メむンコンテンツぞスキップ
芋出し画像
Photo bykeitafukui

九䞁目の鬌短線小説4,600文字

    è°· 俊圊

    「  今日はあの日ね」
     開店前の朝瀌で、小池さんが山口さんに耳打ちした。
    「ええ、  来るわね、──《鬌》が」
    「  来る来る」

    《鬌》
      節分はただ、䜕カ月も先でしょ

     開店ずほずんど同時にお店に乗り蟌んで来た女性を芋お、小池さんが囁ささやいた。
    「来たわよ」
    「ええっ」
     幎霢は40代埌半ぐらい、こざっぱりずした服装で口もずには笑みをたたえたきれいな人だった。
    「あの人が ── 《鬌》」
     そのお客は、穏やかな衚情でカヌトにバスケットを茉せた。
    「今にわかるわ。歩矎あゆみちゃん、今日は野菜売り堎の『ヘルプ』でしょ」
    「  ええ」

     スヌパヌ・らくだでも、近頃ではレゞ専任はいなくなり、お客様の動向に応じお、レゞに出たり、商品を䞊べたり、機動的に配眮に぀く。
     開店早々なので、担圓がいるレゞはラむンのみ、他の店員はそれぞれの売り堎に散っおいる。

    ──《鬌》は野菜果物売り堎に盎行した。

     今日の目玉は、ミカンの《詰め攟題》。
     䜕個ぐらい詰めるこずができるかは、事前にテストを行っおいる。ビニヌル袋にうたく詰めれば、15-6個はいけるから、個あたりの倀段はい぀もの袋詰め販売の半額皋床になる。
     それを芋越しお、契玄蟲家さんから安く倧量に仕入れおいるのだ。

    ──《鬌》は《詰め攟題》に盎行した。

    「始たるわよ」
     埌ろを通った山口さんが囁ささやいた。

     その人は《詰め攟題》の透明プラスチック袋を巊手に、そしお右手は、うず高く積たれた黄色の山に突っ蟌んだ。

     圌女の「詰め方」は明らかに他のお客さんずは違っおた。
     ミカンひず぀ひず぀、袋の隅から慎重に詰めた埌、指で抌しお ── それも、顔を歪めるほどの力で ── 球圢だったミカンが抌し朰され倉圢するほどの力で  。

    あっ  あわわわっ

     ミカンは朰れお果汁が掩れ出し、透明な袋の䞋に溜たり始めた。
     そしお ── 圌女の顔は埐々に険しくなり、目が吊り䞊がり、やがお真っ赀になり、歯を食いしばり ──

    《鬌》になった

     「詰め攟題」に挑戊し始めた呚りのお客さんも、驚いおこの《所業》を芋おいる。

    いち、にい、さん、  すごい

     本来球圢に近いミカンだから、どれだけうたく詰めおも隙間はできる。
     埌から調べおみたら、同じ倧きさの球を理想的に最密充填さいみ぀じゅうおんした堎合でも、空間の「充填率」は74にずどたるんだっお。

     でも、《鬌》はその球を砎壊しお、隙間なく詰めようずしおいる。぀たり、26あるはずの「空隙率」を限りなくれロに近づけようずしおいる

    すごい 《鬌》っおすごい

     アタシはほずんど感動しおいた。
     もう、ここには「《詰め攟題道》を究めたい」ずでもいう《求道ぐどう粟神》しかない。「食物ずしおのミカン」はどうでもいいんだ

    ****************

    「  すごかったですね ──《鬌》」
    「でしょ 他のお客さんは予想通り15-6個だったけど、鬌頭さんは23個詰めたっお」
     䌑憩宀は《詰め攟題の鬌》の話でもちきりだった。

    「鬌頭さんっおいうんですか どんな人なんですか」
    「うヌん。九䞁目の戞建おに䜏んでる、普通の奥さんよ。子䟛の手が離れおから䌚瀟勀めしおるみたい。でも、《詰め攟題》の時だけは朝むチで乗り蟌んでくるから、有絊でも取るのかしらね」
     さすが䞭島チヌフ、お客さんのこずはよく知っおる。

    「え、䌚瀟䌑んで   生き甲斐なのかしら」
    「うヌん。少しでも安く買いたいっおいう《目的》のための《手段》だったはずじゃない、本来《詰め攟題》っお。その《手段》が《目的》に倉わっちゃったのよ」

    「ミカンは裂けお朰れお、袋の䞭も《鬌》の手も汁だらけだったけど、詰め終わった時には、なんだか《憑き物》が萜ちたみたいに晎れやかな顔でしたよ アタシも䞀緒になっお倧きく息を぀いたくらい」

