芋出し画像

四十二歳の童貞

 䞀

 二〇䞀六幎──
 金山正倫は、新宿の出䌚いカフェに行っお、入䌚しおきた。
 入䌚金円ず入堎料円で、支払いは合蚈円だった。䞀䞇円枡しお、円のお釣りをもらった。
 その店は十時から二十四時で営業しおいた。
 圌は早く着きすぎおしたったので、少し歌舞䌎町をぶら぀いお、十時をたわっおから店に行った。
 受付の店員は五十歳くらいの男性だった。ずおもにこやかな、感じの良い人だった。
 圌の颚貌から、出䌚いカフェに来るタむプの人間ではないず思ったのか、
「ここは女性ず知り合っおデヌトしたりするような店なんですけど、倧䞈倫ですか」
 ず店員は尋ねた。
 いかにも真面目そうな颚貌の圌は、間違えお店に入っおきたず思われたようだ。
 入䌚時に必芁な手続きは非垞に簡単だった。
 たずは円を払う。そしお入䌚の玙に、名前ず電話番号だけを曞く。
「電話番号だけを確認させおいただくこずになっおたす。倧䞈倫ですか」
 ず聞かれたので、
「倧䞈倫です」
 ず答えた。
 電話番号の確認方法は、携垯電話のメニュヌ画面で「」キヌを抌しお、画面に電話番号を衚瀺させ、玙に蚘入された電話番号ずそれが同じであるこずを店員が確認するだけずいうものだった。
 名前に関しおは、
「停名でもけっこうですので」
 ず蚀われた。
 だから圌は名前の欄に、
「山田倪郎」
 ず曞いた。
「山田倪郎でいいですか」
 ず店員に尋ねるず、
「ええ、そんな感じのほうがいいですよ。ははは  」
 ず店員は感じ良く笑った。
 カヌドは二枚もらった。䞀枚は䌚員カヌドず、もう䞀枚は有効限定が今日䞀日だけの入宀カヌドである。䞀日の入宀料が円で、その入宀カヌドを受付に芋せれば、出䌚いカフェの党店舗に入るこずができる。
 たずは店員から䞀通りのシステムの説明をしおもらった。
 たず、男性ず女性の郚屋がある。
 女性は䞊んで座っおいお、女性のほうからは男性の郚屋は芋えない。
 女性が座っおいる垭には番号が぀いおいる。
 そしお男性の郚屋の壁には、女性のプロフィヌルカヌドが小さな透明ポケットに入れられおいお、そこには垭の番号も぀いおいる。
 男性の郚屋には、
「名前」「幎霢」「職業」「女性ぞの芁望」「女性ぞのメッセヌゞ」
 を曞くような玙が眮かれおいる。
 女性ぞの芁望は、
「お茶垌望」「カラオケ垌望」「友だち募集」「真剣亀際」「メル友募集」「盞手にお任せ」
 などの項目にチェックする圢になっおいた。
 女性ず話がしたい堎合は、その玙に蚘入しお、それを女性のプロフィヌルカヌドず䞀緒に店員に枡せばいい。そうすれば、その女性ず別宀で「十分間」話をするこずができる。
 店内には、ただ女性が䞀人もいなかった。
 それで、すぐ近くにある支店のほうに行くようにず勧められた。
 圌はそちらに行った。
 そちらの受付は若い男性店員だった。
 ただ時間は午前十時をちょっず過ぎたくらいだったので、そちらも女性は䞀人だけしかいなかった。
 男性は二人いた。若い男性ず、五十過ぎくらいの幎配の男性だった。
 その二人は、䞀人だけいる女性には興味を瀺さなかった。
 でも、けっこう可愛い女性だず圌は思った。
 ちょっず掟手なタむプの女性である。
 午前十時の時間垯は女性の数が少ないようだ。
 店員に聞いおみるず、十六時以降くらいになるず、郚屋に女性が入りきれないくらいに女性の数が増えるらしい。
 女性の垭は、十五垭くらいだった。女性は最倧で十五人くらいしか入れないようだ。
 ガラス窓にそっお、暪に女性の垭がずらりず䞊んでいた。そのすべおの机の䞊には、ノヌトパ゜コンが眮かれおいた。
 䞀人だけいた女性は䞀番端の垭でずっずパ゜コンの画面ず睚めっこしおいた。女性のプロフィヌルカヌドを芋るず、その幎霢は二十四歳らしかった。けっこう可愛い子だったので、その子ずデヌトをお願いしおみようず思っお、店員にトヌクのセッティングをしおもらった。
 トヌクする郚屋は二人でぎったり䞊んで座れるだけの、カヌテンで仕切られた小さな個宀だった。
 しばらく埅っおいるず女性がやっおきた。
 女性は郚屋に入っおすぐ、圌が曞いた玙ずその女性のプロフィヌルカヌドを、圌に差し出しおきた。
 圌はそれを受け取った。
 女性は手にタむマヌを持っおいた。
 そのタむマヌは十分間のカりントダりンだ。その数字がになったらトヌクは終了ずいう圢のようだ。
 女性は䞀目みるなり、圌が気に入らなかったようだった。䌚話にたったく積極的じゃないし、ほずんど圌のほうを芋なかった。
 個宀の壁には泚意事項のかかれた匵り玙があった。
 そこには、
「売春、買春の亀枉は犁止」
 ず曞かれおいた。
 女性は郚屋にやっおきお、しばし沈黙が続いた。
 それから圌は女性に声をかけた。
「あ、どうもはじめたしお」
「どうも」
 そしおたたしばらく沈黙。
「で、どうですか カラオケでも、いかがですか」
 圌は玙に、
「䞀緒にカラオケでもいきたせんか」
 ず曞いたのだ。
「カラオケ苊手なんで」
「じゃあボりリングはどうですか」
「わたし、爪がこんななんで、ボりリングはちょっず」
 女性の爪にはネむルアヌトが斜されおいた。
「じゃあ、どこだったら倧䞈倫ですかね」
「ごはんだったら」
「ごはんはただですか」
「朝は食べおきたした」
「じゃあ、ただおなか枛っおないですよね うヌん  」
 圌は悩む。カラオケだめ。ボりリングだめ。ごはんったっお、別に腹は枛っおない。
 喫茶店で話をする
 でも女性は党然䌚話に積極的ではないので、喫茶店に行っおも話すこずがない。
 䞀時間だけ連れ出しおも、䞀時間も間がもたない。
「じゃあ䞀日デヌトずかはいかがですか」
「えヌ、どこ行くんですか」
「そうですねヌ」
 ず圌はたた悩む。
「ちなみにあのヌ、もし䞀時間くらい喫茶店でお茶しおもらうずした堎合、いくらくらい払えばいいですか」
 ず圌は聞いおみる。
「えヌ、それをあたしに蚊くんですか」
「あ、こっちが提案しないずだめですかね  」
 圌は再び尋ねおみる。
「ちなみにメル友なんおどうなんでしょ 難しいですか」
「えヌ、メル友ですか」
 ず女性は困っおいるようだ。
「あ、ラむンずかどうですか ダメですか」
 女性は少し考えおから、
「ちょっず、すみたせん  」
 ず蚀った。
 ダメだった。
 そのずき圌は初めお女性の持っおいるタむマヌに気付いた。
「あ、ただ䞃分も残っおたすね。ただたっぷり話せたすね」
「あのヌ」
 ず、女性は蚀う。
「はい」
「ほかの人を探されたほうがいいず思いたす」
「そうですか。わかりたした  」
 で、䌚話は終わった。
 女性は去っおいった。
 完党に拒絶されおしたったので、圌の顔色は真っ癜になっおしたっおいた。
 圌は、かなりショックを受けおいた。
 そのがっかり顔で、圌は個宀を出た。
 店員に返す必芁のないものも返そうずしお、
「いえ、それはお持ちになったたたで倧䞈倫です」
 ず蚀われた。
 若い店員は、がっかりしお郚屋から出おきた圌に察しお、気の毒そうな顔をしおいた。
 二十四歳の掟手めの女性の、付き合いにくさを痛感した。
 ずり぀くしたがない。
 絶察に䞍可胜。完党なる拒絶。
 あきれかえっお、うんざりしおいるようなその衚情。
 圌は、五千円くらい出せば䞀日デヌトの盞手をしおくれるのではないかず軜く考えおいたが、その考えは、完党に甘かった。
 そしお拒絶されるずいうのは、かなり粟神的にき぀いものだず、圌は知った。
 戻っおみるず、店内にもう䞀人女性がいたが、あたり容姿が気にいらなかった。
 だから店を出た。
 その日は絶望しお家に垰った。

 二

 それから金山正倫は、なんども出䌚いカフェに通った。
 しかし女性からは、い぀も拒絶されおいた。
 今回は、財垃に十䞇円を入れおいた。そしおたた、出䌚いカフェに向かっおいた。
 そのずきの気分は、味わい深いものであった。
 そこに、出䌚いカフェがある。そしお財垃には十䞇円がある。
 ぀たり、金山はもしかしたら本日䞭に、勇気を出せば、童貞を卒業できる可胜性があった。なぜなら、条件はすべお揃っおいるからだ。
 自分の肉䜓で、金を皌ごうずしおいる女性がいる。その盞堎は、むチゎずか諭吉二人ずか、蚀われおいる。そしお金山の財垃の䞭には、諭吉が十人もいる。
 そのように、条件はすべお揃っおいた。
 あずは、金山の魅力の問題だ。金山があたりにも魅力がないため、癟䞇円もらっおも嫌ず思われるかもしれない。
 そんなこずがないように、もちろん金山はお排萜をしおいた。枅朔感も心がけおいた。たるで芋合いの堎に行くような心構えで、党力で女性に奜かれる努力をする぀もりだ。
 しかし金山にはどうしおも自分が女性に受け入れお貰えるずは思えなかった。自分はなにをどうしおも絶察に女性には受け入れお貰えないタむプの男のように思えた。
 普通の男ならむチゎで良くおも、金山は癟䞇円払っおもダメず蚀われそうな気がした。だから、十䞇円を持っおいおも、党然安心できなかった。
 そもそも勇気がない。
 しかしそれでも、行っおしたえば、なにかミラクルが起こるかもしれない。数打ちゃ圓たるかもしれない。金山のこずを受け入れおくれる女神のような女性ず出䌚えるかもしれない。
 金山は十䞇円を持ち、出䌚いカフェに行った。
 䜕件も店を巡った。䞀床入堎料を払えば、その䞀日は党店舗で出入り可胜であった。
 そしお金山は池袋の店で、衝撃的な光景を目撃した。
 店内は、マゞックミラヌになっおいた。女性たちが座っおいた。その姿を男たちはマゞックミラヌごしに芋るこずができた。
 女性からは男性を芋るこずは出来なかった。しかし、シル゚ットくらいは芋るこずができるようだった。自分が座っおいる前に、誰か男性が立っお、自分の姿をじっず芋おいるずき、それが女性には分かるようだった。
 そしお金山は、ずある、座っおいる女性の前で、信じられない顔をしお立ち尜くしおいた。
 その女性は若くなかった。四十代半ばくらいに芋えた。しかしそのスカヌトは、信じられないくらいに短かった。その女性は、脚を組んで座っおいた。そしお、金山がその前に立぀ず、たるでアピヌルしおいるように、淫らに脚を䜕床も組みかえた。そのため、䞋着がちらちら芋えおいた。
 金山は驚いた。こんなに露骚に淫らなこずをする女性を、金山は初めお芋た。その目的は、はっきりしおいるように思えた。
 完党にその女性は、自分の肉䜓で、皌ぎに来おいる。そのために、そのお客さん候補に、自分の䞋着を芋せびらかしお、アピヌルしおいる。
 その意図が、ありありずしおいた。それはもう、疑いようがなかった。
 金山は呆然ず立ち尜くしおいた。
 その女性は、完党にプロの女性のように芋えた。四十代半ばくらいの、経隓豊富な、プロの女性のように芋えた。
 しかし、女性経隓のない金山にずっおは、あたりにもプロすぎるように思えた。
 その女性の容姿は悪くなかった。しかし、倱瀌な話だが、性病ずかも心配しおしたった。
 その女性は、誰よりも奔攟な女性のように芋えた。誰よりもたくさんの男性ず関係を持っおきた女性のように芋えた。
 そのため、金山には䞊玚者すぎるように思えた。
 しかし、その女性なら、金山でも受け入れおくれそうに思えた。

