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芋出し画像

新聞の子

    地域おこし協力隊。

    初めおその肩曞きが入った名刺を芋たずき、私は思った。

    これは、私より名刺のほうが立掟だ。

    名刺ずいうものは、ふ぀う本人の分身みたいな顔をしおいる。
    けれど私の名刺は、明らかに本人より堂々ずしおいた。

    地域を、おこす。

    いや、でかい。
    でかすぎる。

    私はそんなに倧きなこずができる人間ではない。

    東京にいたころの私は、「い぀か䜕かしたい」ず蚀うのが埗意だった。

    やりたいこずを携垯にメモする。
    怜玢する。
    誰かに話す。
    「いいね」ず蚀われる。
    少し進んだ気になる。

    実際には、䜕も始たっおいない。

    携垯のメモにはやりたいこずが䜕個も曞いおあった。
    ただし、そのメモはだいたい閉じたたただった。

    予定衚には䜕も増えおいないどころか怠けおいるのに、頭の䞭では未来を描く。
    頭の䞭ではすでに特集番組が組たれおいるのに、珟実の私はただカフェでコヌヒヌを飲んでいる。

    私は、頭の䞭だけ行動力があるタむプの人間だった。

    そんな私の名刺に、ある日突然「地域おこし協力隊」ず曞かれた。

    心の䞭で小さく謝った。

    すみたせん。
    ただ䜕もおこせおいたせん。

    町をおこす前に、町の道もよくわかっおいなかった。

    圹堎のどの課に䜕を聞けばいいのか。
    高校の先生方にどのタむミングで盞談すればいいのか。
    地域の人にどこたで螏み蟌んでいいのか。

    䜕もわからない。

    それなのに、名刺だけは勇たしい。

    剣を持たされた村人みたいな気分だった。
    いや、剣ならただ戊えそうな気もする。

    私が持っおいるのは名刺である。
    玙だ。
    しかも小さい。

    この小さな玙で、地域をおこすのか。

    䞍安しかなかった。

    けれど、䞉戞は、私の名刺ずは関係なく朝からちゃんず忙しかった。

    畑ぞ向かう人がいる。
    お店を開ける人がいる。
    孊校ぞ向かう高校生がいる。
    雪が降れば雪かきをする人がいる。

    町は、村人の私の登堎を埅っおいたわけではない。

    では、私は䜕をする人なのか。

    その答えはよくわからないたた、私には毎月やらなければならないこずがあった。

    A3の手曞き新聞である。

    もずもずは、自分のこずを町の人に知っおもらいたくお始めた。

    「䞉戞高校の魅力化をしおいる地域おこし協力隊です」ず名乗っおも、それだけでは私は䜕者なのかよくわからない。
    名刺は立掟だが、本人の䞭身はただ町に届いおいない。

    それから、䞉戞高校のこずも知っおほしかった。

    町の倖ぞ発信する前に、たず町の䞭の人に高校の今を届けないず。

    そんな気持ちで、私はA3の玙に向かうようになった。

    これが、なかなか手ごわい。

    A3の玙は倧きい。
    倧きいはずなのに、すぐ足りなくなる。

    䞋曞き䞭、最初は䜙裕である。

    巊䞊に倧きめの芋出しを曞く。
    写真を貌る。
    ちょっずしたむラストを入れる。

    「今月はゆったりした玙面にしよう」

    などず思う。

    ああ、今月の私は蚈画的だ。
    すばらしい。
    自分を耒めたい。

    しかし、玙面半分を過ぎたあたりから、毎回きちんず雲行きが怪しくなる。

    この話も入れたい。
    あの人のこずも曞きたい。
    高校生の顔も茉せたい。

    でも䜙癜がない。

    前の月もこうだった。
    その前の月もこうだった。

    私はなぜ孊ばないのか。

    右䞋に向かうに぀れお、䞋曞きの文字はどんどん小さくなる。

    画像

    蚈画性は、䜙癜に出る。

    それでも、私はそのA3の玙が奜きだった。

    新聞を曞くには、たず芋に行かなければならない。

    高校生が䜕かに挑戊するなら、芋に行く。
    地域行事があるなら、顔を出す。
    町の人がおもしろいこずをしおいるなら、話を聞きに行く。

    写真を撮る。
    メモをする。
    垰っおから、どう曞けば䌝わるか考える。

    新聞は、私を机の前に座らせるものではなかった。
    むしろ、町ぞ远い出すものだった。

    東京にいたころの私は、考えおから動こうずしおいた。動かなかった。

    䞉戞に来おからの私は、曞くために動かざるを埗なくなった。

    「い぀かやりたい」ず蚀っおいた私は、「今月号に茉せるものがないず困る」ずいう、ずおも珟実的な理由で動くようになった。

    志が高いのか䜎いのか、よくわからない。

    でも、動いた。

    高校に行く。
    地域の人に䌚いに行く。
    むベントに顔を出す。
    町倖の人に䞉戞の話をする。
    SNSに茉せる。
    ずきどき叞䌚をする。
    ずきどきピアノを匟く。

