
プリクラは夢を売り、証明写真は現実を売る
証明写真を取ることになった。
ハローワークで必要だったからだ。
駅のコンビニの隣にポツンと立っている証明写真機を発見。
堂々と表示されている金額。
『700円』
な、700円だと。
いや、わかっていたけど。
今までも何回か撮ったことあったけど。
でもやっぱ、高い。
700円払って、自分の顔を真正面から見せつけられる。
なかなか強気な商売である。
画面を操作する。
『コースを選択してください』
ん?美肌モード?
隣に美肌&美白モードもあるじゃないか。
しかし美肌はプラス100円。
美白までつけると、さらに100円。
美しくなるには、何事も金が必要らしい。
だがしかし。
プラス100円で美しさが増すなら、アリじゃないか?
人の第一印象なんて、ほんの一瞬で決まることもある。
それなら文明の力で少しでも好印象に寄せられるなら、ぜひともあやかりたい。
私は財布のチャックに手をかける。
ゴソゴソ…
…
ゴソゴソ。
なかった。
100円玉が、ない。
美しさへの課金、失敗。
まさか財布の中身によって顔面の仕上がりが決まるとは。
仕方ない。
700円の通常モードで勝負するしかない。
本日の私は無課金ユーザーである。
椅子に座る。
顔の位置を合わせる。
背筋を伸ばす。
出来るだけ顎を引く。
小顔効果を期待して。
「撮影します」
カシャ!!
…ブスだ。
きっと今のはタイミングが悪かったのだ。
そういうことにしよう。
もう一度チャレンジだ。
カシャ!!
やっぱブスだ。
いやいや。
もう一回。
カシャ!!
…ワンモア。
カシャ!!
機械が許してくれる限り、
私は写真を何度も撮り直した。
なんで私は、700円でこんな現実を何度も目にしなくてはならないのだろう。
私はただ、書類に貼れる顔が欲しいだけなのに。
プリクラは500円で私に夢と希望を与えてくれるぞ。
サービス精神というものを、
一度プリクラ機から学んできてほしい。
あんまりじゃないか。
結局、キリがないので1番マシであろう一枚を選ぶ。
写真がコトッと出てくる。
現実が横一列に並んでる。
バッグから小さなハサミを取り出す。
チョキチョキ…チョキ…
ハサミに合わせて、私の顔が回ってる。
目が何度も合う。
こっち見んな。
700円で現実を知り、
100円玉がなかったせいで美肌にもなれず、
最後は自分の顔に見つめられながらハサミを入れる。
証明写真。
あまりにも厳しい。
そして私は、その写真を握りしめてハローワークへ向かった。
窓口で順番を待つ。
やがて、お姉さんに呼ばれた。
「写真、持ってきてます?」
きた。
この時のために私は先ほど高い700円を払い、
何度も己の顔と向き合い、
最終的にはハサミまで入れてきたのだ。
さぁ、胸を張って言おう。
「持ってk」
「マイナンバーカード見せてくれたら写真なくてもいいんですけど」
……
え?
いらんの?
写真。
いらんの?
なんで撮りにいったん私。
700円。
美肌モードを諦めた100円玉。
何度も見せつけられた現実。
くるくる回りながら切られた私。
全部いらんかったんかい。
ちなみにこの記事。
ハローワークで待っている間に書いていた。
だからこんなオチにするつもりはなかった。
証明写真を撮って、
「高いわ、盛れへんわ、現実見せすぎやわ」
くらいで終わる予定だった。
人生よ。
オチをつけないと気が済まないのか。
私は黙って、さっき切ったばかりの私を2枚、
お姉さんにスッと献上した。
絶対。
絶対に。
無駄になんてしてやらないんだから。
記事にもしてやるんだから。
この2枚は証明写真ではない。
執念だ。