 䞉

 志田蘭子は珟圚、友達の家で居候しおいた。
 圌女はパチンコが奜きである。昔はアニメの声優を目指しおいた。
 蘭子は颚俗の経隓が豊富であった。今はフリヌランスの颚俗嬢みたいなこずをしおいた。
 い぀もバックショヌツずマむクロミニのスカヌトを穿いおいた。陰毛は剃っおいた。パンストを穿かない生足には、虫に食われた跡が少し目立っおいた。
 蘭子は飄々ず出䌚いカフェに出勀した。
 ここはお菓子食べ攟題、ドリンク飲み攟題、挫画芋攟題、ネットし攟題である。
 脚を組んで怅子に座る。
 ミラヌごしに、蠢いおいる人圱が芋える。
 短いスカヌトを穿いおいるだけで、説明は䞍芁であった。圌女が、どういう意図でここに座っおいるのか、誰が芋おも明らかだ。
 ズボンを穿いおやっおくる女の子は、食事だけしか蚱さない子かも知れない。しかしそんな子でも、こういう所に来るくらいの肝っ玉なのだから、亀枉次第では、それ以䞊のこずにも応じるかも知れない。
 怅子には女たちが座っおいた。
 毎日やっおくる蘭子には顔銎染みも倚かった。しかし䜙蚈なトラブルを避けるため、女の子同士の䌚話は滅倚になかった。
 みんな癖の匷い女の子たちである。颚俗嬢も倚かった。
 しかし人気があるのは新人──ここがどういう堎所なのかよく分かっおいない来おいる、火遊び目的のりブな新人である。
 蘭子はあたりにもベテラン過ぎおいた。
 その分、感じの良さを心がけおいた。
 しかしなかなかトヌク垌望は来ない。
 プロフィヌルカヌドには、䞉十八歳ず曞いおいた。䞃歳サバを読んでいた。
 蘭子は昔はモテおいた。しかし今は党然だめだ。最近は、ずっず䞀円も皌げおいない。居候をさせお貰っおいる友達には、ずっず金を枡せおいない。このたたでは、家を远い出されおしたうかもしれない。
 出䌚いカフェで飲食は無料でさせお貰える。しかしたるっきりお客さんからの需芁が無いのであれば、出入り犁止になっおしたうかもしれない。
 そうなっおしたったらもう仕事を遞ぶこずはできない。なんでもやれる仕事をするしかない。
 いたさら恋人を䜜っお結婚をする気にはなれない。
 蘭子には、ただ矎しさが残っおいた。人気ずは蚀えないが、時々は蘭子を指名する物奜きはいた。
 がんやり座っおいた圌女の前に、倧きなシル゚ットが映っおいた。
 誰かがマゞックミラヌの向こう偎で、座っおいる圌女の姿を芋おいるようだ。圌女に興味を持぀物奜きが珟れたらしい。
 マむクロミニのスカヌトで座っおいる圌女は䜕床も脚を組み盎しお、わざずらしく䞋着を芋せた。男性の奜むパンチラである。赀い䞋着を穿いおいた。
 シル゚ットは長い間圌女の前にぞばり぀いおいた。
 芋るだけ──
 そんな客も倚かった。
 動物園の動物を芋るような感芚でこの店にやっおくる客もいる。客は入堎料を払えば、その日はすべおの店舗に出入り自由になる。
 やがお人圱は離れおいった。やはり芋るだけの客だったらしい。
 䞋着を芋せお損したず、蘭子はがっかりした。やっぱり今日も坊䞻かもしれない。
 やっぱり、コンビニずか飲食店ずか、他の仕事を探したほうが良いのかもしれない。
 颚俗で月に癟䞇円以䞊皌げおいるずきもあった。ただ若かったずきの話である。その栄光の日々があるから、なかなか安い仕事をする気にはなれない。
「蘭子さん、トヌクのご垌望です。五番にお願いしたす」
 スタッフがそう蚀っお、プロフィヌルカヌドずタむマヌを差し出した。蘭子ずトヌク垌望の客だ。
 埅たせるず悪印象なので、カヌドを芋ながら急いで移動した。
 名前は、「山田」。
 来店目的は、「䞀緒に楜しい時間を過ごしたい」。
 カヌテンを開けた。
「こんにちはヌ」
 満面の笑顔で挚拶した。
「どうも  」
 そこには四十歳くらいの気が匱そうな男性がいた。
「お名前は〝山田〟さんで、䞀緒に楜しい時間を過ごしたい  ふヌん  」
 笑顔でそう蚀いながら、カヌテンを閉めお、男の隣に座った。
「いや、俺、本圓の名前は金山ずいいたす  」
「そうなんだ  じゃあタむマヌ、動かしちゃうね」
 ボタンを抌した。これから十分間のトヌクである。
「どうしお私ずトヌクしたいず思っおくれたの」
「いや、脚がずおも玠敵だなあず思っお  」
「そうなんだヌ、ありがずう」
 どうやらパンチラを芋おくれたらしい。
 粟䞀杯、愛嬌を振りたく。
「なんか  すごく話しやすくお、びっくりしおたす」
「ほんず ありがずう。ここにはよく来るの」
「はい、よく来おいたす。でもなんか党然仲良くなっおもらえなくお  」
「ほんず じゃあ、私ず仲良くなりたしょうよ」
「うわっ、そんなこず蚀っおもらえたの、初めおです」
「そうなんだ、うふふ  」
 いかにも女にモテなそうな男である。粟䞀杯背䌞びしお、䞀生懞呜トヌクしおいるのだろう。
 芋た感じ、あたり金は持っおなさそうだ。
 䞀応、お排萜をしおきおいる぀もりらしいが、服装のセンスはださい。匕き攣った笑顔を浮かべ、明るく元気に振る舞おうずしおいるが、きっず普段は根暗だろう。
「じゃあ、金山さんっお呌べばいい」
「はい、金山くんでも金山でも、なんでも奜きなように呌んでください」
「䞋のお名前は秘密」
「いえ、秘密ではありたせん。正倫ずいいたす」
「じゃあ、マサくんでいい」
「はい、それでいいです。僕のほうは、なんおお呌びすれば良いですか」
「なんでもいいよ。蘭子っお本名なの。蘭ちゃんでも蘭子でも  」
「じゃあ、蘭子さんず呌ばせおいただきたす。蘭子さん、すごく話しやすいです」
「ありがずう。他の子たちはそんなに話しにくかった」
「はい、なんか無愛想ずいうかなんずいうか  、たあ、僕が話すの䞋手だからなんですけど  」
「そんなこずないよ、うたく話せおるよ」
やれやれ、どうやらトヌクだけが目的か  
 蘭子は内心で、がっかりし始めおいた。
 しかしそれでも、自分ずトヌクしたいず思っおくれただけで、少しは嬉しい。それに、出䌚いカフェに慣れおいない感じも良い。
 たあ、十分間、せいぜい楜しくトヌクに付き合っおあげお、それでさよならの流れだろう。
 䞀円の埗にもならない。
 だから他の女たちが無愛想になるのも頷ける。誰だっお本音では、䞀円の埗にもならない客を、盞手にしたくない。
 そんな颚に考えお、少し沈黙ができおしたった。そのため、金山は居心地が悪そうにしおいる。いけないいけないず思い、蘭子は、金山の肩を軜く叩いた。
「もう、硬いなあ。もっずリラックスしたら 私、そんなに怖いかな 別に、ずっお食ったりしないよ」
 そう蚀っお、豪快に笑った。
 もはや蘭子は、完党なボランティア粟神のみでトヌクしおいた。
「すみたせん、なんか緊匵しちゃっお  」
「緊匵なんかするこずないのに、バカだなあ」
 枟身のニコニコ顔を芋せ続ける。
「すみたせん、あのヌ」
「ん、なに」
「もし良かったら、これからご飯ずか、ご䞀緒しおいただけたせんか」
きた
 思わず蘭子は身構える。
「別にいいけど  、私、ごはんだったら、䞀時間五千円だよ  」
 さすがに無料でご飯に行くほどのボランティアはできない。
「はい、わかりたした。それでぜひお願いしたいです」
「いいの」
「はい、もちろん払いたす」
「そっか、ありがず。じゃあ、出よっか」
 かくしお倖出が決たった。
 客は店倖に女性を連れ出すずきは、店に远加で二千円を支払わなければいけない。
 蘭子はカヌドずタむマヌをスタッフに返し、男ず䞀緒に倖に出た。
「なに食べたいですか」
「そうだなあ、なんか、ずっず気になっおたパスタ屋さんがあるんだけど、そこに行きたいかなあ」
「でも、今の時間、混んでるんじゃないですか」
「そうだね、混んでるかも」
「俺、ゆっくり話がしたいです。モスバヌガヌずかではダメですか」
「党然いいよ。モスバヌガヌ、食べたヌい」
 ずいうわけで、二人はモスバヌガヌに移動した。
「なに頌みたす」
 ず聞かれ、蘭子は䞀応遠慮しお、䞀番安いハンバヌガヌずコヌラを泚文した。
 その料金も金山が払った。
 そしお垭に移動しお座った。
「じゃあずりあえず、先にお枡ししおおきたすね」
 金山はこっそりず五千円を払った。
「ありがずう」
 蘭子はそれを受け取った。
 これでずりあえず坊䞻だけは免れるこずができた。しかしパチンコの軍資金ずしおは少なすぎる。
「さっきも蚀いたしたけど、俺の名前は、金山正倫ずいいたす。職堎は、圚宅勀務でプログラマしおたす」
「ぞえ、そうなんだ」
「出身は、宮厎です。今は犏生垂で䞀人暮らししおたす」
「ぞえ」
 なんか、堅苊しい。たるで芋合いみたいな話し方である。
「もしかしお、婚掻目的なの」
 聞いおみる。
「いや、別にそういうわけではないのですが、でも、恋人はすごく欲しいです」
「そうなんだ、おっきり私ず結婚する぀もりかず思っちゃった。うふふ  」
「え じゃあ、もし僕が結婚したいっお蚀えば、結婚しおくれたすか」
「そう蚀われれば、怜蚎くらいはしおあげるよ うふふ  」
 それから金山は、執拗な自分語りを始めた。
 蘭子には、あたり質問をしおこなかった。
 蘭子が話し出すず、金山は黙った。そしお、熱心にその話を聞いた。
 䞀時間ほど話をしお、
「ラむン亀換お願いできたせんか」
 ず、金山が蚀った。
 蘭子は、それに応じた。
 そしお、和気藹々ずした雰囲気のたた、二人は店の前で別れた。
 蘭子はすぐに、たた出䌚いカフェに戻った。

 四

 池袋の出合いカフェの店内──
 それは、四十代半ばくらいに芋える、おばさんだった。圌女䞀人だけ、幎霢が高そうだった。
 他の女性はみんな、二十代に芋えた。
 その栌奜は、卑猥であった。信じられないくらいに短いスカヌトを穿いお、脚を組み替えたりしお、わざずらしく䞋着を芋せおいた。
 着おいる服は、あたり䞊等ではなかった。
 厚化粧だった。
 かろうじお矎人には芋えたが、いかにもなにか性病でも持っおそうだ。
 誰よりも性に奔攟に芋えた。誰よりも経隓人数が倚そうに芋えた。
 さすがに、童貞の圌には、䞊玚者すぎる女性だった。
 錻から論倖だった。トヌクなんおしたいずは思わなかった。
 しかし、他の女性から盞手にされる自信がたったくない圌は、怖いものみたさずいう感じもあり、あれはどんな感じの人なのか、思い切っお、軜く喋っおみようかず思った。
 それはたさに、溺れる者は藁をも摑むずいう感じだった。
 いかにもダバそうなおばさんだが、たあ、人生経隓ずしお、たった十分間くらいは我慢しおトヌクしおみようず思った。そしお、やっぱりダメそうなのを確認しおから、今埌も出䌚いカフェ通いを続けるかどうか、䞀旊、怜蚎し盎しおみようず思った。
 玠盎に゜ヌプランドに行くこずも怜蚎しようず思った。どうしおも童貞を卒業したいずいうのであれば、もうそれしか無さそうに思えた。
 そしお圌は、その、いかにもダバそうなおばさんず、店内の個宀で、十分間、トヌクした。
あれ
 ず思った。
 喋っおみたら、意倖ず普通の人なのである。
 そしお、信じられないくらいにフレンドリヌである。たるで欧米人か、幌いずきの近所のおばさんのような銎れ銎れしさである。
 しかし、悪くない。意倖に圌は、そのおばさんずのトヌクが心地よいず感じた。
 そしお話しおいるず、圌の股間は確かに反応した。
 段々ず、どこにも問題は無さそうに思えおきた。
 このおばさんは、ちゃんず膣を持っおいるだろう。そしお顔だっお、そんなにブスじゃない。かろうじお矎人ず蚀っおも良いくらいだ。
 話しおみるず、別に宇宙人ではない。普通に日本語で䌚話ができる。
 では、どこがダメなのか
 改めお考えおみるず、特にダメなずころは思い぀かない。
 確かに、性病は持っおるかもしれない。しかし意倖ず持っおいないかもしれない。
 性病の怜査なんかは、きっずしおいないだろう。
 でも、コンドヌムをすれば、性病は防げるのではないか たずえ性病をう぀されおも、それで童貞を卒業できれば、ずりあえずオッケヌではないか
 色々ず考える。
 そしお段々ず、
この人で良いのではないか
 ずいう気になっおきた。
 この人で勃起するこずは、問題なくできそうだ。
 ただし、仲良くなれたらの話である。
 そしお、この人なら、䞀応、最䜎レベルくらいたでには、なんずか仲良くなっおもらえる可胜性があった。
 お互いがお互いのこずをきちんず知り合っお、いや、そこたで莅沢は蚀わないたでも、お互いに、人間同士ずしお、ずりあえず仲良し同士ずしお、最䜎限の愛情を持った䞊で、セックスする。
 それが、この人ずなら可胜ではないか
 圌は、そのおばさんずトヌクしお、そう思った。
 ずにかく、びっくりするくらいに感じが良かったのである。
 それで、
「䞀緒に食事をしおくれないか」
 ずお願いした。
 それには、䞀時間五千円で応じお貰えた。
 そしお二人で店倖に出た。
 圌の初めおの店倖連れ出しだった。圌は連れ出し料の二千円を出䌚いカフェに払った。
 そしお連れ出した。
 䜕を食べたいかずおばさんに聞くず、「パスタ屋さん」ず蚀っおきたが、ゆっくり話をしたいず思った圌は、「モスバヌガヌでも良いか」ず尋ねた。
「それでも良い」ず蚀われた。
 二人はモスバヌガヌに移動した。
 店内の垭に座っお、圌はすぐに五千円を払った。
 それから長々ず、自分語りを始めた。自分がどんな人間か、たずは、しっかりずおばさんに知っおほしかった。
 おばさんは、それを嫌がらずに聞いおくれた。
 自分の話も、少しはしおくれた。パチンコが奜きずか、昔はアニメの声優を目指しおいたずか、教えおくれた。
 けっこうお喋り奜きなおばさんだった。性栌は、明るいず感じた。
 口の利き方は最初からずっずタメ口だったが、それは圌の神経には觊らなかった。
 圌のこずをずっず「マサくん」ず呌んでいたが、圌自身が、そう呌ぶこずを蚱可したのである。それに、そう呌ばれるこずも、たったく䞍快ではない。むしろ、そんな颚に銎れ銎れしく話しおもらえるこずが心地良く感じられた。
 そんな䞭にも、瀌儀正しさのようなものも感じられた。なんか、キャバクラなどの、お喋りの氎商売の経隓があるおばさんなのかもしれない。
 おばさんは、モスバヌガヌの店員などにもタメ口だった。
 おそらく、誰に察しおもタメ口なのだろう。
 しかしその喋り方は、別に䞍快ではない。むしろ圌にずっおは心地良く感じられた。
 圌は、人間関係が苊手だった。
 昔はずっず工堎勀務ばかりをしおいた。誰ずも話さなくお良い、黙々ずできる仕事を奜んだ。
 圌は、小説家志望だった。
 しかし、䞉十歳くらいからは、簿蚘やプログラミングの勉匷を始めた。
 手に職を぀けたいず思ったのだ。
 工堎の仕事が終わっお、ずっず勉匷しおいた。䌑日なんかも、ずっず勉匷しおいた。
 最初、皎理士を目指したが、挫折した。
 次はプログラマを目指した。職安で玹介された蚓緎スクヌルにも通った。
 しかし、なかなかプログラマになれなかった。
 働かず、プログラミングの勉匷ばかりしおいたので、借金もできた。
 しかし、なんずか、ずある䌚瀟で拟っおもらった。
 それで圌は、䞉十八歳でプログラマになれた。
 しかし、長続きはしなかった。やはり人間関係がうたくいかず、すぐにその仕事を蟞めるこずになりそうだった。
 しかし瀟長が理解のある人で、圌に圚宅勀務を蚱しおくれた。
 それから四幎間、ずっず圚宅勀務である。
 そしおなんずか、借金はなくなった。
 逆に癟䞇円くらいの貯金ができた。
 それでこのたび、四十二歳にしお、童貞を卒業したいず思っお、出䌚いカフェ通いを始めたのである。
 そんな、今たでの生掻を、圌は、初めおあったおばさんに、機関銃のような勢いで喋っおいた。
 童貞を卒業する目的で出䌚いカフェ通いを始めたこずだけは、ただ、おばさんに話さなかった。
 そこだけ、倉えおいた。
 ただ、
「女性ず仲良くなりたいので、出䌚いカフェ通いを始めた」
 ず蚀った。
 しかし、
「誰も仲良くなっおくれないので、困っおいた」
 ず蚀った。
 自分には恋愛経隓がないずいうこずは、ギャグっぜい口調で、おばさんに䌝えた。
 だから、おばさんは、圌が童貞であるこずに、薄々気づいおいるだろうず思われた。
 圌は、モスバヌガヌのこの堎では、
「童貞を卒業させおほしい」
 ずいうこずを、ただ蚀う぀もりはなかった。それを面ず向かっおお願いするのは、厳しかった。
 だから、ラむンを亀換しおもらっお、埌で、ラむンでお願いしおみようず思った。
 そのために、圌は、面ず向かっお喋れるこずは、党郚喋っおおこうず思った。
 自分の性栌も、知っおおいお貰いたかった。
 工堎で働いおいたずきは、友達ずたではいかないたでも、少しは話したりするような他者が、たったくいないわけではなかった。しかし、圚宅プログラマになっおからは、もう、誰も話し盞手はいない。
 誰ずも話さない。そんな生掻を四幎間送った。
 圌は、宮厎から、東京に出おきた。
 しかし東京に出おきおから、良いこずなんお䞀぀もなかった。い぀も蟛いこずや苊しいこずばかりだった。友達ずいえるような人間は、䞀人も出来なかった。
 そもそも人間嫌いな圌は、自ら孀独を求めたようなものであった。
 そんな圌に、お喋り奜きの銎れ銎れしいおばさんは、心地良く感じられた。
 モスバヌガヌで話しおいるうちに、たすたす、
この人で良いのではないか、この人で充分ではないか
 ず思えた。
 莅沢をいえば、キリがない。
 このたたでは䞀生童貞だ。
 このおばさんずなら、ずりあえず、人間ず人間ずしお、お互いの気心を最䜎限知った䞊で、そういうこずができるのではないか
 圌はそう思った。

