
想いよ、ひとつになれ ~ 映画「AqoursDocumentary」感想とまとめ
2025年9月26日より封切りとなった、映画「AqoursDocumentary」。
封切り翌日と翌週、2回にわたって観てきました。
この10年、Aqoursからたくさんの笑顔をもらいました。
何度もライブ会場に足を運び、楽しい時間を共有してきましたし、苦しい時の精神的支柱にもなってくれました。
6月に開催された、Finaleライブ。
9人での最後のステージを迎えるにあたり、約3か月間の活動を追いながら、この10年の活動をメンバーの言葉と共に振り返るドキュメンタリー映画の公開がアナウンスされました。
この映画は、本当に楽しみにしていました!
私がドキュメンタリー好きなのもありますが、彼女たちがAqoursの活動を通して、何を思い、どのように取り組んできたのかを知ることができる機会はそうあるわけではありません。
映画を観て感じたことは、数々のステージやメディアで輝いてきた彼女たちも、様々な困難や課題に「ひとりの社会人」として悩み、苦しみ、乗り越える姿を見せてくれて、同じ社会人として共感できる点があったのではないか、と思いました。
それでも、特殊な環境の中、我々には想像もできないようなこともあった。
彼女たちは、本当に貴重な経験をしてきたと思います。
何度も涙を流しながら活動を振り返るメンバーの姿を見て、観ている私も何度も涙しました。
このnoteでは、AqoursDocumentaryの内容を振り返り、率直な感想や考えたことを語ってみます。
【注意】
2025年10月11日現在、公開中の映画の内容をまとめていますので、完全ネタバレ記事です。
タイトルに注意喚起を書こうと思いましたが、公開から3週間経ち、少なくとも既に1回は観ているファンの方が多いだろうと判断し、敢えて注意喚起は書きません。
もし映画を観ていない方、ネタバレが嫌な方はご注意ください。
映画の内容をなぞるように文章を書いていますが、記憶があいまいな点もあるかもしれません。ご容赦ください。
原点と現在が交わる、Finaleへの道の始まり
映画は、Finaleライブの3か月前――2025年4月から静かに幕を開けます。
映画は、Finaleライブに向けた活動を中心に、デビューから今までのAqoursの軌跡をたどる映像が流れます。
その合間に、この映画のためだけに撮影された単独インタビューが差し込まれる構成。
単独インタビューでは、綺麗なロケーションをバックに、この日のために用意された白や黒といったシンプルで洗練された衣装をまとったメンバーたちが、それぞれの想いを語ります。
特に伊波さんのダークトーンの衣装が印象的で、内容に寄り添うような演出の一部にも感じられました。
◆
ライブ本番までの3か月を追うドキュメンタリーの始まりは、ライブ幕間で上映された新作アニメのアフレコシーン。
音響監督・長崎さんの指示のもと、短い時間ながらも真剣に声を吹き込むメンバーたちの姿が映し出されます。
ラブライブ!サンシャイン!!のアニメは、最初から同じスタジオで収録されていたそう。
右も左もわからない新人だったあの頃。
長崎さんの指導のもとで、一つひとつのセリフに命を吹き込む日々。
そんな最初の思い出が、もう10年前のこと。
時が経つのは本当に早い。
メンバー同士の思い出トークは自然と花開きます。
高海千歌役の伊波杏樹さん、小原鞠莉役の鈴木愛奈さんは当時まだ10代。
伊波さんの20歳の誕生日にリップを贈ったというお話など、スタジオ内は懐かしい話で笑顔が絶えません。
最後のセリフを録り終えたあと、杏ちゃん(伊波さん)がふと「終わっちゃった…」とつぶやく。
その小さな言葉に、10年分の想いと、この先に訪れる“終幕”の予感が静かに重なっていくようでした。
9人が出会ったファーストシーン
NHKの特集番組で公開された、9人の初顔合わせのシーン。
その映像が再びスクリーンに映し出されました。
まだあどけなさの残る彼女たちの姿に、時の流れと物語の始まりを同時に感じます。
あの初対面の場面は、後にメンバー自身もたびたび語ってきたエピソードであり、今回の映画でも改めて話題となっていました。
にゃ~ちゃん(鈴木さん)が、黒澤ダイヤ役の小宮有紗さんをじっと見つめていた、という話。
実は隣に座っていた、黒澤ルビィ役の降幡愛さんも、その様子が気になって仕方がなかったそうです。
にゃ~ちゃん本人も「ありしゃが本当に“美”で、見とれてしまった。要注意人物と思われていたかも」と笑いながら振り返ります。
そして、津島善子(ヨハネ)役の小林愛香さんと、渡辺曜役の斉藤朱夏さんの初対面のエピソード。
事前に見たアーティスト写真ではゴスロリ衣装のしゅかしゅ~(斉藤さん)が、実際にはTシャツにジーンズ姿で現れ、「まるで別人!」と驚いたのだとか。
インタビューで「もう、やめなよ~」と満面の笑顔であの時のことを振り返るしゅかしゅ~。
あの衣装は事務所の方針で”着させられていた”ものだったのだとか。
今やキレッキレのダンスを披露する”ダンサー”のイメージですが、デビュー当時は今と全く違うイメージを作ろうとしていたのですね。
松浦果南役の諏訪ななかさんは「『君のこころは輝いてるかい』のレコーディングは顔合わせの前に済んでいた」と語ります。
その言葉通り、この日は完成した楽曲初披露の場でもありました。
初めて完成した曲を聴くメンバーたち。
このシーンは初めて見ました。
リズムをとりながら楽曲を感じるメンバーもいれば、真剣な眼差しで聴き入る者もいる。
なかでも、主役を演じる杏ちゃんが、曲に全身で集中し、心を込めて受け止める姿が印象的でした。
曲が終わった瞬間、ふっと安堵の笑みを浮かべる彼女の表情に、“Aqoursの始まり”の実感が宿ります。
インタビューでは、杏ちゃんが当時の胸の内を語ります。
「事務所のチーフマネージャーさんに『君が主役を受けなくてどうするの?』と言われて…最初は“私なんかが”って思っていたけれど、その言葉に背中を押されたんです」
オーディションに挑み、見事に合格。
そして、ラブライブ!サンシャイン!!の物語を背負う「高海千歌」という少女を演じることになりました。
もともとμ’sの大ファンであり、ライブにも足を運んでいた彼女。
