チャイニーズ・チャイ・ニンジャ第1話「チャイ蔵 参上!」
時は1501年、明応10年。すなわち、戦国時代である。
草木も眠る丑三つ時、とある城の中庭を風のように駆ける黒い影があった。
「曲者じゃー!であえであえ~!」
そんな黒い影を、提灯を持った見張り番の侍が必死に追いかける。
「不要跟着我(ついてくるな)!」
漆黒の忍者装束に身を包んだその影は、しぶとく追ってくる侍を一瞥し、叫んだ。
そしておもむろに、懐から茶色い粉をつかみ取る。
「吃我一招(これでもくらえ)!」
忍者は手中のその粉を、侍に向かって投げつけた。月明かりに照らされた城の中庭に、茶色い粉が舞う。
粉はたちどころに、忍者の姿を隠した。
「ムッ!こ、これは…!」
侍は思わず立ち止まり、目を覆う。これはすなわち、煙幕。忍者が逃げる際の常とう手段だ。
「厄介な…!」
茶色い粉は自由奔放に宙を舞い、侍の目をくすぐる。いや──くすぐられたのは、目だけではなかった。
「こ、このかぐわしい香りは...!」
侍は困惑しながら、鼻をひくつかせる。
その香りは、そう──甘ったるく、芳醇な、スパイスの香り。
チャイである。
「ちゃ、チャイだ!これは!」
煙幕の正体は、チャイ。正確に言うと、カルディで販売している粉末状のインスタントチャイ。
数種のスパイスを絶妙な配合でミックスし、マサラ風味を効かせた濃厚な粉末インスタントチャイである。
ティースプーン2杯分の粉末にお湯を注ぐだけで、簡単にチャイが作れる本格派だ。
ちなみに聡明な読者諸君であれば当然ご存知だと思われるが、戦国時代にもカルディは存在していた。
この謎の忍者は、毎週のようにカルディ戦国支店で粉末インスタントチャイを買い占めており、普通に迷惑客としてブラックリストに入れられている。
そして気が付くと、そこに忍者の姿はいなかった。
「なんだとっ!? むう…に、逃げられた…!」
侍が拳を握り締める。手に持った提灯が、彼の悔しそうな表情を照らした。
「あの特徴的な喋り方、そしてこのチャイ。もしや、あの曲者の正体は…チャイニーズ・チャイ・ニンジャ…!」
チャイニーズ・チャイ・ニンジャ。またの名を『カルディ通いのチャイ蔵』。
ことあるごとに中国語でしゃべり、煙幕として使うほどチャイを愛する謎の忍者。
全身から尋常ならざるチャイのスパイスのいい香りがするので隠密はまったくできていないのだが(どこに隠れていても香りですぐわかる)、それはそれとして身体能力がめちゃめちゃ優れているので捕まえられない謎の忍者。
なぜあのスタイルになったのか、その経緯は誰も知らない…。
一説によると、仕える主君の命令で中国へ向かい、中国語を必死で勉強していたその際に、シルクロードでチャイと邂逅。
深い感銘を受けたためにあのスタイル…すなわち、『チャイニーズ』『チャイ』に辿り着いたとも言われている…!
「おのれチャイ蔵め、まさかあの巻物を盗んで逃げおおせるとは!」
数日後。
無事に城に戻ったチャイ蔵は、先日の任務で手に入れた巻物を己の主君に渡す。
「応ッ!ご苦労ッッ!!大儀であったッッッ!!!」
チャイ蔵の主君──罵豪院“愚零斗”暴君(ばとういん・ぐれいと・ぼうくん)は、その名の通り想像を絶する殿様である。
一般的な殿様のスタイルを覆す、まさに「傾奇者」とも呼ぶべき風貌。
全身筋骨隆々で、身長は当時の日本人にしては大柄な8メートル。
頭は立派なモヒカンヘアー。このモヒカンが1メートルほどある立派なものなので、これも含めるとトータル全長9メートル。
Amazonでフランスから取り寄せた黒のグラサンをかけた威圧的な形相は、まさに怪物。
黒い革製の着物を身にまとっており、肩にはトゲトゲの肩パットを装着している。
時は1501年。世紀末はまだまだ先なのだが、先見の明を持つ罵豪院暴君はすでに世紀末ファッションを会得していた。
ちなみに彼が治めるこの城も、一見普通のお城だが有事の際は戦車に変形する。
それはさておき。
「ふーむ、なるほどなぁ…ッ!」
広々とした和室の中央、黄金の玉座(めっちゃ18金)に腰掛ける罵豪院“愚零斗”暴君。彼は巻物を広げ、グラサンの奥の鋭い眼光でそこに書かれた文字をにらむ。
バスケットボールぐらいならたやすく握りつぶせそうな大きな手で、器用に巻物をつまむその姿は、まさに規格外(ちなみに戦国時代にもバスケットボールぐらいある)。
