メインコンテンツへスキップ
見出し画像

「雨を乞い、すれ違う」【雨乞い難民】


     
     突然の雨が、私を濡れ鼠に仕立てた。
     私は、閑古鳥が鳴き疲れたような喫茶店に避難した。

     「いらっしゃい。やられたね」

     タオルを受け取り、一通り拭き終わると、照れたような笑顔がそこにあった。
     瑞々しい、黒い短髪が印象的だった。

     雨の音が遠ざかる。
     何を話したのか覚えていないけれど、熱いコーヒーの香りに、火照る何かを感じた。
     
     それから、この店で雨を待ち侘びている。
     今日も、外は気持ちのいい秋晴れだった。

     あの人に似ている店主が、コーヒーを運んでくる。
     でも、そのシワに人生を刻みすぎている。
     私は、窓に映った綻びのない顔を眺め、深い溜め息をついた。


    ***
     

     雨は重力を強めて、時空を歪める。
     そんなオカルト話が、ラジオで流れていた。
     その日、閑古鳥すら巣立ってしまったような僕の店に、彼女が飛び込んできた。
     雨を滴らせて笑う彼女に、見惚れてしまった。
     舞い上がって、何を話したか覚えていない。
     懐かしい雨の香りだけが、記憶に残っている。

     時を隔ててドアベルが鳴った時は、胸が高鳴った。
     だけど、その瑞々しい肌は、壮年には遠く及ばない。
     女性が眺める外には、淋しげな陽だまりが揺らめいている。

     窓に映る白髪姿に、静かな溜め息をつく。
     雨の音は、亡霊のように僕の耳に残っているのに。
     雨だけが、まだ降らない。

     あの日の雨を、乞い焦がれている。

     
     


    参加企画

     

     

       

     
     
     
    短歌 / 自由詩 / ショートショート/連載小説 書きたいものを好きに書きます。 どんでん返しに疲れたあなたに、奇をてらわない、静かで優しいテイストを。 私の作品は、多分、全てフィクションです。 転載可。著作権は放棄していません。 点数評価と画像生成にのみAI使用。

    あなたへのおすすめ