主役という立場の重さも、μ’sの歩みを通して知り尽くしていました。
「これからのことを考えると、怖かった」と、当時の不安を素直に語ってくれました。
涙のデビュー、そして“μ’sのあと”を歩む決意
ラブライブ!サンシャイン!!「Aqours」の初披露イベントの日。
まだ右も左もわからない9人が、初々しい制服姿でステージに立ちました。
その制服は、赤いタイの夏服セーラー。
初期のコンセプトである、全員統一の衣装です。
舞台袖から駆け出してくるメンバーたちは、ホールいっぱいに集まった観客の姿を見て驚き、感激の表情を浮かべます。
進行を任された杏ちゃんは、その光景を前に思わず涙をこぼし、しゅかしゅ~や、桜内梨子役の逢田梨香子さんが優しく肩を支えます。
それでも、声を震わせながら「ようこそ!」とイベントの開幕を告げる杏ちゃんの姿は、ファン全員心に焼き付いているでしょうし、映画のシーンとしても印象的なもの。
この涙には、理由がありました。
当時、Aqoursはデビュー直後から激しいバッシングを受けていたのです。
当時、μ’sはファイナルを発表しており、その代わりに登場したAqoursを受け入れられないファンも多く、心ない言葉が浴びせられることもありました。
中にはひどい誹謗中傷もあったといいます。
「μ'sのファイナル前にデビューしたので、Aqoursの存在がμ'sを終わらせてしまう、と思った人もいたかもしれない」と冷静に振り返るすわわ(諏訪さん)。
プロデューサーの大久保さんも、「ラブライブ!というブランドを“シリーズ化”することを浸透させるのが大切だった」と振り返ります。
今となってはシリーズから多くのスクールアイドルが活動していますが、当時はμ’sからAqoursへバトンを渡す時期。
μ’sは「人気絶頂のまま幕を閉じたい」というメンバーの想いを尊重し、2016年4月にファイナルライブを開催。
その後、制作陣はラブライブ!というムーヴメントを止めぬよう、新シリーズ『ラブライブ!サンシャイン!!』を立ち上げました。
Aqoursの誕生は、運命ではなく、シリーズ継続に必要な“決断”だったのです。
◆
――正直、当時の私はAqoursに強い関心を持っていたわけではありませんでした。
元々、人の顔と名前を覚えるのがあまり得意じゃないので、自ら注目しないとキャラクターの詳細について覚えられなかったのです。
ただ、μ’sの推しである花陽ちゃんと同じようなルックスの娘がいるなぁ、と思った程度。
特撮好きの友人の影響で「特命戦隊ゴーバスターズ」に出演していた小宮有紗さんだけは知っていて、「ヨーコがラブライブ!に!?」と周りもざわついていたのを覚えています。
それでも、嫌悪感や拒否感はまったくなく、ただ静かに見守るような気持ちでいました。
その印象が変わったのは、アニメが始まってから。
μ’sが終わってしまった寂しさを抱えていた私の心を、1話のオープニング「青空Jumping Heart」が一瞬で晴らしてくれました。
ダンサブルなリズムに乗せて、画面狭しと動き回る9人。
そして、あの“アキバドーム”のステージでのパフォーマンス。
――「ああ、ラブライブ!は続いていくんだ」と心の底から感じた瞬間でした。
μ’sを意識した演出も随所にあり、まるで彼女たちの“想い”を受け継ぐような作品。
彼女たちを追っていけば、ラブライブ!をずっと好きでいられる。
元々音楽が好きなので、「音楽」と「物語」がクロスオーバーした「ラブライブ!」というコンテンツそのものが好きになっていたのです。
アニメも楽曲も素晴らしかった。
しかし、コンテンツの楽しみ方は多様化しています。
爆発的な人気のμ'sに対して、熱狂的な応援スタンスを取る人も多かったと思います。
すわわ(諏訪さん)が言っていた「Aqoursはμ’sを終わらせる存在」と思う人も実際にいたと思います。
私はその発想は全くなかったので、その言葉に驚きました。
そして、攻撃の矢が制作者側に向けられるのは当然のことでしょう。
「人気絶頂のままμ’sを終わらせたい」という、メンバーを始めとする関係者の意向は尊重しますが、どういった形にせよ、μ’sの存在は色濃く残すべきだった。
でも、そうしてしまうとAqoursに目を向けられなくなり、シリーズ展開が失敗する恐れもある。
解決には時間が必要だったと思います。
◆
制作陣もまた、複雑な想いを抱えていました。
Aqoursが攻撃の矢面に立たされるのを避けるため、プロデューサーの大久保さんや宣伝プロデューサーの米川さんは「デビュー直後はμ’sの話を公の場でしない」という方針を打ち出した、と話してくれました。
μ’sに憧れてこの世界に入った彼女たちが、その存在を語ることすら許されなかった――。
あの沈黙の裏に、“自分たちを守るための優しさ”があったことを、この映画で初めて知りました。
デビューイベントのラスト。
あいきゃん(小林さん)が小さく「もう終わっちゃう…」とつぶやくと、杏ちゃんが即座に返します。
「終わりじゃないよ。これから始まるんだから!」
その言葉に会場は大歓声。
涙をぬぐいながら、9人は渾身のパフォーマンスを見せ、何度も深く頭を下げました。
Aqoursがようやくμ’sの名を口にできたのは、それから約1年後。
2017年、「パーフェクトドリームプロジェクト(PDP)」の一環として行われたイベントでのこと。
その場で司会を務めた杏ちゃんは、Aqoursメンバーとして初めて、μ’sのリーダー新田恵海さんと同じステージに立ちました。
あの日の涙の理由が、ようやく“希望の意味”へと変わった瞬間だったのだと思います。
”9人だけのFinale”へ
2025年4月。
Finaleライブに向けたリハーサルが本格的にスタートしました。
すでにこの時点で、ステージセットのイメージや座席の配置図は完成しており、プロデューサーの大久保さん、演出の松崎さんからメンバーへ説明が行われます。
シリーズの初期からAqoursプロジェクトに携わってきた彼らにとって、このFinaleはまさに集大成。
その語り口には、長い年月を共にしてきた者にしか出せない熱がこもっていました。
スタジオでのリハーサル。
大久保さんがメンバーに演出を説明します。
「ステージ上に砂を設置するので、そこに文字を書いてもらいます」