 五

 金山正倫は四十二歳。童貞を卒業したいず思い、出䌚いカフェ通いを始めおいた。しかし、そこにいる女性は、みんな圌に冷たかった。
 その䞭で唯䞀、圌に優しく接しおくれたのが、四十五歳の熟女──志田蘭子であった。
 金山は出䌚いカフェの個宀で蘭子ず十分間トヌクしお、その埌に圌女を倖に連れ出した。そしお、モスバヌガヌで䞀時間お喋りしお、金山ず蘭子はラむンを亀換した。
 そしおその翌日、金山は以䞋のようなラむンを、蘭子に送った。
『蘭子さん、昚日はモスバヌガヌで色々ず話をしお頂きありがずうございたした。お陰様でずおも楜しい時間を過ごすこずができたした。
 今回は蘭子さんにご盞談したいこずがありたしお、ラむンで連絡させお頂きたした。面ず向かっおは盞談しにくい内容なので、ラむンで盞談させおいただいおおりたす。
 私が出䌚いカフェを利甚する目的ですが、モスバヌガヌでは、
「女性ず仲良くなりたいから」
 ずお䌝えしたした。
 しかし、面ず向かっおは蚀いにくい本圓の目的がありたす。
 モスバヌガヌでもお䌝えしたしたが、私は四十二歳ですが、恋愛の経隓がありたせん。
 そしお実は、女性の経隓もありたせん。
 それで、こんなこず盞談するず、蘭子さんに䞍快な思いをさせおしたうのではないかず思い、倧倉恐瞮しおいたす。それでも、駄目で元々ずいう぀もりで、思い切っお盞談だけはしおみようず思いたした。
 それは、肉䜓です。蘭子さんに、肉䜓をお願いできないかず思い、盞談させお頂いおおりたす。
 もちろん、お瀌はさせお頂きたす。
 お瀌をさせお頂くこずで、こういったお願いは可胜なものでしょうか
 もし可胜な堎合、どのくらいのお瀌をするこずで、お願いできるものでしょうか
 それを教えお頂けるず倧倉助かりたす。
 すごく倱瀌なこずを蚀っおしたっおいるずしたら、倧倉申し蚳ありたせん。
 では、倧倉申し蚳ありたせんが、ご怜蚎いただけるず幞いです。
 どうぞ宜しくお願い臎したす。』
 それに察しお、蘭子から、以䞋の䞀行メッセヌゞが届いた。
『これはネタですか』
 それに察しお、金山は、以䞋のメッセヌゞを返した。
『いえ、ネタずいう、䞍真面目な話ではありたせん。駄目で元々ずいう気持ちで、真剣に盞談させお頂いおおりたす。
 やはり、難しいでしょうか
 十䞇円くらいお瀌をさせお頂く圢でも、やっぱり難しいでしょうか
 モスバヌガヌで話しおみお、蘭子さんがずおも魅力的で、ずおも優しそうな方だったので、思い切っお、こんな図々しいお願いをさせお頂きたした。
 倧倉恐瞮ですが、ご怜蚎しお頂けるず幞いです。
 どうぞ宜しくお願い臎したす。』
 このメッセヌゞに察する蘭子からの返事は無い。既読スルヌである。
 金山正倫は、悩みに悩み抜いた果おに、思い切っお、そういう、童貞の卒業をお願いするメッセヌゞを送っおいた。そしおたるで裁刀官からの死刑の刀決を埅぀被告人のようにビクビクした気持ちで、蘭子からの返事を埅っおいた。
 仕事は䜕も手に぀かない。萜ち着かない。倜も党然眠れなかった。
 なにか、ずんでもなく倱瀌な事をしおしたったような恐怖にも襲われおいた。あんなに感じよく良心的に接しおくれた玠晎らしい女性に察しお、そのお返しにたるで糞を投げ぀けたような、ずんでもなく倱瀌なこずをしおいるような気がした。
 しかしもう、メッセヌゞを送っおしたったものは仕方がない。お願いしおみるだけお願いしおみたずいう自分の遞択に、間違いがあるずも思えない。
 それで駄目だず蚀われたら、それはそれで仕方がない。所詮、自分はセックスが出来ない星のもずに生たれおいるのだず、諊めるしかない。
 ゜ヌプランドに行くこずは、やはりただ難しく思えおいた。やはり、芋ず知らずの女性の前で裞になっお、自らの欲望を晒け出すこずが、どうしおも恥ずかしいのである。気心の知れた、人間ず人間ずしお、少しは仲良くなっおいる女性でないず、自分のそういう恥ずかしい郚分を晒け出すのは、やはりどうしおも難しく思われおいた。
 そしお結局、蘭子からの返事は来ない。
 それはたあ、仕方が無いのだろう。そういう運呜なのだろう。もし、゜ヌプランドに行こうずしたずしおも、結局、運呜からの䜕かしらの邪魔が入るのだろう。そしお結局、自分は䞀生、セックスを蚱しおはもらえないのだろう。
 金山は、い぀たでも蘭子からの返事が来ないこの珟実に盎面しお、そう諊めざるを埗なかった。
 思えば蘭子ずは、たった䞀回䌚っただけである。
 性に奔攟で、経隓豊富な女性に芋えた。そしお、ずおも感じ良く話しおくれた。
 だから調子に乗っおしたった。
この人なら、こんな自分に察しお、肉䜓を蚱しおくれるのではないか
 そんな倢を芋た。
 しかし流石に、それは難しそうだ。
 仕方がない。圓たっお砕けたずいうこずだ。
 自分の感芚なんお、なにもアテにならないず、金山は思った。どんなに芪しげに思えたずしおも、結局、すべおの女性は、自分を拒絶する。自分はそういう星のもずに生たれおいるのだ。
 絶望感な気分の䞭、金山は泣いた。
 悔しいのか、哀しいのか、その理由はよく分からないが、なぜか泣いた。
 圌はよく泣く男であった。自分でも、なぜ泣くのかよく分からないようなタむミングで、なぜか泣いおしたう。
 きっず誰よりも心が匱いのだろう。情けない、臆病者の、誰よりも匱い人間なのだろう。
 そんな数日が過ぎた。
 金山はもうすっかり諊め切っおいた。もういいやず思った。
 セックスがすべおじゃない。人生には、それ以倖の楜しみが、たくさんある。
 そういう楜しみを芋぀けおいけばいい。所詮、女性ずは瞁のない人生だ。それに文句を蚀っおも仕方がない。
 女性ず仲良くなろうず思えば思うほど、心が傷぀いおいく。嫌な思い、苊しい思いをしおしたう。そしお、苊劎しお皌いだ金も、みるみる倱われる。劣等感は、たすたす深くなる。
 ぀たり女なんお、ろくでもないずいう事だ。女なんかに関わっおいる間は、絶察幞せになるこずは出来ない。
 金山は金山の、自分の手が届く幞犏だけを芋぀けおいけば良いのだ。絶察に䞍可胜なこずに関われば関わるほど、嫌な思いをするだけだ。
 そんな颚に、金山は、気持ちを切り替えようずしおいた。そしおようやく圌の心は萜ち着きを取り戻そうずしおいた。
 そんな時に、スマホが鳎った。
 蘭子からのメッセヌゞが届いおいた。
『ごめヌん。送った぀もりになっおた。別に五䞇くらいでいいよ そんなに貰うの悪いから。』

 六

 そしおその日がやっおきた。
 金山正倫は半信半疑な顔をしお、電車で池袋たで移動した。そしお、蘭子に教えお貰ったラブホテルの受付を枈たせ、䞀旊、宀に入っおみた。
 生たれお初めお入った、ラブホテルの宀内だった。奮発しお、䞀番高い宀を遞んだ。
 宀内は枅朔で、広々ずしおいた。
 童貞卒業ずは、このような密宀で、女性ず二人きりになるこずだ。
 金山は、そう思っおいた。
 それを女性は絶察に圌に蚱さないのである。
 ラブホテルの宀内で二人っきりになるこずができたら、もう匷姊しおも眪にはならない。もし裁刀になった堎合、それはもう、同意があったず芋なせる。
 そんなこずを考える圌は、すでに勃起しおいた。
 圌には、自分が超早挏であるように思われおいた。あたりにもすぐに勃起しおしたうのである。そしお自慰をすれば、い぀も䞀分以内に射粟する。
 アダルトビデオの男優のように、あんなに長々ず射粟を我慢するこずは絶察に出来そうにない。
 そんなに早く射粟しおしたうのに、果たしおセックスなんお出来るのか
 普通のマッサヌゞ店や敎䜓や敎骚院にも絶察にいけない。盞手が男性であったずしおも、他者から䜓を觊られるず必ず勃起しおしたう。
 非垞に勃起しやすい䜓質だった。そしお、間違いなく超早挏だろう。それは間違いなく、セックスに差し支えが生じるレベルだろうず思われおいた。
 そしお、極床の恥ずかしがり屋だ。そしおあたりにもプラむドが高すぎた。
 童貞なんだから、セックスをするなら、色々女性に教えおもらいながら、それをするしかないのに、プラむドが高すぎるため、それが嫌であった。
 だから圌には、匷姊の方がやりやすかった。しかし臆病者の圌には、犯眪を犯す勇気は無い。
 圌が四十二幎間童貞であったのは、それなりの理由がある。
 圌は、人に匱みを芋せるこずのできない人間だ。玠盎になれない人間だ。そしお、い぀も自分が優䜍に立ちたがった。
 だから颚俗は難しいのだ。そのような、自分が優䜍に立おない堎所には行きたくなかった。
 圌の性栌は、あたりにも難しいのである。
 そしお、い぀も高望みばかりしおいた。初䜓隓の盞手は、グラビアアむドルレベルの矎人が良いず、い぀も思っおいた。すべおの女性からたるで盞手にされおいないくせに、い぀もそんな倢みたいなこずばかりを願っおいた。
 そしお圌は、劥協ができない男だった。倉に頑固だった。
 そんな人間が、セックスなんお、絶察にできる蚳がなかった。恋愛なんお、絶察に無理であった。圌は間違いなく絶察にセックスができない星の元に生たれおきおいるように思われおいた。
 しかし今、志田蘭子ずいう女性が珟れた。
 圌に䜓を蚱しおくれるずしたら、この呪われた運呜から救い出しおくれるのは、こういう女性しかいないだろうずいう、どんぎしゃの女性が珟れた。
 しかし圌は、ただ半信半疑であった。これから運呜の劚害が入り、圌のすべおの垌望は、完党に打ち砕かれるのではないかず疑っおいた。
 それが、今たでの圌の人生のパタヌンだった。
 最埌には必ずがっかりしお終わる。良いこずなんか、䞀぀も起こらない。
 それが、い぀ものパタヌンである。
 それに備えた心構えもできおいた。
 どうせ最埌はがっかりしお終わる。圌の人生にハッピヌ゚ンドは絶察にない。
 ハッピヌ゚ンドは、圌には䌌合わない。それは、圌らしくない。
 しかしそれは、圌が、自分で自分にかけおいる呪いのようなものかも知れなかった。それはたるで、自らバット゚ンドを求めに行っおいるような考えであった。
 考え方が、あたりにもネガティブすぎるのだろう。他者の奜意も玠盎に受け入れられないような人間なのだ。
 そもそも、本圓に䞍幞な人間なら、四十二幎間も生きおはいられなかったはずである。そんなに健康でもなかったはずである。
 それに結局圌は、プログラマにもなれおいるのである。圚宅勀務で金を皌げおいるのである。
 圌が䞍幞であるずは、たるでいえない。
 䞀人がっちであるこずだっお、圌は自ら、それを求めたのである。
 芁するに圌は、人から尊敬されたいのだ。尊敬されない付き合いは、したくないのだ。
 それは、駄々っ子のような発想だ。圌はおそらく、誰よりもワガママなのだ。
 そのような生き方をしおいたら、セックスも、恋愛も、結婚も、絶察にできる蚳がない。
 芁するに圌は、他者から貰いたいばかりなのだ。他者に䜕かを䞎えよう、サヌビスしようずいう発想が、たるでない。
 兞型的なダメ人間なように思えた。
 圚宅勀務以倖の仕事は、すべお長続きしなかった。
 プログラマになる前は、工堎勀務ばかりをしおいたが、すべお短期間で蟞めおいた。
 最長が、十䞀ヶ月だった。それ以䞊䞀぀の職堎で働いたこずがない。
 だから、貧乏になるのは圓然だ。
 そしお、挙げ句の果おに、圚宅勀務に収たっおいるのである。
 䌚瀟の人間ず顔を合わせる機䌚はない。圌がそれを嫌がるからだ。仕事のやり取りは、すべおメヌルだけである。
 よくそんな人間を雇っおいるものだず、その䌚瀟の瀟長のこずを思うが、絊料はずおも安かった。時絊は二千円だった。それ以䞊は䞊がらなかった。プログラマの時絊ずしおは、盞堎よりも、かなり安かった。
 それでも圌は、その職堎で必芁ずされおはいた。その職堎に、プログラマは圌䞀人しかいなかったからだ。
 その䌚瀟の瀟長は、圌のワガママを聞く代わりに、安い絊料で圌を䜿っおいた。その瀟長は、圌よりも䞀぀幎䞋だった。その瀟長は、プログラマの実務経隓のない䞉十八歳だった圌を雇っおくれた、圌にずっおは倧恩人であった。実務経隓のない䞉十八歳のプログラマ垌望者を雇っおくれる䌚瀟なんお、他にある蚳がない。
 考えおみたら、その瀟長ずの出䌚いは、圌にずっおは、たさに奇跡的な出䌚いのようにも思えた。それで借金もすべお片付けるこずができたのである。逆に癟䞇円の貯金を䜜るこずができ、圌は呑気にもこのたびのような、童貞卒業のための出䌚いカフェ通いなどが出来るようになったのだ。
 それだけを考えおみおも、圌は、たるで守護霊かなにかから導かれ、芋守られおいるようであった。
 そんな颚なこずを思いながら、金山正倫は䞀旊ラブホテルを埌にした。
 埅ち合わせ堎所は、この近くのファミレスであった。
 圌は前もっお、蘭子から教えお貰ったラブホテルに入宀しおおいたのだ。そうしないず、いざ行ったずきに、「満宀でした」では、どうしようもない。
 運呜は、必ず圌のセックスを阻止するように動く筈であった。必ず最埌には、がっかりさせる結末を食らわせる筈であった。
 それず圌は戊わなければいけなない。
 運呜は、圌に、「満宀」を食らわす぀もりだったのかもしれない。
 それに備え、圌は埅ち合わせ時間の二時間以䞊前に池袋に到着しお、たずはしっかりラブホテルぞの入宀を果たした。
 それは䞀぀の勝利であった。
 もしそこが満宀であったら、他のラブホテルを探せば良かった。池袋にはラブホテルがたくさんある。そのすべおのラブホテルを満宀にするこずは、さすがの意地悪な運呜にも、できる蚳がない。
 そしお圌は緊匵で胞を高鳎らせながら埅ち合わせ堎所のファミレスに到着しお、入口がよく芋える堎所に座った。そこなら、蘭子が来たずきに、芋逃すはずは無かった。
 圌は飲料を泚文した。しかし、トむレに行きたくなるこずを恐れ、その飲料には䞀切口を぀けない。
 そしお、じりじりしながら蘭子の到着を埅った。
 圌女が来たずきには、最高の笑顔で迎えなければいけなかった。
 そしお埅ち合わせの時間になった。
 蘭子は来ない。
「ははは  」
 力なく笑った。
なるほど、そうきたか  
 そう思った。
 十分が過ぎた。
 二十分が過ぎた。
 蘭子は来ない。
 しかしそれでも遅刻しおくるのかもしれない。来たずきに、怒っおしたっおは最悪だ。
 圌は運呜から、詊されおいるのかも知れない。
 お前みたいに怒りっぜい奎には、セックスはさせん。
 運呜から、そう蚀われおいるのかも知れない。
 䞉十分が過ぎた。
 四十分が過ぎた。
 五十分が過ぎた。
 さすがにこれはドタキャンだろう。
「どうしたした」
 ず、ラむンを打぀気にもなれない。
 想定内だ。
 どうせ、こうなるだろう。い぀もの通りである。
 はい、凄く期埅したした、でも最埌にはがっかりしお終わりたした。
 ちゃんちゃん  
 い぀ものパタヌンである。そのレパヌトリヌが䞀぀増えただけだ。
「いやあ、さすがに、そんなに甘くねえか  」
 そう呟いた。
 さすがにそうだろう。そうなるだろう。いかにも腹萜ちした。なるべくしお、こうなった。
 やっぱり蘭子も、いざ行くずなった時、やっぱり嫌になったのだろう。あんな奎ずは絶察にセックスしたくないずいう、自分の本圓の気持ちに、土壇堎になっお気づいたのだろう。
 だから来ないこずに決めた。
 きっずもうラむンもブロックされおいるだろう。
 しかしそうなるず、出䌚いカフェには、もう行かない方が良さそうだ。蘭子はそこの垞連だず蚀っおいたので、顔を合わすず気たずい。
 それに、蘭子の姿を芋るのも぀らい。
 やっぱり、セックスは諊めた方がいい。
 ずりあえずは、次は、゜ヌプランドで考えた方が良い。そこなら、颚俗嬢は、圌から逃げられない。必ず圌の盞手をしなければいけない。
 しかしこのダメヌゞは、案倖でかい。
 もう数幎は、童貞のたたでいよう。そしおたた、気持ちが静たったタむミングで、たた、この件に぀いお考えればいい。
 もう、出䌚いカフェは遞択肢から倖した方が良い。そこで、蘭子以䞊の適任者に、たた䌚えるずは思えない。
 蘭子は悪くない。すべお自分が悪い。圌女だっお、最初から自分を隙す぀もりなんお無かった筈だ。本気で圌に䜓を蚱そうず思っおくれたタむミングも、䞀瞬くらいはあった筈だ。
 それで充分ではないか。よくやった方だ。
 自分も、よく頑匵った。ここたでセックスに肉薄できたのである。倧したもんだ。行動力のない臆病で気の匱い自分が、ここたでやっただけでも、倧したもんだ。
 自分で自分を耒めおあげたい。お疲れ様、ず。
 蘭子を憎んではいけない。圌女は、倩䜿のような女性だった。無理をさせおしたったのだ。申し蚳ないこずをした。
 薄汚い䞭幎童貞が、ファミレスの䞭で、ぜろぜろず涙をこがしおいた。
 頭を抱えお、俯いおいた。
 その姿は完党に、気色の悪い䞍審者であった。
 ファミレスの店員は、早く譊察に通報しなければいけなかった。そしお圌を、刑務所にぶち蟌んでしたわなければいけなかった。圌みたいな人間は、存圚しおいるだけで眪なのである。息をしおいるだけで犯眪だ。他者に嫌な思いをさせるこずだけを目的ずしお、自分はこの䞖界に存圚しおいる──金山には、そう思われおいた。
 そんな時、圌のスマホが着信音を鳎らした。
 それは、蘭子からのメッセヌゞだった。
『ごめん、寝坊した タクシヌですぐ向かうから埅っおお』

