
暖炉の町の物語
炉のそばの娘 第2部
指先が、じん、と熱を帯びた。
思わず手を引っ込める。
暖炉の縁に触れていたのは、まだ小さく、頼りない――六歳の子どもの手だった。
「ルサーナ。これからお客さんが来る。そこにある薪を、暖炉に焚べてくれないか」
「わかった。今日は誰が来るの?」
父は私に手伝いを頼みながら、仕事の準備を手早く進めていく。
「今日は衛兵と、商会の使いだ。気が重いよ……生活のためとはいえ、どうにもな」
「本当に嫌そうだね。でも、衛兵さんのお仕事はいつもしてるのに、どうして?」
そのとき、家事をひと通り終えた母が、会話に加わった。
「今日はね、いつもの衛兵さんじゃないの。偉い人が来るのよ。それに、大きなお店の使いの人も一緒。だからギスカルは緊張してるの」
「ウラカ。お茶の準備を頼む。つまめるものも少しな。二の鐘に来る予定だ。あまり時間がないが、よろしく頼む」
父はそう言って準備に戻り、母は紅茶と、蜂蜜をかけた黒パン、少しの木の実を用意し始めた。
やがて、お偉いさんとの話し合いの時間がやってきた。
私は邪魔にならないよう部屋を出ようとしたが、父に呼び止められる。
「ルサーナはここにいなさい。身体が弱いんだから、暖炉のそばで温まっていなさい。ときどき薪を足してくれれば助かる」
――こうして私は、この日、暖炉番になった。
ほどなく、ドアを叩く音が部屋に響いた。
「ドートだ。部下から聞いていると思うが……こんな寒い日にすまないな。世話になる」
「ドート様、ようこそお越しくださいました。外は冷えます。どうぞ中へ」
両親が出迎え、挨拶を済ませると、母が席へと案内する。
お偉いさんは、いつも来る衛兵たちとは明らかに違った。
身なりが整っていて、物腰も硬い。
そして時折、私のほうへ視線を向けてくる。
「……つかぬことを聞くが、あの子は?」
客が席に着いたのを確認し、父――ギスカルが答えた。
「私の娘でございます。身体が弱く、冷えやすいもので。暖炉のそばにいさせております。
大人しい子ですので、ご同席をお許しください」
「うむ。かまわん。身体が弱い子を持つ親の気持ちはわかる。私にも、同じくらいの子がいる」
私は軽く頭を下げ、木箱に腰をかけた。
暖炉の火を見つめながら、静かに薪を焚べていく。
「――さて。本日は、どのようなご用件でしょうか」
「早速だが、話を始めよう。
今回来たのは、ギスカルに頼みがあってだ。最近、部下たちが世話になっていると聞いている」
「ええ。カインさんたちには、よく来ていただいています。こちらこそ助かっております」
母が茶を差し出しながら、深く頭を下げた。
「町を守ってくださるだけでなく、店も贔屓にしていただき、感謝しております」
「それは良かった。
実はな――各門で衛兵が使っている道具を壊れる前に一通り見てほしい。」
父と母は、言葉を失った。
驚きに、しばらく口を開いたまま動けずにいる。
こうして前触れもなく、
我が家に――とんでもない依頼が舞い込んできたのだった。