その重要な役割を担うのは、ありしゃ(小宮さん)。
「え〜、絶対間違えそう!」と笑いを交えながらも、重責を感じる表情が印象的でした。
演出の松崎さんからも丁寧な説明が入ります。
Aqoursのライブを数々支えてきたのが、この大久保さんと松崎さんの二人。
ステージ裏で彼らが生み出してきた数々の工夫や演出の試行錯誤。
その一端を垣間見られるのは、まさにドキュメンタリーならではの醍醐味です。
Finaleライブのコンセプトは、「9人のパフォーマンスだけでライブを完結させる」こと。
これまでのAqoursのライブには、ユニットステージやソロ曲、企画コーナーなど、多彩な構成が盛り込まれていました。
しかし今回は、最初から最後まで9人が一緒にステージに立ち続ける構成。今までのように合間で休むことができないため、肉体的にも精神的にも厳しい公演となることは明白でした。
それでも、「最後だからこそ、9人だけでやりたい」という想いが全員に共通していたと思います。
大久保さんと松崎さんがその意志をメンバーに伝えると、9人は迷わず快諾。
Aqoursとしての最後のステージは9人曲がメインになることが決まりました。
リハーサルでは、デビュー当時から振り付けを担当してきた石川ゆみ先生をはじめとする、コレオグラファーの先生方も参加。
10年にわたる信頼関係が感じられる、真剣な中にも穏やかで温かい空気の中で練習は進んでいきます。
杏ちゃんは、ひとつひとつの動きを確認しながら、納得がいくまで先生方と話し合い、何度も試していきます。
その姿勢には、リーダーとしての責任感はもちろん、課題を見つけ出し、自分自身納得する形を作り上げていく姿勢が感じられました。
ゆみ先生は「Aqoursはみんなバラバラで個性的。でも、それが魅力」と語ります。
確かに、9人はそれぞれ異なる性格と強みを持ちながら、10年間、互いを支え合いながらここまで歩んできました。
その中心にいる杏ちゃんは、きっと何度も壁にぶつかり、悩み、迷ってきたはずです。
「それでも、彼女は決して逃げない」
ゆみ先生も、杏ちゃんの姿勢を10年間ずっと見続けてきたのです。
「想いよひとつになれ」から始まった、信頼の物語
2017年、テレビアニメ放送を受けて開催されたAqoursの1stライブ。
そのオープニングは「青空Jumping Heart」。
9人が後ろを向いたまま立ち、イントロに合わせて順番に前を向く。
その瞬間、横浜アリーナを埋め尽くしたブレードの光が一斉に輝き、まるで海のように波打ちました。
メンバーは口をそろえて言います。
「感動したけど、それよりも安心した」
本当にお客さんが来てくれるのだろうか――そんな不安と緊張を抱えたまま迎えた初舞台。
しかし、あの光景を見た瞬間、胸の奥がすっと軽くなり、心から“始まり”を実感できたといいます。
「気持ちが楽になって、ライブに集中できた」と語る、国木田花丸役の高槻かなこさんの笑顔が印象的でした。
そして、誰もが忘れられないシーン――「想いよひとつになれ」。
ピアノ未経験ながら演奏に挑戦した逢田さん。
Day1では見事成功させましたが、Day2ではイントロで音を外し、そのまま泣き崩れてしまった。
きっと、頭が真っ白になってしまったのでしょう。
アイドルのライブで、ステージ上で支え合ったり、バックステージで倒れ込んだりするシーンを見て、「シナリオが決まっているんじゃないか」と思っていたと語る逢田さん。
でも実際に自身の身にも同じことが起きてしまった。
「こんなこと、本当にあるんだな」と思ったとインタビューで語ってくれました。
バックの演奏が止まり、何が起こったのかと戸惑うメンバー。
後ろを振り返ると、逢田さんがステージ上で泣き崩れている。
真っ先に駆け寄り、優しく抱き寄せたのはリーダーの杏ちゃん。
続いてにゃ~ちゃん、すわわが駆け寄り、ステージに残るメンバーも涙ながらに見守りました。
驚くのは、杏ちゃんがその時“笑顔”で寄り添っていたこと。
「大丈夫?」と不安そうに声をかけたら、きっと逢田さんはもっと不安になってしまう。
その気遣いが、彼女を救ったのだと思います。
「大丈夫、絶対できる!」と力強く声をかけるにゃ~ちゃん。
仲間の優しさと観客の大きな拍手が、彼女を再び立ち上がらせました。
この時、演奏を止める判断を下したのはプロデューサーの大久保さん。
「このまま続けたら、心に傷が残る。2回目はきっと成功すると思っていたから」
その信頼の言葉通り、逢田さんは再挑戦で完璧な演奏を披露。
“想い”は本当に、ひとつになったのです。
「あの時のことは、本当に感謝しています」と逢田さんはインタビューで語ってくれました。
◆
1stライブを機に、Aqoursは怒涛の活動期へ。
リハーサルと本番を繰り返す毎日。
「充実していたというより、必死に食らいついていた」とメンバーは振り返ります。
それでも、全員が同じ方向を見つめ、がむしゃらに走り続けていました。
ふりさん(降幡さん)は当時を思い出し、涙ながらに語ります。
「ルビィが人気投票で最下位ばかりだった。私が演じているからルビィが最下位になったのではないか、と考えてしまうこともあった。ルビィに申し訳ない」
それでも、彼女は諦めませんでした。
今や「何が好き?」の言葉と共に、世界中にその名が響くルビィちゃん。
悔しさと努力の積み重ねが、時間をかけて花開いたのだと思います。
しゅかしゅ~は「4thライブ・東京ドームでようやく自信を持てた」と語ります。
「それまでのステージでは、ちゃんと曜ちゃんとしてステージに立てているか不安だった。でも、ドームのステージに立った時、不安がすべてが消えた」
1stライブから始まり、がむしゃらに駆け抜けたことが、確かな自信へと変わった瞬間でした。
横浜アリーナの1stライブから始まり、後に「セカンドホーム」と呼ばれたベルーナドームを含む、全国3都市をめぐる2ndツアーへ。
アニメ2期をテーマにした3rdツアー、そしてHAKODATE UNIT CARNIVAL、海外公演、夏のイベント出演――。
Aqoursはこの2年間で数え切れないステージを経験し、確かな自信を得たと共に、9人の絆を強くしていきました。
そして、2020年――ラブライブ!フェス。
