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受け身 最終話「タップアウト」

    #創作大賞2026 #恋愛小説部門


    サキの部屋。いつものクッション。テーブルにはストロングゼロの空き缶が2本。テレビは消えている。

    「ごめんなさい、サキちゃん」

    泣いていた。自分でも驚くくらい、泣いていた。
    女の子みたいに泣いていた。
    女として泣いていた。
    こんなに泣けるかというぐらい涙が出た。
    何度も、しゃくり上げた。

    言葉が出ない。

    「ケンちゃん…」

    サキもどうしていいかわからないようだ。
    涙がにじんでいた。

    「私は抱かれていました。男の人に」

    サキは私の顔を見て、一瞬だけ真顔になった。

    進まない言葉を黙って聞いてくれた。

    女装サロンに一人で行ったこと、ハッテン場で男に抱かれたこと、何人とも関係を持っていること、女として抱かれたい守られたいと思っていること。

    サキは聞き返さなかった。
    私を責めなかった。
    ただ、黙って聞いてくれた。

    サキは冷蔵庫からストロングゼロを取り出して、いつものように飲んだ。
    「……あたしが始めた物語だもんね」

    サキは笑った。本当に笑った。目も笑っていた。148センチの小さな体で、私よりずっと大きく見えた。
    私を抱いた男達よりも大きく見えた。

    「気持ちはわかるよ。女の子になったら、守られたくなるよね」

    わかるのか。この人にはわかるのか。

    「あたしじゃ、守れなかったかぁ」

    笑いながら言った。声は軽かった。いつものサキの声だった。

    私は立ち上がった。何も言えなかった。「ありがとう」も「さようなら」も、全部嘘になる気がした。

    「ごめん、行くね」

    玄関で靴を履いた。

    ヒールの付いたパンプスを履いた。

    サキが後ろに立っている気配があった。

    「ケンちゃん」

    振り向いた。

    「受け身、ちゃんと取りなよ。怪我するから」

    笑っていた。最後まで笑っていた。


    ドアを閉めた。

    「…」

    ドアの向こう、後ろで何か聞こえた気がした。

    小さな音だった。

    148センチの体から絞り出されるような、小さな音。

    振り返らなかった。

    振り返れなかった。

    私は受け身が取れない。サキの涙の衝撃を逃がすことも、自分の中の何かを受け止めることも。
    もう、受け身が取れない。

    でも、転がり続けることだけは、覚えてしまった。



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    スマホが震えた。

    サキからのメールではなかった。

    豊胸手術の前日確認のメールだった。

    私は女になりたいだけだった。




    最後まで読んでいただきありがとうございました。

    結構ねっとりした話だったので、明日からは、もう少し爽やかな明るい話を…でもエッセイや日記ももう少し書いていけたらとも思ってます。

     
     
    裏原の雑居ビルの4階にある女装サロンで、 お客様を変身させています。 看板は出していません。 たまに呼ばれて、別の街でも筆を持ったり刷毛を持ったり。 自分はストッキング一枚で完結しています。 妻はいつも正しい。

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