
地方企業の可能性を掘り起こしたい──私が島根で起業した理由
地方の中小企業は、まだ誰も気付いていない可能性が山ほどある。そして、その価値を世の中に広め、地方で奮闘する人たちの一助となりたい──。このような信念を持って2025年1月、しする株式会社は誕生しました。私は創業者で代表を務める小柳兼嗣と申します。
しするの事業内容は、新規ビジネス開発、ブランディング、マーケティング、営業支援、人材採用支援など多岐に渡りますが、根底にあるミッションとして、「企業に眠る資産を見つけ、魅力を磨き、企業の文化として残していくことで、地域そして日本に資する経営を増やしていく」ことを掲げています。
……と説明しても、なかなか分かりにくいと感じられるかもしれません。実際、私もさまざまな方とお話しする際、「要するに、経営コンサルタントなの?」などと言われることが非常に多いです。でも、私たちはコンサルを生業にする会社ではありません。
では、一体何者なのか? それを少しでも多くの人たちに知ってもらい、そして共感してもらいたいと思い、このたびnoteを開設し、記事を書いていこうと考えた次第です。
まずは、なぜ「地方」を舞台にしているのか。そこから話を始めます。

自分たちに価値なんてない
兵庫で生まれ育ち、その後は大阪、東京で暮らしていた私が、地方に深く目を向けるきっかけとなったのは、島根への移住です。以前勤めていたマーケティング会社で経営企画を任されることになり、新たな拠点として出雲市にオフィスを設立しました。その際、せっかくやるなら本腰を入れるべきだと腹を括り、家族を連れて移り住むことになったのです。
現地ではたくさんの経営者の方々と素敵なご縁をいただき、昼夜問わず対話をしました。丁寧でこだわりのある仕事、長年磨き続けた技術、地域に根ざしたストーリー。どれも、外から見れば圧倒的な価値があります。でも、当の本人たちは「これが普通ですから」とおっしゃる。決して謙遜しているわけではなく、本当に当たり前のもの、どこにでもあるものだと思っている節があるのです。
一方で、企業組織の内部を見ると、業務の進め方で非効率な部分や、商品の独自性をビジネスにうまく反映できていない面なども目につきました。価値はあるのに、それを生かす方向性やリソースが足りない。裏を返せば、そこが大きな伸びしろとして映りました。
これは島根に限った話ではなく、他の地方でも往々にしてあることです。そうであるならば、この状況を変えるための支援をすることで、多くの地方企業は好転するのではないか、ひいては日本全体の競争力や成長力の向上につながるのではないか。私はそう強く確信しました。そこまで考えが及ぶと、自らが会社を興すという選択に迷いはありませんでした。
本当に必要な支援なのか?
もしかしたらここで疑問を持った読者がいるかもしれません。お前の情熱は分かった。でも、起業しなくとも、元々いた会社で既に地方の顧客を支援していたのであれば、そこでもっとできたのではないか、と。
現に、同じような質問をもらうことが多々あります。確かに、資本力や人的リソースなどを考えれば、一人で作った小さな会社よりも、経営基盤が整っている企業組織で実行する方がはるかにスケールメリットは出るはずでしょう。それは間違いないですし、私自身も重々承知しています。
にもかかわらず、どうして起業が必要だったのか。それは、既存ビジネスの発想では、真の意味で地方企業を救えないと痛感したからです。
前職時代、島根で営業活動をしていた私は、地場の企業に対してWebマーケティングの提案をする機会がありました。でも次第に、あるモヤモヤを感じるようになりました。お客さまの望みを叶えるための最適な手段が、Webマーケティングだとは限らない。特に地方の企業では、費用対効果が合わないケースも少なくない。しかしながら、自分が会社から渡されているミッションや、提供できる手段が限定的であるがために、先方の事情よりも、こちらの利益を優先して、半ば無理やり当てはめようとしているのではないか。決してお客さまを騙そうとしているわけではないし、納得の上でサービスを受け入れてくださっているわけですが、何とも言えない後ろめたさはありました。
そのもどかしさが積み重なり、「本当に必要な支援ができていないのではないか?」という疑念はどんどん大きくなっていきました。そしてついには、特定の手段だけでお客さまをサポートするのは不可能だという考えに至りました。その解として導き出されたのが、「伴走者」というしするの事業スタイルであり、起業の原点になっています。
しするが大切にしているのは、「現場に入り込んで、手を動かす」ことです。専門領域をあえて固定せず、ヒト・モノ・カネ・コトを組み合わせながら、企業ごとに最適なオーダーメイドの支援を組み立てます。まずは、今やっている業務の中身などを一緒に解きほぐして、無駄を省き、余白を作る。そこで初めて、目的達成に向けた新しい一手を打てるようになる。そのプロセスを、伴走しながら仕組みに変えていく。それが私たちの仕事であり、強みです。
例えば、社外の経営コンサルタントが社長と結託し、トップダウンで「こうしなさい」と社員に手法を押し付けるのは、当社が目指すアプローチではありません。あくまでも現場の方々が「自分たちの手で成し遂げた」と感じられることが大切です。やらされる感がある限り、どんな良い施策も定着しない。楽しくなければ、積極的にはなれない。結果として誰も幸せにならない。これまでに地方のいろいろな中小企業を回り、そうしたデフレスパイラルがはびこる惨状を幾度も目にしてきました。

