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春眠、暁がこちらに来い 〜いそいそしてると、夏になる〜  🖊しゅかのエッセイ🖊

    春眠暁を覚えず、という。

    春の眠りは心地よく、夜が明けたことにも気づかない、という意味らしい。

    昔の人は、ずいぶん上品に眠気を表現したものだと思う。

    わたしの場合、暁を覚えないどころではない。

    春でも眠い。
    夏でも眠い。
    秋も眠い。
    冬は本番である。

    もはや眠気は、季節ものではない。
    通年営業である。

    春だな、と思っていそいそしているうちに、気づけば夏が近づいている。

    いや、気づけば、というより、
    たぶん少し寝ていた。


    わたしは、すぐに機能停止する

    わたしは、何かをしていないと機能停止する。

    移動中。
    待機中。
    動画視聴中。
    ちょっとした空白時間。

    少しでも世界から目を離すと、意識が静かにログアウトする。

    これは怠惰ではない。

    仕様である。

    省電力モードに入るのが、少し早いだけだ。

    スマートフォンなら褒められるのに、人間だと心配される。

    不思議である。

    わたしの身体は、
    「いま寝てはいけない理由」
    によってのみ稼働している。

    逆に言えば、寝てはいけない理由が一瞬でも薄れると、すぐに眠りへ帰ろうとする。

    身体が眠りに忠実すぎる。

    もはや、睡眠を取っているのではない。

    眠りに仕えている。


    夜勤の朝方は危険である

    リアルな病院勤務では、夜勤の朝方が危険だった。

    人間は普通、立ったまま眠くなると、

    がくっ

    となって起きるらしい。

    わたしは違う。

    そのまま崩れる。

    コントのように崩れてから、ようやく起きる。

    自分でも驚く。
    周りも驚く。
    床もたぶん驚いている。

    「あ、寝てた」

    ではない。

    「え、落ちた?」

    に近い。

    もはや睡眠というより、
    強制終了である。

    ただ、不思議なことに、仕事中のナースコールや必要な対応には反応していた。

    そこだけは動く。

    人体は謎である。

    わたしの中には、
    「仕事モード」と「睡眠モード」しかないのかもしれない。

    その中間がない。


    iPhoneは常におやすみモード

    そんなわたしのiPhoneは、常におやすみモードである。

    ちなみに、わたしは「おやすみ」のことを、
    こやすみ
    と言う。

    おやすみより、少し丸い。

    眠りに入るには、角が取れていたほうがいい。

    なお、
    こはよう
    こつかれ
    という発展形も存在する。

    言語体系としては弱い。

    しかし、感染力はある。

    SNSもLINEも、通知はすべて切っている。

    理由はひとつ。

    アラームだけに反応する身体を作るためである。

    中途半端な通知音は危険だ。

    脳が、

    これは無視していい音

    と学習してしまう。

    通知が鳴っても起きなくなる。

    それは困る。

    だから、余計な音はすべて消した。

    残されたのは、
    起床という使命
    だけである。

    現代人は通知に支配されている。

    しかし、わたしは違う。

    起床一点に特化した。

    その結果、iPhoneは静かになった。

    そしてわたしは、さらに眠るようになった。


    PCは警報装置である

    一方で、PCは違う。

    PCの通知は、基本的にONである。

    Slack。
    メール。
    カレンダー。
    謎の更新通知。

    何かしらが、画面の端でぴこぴこしている。

    理由は単純。

    寝ないようにするためである。

    iPhoneは沈黙。
    PCは警報。

    わたしは環境によって、稼働モードを切り替えている。

    静かだと眠る。

    だから、通知で殴る。

    これは現代型ライフハックである。

    たぶん、どこかの意識高い人が言えば、横文字の名前がつく。

    アラート・ドリブン・ウェイクフルネス。

    意味は知らない。

    今つけてみた。


    しかし、人類は通知に勝てない

    しかし先日、その理論はあっさり崩壊した。

    PCに伏せたまま寝た。

    リモート勤務中である。

    リモート勤務というのは、自由で柔軟な働き方である。

    通勤しなくていい。
    自宅で働ける。
    周囲の目も少ない。

    そして、
    誰も仕事中だと起こしてくれない。

    これは盲点だった。

    職場であれば、誰かが気づく。

    「しゅかさん?」
    「大丈夫?」
    「寝てます?」

    と、声をかけてくれる可能性がある。

    場合によっては、肩を叩かれる。
    場合によっては、笑われる。
    場合によっては、あとでちょっとした伝説になる。

    しかし、仕事部屋には誰もいない。

    わたしはPCの前で、そのまま眠っていた。

    Slackでは、

    おおーーい

    と呼ばれていたらしい。

    とても人間味のある呼びかけである。

    だが、本人は反応しない。

    なぜなら、
    PCごと寝ていたからである。

    通知で寝ないようにしていたはずなのに、通知の発生源に伏せて寝ていた。

    完全に敗北である。

    PCは起こす道具ではなかった。

    枕だった。

    いや、硬い。

    全然、枕には向いていない。

    それでも寝た。

    つまり、眠気の前では、
    寝具の質など誤差
    である。


    眠れる場所を探す能力

    わたしは昔から、どこでも眠れる。

    ソファ。
    車。
    待合室。
    机。
    床。

    少しでも安全そうな場所があれば、身体が勝手に候補地として認識する。

    ここは寝られる。
    ここも寝られる。
    ここは少し硬いが、いける。

    もはや、物件探しである。

    ただし、探しているのは住まいではない。

    仮眠地である。

    クッションの有無。
    背もたれの角度。
    人の気配。
    照明の明るさ。
    風の流れ。

    すべてを瞬時に評価する。

    この能力を別の方向に使えたら、もう少し人生が変わっていたかもしれない。

    でも、わたしの才能は眠りに捧げられている。

    仕方ない。

    持って生まれたものは、大切にしたほうがいい。

    たぶん。


    布団側の人間

    今日も、わたしのiPhoneはおやすみモードである。

    SNSもLINEも静かだ。

    世界はわたしに話しかけてこない。

    その代わり、PCは通知だらけである。

    Slack。
    メール。
    PC版LINE。
    カレンダー。
    謎の更新通知。
    SNS通知。

    画面の端で、世界が小刻みに手を振っている。

    「見て」
    「返事して」
    「更新して」

    ありがたい。

    迷惑でもある。

    けれど、その騒がしさによって、わたしはぎりぎり現世に残っている。

    予定があるから起きる。
    責任があるから起きる。
    Slackで「おおーーい」と呼ばれる可能性があるから起きる。

    わたしの生命活動は、かなり勤務によって維持されている。

    春眠暁を覚えず。

    いや。

    暁がこちらに来い。

    わたしはもう、布団側の人間である。

    多分、仕事をやめたら、

    わたしは永眠する。

    ……と、ここまで書いたところで、PCにLINEの通知が来た⏰

    iPhoneの通知は切っているのに。

    PCで受け取ってしまった。

    これは、返信案件である。

    では!



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