 䞃

 志田蘭子は昚日、酒を飲みすぎおしたった。そしお、セットしおいた目芚たしが、なぜか鳎らなかった。そのため、予定の時間に起床するこずができなかった。
困ったな  
 この日は、金山正倫ず玄束をしおいた。
 童貞の圌ず、ワリキリをする予定があった。
 そしお、その埌にも予定が入っおいた。
 ずある゜ヌプランド店で、急遜、面接しおもらえるこずになったのである。そこでもし勀務するこずができれば、今のような貧乏生掻から、䜙裕で抜け出せる。それは、極めお倧事な面接である。
 さすがの楜倩家の圌女でも、四十五歳のこの歳で、ずっず友達の家での居候暮らしでは、さすがにダバいだろうず思った。
 だからずりあえず、ちゃんずした店で働いお、金を貯めたい。
そしおい぀か、隠れ家的な、玠敵なお店を開いおもいいなあ  
 圌女はがんやりず、そんなこずを思う。
 圌女は、パチンコのほかに、居心地ずセンスの良い店を芋぀けお通うずいう趣味も持っおいた。良さそうな店があるず知れば、地方にたで足を䌞ばすこずもある。
 しかし最近は貧乏暮らしのため、その趣味のほうは、ずっずできおいない。
 そんな蚳だから、今回は申し蚳ないが、金山ずの玄束は、リスケしお貰いたい。
 今から行っおも、どうせもう、倧遅刻である。
 それに、もし行ったずしおも、今日はもう、あたりゆっくりしおはいられない。
 倧事な面接には、絶察に遅刻するわけにはいかないのである。
 優先順䜍ずしおは、面接の方が高いに決たっおいる。
 童貞卒業のお手䌝いなんか、い぀でもできる。
 しかしその面接の機䌚は、今日しかない。
 その店は、かなり絊料が良い。もし、老婆になるたでずっずそこで働くこずが可胜なら、そうしおも良い。ずにかく、この貧乏生掻から抜け出せる、倧チャンスが蚪れおいた。
 ずりあえず、倧急ぎでシャワヌを济びた。
 それからたた、どうしようかず考えた。
 しかしやっぱり、ずりあえず、金山のもずに行ったほうが良さそうだ。
 リスケするにしおも、ずりあえず、金山ず面ず向かっお盞談しおから決めたほうが良いだろう。ラむンでの文字だけのやり取りだず、おそらく、断るための口実だず思われるだろう。
 盞談しおみた結果、どうしおも今日が良いずいうのであれば、あたり長々ず付き合うこずはできない。おそらく、二時間くらいしか付き合えない。
 それでも今日がいいのか
 あるいは、もっずゆっくりできる日に、リスケした方が良いのか
 それを金山に決めさせるず良いだろう。
 ずりあえず、あれこれ考えおいる暇はない。
『ごめん、寝坊した タクシヌですぐ向かうから埅っおお』
 それだけ急いでラむンしお、超特急で、倖出の支床を枈たせた。
 スマホが鳎った。
『わかりたした。お埅ちしおおりたす。』
 ず返っおきた。
 がやがやず服を遞んでいるヒマは無かったので、悪いなず思いながらも、普通のゞヌパンず黒いセヌタヌを着た。
 䞋着は安物のベヌゞュのタンガショヌツず、ブラゞャヌにした。
 鏡をみるず、そこには嫌になるくらいにおばさん顔の䞭幎女が映っおいた。
 ずりあえず、急いで倖に出お、タクシヌを捕たえた。
 そしお乗り蟌んだ。
『今タクシヌに乗ったから。あず十五分くらいで着くず思う』
 そうラむンを送った。
 そしお車内でせっせず化粧した。
 スマホが鳎った。
『わかりたした。お気を぀けおお越しください。』
 ず返っおきた。
 なんずか、かなり雑に、化粧を終わらせた。
さおさお  
 ず蘭子は思う。
 正盎、今日はあたり乗り気ではない。気が重い。
 今日の盞手は、遊び慣れた男ではなく、いかにも面倒くさそうな、童貞である。
 しかし果たしお、それは本圓か
 たず、それが疑わしい。
 圌は、蘭子をからかっお、遊んでいるのかもしれない。童貞のふりをしおいるだけの可胜性がある。
 客には、いろんな奎がいるのである。䞀芋真面目そうで、実は、めちゃくちゃ倉な奎の可胜性もある。
 ずにかく実際に、この目でじっくり顔を芋お、確かめたい。
 䞀䜓どういう぀もりで、ああいった気色の悪い長文メッセヌゞを送り぀けおきたのか
 それも、絵文字ひず぀ない堅苊しい文章で。
 それを芋たずき、正盎ぞっずした。
あ、こい぀党然垞識ないんだ  
 ず思った。
 正盎、やばい奎だず思っおしたった。
 関わらない方が良さそうに思えた。
 普通の女だったら、絶察に関わらないだろう。なんか、地雷の匂いが、ぷんぷんする。
 しかしそれでも、今の蘭子は、客を遞んでいられる身分ではない。ずりあえず、どんな痛客でも、来る者こばたずで、なんずかこなしおいかなければいけない。
「あ、このあたりでいいよ。止めお  」
 そう運転手に声をかけた。
 タクシヌは、埅ち合わせのファミレスの近くたで来おいた。
 タクシヌが止たった。
 金を払い、タクシヌを降りた。
 そしお倧急ぎでファミレスに向かった。
 圌女は、柄にもなく、テンパっおいた。なにか、劙に緊匵しおいた。
 ファミレスの䞭に入った。
 店内を芋たわした。
 すぐに金山の姿が目に入った。
 圌は立ち䞊がっお、ぺこりずお蟞儀しおきた。
 その顔は匕き攣っおいた。
 䞀時間以䞊遅刻しおしたったため、内心怒っおいるのかもしれない。
「わヌん、遅刻しちゃったぁ。ごめんねぇ、目芚たし鳎んなくおさぁ  」
 蘭子はそう蚀っお、圌の前の垭に座った。

 八

 ファミリヌレストランのボックス垭に、志田蘭子は滑り蟌むようにしお腰掛けた。
 倧遅刻だった。玄束の時間から䞀時間以䞊が経過しおいた。
「ほんずごめんね」
 蘭子は、再び謝った。
「いえ  来お頂けただけで、最高に嬉しいです」
 金山は、卑屈な笑顔を浮かべお、そう蚀った。
 童貞の、そんな態床が、蘭子には気持ち悪い。こっちは倧遅刻しおきたのだから、感情をむき出しにしお怒られる方が、ただマシである。
「でもさあ、本圓にごめんなんだけど」
 蘭子はセヌタヌの胞元を少し気にしながら、切り出した。
「なんですか」
「今日さあ、あんたりゆっくりできないんだよね」
「そうですか」
「遅刻しおきおこんなこず蚀うの、本圓に申し蚳ないんだけど  」
 蘭子がふず芋るず、金山の顔からは、完党に血の気が匕いおいた。圌は、奇劙な薄笑いを浮かべおいた。
「じゃあ  今日は䞭止ですか」
やっぱりな
 ず内心、金山は思った。
 想定内である。
 すべおの期埅は、必ず最埌には、がっかりしお終わる。それは、確実に螏み躙られる。それがい぀ものパタヌンである。
 運呜はい぀だっお、圌がセックスするのを、絶察に蚱さない。
 しかし、蘭子の意図は、たったく違う。
 圌女は、できれば今日は、皌ぎたい。わざわざここたで来たのだから、それを無駄足にはしたくない。この埌の、゜ヌプランドの面接に行くたでの短い時間で、手早く皌ぐこずができたら、それがベストである。
「いや、䞭止っおいうかさ、この埌、どうしおも行かなきゃいけないずころがあんだよね。だから  リスケする」
「もし可胜なら  」
 金山は、力なく蚀った。
「  今日、お願いしたいです  」
 圌は、奇劙な薄笑いを浮かべたたた、力なく、そう蚀った。
 金山の衚情は暗い。
 圌は、そのリスケの提案を、断る口実だず思っおいた。
「そう。わかった  じゃあ、すぐホテルいこっか」
「え⁉」
「時間もないしね」
「い、いいんですか⁉」
「うん」
 驚愕の金山は、匟かれたように立ち䞊がろうずした。
「あ ちょっず埅っお」
 蘭子は、それを手で制した。
 圌女は、気になっおいた疑問を、ぶ぀けおみる。
「っおいうかさあ、マサくん」
「なんですか」
「経隓ないっお  それ、本圓なの」
 蘭子は、疑り深い目぀きで、じろりず金山の顔を芋た。
 ただの痛客が、りブなフリをしお自分をからかっおいるのではないか。颚俗の䞖界には、そうやっお女を隙しお楜しむ歪んだ客が䞀定数存圚する。
 金山は、真剣な衚情で、頷いた。
「はい、本圓です」
「ほんず ネタじゃないの」
「はい、ネタではありたせん」
「ふヌん」
「俺みたいな䞭幎童貞、けっこう倚いんですよ」
「ぞえ」
「『ルポ䞭幎童貞』っお本によるず、長野県の人口ず同じくらい、いるらしいです」
「そうなんだ」
 そうムキになっお説明する金山の様子に、蘭子は、思わず苊笑しおしたった。
「そっかあ、長野県ねぇ  じゃあ、ずにかく行こっか」
「はい」
 二人はファミレスを埌にした。
 池袋の道を、二人は䞊んで歩く。
 昌䞋がりの街は人通りが倚く、すれ違う人々が自分たちを、どういう関係ずしお芋おいるのか、金山は気になっお仕方がない。お排萜をしおきた぀もりだが、四十代半ばの自由奔攟そうな女性ず、ださい服を着た冎えない䞭幎男の組み合わせは、どう芋おも䞍釣り合いだ。
 金山正倫は、ひやひやず怯えおいた。
さあ、ここから、どうやっおひっくり返る
 運呜は、今日は、どんな劚害を芋せおくれるんだ
「でも、ホテル、満宀かもね。そん時はごめんだけど、本圓にリスケだね」
 蘭子が歩きながら、予防線を匵るように、そう蚀った。
 蘭子が喋るたびに、金山は、びくりず身を震わせた。
 しかし、その件に関しおは、問題ない。
 金山はフッず、埗意げな笑みを挏らした。
「いえ、ホテルはもう郚屋を取っおたす」
「え、そうなの アむネ」
「はい、ご指定通り、アむネです。先にチェックむンを枈たせおおきたした」
 蘭子は䞀瞬、蚀葉を倱った。その、入念な準備に、少しだけ背筋が寒くなる。
 歩みを勧めるごずに、アむネの掟手な看板が近づいおくる。
 金山の脳内では、独自の考えが枊巻いおいた。
童貞卒業ずは、ホテルの郚屋で、女性ず二人っきりになるこずである
 それを䞖の女性たちは、絶察に、圌には蚱さない。
 しかし今、その絶察的な法則が、厩れようずしおいる。
たさか  このたた行くのか
 二人はアむネの敷地内に入り、薄暗い゚ントランスぞず足を螏み入れた。
 自動ドアをくぐり、ロビヌを通り抜ける。
 すべおが金山にずっお、鳥肌が立぀ほどに感動的だ。ありえない奇跡が、今、自分の身に起こっおいた。女性ずラブホテルに入っおいるずいう事実だけで、胞の奥から熱いものが蟌み䞊げおくる。圌は、䞖界䞭の人間に、この事実を自慢したいような気分になっおいた。
さお、ここから、どうひっくり返る
 口は灜いのもず。
 金山は、䞀切、無駄口を叩かない。軜率な発蚀のひず぀で、蘭子を激怒させ、すべおがぶち壊しになっおしたう。
 ずにかく、誠実あるのみ。倧敬語。蘭子に嘘は、䞀切぀かない。ベストを尜くす。ただそれだけだ。
 䞀方の蘭子は、金山の極床の緊匵を感じながら、それを解すように、ずっず賑やかなお喋りを続けおいた。
「マサくん、プログラマなんだよね かっこいいね」
「いえ、絊料は安いですから」
「確か、宮厎出身だったよね。たたには実家に垰ったりすんの」
「いえ、もう䜕幎も垰っおたせん」
 蘭子の根掘り葉掘りな質問に察しお、金山は銬鹿正盎に、䞀切の嘘を亀えずに、誠実に答えおいく。
 そのあたりの玠盎さに、蘭子は次第に別の感情を抱き始めおいた。
これっお本圓に、ガチのや぀じゃん  
 蘭子の心に、じわじわず䞍安が広がっおいく。
 四十二幎間、すべおの女に芋捚おられた、魅力が乏しい男の、溜たりに溜たった、ドス黒い性欲。その犍々しい情念を、自分が、受け止めきれるのだろうか。四十二歳の童貞を、「優しくリヌドしおあげる」なんお芞圓、フリヌランスの颚俗嬢ずしお適圓に生きおきた自分には、到底できるずは思えない。
 そんな蘭子の戞惑いを眮き去りにしお、゚レベヌタヌは静かに䞊の階ぞず移動しおいく。
 チン、ずいう軜い電子音ずずもに扉が開き、二人は静たり返った廊䞋ぞ出た。
 金山が前もっお確保しおいた郚屋の前に立ち、鍵を開ける。
 ドアを抌し開け、金山は先に郚屋の䞭に入った。
油断するな  ただ  ここからでも  ひっくり返るから  
 そしお、ドアを手で抌さえお、
「さあ、どうぞ  」
 震える声で、蘭子を招き入れる。
 圌女は、ごくりず唟を飲み蟌み、恐る恐る、郚屋の䞭に入った。
 カチャリ、ず背埌でドアが閉たり、ロックされる音が響く。
 その瞬間、金山の目から、ぶわっず涙が溢れた。
ずうずう、ホテルの郚屋の䞭で、女性ず二人っきりに  
 圧倒的な感動の波が、圌に、抌し寄せおいた。
 ただ肌を合わせおもいないずいうのに、圌はこの事実をもっおしお、すでに、
〝童貞卒業〟
 ず感じおいた。
「ぷっふっふっふっふ  」
 金山は、匟けるように泣き出しおいた。

 九

「どうしたの」
 泣いおる童貞に問いかける。
「なんでもない  なんでもないんです  」
なぜ泣く
 蘭子は戞惑う。
 それも、いきなりである。
 意味䞍明である。
 それは、酷くみっずもない泣き方であるように、蘭子には感じられた。
 正盎蚀うず、そんな、蚳のわからない涙の蚳など、知りたくもない。
 関わりたくない。
 蘭子の䞭で、生理的嫌悪感が、みるみる膚らんでいく。
やっぱ地雷だ  
 そんな颚に思っおしたう。
 ずにかく、童貞を、郚屋の䞭に座らせた。
 それは、倧きな革匵りの゜ファである。
「本圓にありがずうございたす  ぷっふっふっふ  」
 金山は、カバンの䞭から封筒を取り出し、それを蘭子に手枡した。
 蘭子がその䞭を確認するず、そこには䞀䞇円札が五枚入っおいた。
 金山は泣きながら、頭を䞋げ続けおいた。
「ありがずうございたす  ありがずうございたす  」
 莫迊のように、そう蚀い続けおいた。
 蘭子は、そんな童貞を、薄気味悪そうに芋おいた。
宇宙人  
 思わず、そう思っおしたう。
 今すぐ金を返しお、ここから逃げ出したい。
 そしお、こんな蚳のわからない気持ちの悪い男ず、セックスなんお、絶察にしたくない。
 そんな気持ちが沞いおくる。
 その拒絶感は、理屈ではない。本胜的なものである。それは、女々しい雄の皮は、絶察に孕みたくないずいう、優秀な遺䌝子を求める雌の本胜かもしれない。
 しかしずにかく、蘭子は、すでに金を受け取っおいる。
 通垞は、報酬金は、セックスが終わっおから、支払われる。
 前払いする客は、それだけで、良心的な客だず蚀える。
 悪質な男だず、サヌビスが悪いだなんだず文句を぀けお、払わない者もいる。
 払わないず開き盎られおしたうず、もう、どうしようもない。出䌚いカフェに苊情を入れおも、店は基本、男偎の味方である。だから、もう二床ずその男の盞手をしないようにするしか、察応手段がない。
 女同士は、お互いに、うわべだけの付き合いで、深くは関わらないようにしおいる。だから基本、情報共有は行われない。みんな殺䌐ずした個人䞻矩者である。悪質客ず倖出する女がいおも、誰も、䜕も蚀わない。助けない。
 そしお、もし䞋手に客ず諍いを起こしおしたうず、どんな目に遭うか、わからない。
 過去には、女子倧生ず男の口論の果おに、女が銖を絞められお殺された事件も発生しおいた。
 笑えない冗談で、
「ほい、玄束の二䞇  」
 ず蚀っお、韓囜の玙幣である、二䞇りォンを手枡す者も、過去にはいた。
 頭のおかしな人間ずいうものは、いくらでもいるものだ。
 蘭子は、じっず受け取った五枚の玙幣を眺めた。
返しちゃおうかな  
 圌女は、そう迷う。
 しかし、せっかく手に入った五䞇円を、返しおしたうのは惜しい。
 だから、いくら生理的に嫌悪する盞手であったずしおも、なんずか、うたくこなしたほうが、良いに決たっおいる。
 蘭子は頭を切り替えた。
 プロずしおの、営業モヌドである。

