
『透明ペンギンは、夜にしか来ない』
その街へ辿り着く人には、
共通点がある。
全員、
少しだけ世界にやられている。
壊れているわけじゃない。
でも、
通知の音が少し怖かったり。
コンビニの光が、
妙に眩しかったり。
電話が鳴るだけで、
心臓が変な動きをしたりする。
だから、
みんな夜に来る。
街は、
終電のあとくらいから、
少しだけ現実感が薄くなる。
ネオンが滲む。
自販機の光が、
妙に青い。
ライブハウスみたいな、
ファミレスみたいな店が、
街の奥に現れる。
入口には、
「店じまい」
の札が、
半分だけ掛かっている。
営業してるのか、
してないのか、
よく分からない。
でも、
開いてる時だけ、
辿り着ける。
その日、
私は透明なペンギンを追いかけていた。
SNSで、
こちらをフォローしてきたアカウント。
でも、
プロフィールを開くと、
存在が少し曖昧だった。
鍵なのに、
鍵じゃない。
いるのに、
いない。
なんとなく気になって、
そのまま街を歩いていたら、
この場所へ来てしまった。
「いらっしゃい」
カウンターの奥で、
白いTシャツの店員が言った。
胸元には、
小さな魚のマーク。
眠そうな目。
コールドブリューみたいな空気。
でも、
奥に少しだけ、
隠しきれない狂気が見える。
「ここ、
何の店なんですか」
私が聞くと、
店員は少し考えてから言った。
「帰る場所、
かもしれません」
変な店だと思った。
でも、
少し安心した。
店の奥から、
低い音が漏れている。
地下にステージがあるらしい。
今日は、
沙原左カナが出ている日だった。
「あんまり近付かない方がいいですよ」
店員は、
牛乳を置きながら言った。
「音、
強いので」
地下から、
くらーーーい青い音が響く。
燃えるための音。
住むためじゃなく、
壊れる寸前まで、
感情を剥き出しにするための音。
でも、
この街にはルールがある。
どれだけ潜っても、
最後は帰ること。
「いのちだいじに」
カウンターの端に、
小さくそう書かれていた。
変な街だと思った。
でも、
少しだけ、
住める気がした。
その時、
私のスマホが震えた。
知らない番号。
一瞬、
詐欺かと思った。
でも出たら、
ただの業務連絡だった。
相手も、
少し笑っていた。
世界は、
今日も勝手に始まり続けている。
だからこの街の人たちは、
全部は拾わない。
少しだけ潜って、
少しだけ戻る。
それが、
ここで生きる方法だった。🌸