Day2でAqoursは“ヘッドライナー”と言うべき活躍を見せてくれました。
初日にトリを務めたμ'sですが、この日は2番手に登場。
ステージのラストは、μ'sを象徴する名曲「Snow halation」。
スノハレと言えば、ラストのサビで白一色だったスタンドがオレンジに変わる瞬間。
そんなオレンジ一色に染まったμ’sのステージの余韻をぶち抜いて、ステージ中央から巨大な「Aqours Ship」に乗って登場。
「スノハレの後にパフォーマンスできる。私たちはここまで来たんだよ」
杏ちゃんがメンバーを鼓舞してくれた、とにゃ~ちゃん。
すると、さいたまスーパーアリーナの客席が、大海原を連想させるように一面の青に変わった。
「オレンジの光が青に変わった瞬間、ようやく私たちも受け入れられたんだって思って、うれしかった。」
あいきゃん(小林さん)は涙ながらインタビューで語ってくれました。
μ’sと同じステージに立てた喜びは、彼女たちが歩んできた全ての努力の結晶でした。
“ラブライブ!”という物語の一部として、Aqoursは確かにその名を刻んだのです。
「私たちのやってきたことは、絶対に間違っていない。」
杏ちゃんがライブ後の生放送で語ったその言葉は、自身に満ち溢れていました。
こうしてAqoursは、まさに活動の絶頂期を迎えたのです。
止まった時間――パンデミックが奪った“ステージの光”
ラブライブ!フェスの熱狂が冷めやらぬ中、シリーズ初となるユニットライブが次々と開催されていました。
しかし、その裏で世界は急速に変わり始めていました。
新型コロナウイルスの感染拡大。
それは、Aqoursの歩みにも暗い影を落とし始めていたのです。
なんとかGuilty Kiss、CYaRon!のライブまでは開催にこぎつけたものの、続くAZALEAの公演は政府の要請により中止。
順風満帆に続いてきたAqoursの活動は、ここで突如として足を止めざるを得なくなりました。
さらに追い打ちをかけたのが、デビュー5周年を記念して企画されていた5大ドームツアーと、静岡・つま恋での野外ライブ。
そのどちらも、中止の決定が下されます。
映画の中でこれらのイベントが並んで紹介されていたことからも、ドームツアーの後に野外ライブが控えていたことがうかがえます。
私は、ドームツアー中止の代替として、「屋外なら安全に開催できるのでは」という希望を込めて野外ライブが準備されていたのだと思っていましたが、実際には最初から5大ドーム公演の後に地元・静岡の公演が決まっていたのだと思います。
しかし、その希望さえも叶わなかった。
野外ライブの中止決定は、メンバーの心に深い傷を残しました。
「開催の1週間前に中止が決まって、我慢してきたものがここで完全に折れた」と語る逢田さんの言葉には、積み重ねてきた努力と、こらえてきた感情がにじみます。
映画とは別のメディアでのお話ではありますが、中止の報を聞いた2年生メンバーが輪になって泣いていたというエピソードも、その時の辛さを物語っています。
一方、しゅかしゅ~は「ずっと曜ちゃんとしてステージに立ってきて、自分自身と役との間で戸惑いを感じていた」と語ります。
「陽ちゃんに“全振り”していたからこそ、急にステージがなくなってしまって、自分がどこに立っているのかわからなくなった」
その率直な言葉には、スクールアイドルとして、そして一人の表現者としての葛藤が滲んでいました。
さらに、きんちゃん(高槻さん)は体調不良により長期離脱を余儀なくされます。
ファンにとっても、そしてメンバーにとっても、それはつらい知らせでした。
彼女が演じる花丸ちゃんの存在と、自分自身とのあいだで心が揺れ動き、次第にアイデンティティが薄れていったといいます。
「だんだん心が壊れていった」
インタビューでそう語る彼女の表情には、言葉にできない痛みがありました。
ステージに立つことが当たり前だった日々。
パンデミックはエンターテインメント業界全体へ暗い影を落とす出来事でしたが、ファンの歓声と共に生きてきた彼女たちにとって、その舞台が突然奪われた現実は、想像を絶するものだったと思います。
“10年の約束”――沼津と歩み、Finaleを見つめる
JR東海とのコラボレーションによって実現した、「沼津駅一日駅長」イベント。
逢田さんとにゃ~ちゃんが参加した模様も公開してくれました。
制服姿の2人が、出発進行のコールを行ったり、サプライズで生アナウンスを行ったり。
控室で、二人はこれまでの歩みを静かに振り返ります。
「米川さんのおかげですよ」
逢田さんが口にした一言には、深い感謝の気持ちがこもっていました。
米川さんは、Aqoursプロジェクトの宣伝プロデューサー。
シリーズ初期から何度も沼津に足を運び、商店や観光施設を一軒一軒訪ねては、地元の方々と対話を重ねてきました。
その地道な努力が、やがて「聖地・沼津」という文化を築き上げる原動力となります。
「永久hours」のMV撮影では、地元の人々の協力が欠かせませんでした。
最初は「出演を断られるかもしれない」と覚悟していたそうですが、いざ蓋を開けてみると、誰もが快く協力を申し出てくれたのだとか。
おかげで、沼津という街の息づかいをそのまま閉じ込めたような、あたたかい映像作品に仕上がりました。
MVであいきゃん(小林愛香さん)が抱いていた子犬も、あの時はまだ生まれたばかり。
今ではすっかり成長し、つじ写真館の方が米川さんにその姿を見せるシーンも印象的でした。
こうして振り返ると、沼津という街をここまで動かしたのは、決して大規模な宣伝でも派手なイベントでもなく、一人のスタッフが積み重ねた“草の根の努力”だったことに、本当に驚きました。
彼の活動が、地域の命運を大きく変えてしまったのです。
米川さんの人間的な誠実さと情熱が、地域を巻き込み、Aqoursと地元を結ぶ奇跡を生んだのだと思います。
しかし、そんな温かな日々を包み込むように、時代は再び大きな試練を突きつけます。
コロナ禍で多くのイベントが中止となり、次に進むための目標を見失いかけていた頃、プロデューサーの大久保さんが提案したのが「10年を目指す」という方針でした。
Aqoursの活動を10年間継続させ、その節目にFinaleを迎える――。
実はこのFinale構想は、すでにかなり前から決まっていたといいます。