 䞀〇

 志田蘭子は、金山正倫から受け取った五䞇円を財垃に収めながら、少し芖線を泳がせた。
「ずにかく私、さっきも蚀った通り、すぐに行かなきゃいけないんだよね  」
 蘭子はこの埌、゜ヌプランドの面接がある。
「いいですよ」
「ん」
「もう、垰っおもいいですよ」
「は」
「もう俺、満足です」
「  」
 童貞卒業の報酬金ずしお、五䞇円を受け取るず、蘭子は認識しおいる。しかし金山は、ただ䜕もしおいないのに、そんなこずを蚀っおきた。
 たったく意味が分からない。
「それっお  キャンセルっおこず」
「いえ、そうではありたせん」
「じゃあ、お金は返さなくおもいいの」
「はい、返さなくお良いです。今日はありがずうございたした」
 金山はそう蚀っお、めそめそ泣いおいる。
なにそれ
 蘭子は、そんなこず蚀われお、「はいそうですか」ず垰れるわけがない。圌女は別に乞食じゃない。正圓な報酬なら、堂々ず受け取るこずができる。しかし、蚳の分からない金を受け取るのは、気持ち悪い。
 それに、これから゜ヌプランドの面接があるのである。
 こんな、蚳の分からない金を受け取っお、そのたた平気で枈たしおいたら、間違いなく、その面接は萜ちそうな気がする。プロのサヌビスを提䟛する者ずしお、䜕もサヌビスしおいないのに、報酬金だけを貰うようでは、もうプロ倱栌だ。
「ずにかく、じゃあ、お金は返すよ  」
 枋々ず、財垃から五䞇円を取り出す。
「いえ、受け取っおください」
「受け取れないっお」
「いえ、どうぞお受け取りください」
「あのね  それっお私に倱瀌すぎるよ 返すっお」
「いえ、今日はもう充分ですので  」
 そんなやりずりが続く。
「じゃあ  䞀䞇円だけ貰っずくよ。そしお時間いっぱいたで、お話しよ」
「  」
「それも嫌 早く垰っおほしい」
 しかし蘭子ずしおは、さすがに手ぶらでは垰りたくない。
 わざわざここたで来おいるのだ。タクシヌ代だっおかかっおいる。
 䞀緒に食事をする堎合は、䞀時間五千円を貰っおいる。だから今回は、二時間皋床の拘束時間ず考え、䞀䞇円くらい貰うのが劥圓であり、それなら正圓な報酬ずいえるだろう。
「うう  ううううう  」
 たた金山が、激しく泣き出した。
「でもやっぱり、申し蚳ないけど、俺、どうしおもセックスしたいです  もう気が狂いそうなくらい、セックスしたいです  」
「はあ」
どっちなの
「じゃあ、するの」
「でも、よくよく考えおみたら、自分のこずを奜きでもない女性ず、盞手は嫌がっおるのに、盞手はセックスしたくないのに、自分だけがセックスしたくお、盞手は金のためだけに嫌々それに付き合っおくれるような、そんなセックスなんお、する意味あるのかなっお  」
「じゃあ、しないの」
「でも、切ないです  やっぱり、もう、どうでもいいから、ずにかく、お願いしたいです  俺、やっぱり、セックスしたいです  」
「わかった  じゃあ、するでいいのね」
「はい  お願いしたいです  」
はあ、たったく  だる  
 蘭子は、うんざりしおしたう。
「蘭子さん、あずどのくらい、ここにいられるんですか」
 めそめそず泣きながら、金山が尋ねる。
「そうだなあ。䞉時くらいには、ここを出なきゃだから  」
 蘭子が腕時蚈に目を萜ずしながら蚀う。
 金山も、珟圚の時刻を確認した。
「じゃあ、あず䞀時間五十分もいられるんですか」
「うん、たあ、それくらいは倧䞈倫だけど  」
 䞀時間五十分。
 金山にずっお、それは充分に長い時間のように思えた。この密宀で、女性ずセックスするために䞎えられた䞀時間五十分は、充分すぎる、たっぷりな時間のように思えた。
䞀時間五十分もあれば  
 本圓の〝童貞卒業〟だっお、できそうに思えた。

 䞀䞀

 金山正倫は、女性ずホテルの郚屋で二人っきりになれたこずで、もう童貞を卒業したような気になっおいた。
 そしお、ひどく感動しおいた。
 そのため、蘭子に察しお、思わず、
「もう、垰っおもいいですよ」
 などずいう、栌奜を぀けたこずを蚀っおしたった。
 蘭子が、無理しお自分の盞手をしようずしおいるのは間違いない。誰だっお、奜き奜んで、自分の盞手なんかしたいわけがない。それはさぞかし苊痛だろう。
 だから金山は、申し蚳なくなっおきた。
 ホテルの䞭にたで䞀緒に付いおきおくれたような優しい女性に察しお、もうこれ以䞊、迷惑をかけたくない。ここたで付いお来おくれただけで、もう五䞇円を払う䟡倀は、充分にある。
 だからもう、蘭子を解攟しおあげるべきだ。これ以䞊、無理をさせるのは気の毒だ。
 そんな思いが、心䞭で、みるみるず膚らんだ。
 しかし、そんな自分を叱責する声もある。
そんなだから、お前は、い぀たでたっおも童貞なんだ
 そう怒鳎る声もある。
 いざずいうずきには、぀い、栌奜を぀けおしたう。
 そんな〝眠〟も、間違いなく運呜の働きかけだろう。運呜は執拗に、圌からセックスを遠ざけおいる。絶察に圌にセックスをさせないようにしおいる。
 もう、「䞀生童貞」の運呜が決定しおいるようにさえ思えおいた。
 そんな運呜を、金山は倉えたい。
 だから、この期に及んで、栌奜を぀けるような真䌌は、絶察にしおはいけない。
「もう、垰っおもいいですよ」
 なんおこずは、本圓は、口が裂けおも蚀っおはいけない。
 盞手が逃げるなら仕方がない。しかし、自分から逃がすような真䌌は、絶察にしおはいけない。
 蘭子には気の毒だが、時間の蚱す限り、付き合っお貰いたい。
 それはさぞかし苊痛だろう。
 しかし、我慢しお貰いたい。申し蚳ないが、そうしおほしい。
 圌は、この機䌚を、絶察に逃したくない。
 これを逃すず、もう二床ずこんな機䌚は無いだろう。もう䞀生童貞だろう。
 でも、よくよく考えおみたら、自分のこずを奜きでもない女性ず、盞手が嫌がっおるのに、盞手はセックスしたくないのに、自分だけがセックスしたくお、盞手は、金のためだけに嫌々それに付き合っおくれるような、そんなセックスなんお、する意味あるのか
 それでもやっぱり、どうしおも、もう気が狂いそうなくらい、セックスしたい。
 もう、すぐ手の届くずころにセックスがあるのだず思うず、もう圌の股間は、猛烈に熱くなる。
 胞が苊しくお堪らない。切ない。やっぱり、もう、どうでもいいから、ずにかくセックスをお願いしたい。
 金山の気持ちは決定した。
 やっぱり、どうしおもセックスしたい。
 女性ず郚屋の䞭で二人っきりになるだけでは、童貞卒業ずは認められない。やはりこの機䌚に、䜕がなんでも、セックスしおおかなければならない。
 そうず決たれば、金山の䞋半身から、犍々しいほどの欲望が沞き出おきた。
「なにか  冷たいものでも飲みたすか」
 金山は、内心の欲望を懞呜に抑え、そう尋ねた。
 その涙は、止たっおいた。
 その目぀きは、ガラリず倉わっおいた。
 圌に〝魔〟が取り憑いおいた。
 圌の䞭に、匱気な圌ず、〝魔〟の取り憑いた圌が、同時に存圚しおいた。
 そんな圌の倉化を、間近で、蘭子は察知した。経隓豊富な圌女は、男が突然〝狌〟に豹倉する生き物であるこずを知っおいる。だから圌女は、怯えたような衚情を芋せた。
「あ、うん、倧䞈倫、ありがずう  でもさ、マサくん」
 蘭子は、気たずそうに、もじもじした。
「なんですか」
「私、別に、セックスは、䞊手じゃないんだけど  」
 蘭子の衚情には、隠しきれない䞍安が色濃く滲んでいた。
 金山が、ふいに発散しおきた、犍々しい、雄の熱量。
 それが尋垞ではなく感じられた。
 それはたさに、四十二歳の童貞の、溜たりに溜たった、圧倒的な熱量である。どんな女でも逃げ出したくなるような、怖いくらいの熱量である。
 金山は、陰惚に目を现め、匕き攣った笑みを浮かべおいる。呌吞を荒くしおいる。
 そのズボンの前は、隆々ず膚らんでいた。

 䞀二

重すぎる  
 金山の膚らんだズボンの前を恐々ずチラ芋した蘭子は、背筋に冷たいものが走るような恐怖を芚えおいた。これたで䜕癟人ずいう男を盞手にしおきた蘭子だったが、これほどたでに玔粋で、か぀歪んだ執念を孕んだ熱量を突き぀けられたこずはない。
 こんな男の童貞を、果たしお無事に卒業させるこずができるのか
 荷が重く感じられる。いっそ、五䞇円を叩き返しお、今すぐこの郚屋から逃げ出しおしたいたい。そうすれば、どれほど楜だろう。
「ずにかく  先にシャワヌ济びちゃうね」
 蘭子はこれ以䞊、郚屋の重苊しい空気に耐えかねたように立ち䞊がり、逃げるようにしおバスルヌムぞず消えおいった。
 䞀人残された金山は、゜ファに悠々ず深く腰かけ、倧きく息を吐き出した。
 至犏──このひずずきをそう蚀わずしお、なんず蚀おう。今、あの扉の向こうで、生身の女が自分ずセックスするために、その裞䜓を湯あみしお枅めおいる。自分の人生では絶察に起こるはずのない奇跡が、今、確実に進行しおいる。
運呜は、ここからどうやっおセックスを取り䞊げる぀もりだ
 俺はその前に、心臓発䜜で死ぬのか
 もう邪魔が入る䜙地はない。これは倢でも劄想でもない。手の届く堎所にある珟実だ。
 シャワヌを終えた蘭子は、掗面所の鏡の前で、必死に呌吞を敎えおいた。備え付けのドラむダヌを握り、入念に身だしなみを敎え始めおいた。髪の毛の䞀本䞀本に至るたで、時間をかけおチェックしおいく。生足の虫食い跡は、コンシヌラヌで䞁寧に隠した。
 昚日のうちに、陰毛は綺麗に剃っおいた。
やるからには  完璧にやらないず
 蘭子は鏡の䞭の、嫌になるほどおばさん化した自分の顔を睚み぀けた。その衚情は、真剣そのものだ。
 出䌚いカフェでの割り切りの盞堎は、二䞇円。しかし金山は五䞇円ずいう倧金を、惜しげもなく自分に支払った。
 そしお䜕より、この埌には自分の人生を巊右する゜ヌプランドの重芁な面接が控えおいる。もしその店で働くこずになれば、金山のような、䞍噚甚で、孀独で、心に深い傷や屈折を抱えた男たちが、客ずしお䜕十人も、䜕癟人もやっおくるに違いない。
 これたでの蘭子は、颚俗を、どこか腰かけバむトのような感芚で、適圓にこなしおきた。しかし、四十五歳になった今、もう埌がない。友達の家で居候し、パチンコばかりしおいる惚めな生掻から抜け出すためには、今埌は本物のプロずしお、死に物狂いでこの䞖界にしがみ぀くしかない。
これは、私のデビュヌ戊なんだ  
 蘭子は匷く拳を握りしめた。
 この四十二歳の重たい童貞を、自らの技術ず包容力で満足させ、救うこずができたなら。その揺るぎない実瞟ず自信さえ摑めば、この埌の゜ヌプランドの面接官の前でも、本物のプロずしおの芚悟ずやる気を、堂々ずアピヌルできるはずだ。逆に、ここで怯えお倱敗しおしたえば、面接も、これからの人生も、すべおが駄目になっおしたいそうな気がする。
 掗面所の前で、䞭幎女・志田蘭子は、䞀人の男を党力でもおなすための、静かな、しかし退路を断った芚悟を決めおいた。
しかし、どうすれば  
 セックスがそんなにうたくない自分が、どのようにしお、あの拗らせ切った䞭幎の童貞を、うたく卒業させるこずができるのか
 倱敗するず、圌の䞀生のトラりマになるかもしれない。
 蘭子の頭には、それを回避するための方法は、䞀぀しか思い浮かばなかった。

 䞀䞉

 バスルヌムぞ向かった蘭子は、長々ず戻っおこなかった。
 圌女は、䞀時間五十分の時間を短くするために、そこで長々ず時間を朰しおいるのかもしれないなず、金山は思う。しかし䞀時間五十分は長い。いくら時間を朰そうずしおも、それにも限床があるだろう。どうせい぀かは、圌の前に戻っおこなければいけない。
 金山は、じりじりしながら、蘭子が戻っおくるのを埅っおいた。脚を組んで、゜ファヌに座っおいた。
 圌は、激しく昂っおいた。
 しかしずにかく、ここたで来たら、すべお運呜に身を委ねようず思う。
 埅たせるだけ埅たせればいい。バスルヌムで、䞀時間五十分ずっず籠るなら、そうすればいい。そしお結局、セックスできなかったずしおも、それもたた運呜だ。
 圌は、運呜を呪いながらも、同時にたた、運呜を信じたい。すべおは、なるようになるず思いたい。過去の過ち、埌悔、珟圚の生き方、それらすべおが、運呜によっお決たっおいるものだず考えるず、圌は、気が楜になる。自分は䜕も悪くないのだず思うこずができる。
 圌にはい぀も、自分が間違った生き方をしおいるように思えおいた。それが圌を悩たせ、苊したせおいた。
 しかし、すべおが運呜なら、すべおが、なるようになっおいるだけなら、圌には䜕も萜ち床はないずいうこずになる。もしそうなら、圌は、気が楜になる。自分はなにも悪くないのだず思える。圌は、そう思いたい。すべおを運呜のせいにしたい。
 圌は、゚ゎむストで、ワガママで、自己䞭心的で、駄々っ子である。今たで出䌚っお、知り合ったすべおの他者たちに、迷惑だけをかけおきたような気がしおいる。ただの䞀床の良いこずもしたこずがないように思えおいる。い぀も悪いこずばかりをしおいるように思えおいる。すぐ怒る。気が短い。心が狭い。プラむドが高い。倉に頑固。
 極床に昂った興奮の䞭、険しい目をしお、じりじりず蘭子を埅ちながら、金山は、そんなようなこずを、がんやりず思っおいた。
 そしお、ずうずう蘭子が戻っおきた。
 圌女は、癜いバスロヌブを身に぀けおいた。
「お埅たせ」
 その声は、かすんでいた。䞋を向いたその笑顔は、匕き攣っおいるように芋えた。その様子からは、普段の明るいタメ口おばさんの䜙裕が倱われおいた。
「じゃあ、俺もシャワヌ济びおきたす」
 金山は立ち䞊がり、そう蚀った。
「うん、埅っおるね」
 蘭子は目を合わせない。゜ファヌに腰かけ、芖線を床に萜ずしおいた。その暪顔には、どこか匵り詰めた空気が挂っおいた。
 金山はバスルヌムぞず歩みを進めた。
 ズボンの前は、すでに猛烈に膚らんでいた。圌はもう、蘭子の前で、それを隠そうずはしおいない。そんなこずは初めおだ。これたでの人生においお、他者の前で、勃起した姿を芋せるなんおこずは、䞀床もなかったし、それは絶察に避けおいた。しかし今は、それを堂々ず芋せお良い。なぜなら、これからセックスをするからだ。それを隠さなくおも良いのだずいう圧倒的な解攟感が、金山を恍惚ずさせおいた。
 圌は、シャワヌを济びお、シャンプヌずボディヌ゜ヌプで、入念に髪ず䜓を掗った。それから、濡れた髪を、タオルでごしごしず擊った。䜓を拭いた。掗面台の前で、䞹念に歯を磚いた。口臭の原因になりそうなものは、昚日から䜕も食べおいない。ヘアヌスタむルを敎えた。バスロヌブを着た。
いよいよだ  
 郚屋に戻れば、倢にたで芋た、セックスである。
 情けないこずに、極床の興奮ず緊匵のあたり、脚がガクガクず震えおいた。胞がドキドキず高鳎っおいた。頭を搔きむしりたくなるような、猛り立った欲望を、圌は懞呜に抑えおいた。
 コンドヌムは、あらかじめ薬局で買っおおいたものを、カバンの䞭に入れおいた。わざわざ買わなくおも、ラブホテルにそれが甚意されおいるこずを、圌は知らなかった。
 コンドヌムの箱を開け、ずりあえず、その二぀を手に取った。それを枕元などの手の届くずころに、こっそりず眮いおおく必芁がある。
 いざずいうずきに、あたふたしおしたうこずを、圌は恐れおいた。䜕床も深呌吞しお、なんずか気持ちを萜ち着かせようずした。
 そしお、なるべく䜙裕そうに振る舞いながら、郚屋に戻った。
 ‌
 圌は、小さく息を呑んだ。
 い぀の間にか、郚屋の照明が萜ずされおいた。郚屋は、がんやりずした薄明かりに包たれおいた。
 そしお蘭子は、すでにベッドの垃団の䞭に入っおいた。掛け垃団が、女の圢に盛り䞊がっおいた。圌女は、金山に背を向けるようにしお、暪たわっおいた。頭の半分たで掛け垃団を被るようにしお、じっず無蚀で、圌を埅っおいた。その埌頭郚の半分だけが芋えおいた。
 それは、金山にずっお、頭を殎り぀けられたような、衝撃的な光景だった。
 蚀葉による説明も、うわべだけの䞖間話も、すべお排陀された空間。ここから先は、有無を蚀わさぬ、問答無甚のセックスの始たりなのだずいう珟実。
 それが蘭子の手により、䜜り出されおいた。
 その、掛け垃団をかぶった熟女の埌ろ姿は、たるで、飢えた狌の前に差し出された、血のしたたる莄のようだ。

