
受け身 最終話「タップアウト」
サキの部屋。いつものクッション。テーブルにはストロングゼロの空き缶が2本。テレビは消えている。
「ごめんなさい、サキちゃん」
泣いていた。自分でも驚くくらい、泣いていた。
女の子みたいに泣いていた。
女として泣いていた。
こんなに泣けるかというぐらい涙が出た。
何度も、しゃくり上げた。
言葉が出ない。
「ケンちゃん…」
サキもどうしていいかわからないようだ。
涙がにじんでいた。
「私は抱かれていました。男の人に」
サキは私の顔を見て、一瞬だけ真顔になった。
進まない言葉を黙って聞いてくれた。
女装サロンに一人で行ったこと、ハッテン場で男に抱かれたこと、何人とも関係を持っていること、女として抱かれたい守られたいと思っていること。
サキは聞き返さなかった。
私を責めなかった。
ただ、黙って聞いてくれた。
サキは冷蔵庫からストロングゼロを取り出して、いつものように飲んだ。
「……あたしが始めた物語だもんね」
サキは笑った。本当に笑った。目も笑っていた。148センチの小さな体で、私よりずっと大きく見えた。
私を抱いた男達よりも大きく見えた。
「気持ちはわかるよ。女の子になったら、守られたくなるよね」
わかるのか。この人にはわかるのか。
「あたしじゃ、守れなかったかぁ」
笑いながら言った。声は軽かった。いつものサキの声だった。
私は立ち上がった。何も言えなかった。「ありがとう」も「さようなら」も、全部嘘になる気がした。
「ごめん、行くね」
玄関で靴を履いた。
ヒールの付いたパンプスを履いた。
サキが後ろに立っている気配があった。
「ケンちゃん」
振り向いた。
「受け身、ちゃんと取りなよ。怪我するから」
笑っていた。最後まで笑っていた。
ドアを閉めた。
「…」
ドアの向こう、後ろで何か聞こえた気がした。
小さな音だった。
148センチの体から絞り出されるような、小さな音。
振り返らなかった。
振り返れなかった。
私は受け身が取れない。サキの涙の衝撃を逃がすことも、自分の中の何かを受け止めることも。
もう、受け身が取れない。
でも、転がり続けることだけは、覚えてしまった。

スマホが震えた。
サキからのメールではなかった。
豊胸手術の前日確認のメールだった。
私は女になりたいだけだった。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
結構ねっとりした話だったので、明日からは、もう少し爽やかな明るい話を…でもエッセイや日記ももう少し書いていけたらとも思ってます。