「当初、私は反対しました」と語るのは米川さん。
「Finaleのことを考えると、どうしても沼津の人たちの顔が浮かんでしまって……」と、長年地域と歩んできた者としての葛藤を明かしてくれました。
一方、メンバーたちの心境も人それぞれでした。
逢田さんは「きちんと受け止めて、区切りをつけたい」と、静かに前を見据えていたように見えました。
一方で、しゅかしゅ~は「大反対」と涙を流しながら訴えます。
「ずっと9人でリハーサルをしたり、ふざけたりしていたい。終わりなんて考えたくない」と。
それぞれの“Finale”への向き合い方は異なっていました。
その違いこそが、9人が本気でAqoursを愛している証でもありました。
しかし、メンバー間の感じ方や受け止め方の差が、その先の関係性に少しずつ影響を与えていく――
それもまた、長く続けてきたグループだからこそ生まれる、リアルな人間模様なのだと思います。
崩れたバランス――輝きの裏で起きていた“心のすれ違い”
Finaleライブに向けたリハーサルが続く中、メンバーの間には、少しずつ目に見えない違和感が広がっていました。
お互いの気持ちが見えず、これまでのように、自然と“ひとつ”になれない。そんな感覚が、静かに積もっていったのです。
新曲「僕らの旅は終わらない」。
センターステージでの複雑な立ち位置変更を伴うパフォーマンス。
実際に歌いながら動きを確認し、何度も微調整を繰り返していく過程で、事件は起きました。
「頭がパニックになりそう……」
きんちゃんが、コレオグラファーの先生やメンバーと話しながら漏らした言葉。
その直後、彼女は突然フォーメーションから外れ、仲間たちの姿を見つめながら、ダンスの輪に加わることができません。
スタッフが異変に気づき、静かにカメラへ“バツ”の合図を出します。
そして、きんちゃんはそのままリハを離れ、控え室へと姿を消しました。
このとき彼女はパニック症状を起こしていたのです。
過去に同じようなことを経験したことがあるのか、無理に取り繕うことも、周囲を混乱させることもせず、静かにフォーメーションから外れたのでした。
リハーサルはその後も進行しましたが、大久保プロデューサーがメンバーたちに伝えます。
「かなこがパニック症状になった。戻ってきたときに“なんで踊らないの?”とは聞かないであげて」
その言葉を全員が静かに聞き、了承します。
しかし、きんちゃんがその日のリハに戻ることはありませんでした。
幸い翌週には復帰し、再び練習に加わることができたものの、撮影は一時的に中断することになりました。
◆
コロナ禍を経て再び走り出したAqours。
DREAMY CONCERT、ユニットライブ、そして3つのスタジアムを巡る6thライブ――。
彼女たちは一見、以前と変わらぬ輝きを取り戻したかのように見えました。
しかしその裏では、互いの距離感を見失っていたのです。
かつてライブ前の恒例だった“円陣”も、自然と行われなくなっていたと言います。
この事実を映画で初めて知ったとき、胸が締めつけられるような気持ちになりました。
Aqoursのライブ前の「恒例行事」で、今でもずっと続いていると思っていたのに…
あの当時、私たちファンはただ「またAqoursに会えた」という喜びに包まれていたと思います。
しかしその笑顔の奥で、彼女たちがどんな葛藤を抱えていたのか――
ステージ上であれほどまぶしく輝いていたからこそ、誰もその痛みに気づくことができなかったのだと思います。
すれ違う心の中で
リハーサルの撮影が一時的に止まった間、映画は一部のメンバーに焦点を当てていきます。
逢田さんは移動のタクシーの中で静かに今の心境を語ります。
しゅかしゅ~は個人でリハーサルスタジオを借り、音楽を流しながら振りを繰り返す。
ふりさんは広い公園をランニング。
それぞれのシーンの中で、インタビューは続きます。
彼女たちが語ったのは、「9人の気持ちのずれ」でした。
「コロナ禍以降、以前のように“ひとつ”になれていない気がする」
そんな声がいくつも出てきました。
しゅかしゅ~は「“気持ちをひとつに頑張ろう”と無理に求めることは、自分自身のエゴ」と語り、逢田さんもまた「以前のような一体感が感じられない」と涙ぐみました。
彼女たちが思い描いていたのは、4thライブの頃の絆だったのではないでしょうか。
「家族より一緒にいる」と語っていた時期。
LAから帰国してすぐ福岡へ向かうような過密スケジュールをこなし、
ハードな日々をともに過ごしたことで、自然と心がひとつになっていたあの頃。
身体的にも精神的にも極限を分かち合うことで、Aqoursは強い一体感を築いていたのだと思います。
しかし、5周年を目前にして訪れたパンデミックが、すべてを変えてしまった。
顔を合わせる機会は激減し、それぞれの活動が増え、個々の道が少しずつ広がっていきます。
もちろんそんな中でも、誰もがAqoursを大切に思い続けていたと思いますし、仲が悪くなったわけでは決してありません。
ただ、「Finaleを前に同じ方向を見ているか」という確信が持てなくなっていたのだと思います。
「ぶつかるわけでもないし、団結するわけでもない。この“宙ぶらりん”な感じが気持ち悪い」
複数のメンバーがそう口にします。
そんな中で、映画はリーダー・杏ちゃんにフォーカスしていきます。
グループで活動する中でも、杏ちゃんはよく一人で考え込み、ダンスを何度も確認しながら黙々と動きを確かめていました。
「一人でいる時は寄り添ってあげたくなる。そんな空気を纏っている」と逢田さん。
「きっと、何でも自分の中で解決しようとしてしまうタイプなんだと思う」と、しゅかしゅ~も。
二人にスポットが当たったのは、同じ2年生のキャラを演じる者として、杏ちゃんのことを誰よりもよく見てきたからだと思います。
映画の中で最も印象的だったのは、杏ちゃんの単独インタビュー。
「Aqoursの活動で犠牲にしてきたものは?」という質問に、彼女は少し考えてからこう答えます。
――「自分」。
その言葉はあまりにも率直で、あまりにも痛切でした。
彼女は言います。
「コロナ禍でライブが中止になった時も、悲しくても受け入れなければならない。たぶん、知らず知らずのうちに“我慢する自分”を当たり前にしてきたんだと思う」