 䞀四

 蘭子が遞択した唯䞀の方法は、マグロになるこずだ。
 䞋手にリヌドしないほうが良い。それができるずも思えない。どこであの童貞の地雷を螏むか、わかったものではない。たた泣き出すか、あるいは、いきなり切れられおも困る。䞀芋、気が匱そうに芋える男が、圓然ブチギレお凶暎化するケヌスを、圌女は䜕床も芋おきた。
 そんな䞭で、プロずしお、しっかりずもらった五䞇円分のサヌビスを提䟛しなければいけない。
 だったらいっそ最初から、なにもかも童貞の手に委ね、ただ、物蚀わぬ物質ず化しお、自分の䜓を、奜きなようにさせれば良い。それが䞀番安党だ。それより良い方法があるずは思えない。
 しかし、童貞が恐る恐るベッドに近づいおきた時、蘭子のそんな目論芋は、音を立おお厩れ去った。
 そこには、異垞なほどの緊匵感が匵り詰めおいた。
 背を向けた蘭子の錻腔に、シャワヌを济びたばかりの童貞の、熱を垯びた皮膚の匂いが飛び蟌んでくる。四十二幎間、恋愛ずは無瞁な男の、溜たりに溜たったドス黒い欲望。そしお、その狂おしい熱量。嵐のように荒々しい息遣い。
 その尋垞ではない気配が、密宀の重苊しい空気を通じお、蘭子の肌に盎接突き刺さっおきた。
こ、怖い  
 蘭子は自分の脈動が、耳の奥で爆音を立おおいるのを聞いおいた。
 これたで䜕癟人ずいう男を盞手にしおきた。酞いも甘いも噛み分けた颚俗嬢ずしお、男の扱いなど知り尜くしおいる぀もりだ。
 だが、迫りくる童貞の攟぀熱量は、遊び慣れた男たちのそれずは根本的に違う。それは、あたりにも重い、呜懞けのような、むき出しの情念。
 それに盎面したずき、蘭子は本胜的な恐怖ず、それ以䞊に、今たで感じたこずのない奇劙な興奮に䜓の芯を貫かれおいた。喉はカラカラに枇き、垃団を握る指先が震える。
 童貞を盞手にするのが初めおだった蘭子は、その圧倒的な熱量に、自分のほうが、完党に気を呑み蟌たれおしたっおいた。
 お互いの異なる、しかし同じように激しく暎れる心臓の錓動が、薄暗い郚屋の静寂の䞭に重なり合っおいく。
 童貞はゆっくりず垃団をめくり、圌女の埌ろに身を滑り蟌たせた。
 沈黙の䞭で、お互いの荒い呌吞音だけが重苊しく響く。
 童貞は生唟を呑み蟌み、震える手を蘭子の肩ぞず䌞ばしかけ、その寞前で螏みずどたった。そしお、人生の倧䞀番のような真剣な声で、圌は尋ねた。
「さ、觊っおもいいですか」
 その問いかけに察しお、蘭子が、ようやく唇の隙間から絞り出したのは、およそ経隓豊富な氎商売の女性のものずは思えない声だ。
「うん  」
 うわずった、たるで今にも泣き出しそうな声だ。
 極床の興奮ず本気の緊匵に翻匄され、完党に倧人の理性を奪われおずり乱しおいるかのような、切なげな響き。それはたるで、玔朔な凊女が、婚瀌の倜に決死の芚悟で倫に身を差し出すずきの、あの初々しい怯えの声のようだ。
 蘭子の、その「うん」ずいう蚀い方を、童貞は生涯忘れない。忘れるわけがない。それは、この先どれほど時が流れようずも、未来氞劫、決しお忘れるこずができないであろう、この䞊なく可愛らしくキュヌトな雌鳎きのように、圌には思われた。

 䞀五

 薄明かりのホテルの郚屋の垃団の䞭。
 蘭子から「䜓を觊っおもいい」ず蚱可しおもらえた童貞──金山正倫がたず始めたのは、痎挢の動きである。
 たず恐る恐るバスロヌブの䞊から蘭子の肩に手を觊れた。そのたたじっず手を止める。ハァハァずその息遣いは暎颚だ。それを蘭子の銖筋に容赊なく济びせかけた。
 その股間はすでに砎裂しそうなほどに勃起しおいた。
 女性の肩にバスロヌブ越しに手を觊れおいるずいうだけで、圌にずっおは倧事件だ。その胞は感動に打ち震えおいた。すべおが初䜓隓の連続だ。
 ブルブルず震える手で、肩の次は背䞭、腰ず、䞀぀ず぀確かめるように觊れおいった。そしおその手は豊かな臀郚ぞず蟿り着いた。
 金山は手のひら党䜓でお尻の肉を包み蟌むようにしお、䜕床も貪るように撫で廻した。
「ううう  」
 童貞は喉の奥で蚀葉にならない声を挏らしおいた。頭がクラクラしおいた。興奮のあたり芖界がチカチカず明滅しおいた。
 金山は痎挢を題材にしたアダルトビデオが奜きだ。満員電車の䞭での凌蟱を描いた淫らな官胜小説が奜きだ。
 圌にずっお女性ずは、同意の䞊で愛し合う察象ではなく、圧倒的な背埳感のなかで、䞀方的にその肉䜓を䟵略する行為の察象のように思われおいた。そしお目の前で癜いバスロヌブ姿の熟女が無蚀で暪たわっおいるずいう状況は、その歪んだ性癖を満たすための絶奜のシチュ゚ヌションになっおいた。
 お尻を揉みしだきながら金山の手はさらに䞋ぞず䌞び、バスロヌブの裟から䞭に朜り蟌たせ、倪腿も撫で始めた。生枩かい玛れもない女の皮膚の感觊が、圌の脳髄を狂わせおいた。
 䞀方ベッドの䞊でカタカタず震えながら決死の芚悟でマグロに培しようずしおいた蘭子は、背埌からの異様な手぀きの感觊に、埐々に違和感を芚え始めおいた。
なにしおんのこい぀
 蘭子は垃団のなかで目を䞞くしおいた。
 最初は四十二幎分のドス黒い性欲が包䞁のように突き刺さっおくるのかず思っお、怯えおいた。しかし実際には、ただぎこちなくお尻や倪腿を撫で廻すばかりである。
 その手぀きには、女の身䜓を愛撫しおその性感を高めおあげようずいう倧人の男ずしおの配慮や技術が䞀ミリも含たれおいない。ただ自分の手のひらで女の肉を觊りたい撫でたいずいう、䞍噚甚で自己䞭心的で、あたりにも幌皚な童貞の欲望が䞞出しの手぀きだ。
これっおたさか  痎挢
 蘭子は絶句する。
 圌女のなかで匵り詰めおいた恐怖の糞が、プツンず音を立おお切れた。かわりに、バカバカしさが沞き起こる。
このタむミングで痎挢っお  
 その手぀きはぎこちなくお䞍噚甚だ。そしおなんか必死すぎお笑えおくる。犯眪的な恐怖を攟っおいたはずの四十二歳の童貞は、蓋を開けおみれば、自分のみっずもない性癖を晒しおいるだけの愚かしい䞭幎男にすぎない。金山のその性癖は、蘭子の前で完党に䞞分かりになっおいた。
 金山はブルブルず手を震わせながら、倢䞭になっおお尻を撫で廻しおいる。
 蘭子はその圧倒的な熱量を感じながら、
たあ、本人がこれで興奮しおるなら、奜きにすればいいけど  
 ず垃団のなかで、静かに呆れ返っおいた。

 䞀六

やっぱり、少しはリヌドしおあげないずダメかなあ  
 蘭子は、そんな颚に思い始めおいた。
 なんずいっおも、盞手は四十二歳の童貞である。このたた攟っおおいたら、ただひたすらお尻や倪腿を撫で廻すばかりで、残りの時間をすべお䜿い果たしおしたうかもしれない。
 この埌に面接の予定がある蘭子は、行為の途䞭で、この童貞を冷酷に芋捚おなければいけないかもしれない。五䞇円も貰っおいる手前、それだず埌味が悪くなっおしたいそうだ。
 そしお、薄明かりの郚屋のベッドのなかで、終わりのない痎挢行為に身を委ねおいるのは、ずおも気持ち悪く、同時に滑皜でもある。しかし、暗黙の了解のもずで進行するその䞀方的な䟵略行為に察しお、どこでどう声をかけおいいのか、蘭子には分からない。䜕より、その狂気じみた熱意のこもった痎挢行為の邪魔をするこずが、どこか恐ろしいような気もしおいた。䞋手に声をかけるず、圌のなかで眠っおいるかもしれない地雷が、なにかしらの圢で爆発しおしたうかもしれない。
 だが、い぀たでもじっずこうしおいるわけにもいかない。
 蘭子は、かすかなプロ意識を奮い立たせ、自ら倉化のアクションを起こすこずにした。圌女はシヌツの擊れる音を埮かに響かせながら、それたで金山に頑なに背を向けおいた䜓を、ベッドのなかで、くるりず反転した。
 無防備に差し出された莄のようだった熟女が、突劂ずしお堂々ず自分の方に向き盎った瞬間、金山は雷に打たれたかのようにギョッずした。
 その動きが、ぎたりず止たる。
 金山は、その狂おしい劄想の䞖界から、冷たい珟実の空間ぞず無理やり匕き戻されたような顔をしおいた。急速に我に返った圌の顔から、それたでの狂気的な気配が嘘のように消え、元の気匱そうな衚情に戻った。
「ご  ごめんなさい  」
 蚊の鳎くような声を出す。
「ん」
「すみたせん、なんか俺  勝手なこずばかりしちゃっお  」
 おどおどした態床で、金山はシヌツを胞元たで匕き䞊げようずする蘭子の様子を、ビクビクず䌺う。調子にのっお痎挢行為をしおいたなかで、か匱い被害者であるはずの女から突然平然ずした芖線を向けられたこずで、圌はびびりたくっおいた。
「別にいいんだけど、でも、マサくん」
 蘭子は、笑いそうになる唇をなんずか抑えお、普段の明るいタメ口おばさんの調子に戻った。
「ずっずお尻觊っおるだけで、いいの」
「え」
「䜕かほかに、やりたいこずはないの」
 促すような蘭子の問いかけに、金山はごくりず喉を鳎らした。圌の目の奥で、再び激しい炎が燃えあがる。
「あ、ありたす」
「なに」
「できれば  」
 金山は、小心そうに顫えながらも、しかし明確な意思を蟌めお蚀った。
「キス  したいです」
 蘭子は䞀瞬、四十五歳の自分の顔が、至近距離で盞手にどう映るかを懞念したが、すぐにそんな雑念を振り払った。圌女は、この䞍噚甚な迷子を次の段階に導くためのガむドをするこずに決めおいた。
「いいよ、んヌ」
 蘭子は、わずかに目を现め、少女の真䌌事をするように、その玅い唇を少しだけ尖らせお芋せた。

 䞀䞃

 蘭子が差し出した唇を芋぀めながら、金山は数秒の間、完党に硬盎しおいた。䞖界のすべおが停止したかのような感芚のなかで、圌は生唟をごくりず呑み蟌み、ようやく意を決したように、おずおずず顔を近づけた。そしお、その唇の柔らかさに觊れた途端、圌の脳内で䜕かが匟けた。
 金山は蘭子の唇に、ちゅヌっず音が鳎るほど、思いきり吞い぀いた。
 蘭子は驚いお唇を離そうずしたが、金山は逃がさない。執拗に远いかけ、ちゅヌっず吞い続けた。
 加枛を知らない四十二歳の吞匕力が、蘭子の呌吞を奪った。圌女は窒息しそうな恐怖さえ芚えた。
 金山は、そんなキスを長々ず貪り、ようやく䞀旊、唇を離した。
「んヌ  」
 蘭子は、困ったような声を出した。
 それは、そのキスの仕方に぀いお、なにかアドバむスしおあげたほうが良いのではないかず考えおいるような声であった。しかし金山があたりにも幞犏そうな顔をしおいたので、䜕も蚀えなかった。
なるほど  こうなるのか  
 ず圌女は思った。
 そしお再び唇が抌し぀けられた。今床は、口の䞭に、舌が差し蟌たれた。
 蘭子は心䞭で小さくため息を぀きながら、その䟵入者を優しく迎え入れた。拒むこずなく、自分の舌を、圌のそれにそっず絡たせた。
 その童貞の舌は、蘭子の口内で、高速で動いた。
 その動きのスピヌドに、蘭子の舌も、懞呜に合わせた。
 れろれろれろれろず、お互いの舌ず舌が、ただ盲目的に絡み合った。
 金山のキスには、倧人の男が女性を心地よくずろけさせるための緩急や、吐息を混ぜるような繊现な技術は䞀ミリも存圚しない。ただひたすらに、己の口腔を満たす女の味ず感觊に狂喜乱舞し、単調な運動を繰り返すばかりの、あたりにも皚拙で独善的なキスである。
 もちろん、圓の童貞は感激の極みに達しおいた。うっずりず目を血走らせながら、恍惚ずした衚情で、この䞖で最高のキスを味わっおいた。
 䜕床離れおも、たたすぐに蛞のように吞い぀いお、ワンパタヌンなキスを繰り返す。
 蘭子は、ただ静かにその熱量に付き合っおいた。
 そのキスには、䜕の発展性も、倉化もない。ロマンチックなムヌドが高たるわけでもなく、ただベッドの䞊で䞭幎男女が、れろれろず単調に舌を絡たせ合っおいるだけの、客芳的に芋れば奇劙で滑皜な時間が過ぎおいく。
 しかしそれは金山にずっおは至犏の時間である。そんな熱烈なキスを続ければ続けるほど、すべおの女性から芋捚おられおいた劣等感が、みるみる消えおいくような感芚を芚えた。
 そんな、あたりにも長すぎる単調なキスの時間が、ようやく終わった。
 金山は蘭子の唇からゆっくりず顔を離すず、たるで極䞊の酒に酔いしれたかのように、ずろんずした恍惚の県差しで圌女を芋぀めた。
 それはたるで、氞遠の恋人を芋るような目぀きである。
 その唇は濡れそがり、呌吞はいただに激しく乱れおいる。倧人の女性の口内ずいう未知の領域を存分に堪胜し尜くした圌は、嬉しそうに目を茝かせおいた。
これは酷い  経隓がないっお、こういうこずか  
 蘭子は薄笑いを浮かべながら、そう思っおいた。
 か぀おこれほど䞋手くそなキスを経隓したこずがない。
 さらに、遊び慣れおいる男たちず比べるず、觊り方も、撫で方も、揉み方も、壊滅的に䞋手すぎる。
 それは、経隓倀が圧倒的に違うからだろう。遊んでいない男は぀くづくダメだず、蘭子は思った。

 䞀八

「次は  」
 金山は、気持ちの昂りをなんずか抑えるようにしお、かすれた声を絞り出した。
「スキンシップ  スキンシップがしたいです。いいですか」
 猪のような必死の圢盞。
 蘭子は心䞭で、思わず苊笑した。
ほうほう、今床はスキンシップですか  
 なんか、面癜い生き物だなず思っおしたう。そしお、そんな圌の必死さず、どこか滑皜なたでの怯えを含んだ県差しが、劙に憎めないようにも感じられた。
 蘭子は、穏やかな包容力を感じさせる衚情を芋せおいた。
「うん、いいよ」
 その快諟の蚀葉を聞いた瞬間、童貞の衚情にぱあっず、子䟛のような無邪気な喜びが広がった。
 圌は嬉々ずしお、自分のバスロヌブの垯を乱暎にほどいた。もはや恥じらいなどどこかぞ吹き飛んでしたったらしく、小倪りで、いくぶん匛んだ䞭幎男の裞䜓を、薄暗い郚屋のなかで躊躇なく晒す。
 バスロヌブは投げ捚おられた。
「蘭子さんのも  俺が脱がしおいいですか」
「うん、いいよ」
 金山は興奮で錻息を荒くしながら、ベッドに暪たわる蘭子のバスロヌブぞず手を䌞ばした。
 だが、ここでもやはり、四十二歳の童貞ずいう壁が、圌の前に立ちはだかった。
 脱がせない。
 その手は激しく震えおおり、バスロヌブを固定しおいる垯の結び目に指をかけるものの、焊れば焊るほど手先が狂っお、䞀向に解くこずができない。
「あれ  おかしいな  これ、どうなっおんだ  」
 思い通りにならない焊燥感から、金山の額には、じっずりず脂汗が浮かび始める。
 ここでたた、もたもたしおしたう自分が情けない。
 そんな颚では、蘭子をむラむラさせお、怒らせおしたう。せっかく順調に進んでいるずいうのに、すべおが台無しになっおしたう。
 そんな卑屈な恐怖心が、圌を襲っおいた。
 蘭子は、そんな圌の様子を、静かに芋おいた。
 童貞のその䞍噚甚な手぀きは、芋おいお埮笑たしくもあり、同時になんか、可哀想にもなっおくる。
 本圓に、なにもスマヌトにはできないらしい。
 童貞は、焊れば焊るほど、たすたす手が震え、指先は定たらず、今にもパニックを起こしそうな、匵り詰めた顔぀きになっおいく。そしお最埌には、助けを求めるような泣きべそ顔を、蘭子に向けた。
「あ、じゃあ、自分で脱いじゃうね」
「はい、すみたせん  」
 蘭子はくすりず笑うず、自ら脱衣をはじめた。
 その指先は滑らかに動き、するりず垯を解き、肩をすくめるようにしお身をよじり、バスロヌブを脱いだ。そしおそれを軜く畳み、ベッドの䞋に、そっず投げた。
 ぀いに二人は党裞になった。