界面活性人材
地方の中小企業が抱える課題は深刻です。後継者不足、社員の高齢化、人材不足、デジタル化の遅れ、商圏の縮小……。現状、それらに対して世の中で提供されている支援の質が、課題解決につながっていないのが正直なところではないでしょうか。
一方で、都会の大企業や高度なスキルを持った人材が地方に目を向け始めているという変化も昨今は表れています。ほんの少しのきっかけさえあれば、まだまだ地方は勝負できる余地がある。私はそこをブルーオーシャンだと捉えており、実際に推し進めていることの一つが、地方と都会のマッチングです。
具体的には、都市部にいる優秀なクリエイターや専門家を地方企業のプロジェクトに招聘し、これまで得ることができなかった人材リソース・スキルを地方ビジネスの現場に注ぎ込む。そして、新商品開発や新規事業立ち上げに関わってもらったり、言語化されていなかった会社の価値を整理して、世の中に情報発信したりしていく。ここで強調しておきたいのは、ただ単に両者をつなぐだけでうまくいくことはあり得ません。その間に立ち、ハブとして全体の目的達成をプロデュースする存在が不可欠で、それこそが当社特有の役目だと自認しています。私はこのポジションを「界面活性人材」と呼んでいます。
実は、これは企業の中でも重要な役割を果たしており、社長と現場社員の間に立ち、両者の言葉を翻訳しながら、組織が動き出すきっかけを作っているのです。

経済性と道徳性の両立
さて、冒頭に述べたように、地域そして日本に資する経営を増やしていくことが、しするの存在意義であり、事業の根幹であることは間違いありません。その上で、経営理念として大切にしている軸が、経済性と道徳性の両立です。
短期的には効率が悪く見えても、心の底から相手のためになると思える支援を地道に続けることで、結果的に経済的にも正しい選択につながると信じています。つまり、丁寧に伴走することで生まれる信頼と成果が、お客さまだけでなく当社にとっても持続的な利益につながるからです。
他方で、私たちも事業会社であり、ボランティア精神で動いているわけでありません。成果に見合った対価はしっかりといただきますし、何よりも一緒に働くメンバーの幸せがなければ会社は存続しないため、彼ら、彼女らが稼ぎ、かつ楽しく仕事ができる健全な状態を作る必要があります。
このバランスは経営者としてしっかりと保っていきたいですし、そうした企業の姿勢を示すことが、日頃からお客さまにも伝えているような「地方でも豊かに生きられる」という証明になると考えています。

すべての「やりたい」に伴走する
しするという社名は、「すべてのやりたいに資する」という思いを込めて付けました。
夢見がちと思われるかもしれませんが、私はあらゆる人間に伸びしろがあり、その人がやりたいと願ったことは必ず叶うと信じてやみません。例えば、地方の経営者とお話しすると、残念なことに「現状維持できればいい」と半ば事業の成長を諦めている会社が少なくないのです。一度なくしてしまったものを再びよみがえらせるのは困難を極めます。だからこそ、そうなる前に「やればできる」という成功体験を作るための支援をして、自分もできるのだという経営者や社員をどんどん増やしていきたいです。さらには、そうしたうねりを多くの地方に広げていきたい。そうすればこの国はもっと良くなるはずです。
しするという会社は、規模の大小にかかわらず、「やりたい」という気持ちを持つすべての人や企業に、伴走できる存在でありたいと思っています。
私がそこまで人間の可能性を信じる理由──。それは私自身の人生経験が大きく関与しています。次回は、これまでの歩みを振り返りつつ、核心をお伝えできればと思います。