悲しみや悔しさを表に出すことなく、現実を受け入れて前に進む。
それはリーダーとしての責任感であり、同時に自分を置き去りにしてでもメンバーを牽引する”優しさ”でもありました。
メンバーを思い、ファンを思いながら、「太陽のようなまぶしい笑顔で、みんなにハッピーを届ける」千歌ちゃんという役を演じ続ける。
そんな杏ちゃんの瞳には、静かな涙がにじんでいました。
彼女の孤独や苦悩は、周囲の人にもきっと感じ取られていたはずです。
逢田さんは「寄り添ってあげたい」と言い、別のメンバーは「助けてあげられないのがもどかしい」と打ち明けます。
でも、杏ちゃん自身が“誰かに頼る”ことをためらっていたのかもしれません。
いつの間にか、自分を後回しにすることが癖になっていた――
そんなふうに感じさせる姿でした。
杏ちゃんの性格を単に「強い」や「弱い」で括ることはできません。
彼女は、常にグループ全体を見渡し、誰よりも静かに全員を支えてきた人。
その繊細な感受性は、リーダーとしての冷静さにもつながっていたのだと思います。
自分の中で物事を整えてから言葉にする慎重さ。
彼女の言葉から、そんな印象を受けました。
そして、彼女はリーダーでありながら、誰よりも「怖さ」を口にしてきたことが気になりました。
前に立つこと、引っ張ること、間違えないこと。
それらをすべて自分に課しながら、Aqoursという9人を率いてきた。
その重圧は、我々の想像をはるかに超えるものだったと思います。
Finaleを前にした最後のリハーサル。
杏ちゃんは涙をこらえながらインタビューに答えました。
「これが9人そろっての最後のリハなのに、まだ気持ちがひとつになっていない。受け止め方は人それぞれだけど、このままでいいわけがない。……悔しい。」
きっと彼女は、9人が再び“ひとつ”になる瞬間を、最後の最後まで信じていたのだと思います。
“想いよひとつになれ”――9人が再び円陣を組んだ瞬間
ライブ本番を翌日に控えた日。
ベルーナドームのステージセットはすでに完成し、客席の準備も整っていました。
最後の通しリハーサルが始まります。
音源はスピーカーからではなく、メンバーのイヤモニのみに流されていました。
近隣への音漏れを防ぐための配慮。
その結果、会場には彼女たちの足音と息づかいだけが響く、張りつめた静寂が広がります。
カメラが捉えるのは、音のない世界で歌い、踊り、心でリズムを刻む9人の姿。
リハを終えた控室では、大久保プロデューサーを中心に最終確認が行われます。
気になった点を最終調整しますが、空気はどこか穏やかでした。
その中で、ふりさんが、9人一人ひとりに手紙を手渡します。
内容は明かされませんでしたが、「これまでの歩みと、自分の想いを綴った」と語りました。
メンバーひとりひとりのことを想いながら手紙をしたためたと思うと、本当に優しさ溢れる素敵なエピソードです。
◆
ついに迎えたライブ当日。
オープニング衣装に袖を通した9人が、ステージ裏に集合します。
さまざまな感情を胸に、それぞれが10年の軌跡を噛み締めていました。
リーダー・杏ちゃんの胸には、ひとつの葛藤がありました。
コロナ禍以降、長く行われてこなかった“ライブ前の円陣”。
彼女は事前に大久保プロデューサーから「最後に、もう一度円陣を組まないか」と提案を受けていました。
ステージ直前、メンバーたちが舞台袖に自然と集まってきます。
新しい衣装に袖を通し、顔を合わせる9人。
杏ちゃんの号令のもと、再び円陣が組まれます。
「目を瞑って」
ステージ前の高揚と緊張が少しずつ和らぎ、9人の意識が一つの点に集中していく。
杏ちゃんの声が、静かに響きました。
「これまで、悲しいことも、苦しいこともたくさんあった。
でも、ここまでやってこられたのは、Aqoursを好きでいてくれたみんなのおかげ。
今日、このステージで、その気持ちを全部ぶつけたい。
“想いよ、ひとつになれ”――!」
その言葉に、ふりさんの目から自然と涙がこぼれます。
彼女は途中で目を開けてしまったものの、杏ちゃんの声に心を打たれていたのでしょう。
オープニングで見えたあの涙は、まさにこの瞬間の“共鳴”だったのかもしれません。
そして、最後の掛け声。
9人の手が重なり、いつものように声が上がる。
「Aqours!サンシャイン!!!」
その瞬間、見切れ席の奥まで埋め尽くした観客から、割れんばかりの歓声が響き渡りました。
長い年月を経て、それぞれの想いがようやく“ひとつ”に重なった――
Finaleライブのステージ前に起こった感動的なエピソードは、まるでひとつの”物語”を見ているようでした。
Finaleライブ ーー10年の想いが輝きに変わる瞬間
映画のクライマックスでは、Finaleライブの模様がたっぷりと描かれていました。
その時間は、単なるライブ映像ではなく、Aqoursという物語のすべてを詰め込んだ集大成でした。
砂の上にありしゃ(小宮さん)が描く「Aqours」の文字。
その筆跡に導かれるように、オープニングナンバー「DREAMY COLOR」が始まります。
会場を包む光と歓声。
まるでAqoursの10年が、ひとつの色として溶け合っていくようでした。
「想いよひとつになれ」では、逢田さんが涙を流しながら歌います。
梨子ちゃんを象徴する曲ですし、自身に起きた様々なことを思い返し、感極まったのでしょう。
あるいは、ずっと胸に秘めていた気持ちが解放された瞬間だったのかもしれません。
その肩を、共にトロッコに乗った杏ちゃんとしゅかしゅ~が優しく抱き寄せます。
「僕らの旅は終わらない」では、かつてリハ中にパニックを起こし離脱したきんちゃんが、見事なまでに完璧なパフォーマンスを披露。
さらに自身がセンターを務める「未体験HORIZON」で、力強いパフォーマンスを見せてくれました。
◆
アンコールでは、観客席いっぱいに9色の虹が浮かび上がり、美しく輝く。
その美しいスタンドを、PA席から大久保プロデューサー、米川さんが見つめます。
9人の登場を待つアンコールの声の中、9人が舞台袖から歩み出ていきます。
最後の演出は“円陣”をイメージしたもの。
大久保プロデューサーの発案でした。
何度も繰り返してきた円陣。
しかし、この瞬間のそれは特別でした。