そんな罵豪院“愚零斗”暴君が、同じく規格外な重低音&規格外な大音量の声で叫ぶ。
「おい、チャイ蔵ッ!まずいことになりそうだぞッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!」
あまりの声の大きさに、城全体がぐらりと揺れる。
「うるさいです、殿」
罵豪院“愚零斗”暴君の前でひざまずくチャイ蔵が、冷静に言った。
敵と相対している時は中国語を使うチャイニーズ・チャイ・ニンジャのチャイ蔵であるが、それはキャラ付けとしてあえてやっているだけなので、身内と喋る時は普通に喋る。
「それで、その巻物には何と書かれているのですか?」
チャイ蔵はそう聞きながら首を傾げた。先日彼は、この主君の命令で敵の城に潜入し、巻物を盗んできた。
敵の名は暗曇亭・魯怒莉解洲(あんどんてい・ろどりげす)。
罵豪院“愚零斗”暴君が治める地域のすぐ隣を支配する大名であり、日本とパラグアイのハーフである。
蹴鞠──否、サッカーをこよなく愛し、戦の際は南米サッカーで鍛えたフィジカルとずる賢さを用いて先陣を切ることで有名な猛将だ。
どうもこの魯怒莉解洲が近頃怪しい動きをしており、その不気味な計画の内容がこの巻物にしたためられているらしい。
すると罵豪院“愚零斗”暴君は「うむッ!由々しき事態ッッ!!」と返し、巻物に書かれていた内容をチャイ蔵に(信じられないほどの大声で)伝える。
「魯怒莉解洲め…あやつ、カルディ戦国支店を買収するつもりだッッッ!!!」
「なんですと!?」
チャイ蔵は驚愕に目を見張った。
イオンモール戦国店ノースモール1階に入っているカルディ戦国支店。
チャイ蔵がいつもチャイを買い出しに行っているその店を、魯怒莉解洲は無粋にも買収しようとしているのだ。
「しかもこの計画にはまだ続きがあるぞッッ!!」
罵豪院“愚零斗”暴君が叫び、続ける。
「魯怒莉解洲がカルディを買収した暁には、その店内で販売しているインスタントチャイやパスタソース、そして無料で配られているコーヒーを廃止ッ!」
「!?」
「そしてあやつは…あの店をマテ茶専門店に魔改造するつもりだッッ!!」
「!?」
マテ茶。
それは、ジェルバ・マテという葉を乾燥させて作った茶葉にお湯をかけて飲む飲料だ。
ひょうたんのような伝統的な器に茶葉を入れ、少しずつお湯を入れながら専用ストローで飲む。
これがマテ茶である。
カフェインを含んでおり、ビタミンやミネラルもたっぷり入っていることから「飲むサラダ」と呼ばれるとてつもない飲み物としてあまりにも有名。
チャイ蔵はグッと拳を握り締めた。
「魯怒莉解洲め…パラグアイ生まれゆえにマテ茶を心から愛しているという噂は聞いていたが…まさか、カルディをマテ茶専門店に魔改造しようなどと企んでいるとは!なんと強情な!」
このままでは、チャイ蔵がカルディのチャイを飲めなくなる!
「チャイ蔵よッ!おそらく魯怒莉解洲は既に、自らが育て上げた忍び集団、通称『マテ忍』どもを刺客としてカルディに放っているに違いないぞッッ!!」
「な、なんとっ!」
魯怒莉解洲が直々に育て上げた忍者集団・マテ忍の話は、かねてよりチャイ蔵も耳にしていた。
主君譲りのフィジカルと卓越したサッカーIQを誇り、戦う前はカフェインを大量に含有した特性マテ茶を飲んでパフォーマンスを上げるらしい。
「マテ忍…負けるものか!そっちがマテなら、こっちはチャイだ!」
チャイ蔵はそう言うと、懐からティーカップを取り出した。
目にもとまらぬ早業でそこに粉末状のインスタントチャイを投入。さらに、袖の下に常に隠し持っている超小型魔法瓶からお湯を注ぎ、あっという間にチャイを完成させる。
これぞまさに、洗練されし忍の能力。
チャイ蔵はそのチャイを優雅に口にする。
とたん、紅茶・シナモン・カルダモン・その他もろもろの優雅な香りが鼻を抜けた。
そんな彼の姿を見た罵豪院“愚零斗”暴君が「うむッ!その意気だッッ!!」と拳を振り上げ、その勢いでたやすく天井を殴り抜き、城全体が揺れる。
「すぐにカルディへ向かえ、チャイ蔵!そしてマテ忍どもを撃退し、カルディを守るのだ!」
「明白了(はい)!!!」
果たしてチャイ蔵は、マテ忍たちに勝てるのか──!?
次回、「チャイ蔵、カルディ出禁」に続くッッッ!!!