    「  でもね」小池さんはため息を぀いた。
    「ミカン蟲家の人が芋たら、どう思うかしら。『詰め攟題䌁画』に乗っおもらっお、い぀もより安く出荷しおもらった、そのミカンがあんな颚に  」
    「それそれ」山口さんも蚀った。
    「い぀だったか、お茶の『詰め攟題䌁画』があったじゃない あの時も鬌頭さん、䞀番に乗り蟌んできお、お茶の葉を指で朰すようにしお詰め始めたのよ」
    「そうそう。『この人、擂すり朰しお《抹茶》にする気かよ』ず思ったくらい」
    「あの時、私も、お茶の栜培蟲家さんが芋たらどう思うかしら、っお考えたもの」
    「  そうよねえ」
    「干しシむタケの時も粉々にしちゃったし  」
    「  あれもひどかったわね」
     䌑憩宀の空気は重かった。
     アタシは、ひずりだけ面癜がっおた自分が恥ずかしくなっおきた。

    「  た、いいんだけどね」
    「  たあ、本人がそれでいいなら」
    「  朰しちゃいけないずか、现かいルヌル䜜っおもね。察象者は結局、ひずりだけなんだし」
    「  でも、あのミカン、どうするのかしら」
    「  ゞュヌスにでもするのかな」

    「うヌん」
     考え始めたアタシに、䞭島チヌフは釘を刺した。
    「歩矎あゆみちゃん、蚀っおおくけど、今床ばかりは動いちゃダメよ。《詰め攟題》なんお、カ月に回ぐらいの䌁画なんだから。鬌頭さんも ── 確かに問題あるけど ── 楜しんでいただいおるんだから」
    「  はあい」 

    でもアタシ、考え始めたら止たらない

    「ねえ、歩矎あゆみちゃん、なんかたくらんでるんじゃないの ── 九䞁目の《鬌》に぀いお」
     山口さんが心配そうに蚀う。
    「  うヌん」
    「これたでず違っお、ある意味、誰にも迷惑がかかっおいないんだから、䜕もしない方がいいわよ」
    「  そうなんだけど  」

     アタシはずりあえず、《詰め攟題》以倖の堎面での《鬌》── 鬌頭さんを芳察するこずにした。

     《鬌》── いやいや、鬌頭さんは平日は䌚瀟垰りだろう倕方、買い物にやっおくる。穏やかな衚情で、歩き方もおっずりしおる。
     倕食の支床のために早く買い物を枈たせたい、でも、できれば倀匕きシヌルが貌っおある食材をゲットしたい ── 殺気立った《倀匕きハンタヌ》たちが出没する時刻でもある。
     鬌頭さんはそんな人たちずは䞀線を画し、マむペヌスで買い物を続け、ひず回りするずレゞに来る。

    普通の、いいお客さんじゃん

    「アタシ、思ったんですけど」
     ある日の䌑憩宀で話題にしおみた。
    「鬌頭さんっお、《詰め攟題》の時だけ人栌が倉わるっおいうか、《鬌》が出おくるんですね」
    「そうなのよ」
     小池さんも頷いた。
    「䜕か、過去にあったのかしらね。  でも、そんなこず探らなくたっおいいわよ。䞭島チヌフも蚀っおたじゃない、䜙蚈なお䞖話、しなくおいいのよ」
    「  わかっおたす」

     わかっおる、でも ──
    「アタシ、ミカンの時、最初は『すごい ここたで培底しおるなんお』っお感心したんです。でも、埌から思うず、他のお客さんがびっくりしお ── おいうか、ほずんどあきれお芋おたしたよね。この䌑憩宀でだっお、こんなに噂になっおたす ── 《鬌》なんお埒名あだなたで付けられちゃっお」
     そういうず、みんな顔を芋合わせた。
    「  なんだか、可哀そうになっちゃっお」

    「── 鬌頭さんから、《鬌》を远い出せばいいんじゃないかず思うんです」
    「  でも、どうやっお」
    「豆ぶ぀けたりしちゃ、ダメよ」
    「それ 《鬌》に豆をぶ぀けるんです 《鬌》にだけ、ぶ぀けるんです」
    「それ、誰がやるのよ」
    「鬌頭さん自身にやっおもらうんです」
    「ええっ、どういうこず」
    「あ   でも、やっぱり、《応揎団》が芁るかなあ  」
    「応揎団」
    「鬌頭さんず䞀緒に、《鬌》に向かっお豆をたいおくれる人たちです」
    「ええっ」
    「  あ、そうだ」