リハーサルでその姿を見たの時点で、すでに彼の目には涙がにじんでいました。
ビジョンの中では、最後のステージに立つAqours9人の姿。
中央に立つ千歌ちゃんの足元からカメラがゆっくりと上がっていき――
その姿が、いつの間にか杏ちゃん自身に重なっていく。
そして、彼女がくるりと振り返り、メンバーコールが始まります。
「1!」
「2!」
「3!」…
加入順に続いていくカウント。
最後の「10!」は、会場全員が声を合わせます。
ライブではいつもの光景。
この時間も最後になるかもしれない。
しかし、この光景はメンバーにとって、直前まで当たり前ではなかったのです。
そして始まるデビュー曲、「君のこころは輝いてるかい」。
映像はFinaleライブのステージと、10年前の合宿での映像が交互に重なっていきます。
走り、転び、笑い合いながら、Aqoursが形になっていったあの日々。
ラストはその合宿映像で締めくくられ、杏ちゃんが「ケガない?」と声をかけていました。
初めてデビュー曲を形にできた、かけがえのない思い出。
アンコールを終え、9人がステージを降りていく。
両サイドのビジョンに映る砂時計が、ゆっくりと反転。
新しい時間が、再び流れ始めます。
大久保プロデューサーと米川さんは、感無量の面持ちで固く握手を交わしました。
彼らもまた、Aqoursという航海を見届けた“クルー”だったのです。
エンドロールでは、メンバーそれぞれの直筆メッセージが流れます。
そして最後の映像――。
砂浜に刻まれた「Aqours」の文字を見つけるシーン。
そのナレーションは、まさかの生の声でした。
舞台へと続く階段を降りたところ。
鉄骨に一枚の紙が貼られ、2年生キャストの3人が集まります。
緊張と達成感が入り混じった表情で、最後のセリフを演じました。
「アキュア?」
「えーきゅーあわーず?」
「アクア…Aqoursだよ!」
しゅかしゅ~が杏ちゃんの肩に顔を寄せ、ふたりの笑顔が重なります。
その距離感には、言葉を超えた絆がありました。
どんなにすれ違いがあっても、根底に流れる“信頼”は消えない。
それを証明するような瞬間でした。
その奥には、残りの6人が待っていました。
3人を見守るように、静かに微笑んでいる。
ナレーションが終わると、その輪に呼び寄せられるように3人が駆け寄っていく。
本当に感動的なラストシーンです。
「ケガはないですか?」――杏ちゃんの声が響く。
きっと、Aqoursが始まって以来、数えきれないぐらい繰り返してきただろう言葉。
その優しさは、彼女らしさそのもの。
しゅかしゅ~は、舞台袖に駆け付けたゆみ先生に抱きつき、涙が止まりません。
ダンスをともに作り上げてきた10年。
ゆみ先生は彼女の成長を見届けてきた“もうひとりの仲間”でした。
その様子を見つめる逢田さんの目にも涙があふれ、ゆみ先生もまた涙を流します。
杏ちゃんが笑いながら声をかけます。
「ゆみ泣いてんじゃん」
「あの二人が泣かせたんだよ!」
そんなやりとりにも、10年分の信頼と愛がにじんでいました。
環境が変わっても、立場が変わっても、Aqoursという絆の“根っこ”は何も変わらない。
彼女たちはこの10年間を通じて、ひとつの物語を創り上げた“仲間”として、確かにそこに立っていました。
映画の最後を飾るのは、静かな感動と、確かな温もり。
Finaleの寂しさと、仲間の「絆」を深く感じる、本当に感動的なラストシーンでした。
Aqoursが見せてくれた“奇跡と現実”――映画を観て考えたこと
本当に素晴らしいドキュメンタリー映画でした。
映画の公開がアナウンスされてから楽しみにしていたのは、Aqoursという”活動”に全力で向き合う彼女たちの姿。
何を思い、どう成長し、どんな壁を越えてきたのか。
そのすべてを、この作品は彼女たち自身の言葉で、そして映像で語ってくれたと思います。
ラブライブ!サンシャイン!!という作品は、アニメ・音楽・ライブが連動する巨大なプロジェクトです。
全国放送のアニメを軸に、楽曲が次々とリリースされ、1万人を超えるアリーナ公演が当たり前のように開催される。
そのスケールの中心に立つ、9人のキャストたち。
しかも、「ラブライブ!」という大看板の名を背負う初代の後継者たちでした。
μ’sという伝説的存在の後に誕生したAqours。
彼女たちがデビューした当初は、想像を絶するほどのプレッシャーと、時に理不尽な誹謗中傷がありました。
まだ何も成し遂げていないのに、「μ’sを終わらせた存在」と誤解されたこともあった。
それでも彼女たちは逃げなかった。
「ラブライブ!」という名に恥じないように――。
彼女たちは、ひとつひとつのステージに全力で挑み、Aqoursという名前を輝かせていったのです。
数え切れないほどのライブやイベントを重ね、デビューから5年。
Aqoursはついに、憧れのμ’sと同じステージに立ちました。
それも「Snow halation」の直後にパフォーマンスする“ヘッドライナー”として。
「私たちのやってきたことは、間違っていなかった」
その言葉に、これまでの苦労や努力のすべてが報われたのだと思います。
その絶頂のさなか、彼女たちを襲ったのが新型コロナウイルスのパンデミック。
予定されていた5周年ドームツアーも、野外ライブも次々と中止。
長く掲げてきた目標が、突然すべて奪われたのです。
方向を見失った彼女たちに投げかけられたのは、新たな指針――
「10周年を目指し、Finaleを迎える」という壮大なゴール。
しかし、この新しい目標は希望であると同時に、葛藤の種でもありました。
“終わり”を意識することで、気持ちの整理が追いつかない。
納得して前を向く人もいれば、まだ受け止めきれない人もいる。
長い年月を共にした仲間同士でも、考え方が少しずつずれていく。
それは、人としてごく自然なことだと思います。
コロナ禍を経て、メンバーはそれぞれの道を歩み始めました。
声優、俳優、アーティスト――。
Aqoursという絆を軸にしながらも、9人それぞれの活動が広がっていく。
だからこそ、全員が同じペースで“ひとつの目標”に向かうことは、もう容易ではなくなっていたと思います。
スケジュールの調整も、心のすり合わせも、以前のようにはいかなくなっていた。