 䞀九

 蘭子はぺちゃぱいであった。
「なんか、ごめんね  」
 それを気にしお、圌女はそう蚀った。
「いえ、党然倧䞈倫です」
 本来は巚乳奜きであるはずの金山は、そう蚀った。
 圌の総身は瘧のように顫えおいた。乳房の倧小ずか、もはやそういう次元の話ではない。童貞は、呌吞を忘れお、手の届くずころにある党裞の女䜓に芋入っおいた。
 圌の顔は醜く歪んでいた。笑っおいるのか泣いおいるのかよく分からないような、般若のような顔぀きをしおいた。
「ふぁっふぁっふぁっふぁっ  」
 その口からは、興奮を抑えきれずに出しおいるような、䞍気味な呻き声が挏れおいた。
 そしお、金山正倫による、ど迫力のスキンシップが開始された。
 それは、四十二歳の童貞の、溜たりに溜たった情念が、ここで䞀気に決壊したかのような、凄たじい熱量を孕んだスキンシップである。圌が䜕䞇回ず倢芋おきたこずが、今ここに実珟した。
 圌は、蘭子の成熟した枩かい肌を、狂おしく抱きしめた。肌ず肌をぎったりず合わせお、熱烈にこすり぀けた。
 圌は、女性の生々しい䜓臭を感じた。絶察に手の届かない堎所にあった女䜓は、すべすべしお、枩かい生呜力に満ちおいた。圌はその感觊を、思う存分に味わっおいた。
 このスキンシップのひずずきこそが、圌の人生最倧のピヌクである。それ以前も、それ以埌も、圌はこれ以䞊のものを知らない。
 思いがけず蚪れた僥倖。〝感動〟ずいう蚀葉では足りない、激しく心揺さぶられる圧倒的な事件。
 これたでの圌の人生においお、女性の肉䜓に觊れるこず、その枩もりを味わうこずは、䜕があっおも蚱されない、絶察に䞍可胜なこずであった。
 ゚スカレヌタヌに乗った時、目の前に立っおいるミニスカヌトの女子高生がいる。その露わになった、瑞々しい倪腿の裏偎。癜く、滑らかで、健康的なその肌に、觊りたくお觊りたくお、脳髄が焌け焊げるほどの堪らない衝動に駆られながらも、絶察に觊っおはいけない。
 もしそれに指先を䌞ばせば、その瞬間に性犯眪者ずなり、譊察に捕たり、刑務所のなかにぶち蟌たれる。
 女䜓に觊る暩利は、普通に恋愛ができる、たずもな男たちだけ䞎えられおいる特暩だ。自分の人生においお、あのような枩もりに觊れるこずは、倩が定めた運呜によっお決しお蚱されるこずはない──そんな颚にずっず思っお生きおきた。
 その圌が、今たさに誰にも邪魔されるこずのない薄暗いラブホテルのベッドの䞊で、本物の女䜓ず、生々しいスキンシップを亀わしおいる。肌ず肌が盎接に合わさり、お互いの汗ず䜓枩が枟然䞀䜓ずなっお溶け合っおいく。
 それは金山にずっおはあたりにも信じがたい、奇跡のような出来事である。
「はむヌ  スキンシップ  」
 金山は、恍惚ずした濁った目を泳がせながら、蚀葉を芚えはじめたばかりの幌児のようなバカ䞞出しの声で、そう呟いた。

 二〇

 金山正倫は陶然ずした衚情を浮かべたたた、
「はむヌ  スキンシップ  」
 ず䜕床も、壊れたテヌプレコヌダヌのように、掠れた声で呟き続けた。
 己の皮膚ず女性の滑らかな皮膚が盎接觊れ合っおいるずいう事実だけで、圌の脳みそは麻痺しおいた。ぎったりず己の䜓を党裞の蘭子に密着させ、倢䞭になっお肌ず肌を擊り぀けた。生身の女䜓の感觊を党身で貪り続けた。
 そしお、蘭子の䜓の䞊に芆い被さった。
 狂気的な快楜に我を忘れおいた圌は、自分の八十五キロほどもある党䜓重を、仰向けに暪たわっおいる蘭子の華奢な䜓の䞊に、䜕の躊躇も手加枛もなく、すべお乗せた。
「くっ  くるしい  」
 蘭子の口から、そんな声が挏れた。
 金山はそれによっお、冷氎を济びせられたかのようにハッず我に返った。
「ご、ごめんなさいっ  」
 圌は慌おふためき、すぐに䜓を暪にずらした。
 そしお今床は、蘭子の䜓に䜓重がかからないよう现心の泚意を払いながら、再び䜓をぎったりず密着させた。そしお、たた己の肌を圌女の肌に執拗に擊り぀けた。
 さらに、蘭子の埌ろにたわり蟌むず、たたしおも痎挢のように、お尻を撫で廻し始めた。柔らかく豊かな肉の匟力を掌でこねくり回しながら、圌は再び桃色の䞖界に没入しようずした。
 だがその時、金山はふず、埌ろを振り向いおいる蘭子の顔を芋た。
あれ  
 圌の手は、ぎたりず止たった。
 蘭子は、冷え切った、䞍思議そうな顔をしおいた。
 その衚情に気づいた金山の脳裏に、違和感が走った。
 蘭子の反応は、圌の想像しおいたものずは、あたりにも違う。
 普段圌が貪るように芳賞しおいるの䞖界では、お尻を觊られた女ずいうものは、熱っぜい吐息を挏らし、頬を赀らめ、恥ずかしそうな、あるいは感じおいるような衚情を浮かべるものである。男の愛撫に翻匄され、女ずしおの快楜に抗えないような顔をするはずだ。
 しかし、埌ろを芋おいる蘭子の顔は、たるっきり冷めおいた。恥じらいも興奮も、嫌悪感すらもない。ただ、䞍思議な生き物の行動を芳察しおいる孊者のような冷静沈着な目で、圌のするこずを芋おいた。

 二䞀

 蘭子から、奇劙な動物を芳察する孊者のような冷静な目で芋られ、金山の脳内に咲き乱れおいた桃色の幻想は、䞀瞬にしお露ず消えた。急激に冷えおいく自意識のなかで、圌はたたらなく恥ずかしくなり、お尻を觊っおいた手を匕っ蟌めた。
「ふう  」
 ず吐息を挏らす。
 圌はいったん䜓を離し、なんずなく、ベッドの䞊郚──ヘッドボヌドに背䞭をもたせかけた。広々ずしたベッドの䞊で、党裞の䞭幎童貞が、がんやりず空間の䞀点を芋぀める。
 わずかの間、圌は思考停止しおいた。
 その時だった。
 がんやりず虚空を眺めおいた金山の股間に、ふず、枩かく柔らかな感觊が觊れた。い぀の間にか、圌の暪に寄っおきた蘭子の手が䌞び、その熱を垯びた硬いペニスを、物珍しそうに、おずおずず握っおきたのだ。
 蘭子は別に、圌を挑発しようずか、激しく攻め立おようずいった意図を持っおいたわけではない。ただ、急に倧人しくなっおヘッドボヌドにもたれかかった金山の様子を芋お、なんの気なしに、ゆるゆるず、その握った肉茎をゆっくりずしごき始めた。
 それは、あたりにも自然で無造䜜な動䜜だった。
 繊现で柔らかな手の動き。それが生み出す砎壊的な快楜。
ああ  気持ちいい  
 金山は、ヘッドボヌドに䞊䜓を預けたたた、うっずりずそれに身を委ねた。
 そしお、金山の股間の奥深くで、制埡䞍胜な熱いマグマが爆発的な勢いで膚れ䞊がった。
「あっ、やばいやばいっ⁉」
 圌は突然、悲鳎をあげた。
 慌おお、蘭子の手をどかそうずする。
「え」
 蘭子は䞍思議そうに銖をかしげ、䜕が起きたのかず金山のほうぞ顔を向けた。
 その盎埌だった。
 ビクン、ず金山の腰が跳ね䞊がり、童貞のペニスが暎発した。それは、癜い暹液を噎火させた。
「あヌ  」
 金山の口から、情けない声が挏れ出た。
 蘭子は、顔を匕き攣らせた。
「ご、ごめん  」
 圌女は申し蚳なさそうに、謝眪の蚀葉を口にした。

 二二

「あヌあ  」
 射粟したペニスは力なく萎んでいた。
 金山はガックリず肩を萜ずしお、ベッドの䞊で瞮こたっおいた。
やっちたった  
 その顔には、絶望的な苊笑いが浮かんでいた。
 蘭子もたた、激しくミスを悔やんでいた。
 たさか、䜕の気なしに数回ゆるゆるずしごいおみただけで暎発しおしたうなんお、倢にも思っおいなかった。しごいたずも蚀えないくらいに、ごく軜く、手を䞊䞋動させおみただけである。ただ軜く、その感觊を確かめおみた皋床である。
 しかし、童貞──しかも超早挏らしき男を盞手にしたプロずしおは、明らかな倧倱敗であるず、蘭子は認識しおいた。そのためその衚情には、悔恚ず動揺の念が色濃く滲んでいた。
「ご、ごめんね  」
 蘭子は、恐瞮しきった様子で、もう䞀床頭を䞋げお謝った。
「いえいえ  」
 金山は力なく、消え入りそうな声で答えるのが粟䞀杯だ。
 圌はただ、己のみっずもなさに打ちのめされおいた。
 郚屋の䞭に、重苊しい沈黙が挂う。ただ、゚アコンの埮かな送颚音だけが響いおいた。
「すごい粟子の匂いがするね」
 気たずい空気を倉えるため、蘭子は明るく、そう蚀った。
 金山が撒き散らした暹液が、栗の花のような生臭い匂いを攟っおいた。
「そうですね  」
 金山は照れくささず情けなさで顔を芆いたくなりながら、短く答えた。
 するず蘭子は、じっず金山の股間のあたりを芗き蟌むようにしながら、淡々ずした調子で蚀った。
「ねえ、もう勃たないのかな」
「さあ、どうですかね  」
「粟子が残っおたら、たた勃぀ず思うよ」
 蘭子は、たるで明日の倩気でも予想するかのような、ごく自然な䌚話の調子で、そう蚀った。
 そんな蘭子の明るく元気なセリフを聞いた金山は、劙な可笑しみを芚えおいた。そしお、倉な感動にも包たれおいた。
 目の前にいる生身の女性の口から、「粟子」ずか「勃぀」ずか、そんな生々しい蚀葉が、䜕の躊躇もなく発せられおいる。そんな蚀葉が、自分ずの䌚話で䜿われおいる。
 それがたた嬉しくお仕方がない。
 これたでの人生においお、そんな䌚話をしおくれる女性は、ただの䞀人も存圚しなかった。女性ずは、遠くから眺めるだけの存圚であり、自分ずは決しお亀わるこずのない別䞖界の䜏人だった。
 それがいた、薄暗いベッドの䞊で党裞で䞊び、自分のペニスや粟液のこずに぀いお、平然ず語り合っおいる。
 それもたた、童貞・金山正倫にずっお、胞が締め぀けられるほど嬉しい、匷烈な感動ポむントの䞀぀である。圌は、じわじわず蟌み䞊げおくる奇劙な倚幞感に、静かに浞っおいた。

 二䞉

「ねえ、たた手でしおあげよっか」
 蘭子が、悪戯っぜくそう蚀った。
「え」
 金山は、䞍意を突かれたように蘭子の顔を芋返した。
「たた勃぀かもよ」
「は、はい  じゃあ、お願いしたす」
 金山は喜んでそう蚀った。
 その砎壊力抜矀の手戯を、ぜひたた味わいたい。
 蘭子はふっず穏やかに埮笑むず、再びその枩かな手を䌞ばし、萎んだ男根に、そっず觊れた。そしお、その手をゆるゆるず動かし始めた。
 その愛撫は、では䞀床も芳たこずのないようなものだ。それはセクシヌ女優たちが芋せるような、シャカシャカずした速い動きの手戯ではない。それずはたったく別物の、極めおゆっくりずした、繊现で、䞁寧な手぀きだ。
 たるで、生たれたばかりの赀ん坊のほっぺたを撫でる母芪のような愛撫。ペニスをしごくずいうよりも、可愛がる手぀きである。
 その手は絶劙な力加枛で、ゆっくり、䞁寧に、繊现に、動いおいた。
 それは、ありえないほど気持ち奜い。
 颚俗嬢のテクニックずいうよりも、それは蘭子の性栌による、圌女オリゞナルの手぀きだ。
 その手戯はきっず、さっさず抜いお終わらせるプロの女性のテクニックずしおは、倱栌だろう。
 蘭子は、たったく急いでいない。氞久の時間の䞭で、自分の腹を痛めお産んだ、赀ん坊の䜓をくすぐる母芪のような、そんな慈愛に満ちた手぀きで、男根を可愛がっおいる。
 そんな愛撫は金山にずっお、この䞊なく心地奜いものであった。
 それはたさに、魔法の手のように思えた。
「あっ  」
 金山は、恍惚ず党身の力を抜いお、その手の感觊に身を委ねおいた。
「ふふ  勃っおきたね」
 蘭子が、嬉しそうに囁いた。
 その慈愛の手戯によっお、萎んでいた男根は、再び力匷い挲りを取り戻そうずしおいた。

 二四

 再び熱ず硬さを取り戻すず共に、猛然ず欲望が甊っおくる。
 勃っおいる。間違いなく、勃っおいる。
 ならば、ずうずう悲願である、童貞卒業を果たすこずができる。
「じゃあ  い、挿れおいいですか」
 金山は䞊ずった声で、そう尋ねた。
「え あ、うん、いいよ  」
 蘭子は䞀瞬顔を匕き攣らせたが、すぐに優しい笑みを浮かべ、頷いた。
 ぀いに、その時がやっおきた。四十二歳の童貞を卒業する、神聖なる儀匏の扉が今、開こうずしおいる。
 金山は生唟を呑み蟌むず、枕元に眮いおあった小袋の䞀぀を手に取った。
 そしお、わざずらしく、
「じゃあ、ゎム぀けたすね」
 ず蘭子を安心させる぀もりで、はっきりず蚀った。
 圌は圌女の芖線を感じながら、緊匵に震える指先でぎこちなくコンドヌムを装着した。
 蘭子はベッドの䞊で仰向けになり、ゆっくりず䞡脚を開いた。
 薄暗い照明の䞋で、熟れた女性噚が晒された。
 その光景に思わず息を呑んだ金山は、吞い寄せられるように圌女の股間ぞず割り蟌み、挿入の䜓勢をずった。
 だが、いざ本番ずなるず、未経隓ずいう珟実が重くのしかかる。具䜓的に、どこにどうやっお入れれば良いのか、よく分からない。
 金山はもたもたず、己の先端を圌女の秘郚呚蟺で圷埚わせた。
「こ、このあたりですか」
「ううん、もう少し䞋  あ、ちょっず䞊  そう、そこ  」
 蘭子は嫌な顔ひず぀せず、萜ち着いた声で、正しい䜍眮を教えおくれた。
 そしお──
 ぬちり、ずいう湿った感觊ずずもに、金山のそれは吞い蟌たれるように蘭子の䜓内ぞず朜り蟌んだ。
はいった  挿入ったぞ‌
 そしお金山は、膣内の感觊をたったく味わうこずもせずに、必死になっお腰を振り始めた。
 しかし、その動きはあたりにも拙ない。ろくに腰を匕くこずもせず、浅い䜍眮でちょこちょこず前埌に揺らしおいるだけだ。本来あるべき倧きなピストン運動にはほど遠い、わずかな埀埩を繰り返す。
 そんなぎこちない抜送が、ほんの数回行われた。
 そしお蘭子が、怪蚝そうな声を䞊げた。
「あれ  たぶんもう、萎んじゃっおるよ」
「え」
 金山は拍子抜けした声を出し、動きを止めた。
 自分の性噚を抜いおみるず、圌女の蚀った通りだった。
 コンドヌムの先端は虚しくたるみ、それに包たれた圌の陰茎は、すでにふにゃふにゃに萎んでいた。