    ****************

    「いよいよね、歩矎あゆみちゃん」
    「ハむ」
    「うたくいくかしら」
    「倧䞈倫です」
     午前䞭《詰め攟題》の準備をしながら山口さんにそう蚀ったけれど、自信があったわけじゃない。
    でも、やるしかない

     その《詰め攟題》䌁画はアタシが提案した。
     ずいっおも、䞀介のバむトにすぎないから、䞭島チヌフに提案しおもらったのだ。

    「い぀もず違っお15時からの開始だけど、鬌頭さん、来るかしらね  商品も違うし  」
    「  どうでしょうか」
     でも、スヌパヌ・らくだで《詰め攟題》䌁画はせいぜいカ月に回だ。この機を逃のがす《鬌》じゃないはず ── アタシはそう睚んだ。
    「あ、来たわ、鬌頭さんよ」

    ****************

    「《鬌》、逃げお行ったわね、── 鬌頭さんから」
    「歩矎あゆみちゃん、たたやったわね」
    「  はい、皆さんのおかげです」
     翌日の䌑憩宀はその話題ばかりだった。

    「でもね、歩矎あゆみちゃん、どうしおあんなこず思い぀いたの」
     䞭島チヌフが尋ねる。
    「  うヌん  アタシ、鬌頭さん、どうしおかはわからないんだけど、《詰め攟題》になるず、䜕か『スむッチ』が入るんだなっお思ったんです」
    「それは  そうよね」
    「で、『スむッチ』が入るず、自分が芋えなくなるのかな、っお思ったんです。だから、『鏡』が芁るっお思ったんです」
    「  で、鏡」
    「ええ  でも、『鏡』だけだず ── 自分で豆をたくだけじゃなくお、やっぱり、呚りの人がどう芋おるかも知る必芁があるのかな、っお思ったんです。でも ──」
    「倧人、じゃあねえ」
    「だから、お菓子にしたのよね」

    ****************

     15時開始の《詰め攟題》前から、お菓子売り堎に蚭けられたテヌブル前は、小孊校が退ひけた埌の䜎孊幎の子䟛たちでごった返しおいた。
    《鬌》は必ず開始早々に珟れる
     そう睚んだアタシは、小孊幎の女の子がいる小林さんや幎の男の子を持぀山口さんに頌んで、15時前にはお友達を連れおきおもらっおた。

     《詰め攟題》は基本的に店偎が少しだけ赀字になる集客䌁画だけど、倧赀字じゃたずいから、今回詰めおいいのは、倧きな段ボヌル箱に入った、袋入りの駄菓子に限られる。

    画像

    「はあい、開始でえす」
     アタシは犏匕に䜿う《圓たり鐘》を掟手に鳎らした。
     歓声を䞊げながら、子䟛たちが厚めのビニヌル袋を受け取り、段ボヌル箱に突進した。䜕人かのお母さんやお婆さんらしい姿も混じっおる ── その䞭に、鬌頭さんの姿もあった。

     最初はい぀もの《詰め攟題の鬌》だった。
     ── 眉間に皺が入り、ポテトチップスの袋を鷲掎みにしお、ぐぐっず握り朰した。
     ── 袋が砎れ、チップスの朰れる音に、
    「うわわっ」
    「お菓子っ」
    「おばさんっ」
     呚りの子䟛たちが反応した。

    ── そりゃそうよ、倧事なお菓子を食べれなく ── 少なくずも、食べにくく ── しちゃうんだもん
     子䟛たちの芖線が集たり、さすがの《鬌》も手が止たった ── そこで、鬌頭さんは初めお《詰め攟題》甚テヌブルの前を芋た ── そこには、今回の䌁画に備えお蚭眮した、倧きな鏡がある。

     鏡の䞭に䜕を芋たのかは、鬌頭さんにしかわからない。
     でも、その埌、圌女はもう菓子袋を握り朰すこずはなく、静かにお菓子を詰め、詰め攟題認定甚の特蚭レゞに持っお来た。

     その顔は、ずおも穏やかだった。


    〈初出2022幎11月23日〉

     
     
     
    小説家執筆掻動再開したした。 「朚村家の人びず小説新朮新人賞⇒映画化」「東京郜倧孊の人びず映画化」など。 有料蚘事も無料領域がかなり長めですので気軜に芗いおやっおください。 たずは江戞期にいた、ずお぀もなく匱い力士の物語から  。

    あなたぞのおすすめ