それでも彼女たちは、Finaleに向けて一歩ずつ前へ進みました。
たとえ100%の一体感ではなくても、「もう一度9人で最高のステージを作りたい」という気持ちは共通していたと思います。
そして迎えたFinale。
コロナ禍以降、なんとなく避けてきた“円陣”が再び組まれます。
「目を瞑って」と促したリーダー・杏ちゃんの声。
「悲しいことも、苦しいこともたくさんあった。でも、Aqoursを好きな気持ちを全力でぶつけたい」
――その言葉に、9人の心が静かに重なっていった瞬間でした。
酷暑のベルーナドーム。
9人は最後まで手を振り、全身で“ありがとう”を伝えてくれました。
ステージで輝く彼女たちの姿は、正にプロフェッショナルな姿そのものでした。
◆
ドキュメンタリーを観て改めて感じたのは、彼女たちもまたひとりの社会人であるということ。
彼女たちに科せられた「使命」は、我々ファンに心から楽しんでもらうこと。
電波やネットを問わず、テレビ、ラジオ、紙媒体などのメディアで情報を発信し、時にファンからのコメントに応えながら一体感をつくる。
そして、会場に集まったファンに最高のエンターテインメントを提供する。
ラブライブ!は、そこにアニメの要素が加わる。
画面上で躍動するキャラクターに命を吹き込む。
そして、ステージ上でキャラクターの名を背負ってパフォーマンスする。
社会現象になったμ’sの活躍により、「ラブライブ!」は大きなブランドになりました。
グッズや関連商品の売り上げ額も桁違いだと思いますし、有名ブランドとのコラボも次々と決まってゆく。
ひとたびライブイベントを開催すれば、1万人規模の会場が満員となる。
その枠を飛び越え、3万人規模のベルーナドームから、5万人超の東京ドーム公演をも成功させました。
これだけのプロジェクトなのですから、関わる人員も数千人に及ぶでしょううし、巨額の予算を投じる必要がある。
皆で協力して、プロジェクトを遂行しなければならない。
Aqours9人も、その一員。
普段から我々ファンに「楽しさ」を提供してくれる存在。
アニメのキャラクターとして輝く一方で、現実の中では人間らしい葛藤や悩みを抱えている。
華やかなステージの裏で、日々の生活や仕事の責任、プレッシャーに向き合っている。
そのリアルが、この映画には丁寧に映し出されていました。
デビュー当時10代後半から20代前半だった彼女たちは、経験のない中で大きな看板を背負い、走り続けてきました。
初期の5年間は、まさに「挑戦と成功の連続」。
ひとつの夢を叶えたと思えば、次の大きな挑戦が待っている。
そんな日々を積み重ねながら、気づけば10年が経っていたのです。
パンデミックを経て、彼女たちの関係性や考え方が変わっていくのは自然なことだと思います。
それでも、円陣を組んで「想いよひとつになれ」と願った瞬間、Aqoursは再び“ひとつ”に戻れたと思います。
それぞれが違う場所で、違う形で活動を続けていく中でも、9人の絆は確かに残っている。
それは、10年という歳月が育てた“信頼”そのものだと思います。
◆
このドキュメンタリーは、単なるライブ映像でも記録映像でもありません。
Aqoursという9人の女性が、現実の中で生き、悩み、成長していく“人生の記録”でした。
Finaleライブの舞台裏に映った涙や笑顔は、決して演出ではなく、本気をぶつけ合って、未来を手に入れた証だと思います。
10年を通して、がむしゃらに駆け抜けた彼女たち。
周りの環境も変わっていきますし、様々な経験を通して自身の考え方も変わってくる。
それぞれがもどかしい気持ちを抱えていたことも、ひとつの経験だと思います。
それは、普段の生活の中に生きる私たちにも、同じことが言えるのではないでしょうか。
この経験が、きっと今後の活動にも役立つ日が必ず来る。
10年後、20年後に思い出話になっていたら、本当に素敵なことです。
彼女たちの職業は、当然ですがかなり特殊。
私たちが普段経験できない事も、彼女たちはたくさん経験してきたと思います。
その逆もあると思いますが、そうやって人は成長し、成熟してゆく。
かなり密度の濃い10年間だったと思います。
そんな経験ができた彼女たちがうらやましいほど。
Finaleライブの様子も、モヤモヤを抱えながら取り組み、後で後悔する、といったシーンは全くありませんでした。
皆、同じ想いを抱えていたと思うし、ライブ前の円陣でその想いがひとつになったと思います。
会場で体験したライブは本当に素晴らしかったですし、何よりメンバーそれぞれが懸命に感謝を伝えてくれたことがとても印象に残っています。
大きな浮き沈みがあった中で、彼女たちは大きく成長し、最後の大プロジェクトを完成させてくれました。
◆
ドキュメンタリー映画としては、これ以上の物語はないと思うほど素晴らしかった。
ずっとAqoursを追いかけてきた身としては、心から満足できる内容でした。
彼女たちが経験してきた活動は、後輩たちに引き継がれます。
今でも、華やかなステージに立つまでに皆様々な葛藤や悩みを抱えながら活動しているかもしれません。
シリーズ関係なく活動の中で悩んでいるメンバーがいたら、寄り添い、背中を押してくれる内容だったと思います。
後輩たちに頼もしい”背中”を見せてくれた作品でもあったと思います。
ただ、10年という長い時間を2時間という時間で表現し切るのは難しいこと。
欲を言えば、ソフト化される暁には、可能な限りインタビューのすべてを収録してほしい。
映画にあまり登場しなかったメンバーの言葉をもっと聞いてみたいと思いました。
実に2万字を超える記事になってしまいました。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。
本当に最高の物語を見せてくれたAqoursには、感謝しかありません。
ありがとう、Aqours!
■お知らせ
ラブライブ!関連のnoteをまとめた「ラブライブ!シリーズを語る」を公開中です。
Aqours関連は、アニメを振り返る記事は書けませんでしたが、ライブの振り返りや、Finaleを前に私とAqoursのかかわりをまとめた記事もあります。
その他、ラブライブ!シリーズの各作品を扱ったnoteも多数!
お時間がある方は、是非こちらもよろしくお願いします。