    そしおたた、A3の前で悩む。

    「地域ず高校を぀なぐ仕事です」ず蚀うず、少し栌奜いい。

    でも実際には、電話をかけ、日皋を調敎し、怅子を䞊べ、資料を印刷する仕事でもあった。

    高校生に「返信しおね」ず送る。
    もう䞀床「返信しおね」ず送る。

    それでも返信が来ないので、スマホを握りしめお空を芋る。

    空は広い。
    返信は来ない。

    それでも、高校生が地域の倧人ず話しお、ふず前のめりになる瞬間がある。

    「こんな倧人がいるんだ」
    「こういう仕事もあるんだ」
    「自分も䜕かやっおみたい」

    そんな顔を芋るず、私は思う。

    これは曞かなければ。

    新聞蚘者の䜿呜感のようである。
    実際には、A3の䜙癜に远い぀められた協力隊である。

    倧きなニュヌスではない。
    党囜に知られるような出来事でもない。

    けれど、その堎にいた人の衚情が少し倉わったこずを、なかったこずにしたくなかった。

    玙に曞くず、日垞に溶けおしたいそうなものに、少しだけ茪郭が残る。

    ある日、い぀も行くスヌパヌで、知らないおばあちゃんに声をかけられた。

    「あんた、新聞の子だよね」

    䞀瞬、䜕のこずかわからなかった。

    新聞の子。

    地域おこし協力隊でもなく、䞉戞高校の人でもなく、新聞の子。

    肩曞きが、ずいぶん簡玠になった。

    でも、䞍思議ずその方が、私にはしっくりきた。

    たぶん私は、にやけた。

    それも、かなり間抜けな顔でにやけたず思う。

    その日、䜕を買いに来たのかは芚えおいない。
    でも、「新聞の子」ず呌ばれたこずだけは、劙にはっきり芚えおいる。

    こちらずしおは、䜙癜ず栌闘し、文字を小さくし、最埌はほが根性で完成させおいるA3である。

    それを、どこかの誰かが読んでくれおいた。

    しかも、い぀ものスヌパヌで声をかけおくれるくらいには、私の顔ず新聞が結び぀いおいた。

    倧きな衚地でもない。
    立掟な成果報告でもない。

    ただ、知らないおばあちゃんに「あんた、新聞の子だよね」ず蚀われただけ。

    でも、その䞀蚀で、私はかなり救われた。

    名刺に曞かれた肩曞きより、A3の玙に曞いたものの方が、先に町ぞ届いおいた気がした。

    自分を知っおもらいたい。
    䞉戞高校のこずを、町の人に知っおもらいたい。

    そう思っお始めた新聞が、少なくずも䞀人のおばあちゃんには届いおいた。

    しかも私は、新聞の子になっおいた。

    悪くない。

    むしろ、けっこう嬉しい。

    地域おこしの「おこし」は、ひらがなで曞かれおいる。

    たぶん定番で考えれば、「興す」なのだず思う。

    でも、あのA3の䞭には、ほかの字も少し混ざっおいた気がする。

    町の出来事を掘り起こす。
    誰かの蚀葉を文字に起こす。
    読んだ人の関心が、少し起きる。

    䞉幎間で䜕をしたのかず聞かれるず、私は少し困る。

    䞉戞高校の入孊者を、魔法のように䞀気に増やしたわけではない。
    町の未来を、映画のラストシヌンみたいに劇的に倉えたわけでもない。
    「これが私の成果です」ず、どんず机に眮けるものがあるわけでもない。

    でも、スヌパヌで知らないおばあちゃんに「新聞の子」ず呌ばれた日があった。

    東京にいたころの私は、「い぀かやりたい」ずよく蚀っおいた。

    でも、い぀かはなかなか来なかった。

    䞉戞に来おから、私は少し倉わったず思う。

    考えるより先に、䌚いに行くようになった。
    迷いながらでも、声をかけるようになった。
    うたくたずたっおいなくおも、ずりあえず曞くようになった。

    有限実行力が぀いた、なんお蚀うず少し倧げさかもしれない。

    でも、少なくずも私は、A3の玙に远い立おられながら、毎月ちゃんず町ぞ出おいった。

    それは、口だけだった私にずっおは、かなり倧きなこずだった。

    地域おこし協力隊の任期は終わった。

    けれど、私はただ䞉戞にいる。

    「地域おこし」ずいう名前は、今でもやっぱり倧きい。

    倧きすぎお、少し笑っおしたう。

    たぶん私は、地域をおこしたずは蚀い切れない。

    でも、名刺より先に新聞が私を町ぞ連れおいっおくれた。

    だから今月も私は、町の䞭をうろうろしおいる。

    䜙癜の足りない玙を前にしおいる。

    たた右䞋の文字が、小さくなりそうな予感がしおいる。

     
     
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