事を参照してください。
    3:どの単語も語源的綴字とは関係がありません。語源的綴字については以下の記事を参照してください。

    おわりに

    みなさんは何問正解できたでしょうか?少しでも新しい学びがあれば幸いです。出題・解答ともにとても頭を使うので、クイズは個人的にとても大好きな英語史活動(hel活)の一つです。今後も様々な機会にクイズを出題していきたいと思っています。

    参考文献
    中尾俊夫 ・児馬修 (編). 1990. 『歴史的にさぐる現代の英文法』大修館書店.[関係詞など文法の変化に興味がある方は是非。より発展的な書籍は以下のページにまとめています。]


    堀田隆一. 2016. 『英語の「なぜ?」に答える はじめての英語史』研究社. [5.4 「なぜ単語の意味が昔と今で違うのか?―単語の意味変化の日常性」を参照しました。意味変化の問題は多くの英語史入門書で扱われています。]


    Baugh, Albert C. and Thomas Cable. 2013. A History of the English Language. 6th ed. London: Routledge.

     
     
     
    英語史研究者の菊地翔太と申します。所属は専修大学 文学部 英語英米文学科です。「英語史の観点から身近な問題を考える」をテーマに掲げ、これから自分のペースで記事を投稿していきたいと考えています。どうぞよろしくお願いいたします。

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