
📖1、龍使いリテェラ
星の物語
ーシリウスに生まれた少女
#創作大賞2026 #ファンタジー小説部門
宇宙には、深い暗闇がある。
だからこそ、星は輝く。
無数の星々が宝石のように瞬くその中で、
ひときわ強く光を放つ星があった。
その名は――シリウス。
その星で、ひとつの物語が
静かに始まろうとしていた。
⸻
少女の名は リテェラ。
気が弱く、どこか控えめな子だった。
けれど、その心は誰よりも繊細で、
人の心の揺らぎや感情を
そっと感じ取ることができる
不思議な力を持っていた。
彼女の両親は、とても優しい人だった。
争いを嫌い、
誰も傷つけたくないと願う人たち。
だが――
その優しさにつけ込む者がいた。
ある者に騙され、毒を飲まされ、
二人は静かに命を落としてしまう。
父は最後の力を振り絞り、
娘に言った。
「心を強く持ちなさい。
争いは何も生まない。
人を傷つけるのではなく、
人を癒し、
希望や勇気を与える人になりなさい。
お前なら、きっとできる。」
母はそっと、
紫色に淡く光る石を差し出した。
「この石を持って願いなさい。
きっと道は開ける。
私たちは天に還っても、
ずっとあなたを守っている。」
そう言って、父は眠るように旅立った。
数日後、
母もまた静かに息を引き取った。
⸻
リテェラは、ひとりになった。
何日も泣いた。
心が張り裂けそうだった。
けれど、やがて顔を上げた。
――生きていくしかない。
彼女にできる仕事は、限られていた。
屋敷の手伝いか、
見習い剣士になるか。
普通なら、
安全な道を選ぶだろう。
だが、母の言葉が
胸の奥で響いていた。
「心も体も強くなりなさい。」
リテェラは、剣の道を選んだ。
それは争いと向き合う道。
本当は、とても怖かった。
見習い剣士の門の前で、
何度も足が止まった。
一度、落ち着こうと
近くの椅子に座ろうとしたその時――
体のバランスを崩し、
そのまま倒れてしまった。
「えっ……?」
不思議に思い足元を見ると、
靴の底が剥がれていた。
それにつまずいたのだ。
そして気づいた。
自分の足が、
小刻みに震えていることに。
緊張しすぎて、
その感覚すら分からなかったのだ。
リテェラは思わず呟いた。
「私って……
なんて弱いんだろう……」
涙がこぼれ落ちた。
しばらくして、
ゆっくりと立ち上がる。
ふと前を向いた時、
小さな光が目に入った。
それは――
鏡に映る自分の胸元。
そこにある 紫の石が、
淡く光っていた。
リテェラは目を閉じ、
そっと願った。
「強くなりたい。」
その瞬間。
体がふっと軽くなった。
胸を締めつけていた恐れが、
少しだけほどけていく。
リテェラは静かに歩き出した。
見習い剣士としての、
新しい人生へ。
気づけば胸は、
少しだけワクワクしていた。
「これからは、私だけじゃない。」
胸元の石を握りしめながら、
彼女は小さく微笑む。
「三人で、この国を生きていこうね。」
星空のどこかで、
両親が優しく微笑んだ気がした。
⸻
その頃――
深い森の奥。
人がほとんど足を踏み入れない
静かな場所。
そこでは、
幼い龍が黒い鳥たちと遊んでいた。
澄んだ瞳。
鳥たちは楽しそうに空を舞う。
森は穏やかだった。
柔らかな風が木々を揺らし、
光が葉の間から差し込む昼下がり。
だが――
少し遠くで
かすかな音がしていた。
草がざわめく音。
土を掘る音。
幼い龍は、感じ取っていた。
森の下の方で、
人の気配が増えていることを。
怒り。
欲望。
焦り。
人の心のざわめきが
風に混ざって流れてくる。
それはまだ、
数ヶ月先の出来事。
けれど――
避けられない未来。
幼い龍には、
近い未来が見えていた。
けれど、
どうすればいいのかは分からない。
ただ、森の平和が続くことを祈り、
静かに身を潜めていた。
爽やかな風の中に、
ほんのわずかな
不穏の影が混ざり始めていた。