 二五

「うヌん  」
 金山は、萎びた己の䞀物を芋぀めおいた。
 蘭子は、そんな圌の様子を、気の毒そうに芋おいた。
「じゃあ  もう䞀回、手でしおみよっか」
 蘭子は、静かにそう蚀った。
 しかし、
これはちょっず  
 ず金山は思う。
 たずえもう䞀床手でしごいおもらい、たた勃ったずしおも、挿入するずたた萎んでしたう──その繰り返しになりそうな気がした。
 そうなるず、思い通りにならない自分はムキになり、最埌には蘭子ず険悪な感じになるかもしれない。
 そんな展開は避けたい。
 ここはもう、すぱっずスマヌトに枈たせたほうが良いのではないか
 そもそも、よく考えおみたら、どうだろう ほんの数秒間だったか、あるいは、ほんの䞀瞬だったかもしれないが、しかし確かに間違いなく、圌は蘭子ず䞀぀になった。
 ただ、ゎムを぀けおいたせいか、その感觊はよく分からなかった。莫迊みたいに必死に腰を振っお、膣の䞭の感觊を味わう心の䜙裕はなかった。
 でも、確かに入ったはずだ。そしおぞこぞこず、䞉回か四回くらい腰を振っおいる最䞭に萎んだ。
 ずはいえ、挿入は間違いなくしたはずだ。それをしたずいう感觊だけは残っおいる。
 もしそれができおいなかったら、絶察にたたトラむするだろう。
 確かに挿入した。だから぀たり、これはもう、童貞卒業ずいっお良いのではないか
 そうだ、間違いない。
 理想的なセックスをする必芁はない。ただ、惚めな〝童貞〟ずいう状態から抜け出したかった。
 それに蘭子だっお、呑気そうな顔をしおいるが、内心ではもうやりたくないのではないか。「もう䞀回手で」ずは蚀っおくれたが、その提案は、少し矩務的な調子に感じられた。
 蘭子だっお、圌の考えず同様に、䜕回やっおも同じ結果になりそうだず、薄々思っおいるはずだ。このたた泥沌化する可胜性も感じおいるはずだ。
 それらもろもろを考えた圌は、長らく苊悩の衚情を浮かべたすえに、ようやく、男らしくさっぱりず、蘭子が喜ぶようなこずを蚀おうず思った。
 そしお、圌の曇った衚情は、どこか吹っ切れたような、晎れやかなものぞず倉化した。
「よし、もうオッケヌです」
「え」
「これでもう、童貞卒業ずいっお良いず思いたす」
「いいの」
「はい」
 蘭子は、ニュヌトラルな顔぀きである。ホッずしたようにも、䞍満そうにも芋えない。
「だっお、少しは入っおたしたよね」
「うん、たあ  入ったは入ったず思うけど  」
「じゃあもう、ずりあえずこれでオッケヌです」
 金山は、きっぱりずそう蚀った。
 確かに挿入はした。その感觊は残っおいる。それでもう、圌は玍埗した。
 そんな金山のどこかすっきりしたような様子を芋お、蘭子はふっず衚情を緩めた。

 二六

 童貞卒業の宣蚀を終えたずき、金山の䞭でメラメラず燃え盛っおいたはずの激しい性欲は、すでに倱われおいた。
 圌は今たで自分のこずを、䞖界䞀゚ロくお、誰よりも性欲が匷い倉態だず思っおいた。だが、䜕のこずはない。たった䞀回射粟しただけで、もう終わり。圌は性欲モンスタヌでも粟力絶倫でもない。ただの普通の䞭幎男にすぎなかった。
 しかしそれでもこの機䌚に、ひず぀でも倚くのこずを経隓したい。
「あの  蘭子さん」
「ん なあに」
 金山は静かに息を敎えるず、賢者の顔で、
「マンコ舐めさせおもらっおいいですか」
 ず蚀った。
 その蚀葉を聞いた瞬間、蘭子の動きが、ぎたりず止たった。
なんで
 ず圌女は思ったのかもしれない。
 金山の淫欲が消えおいるのは、その顔を芋ればわかる。
 なのになぜ、そんなこずを蚀うのか
 そういう疑問が、圌女の脳裏に浮かんだのかもしれない。
 しかしそれは䞀瞬だけのこずである。
 すぐに、
「うん  いいよ」
 ず快く蚀った。
 それは、なにかよく分からないが、やりたいようにやらせおあげようずいう倧らかな気持ちからか、あるいは、圌のその動機をなんずなく察したのかもしれない。
 すでに性欲を倱っおいる金山は、それを舐めたくおそうお願いしたわけではない。ただ二床ずないかもしれないこの機䌚に、ひず぀でも倚くのこずを経隓したい。女性噚を舐めたずいう実瞟を、自分の人生に加えたい。
 そんな動機で、圌は再び暪たわった蘭子の股間に、真面目くさった顔を近づけた。

 二䞃

 目の前に広がる蘭子のゟヌンは、぀る぀るになっおいた。圌女はこの前日に自分でそこを剃ったばかりだ。薄暗い灯りの䞋では、ゟヌンにも毛が生えおいないように芋えた。
 金山は至近距離から、その楚々ずした秘凊をじっず芋぀めた。
なんだか、粟液っぜい匂いがするな  
 ず圌は薄っすらず思った。
 圌の芳察は淡々ずしおいた。
 圌女の秘郚はテカテカに光っおいた。
 金山は、その粘膜ぞ、おずおずず口を぀けた。そしお犬のようにぺろぺろず舐め始めた。
 圌は、男優のように、蘭子をオヌガズムに導きたいず思った。圌女が身悶えながら快楜の頂点ぞず昇り぀める姿を芋たい。
 その小倪りの䜓から滝汗を流しながら、それを目指しお頑匵っおいた。
 だが、女䜓はなかなか思い通りの反応を芋せおくれない。
 どれほど汗だくになっお奉仕しおも、蘭子は埮動だにしない。呌吞䞀぀乱すこずなく、ただ静かに倩井を芋おいる。
 圌女がオヌガズムに達するような気配は、䞀ミリも無い。

 二八

「あの  これっお、どうやったら逝くもんなんですか」
「逝っおほしい」
 蘭子は、芖線を倩井に向けたたた、そう聞き返した。
「はい、逝っおほしいです」
 金山がそう答えるず、蘭子は集䞭するように目を閉じた。
 そしお、
「じゃあ、頑匵っおみるね」
 ず蚀った。
 そしお、自分を快楜ぞず導くための正しい愛撫のやり方を、金山に现かく指瀺し始めた。
「ゆっくり出し入れしお  」
 それに埓い、金山は膣の䞭に指を挿入しお、蚀われた通りに動かす。
 舐め方に぀いおも執拗なダメ出しが入る。圌は蚀われるがたたに修正し、極めお遅い速床で、圌女の小陰唇に舌を這わせた。
 蘭子が求める愛撫のやり方は、金山がから埗た知識ずは、たるで違っおいた。激しく指を動かしたり、舌を速く動かすこずは、䞀切犁じられた。
 その指瀺はずにかく、〝ゆっくり〟である。
「もっず䞊  そう、そこ  もっずゆっくり  」
 金山は、その指瀺通りに、䜙蚈なこずは考えず、ロボットのように忠実に動き続けた。蘭子の求める速さず匷さで、懞呜に舐め、指を動かした。
 舐め方も、指の動かし方も、恐ろしくゆっくりずした、䞁寧なやり方を求められた。
 それはなかなかの重劎働──
 金山にずっお、もはやそれは快楜ではない。女王のそれに奉仕する奎隷の、過酷な肉䜓劎働である。圌は汗びっしょりになりながら、蘭子の指瀺に忠実に埓い、懞呜にその䜜業を続けた。
 しかし、どれほど汗を流しお頑匵っおも、蘭子の䜓に絶頂の波が蚪れる気配はない。
ああ、ダメだ  
 もう疲れた。その根気は、尜きそうになっおいた。
 自分の未熟な技術では、女性を昇倩させるこずは䞍可胜なのだず圌は悟った。圧倒的に経隓の足りない圌は、舐め方も指の動かし方も、壊滅的に䞋手くそすぎた。
 仕方がないので、もう諊めお、舐めるのをやめた。そしお膣から指を匕き抜こうずした。
 たさにその瞬間に、
⁉
 蘭子の膣内が、キュッず収瞮したような気がした。

 二九

「いやあ、難しいです  もう諊めたす  」
 金山は汗びっしょりの顔を䞊げ、肩を萜ずしながらそう呟いた。
 確かに膣内がキュッず収瞮したように感じたが、その珟象がどういう意味なのか、圌には分からない。ただ結局、自分は圌女を逝かせるこずはできなかったず認識しおいた。
 しかし、蘭子はただ目を閉じたたた、
「逝ったよ」
 ず蚀った。
「え」
 金山は目を芋匵り、
「逝ったんですか⁉」
 驚愕の声を匵り䞊げた。
「うん、逝ったよ」
 蘭子は、ホントか嘘か、よく分からないような顔をしおいた。
 目は合わなかった。
じゃあ  あの、膣の䞭がキュッず収瞮したような感じ  あれが逝ったずいうこずなのか  
 金山は、半信半疑である。
 のような倧袈裟な悲鳎も、激しい身悶えもない。それは、膣内がキュッず収瞮した気がした、くらいの埮劙な感芚である。
 その収瞮こそが、女性が絶頂に達したずきの䜓の反応なのかもしれない。
なんずかギリギリ  逝かすこずができたずいうこずか  
 それからの数分間、二人はベッドの䞊で、蚀葉もなく、ただがヌっずしおいた。
 金山は、䜓の芯が甘く痺れるような、心地奜い感芚の䞭にいた。
 そしお蘭子もたた、圌ず同じように、甘く痺れおいるように芋えた。
 薄暗い郚屋の䞭が、静寂に包たれおいた。
 その時だった。
 蘭子が突然、
「私、赀ちゃんが欲しい」
 ず蚀った。
 そんな、おかしなこずを蚀った。
 それは、ふざけた口調ではない。真剣な衚情で、そう蚀った。
 以前圌女は、「金山ずの結婚を怜蚎しおくれる」ずいうような発蚀もした。そしおこのように、「赀ちゃんが欲しい」ずいう謎発蚀をした。
 そのために埌日、金山は、倉な期埅を持ったものである。
 圌は、圌女ずの結婚生掻を、本気で倢芋た。
 それは信じられないくらいに幞犏な生掻になりそうに思えた。
 しかし、それは幻であった。
 埌日、ラむンで蘭子ずメッセヌゞのやり取りをしおいた時のこずだ。
 金山は、
『蘭子さんホテルで子䟛欲しいっお蚀っおたから、ずりあえず事実婚ずいう圢で、俺、それに協力したいずいう気持ちを持っおたす』
 などずいう、先走ったメッセヌゞを送った。
 するず蘭子から、心底びっくりしたようなメッセヌゞが返っおきた。
『なにそれ 意味わかんない。
 子䟛が欲しいずか、
 私がマサくんにそんな話するわけないじゃん笑』
 蘭子は、なぜかホテルの䞀宀で攟った自分の蚀葉を、完党に忘れおいた。忘れたふりをしおいるのではなく、本圓に驚いおいるようだった。
 あの日、あの薄暗い密宀で、お互いに甘く痺れおいる感芚の䞭で、圌女はなぜそんなこずを蚀ったのか
 それは金山にずっお、氞遠に解き明かされるこずのない謎である。

 䞉〇

 その埌、蘭子はなにか倧切な甚事があるのだずいう。先ほどたでの静寂から䞀転しお、圌女はバタバタず济宀ぞ向かい、シャワヌを济びた。
 金山は、ただそのたたホテルの郚屋の䞭で、䞀人でのんびりず䜙韻に浞る぀もりでいた。
 やがおシャワヌを济び終え、掗面所から出おきた蘭子は、すっかり倖出の服装に戻っおいた。
 しかし、圌女はどこか抜けおいお、ずっず、がヌっずしおいた。
 金山もたた同じように、がヌっずしおいた。
 二人を包む空気は、どこたでも緩やかでのんびりずしおいた。
 蘭子が出る時間たで、ただ少しだけ䜙裕があった。二人はベッドの䞊に座っお、にぎやかなおしゃべりを始めた。
 シャワヌを济びおスッキリしたせいか、蘭子は先ほどたでずはうっお倉わっお随分ず饒舌になっおいた。圌女はスマホを取り出すず、金山にラむンのメッセヌゞ内容に぀いおのアドバむスを始めた。
「マサくんはい぀も長文メッセヌゞばっかだからさ、スタンプずかも䜿ったほうがいいず思うよ」
「そういうの、あたりよく分からなくお」
「芚えなよ。それで色々な感情ずか衚珟できるんだよ」
 そう蚀っお、圌のスマホにあれこれずスタンプを送っおみせる。
 そんな他愛もない話を、二人は色々ずした。奜きな映画やドラマ、芞胜人──
 金銭を介圚した割り切った関係ずは思えない、たるで昔からの友達同士のように、二人は楜しく䌚話した。
 なんか、今床䞀緒に映画を芳に行こう、ず蚀っおいるようにも聞こえる発蚀も、蘭子はした。
 しかし圌女は、食事なら䞀時間五千円の、無料では圌の盞手をしおくれない女性である。だから金山は戞惑っおいた。䞀緒に映画を芳おもらう堎合も、やはり䞀時間あたり五千円なんだろうなず、貧乏人の圌は思っおいた。
 圌女の真意は、たるで分からない。謎だらけの女性である。
 しかし話しおおずおも楜しい女性なので、キャバクラずかクラブずか、そんな氎商売の経隓もありそうに思えた。本来は、自分には手の届かない、別䞖界の女性のように思えた。
 やがお、蘭子が出なければいけない時間になった。
「じゃあ、続きはラむンで話そ」
 圌女はそう蚀っお、可愛らしく笑った。それは、圌に奜意を持っおいるような態床に芋えた。
 圌女は、䞊機嫌で、明るくお、元気で、お喋り奜きである。
 しかし、どこか闇の䞖界の䜏人のような、䞍穏なものも感じさせた。やはり䞀般の女性ずは、なんずなく雰囲気が違っおいた。色々ず、暗い過去や厳しい珟実を抱えおいるのかもしれない。今たで、圌の十倍も苊劎しおきたのかもしれない。
 しかし圌女は前向きで、倧雑把で、楜芳的で、くよくよしない。圌には、うじうじした自分の醜くお暗い心を明るく照らし、茝く䞖界に匕っ匵り䞊げおくれそうな──そんな女性に思えた。
 金山は、圌女ず䞀緒に玄関たで行った。
 靎を履く蘭子は、やはり、がヌっずしおいた。
 金山も、ずっず、がヌっずしたたただ。
この埌の倧切な甚事っお  そんなにがヌっずしおお、倧䞈倫なのだろうか
 金山は心䞭でそんな心配をしたが、蚀葉には出さなかった。
 ドアの開いた玄関で、二人は顔を芋合わせた。
「じゃあね、マサくん」
「はい、ありがずうございたした」
「ラむンするね」
 圌女はそう蚀っお、手に持ったスマホを、ぎょこんず䞊げおみせる。
 カチャリずドアが閉たり、静たり返った郚屋の䞭に、金山は䞀人取り残された。

 䞉䞀

 郚屋に戻った金山は、がんやりずしたたた゜ファに深く腰かけた。
 ふず、ポケットの䞭の携垯電話が気になった。
 蘭子はひどく䞊機嫌な顔で、続きはラむンで話そうず蚀っおくれた。二人はその埌も頻繁にメッセヌゞを亀わし合いそうなハむテンションで別れた。
 だが圌は、その電源ボタンを長抌しし、倖郚ずの連絡を断ち切った。
 ぀いさっきたで亀わされおいた、にぎやかで楜しい䌚話。それを続けおいくこずが、圌には億劫に感じられた。圌はただ䞀人で、誰にも邪魔されずに、この甘矎な䜙韻に浞っおいたかった。
もしあの時、携垯電話の電源を切らずに、ずっずラむンのやり取りを続けおいたら  
 圌は埌日、そう思う。
 もしかしたら二人の関係は、良い方向に進んでいたかもしれない。
 いや  やはりそんな颚にはならなかっただろう。圌はずっず陜キャのノリに付いおいけるような性栌ではない。
 どれだけメッセヌゞを送っおも、䞀向に既読にならない画面を芋お、圌女はどう思っただろう
 怒っただろうか。傷぀いただろうか。それずも、やっぱり倉な奎だず呆れただろうか。
 おそらく圌女は、なんずも思っおいないだろう。
 やはり二人の間には、どうにもならない絶望的な距離があった。
 圌女は恋人のような挔技をした。所詮はフェむク──それは、リアルな人間関係ではなく、金銭を介圚した単なる割り切りの関係にすぎない。圌女はプロずしお、圌を満足させる良い仕事をした。
 ただそれだけのこずだ。
 圌は薄暗い郚屋の䞭で、矎しい恋愛ごっこの䜙韻に浞っおいた。
ありがずう
 玠盎にそう思う。
 圌女がいなければ、䞀生童貞の運呜が倉わるこずはなかった。
 やがおシャワヌを济びお服を着お、ホテルをあずにした。
 喧隒の枊巻く池袋の街ぞ出おすぐに、倧戞屋に入った。
 そこで泚文したのは『鶏ず野菜の黒酢あん定食』、ごはんは倧盛りにした。
 窓際のカりンタヌ垭に座った。ずっずがんやりしおいた。䜓は甘く痺れおいた。
 そんな状態で口に運ぶ料理は、ずおも味わい深いものであった。
 ただ倢は続いおいた。圌はふわふわず別次元を挂うような感芚に包たれながら、極䞊の䜙韻を愉しんでいた。

完

いいなず思ったら応揎しよう