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60代のリアル第80話最終話【実録・介護の厖っぷち】「明日、連れおっお、䞀緒に垰る」もう家には垰れないず蚀えず、答えに困る私に母が歌った懐かしいメロディ


    前回たでのあらすじ

    激動の6月26日。

    倧雚のなか特逊の申蟌曞ぞのサむンを無事に終え、なんずか垰宅した倜、倖の雚はバケツをひっくり返したような豪雚ぞず倉わっおいたした。

    高台にある我が家の浞氎の心配はなかったものの、母が入院しおいる病院の近くを流れる川の様子や、関東近県から通う職堎の同僚たちの身を案じ、䞀人きりの家で䞍安を募らせおいた私。

    そんな匵り詰めた心に远い打ちをかけるように、22時29分、スマヌトフォンの緊急地震速報がけたたたしく鳎り響きたす。

    数秒埌、叀い我が家を襲った激しい衝撃。気象庁の発衚は「震床3」でしたが、䜓感ではそれ以䞊の恐怖を感じながら、私は母の行き先が決たらない終わりの芋えない焊燥感ずずもに、眠れぬ倜を過ごしたのでした。



    6月28日日

    激動の6月26日から二日埌、6月28日の日曜日。

    日本列島を脅かした「台颚7号、8号の埡䞀行様」は去ったものの、空はすっきりず晎れ枡る「台颚䞀過」にはなっおくれたせんでした。

    どんよりずした厚い雲が垂れ蟌め、時折、思い出したようにポツポツず现かい雚が萜ちおくる、そんなはっきりしない倩気。長匕く梅雚の重苊しさが、そのたた街を包み蟌んでいるようでした。

    前日は嵐のせいで買い物に行けなかったため、私は午前䞭のうちに近くのスヌパヌぞず向かいたした。

    果物売り堎を歩いおいるず、この時期には珍しく、鮮やかなオレンゞ色の「ハりスみかん」が䞊んでいるのが目に留たりたした。

    パックを手に取るず、5個入りで780円。

    少し、高いな  
    ず躊躇する感芚が䞀瞬頭をよぎりたしたが、すぐに思い盎したした。

    母は昔から、みかんや柑橘系の果物が倧奜物だったのです。

    入院生掻が続き、季節の感芚も薄れおいるであろう母に、少しでも奜きなものを口にしおほしい。そう思うず、迷わずカゎぞ入れおいたした。

    少し奮発したみかんを倧切に抱え、私は母の入院する病院ぞず向かいたした。



    母のずころぞお芋舞いに行くず

    病宀に入るず、ちょうど看護垫さんが母のバルンカテヌテルから尿を抜いおいる䜜業の最䞭でした。痛々しい医療噚具の䞊ぶ珟実が、䞀気に目に飛び蟌んできたす。

    「お母さん、来たよ」

    ベッドの暪に寄り添い、声をかけおみたした。

    けれど、母はどこか遠くを芋぀めたたた、䞊の空の様子。私の声が届いおいるのかいないのか、芖線が定たりたせん。

    やがお䜜業を終えた看護垫さんが、片付けをしながら私に向き盎りたした。

    「もうすぐ退院になりたすので、『入退院支揎蚈画曞』ぞのサむンをお願いしたす。今、曞類をお持ちしたすね」

    告げられたその蚀葉に、胞がチクリず痛みたした。

    珟実のタむムリミットが、すぐ目の前たで迫っおいるこずを突き぀けられた気がしたのです。

    看護垫さんが持っおきおくれた2枚の曞類に、私は静かにペンを走らせたした。 「1枚はご自宅の控えになりたす」 手枡されたその玙の重みを受け止めながら、私の心はただ決たらない次の転院先ぞの䞍安で匵り裂けそうでした。

    看護垫さんが忙しそうに病宀を出おいくのを芋蚈らっお、私は気を取り盎し、バッグからあのハりスみかんを取り出したした。

    「芋お、お母さん。みかんだよ」

    少し声を匟たせお母の目の前に差し出すず、䞊の空だった母の瞳がわずかに動き、私を芋぀めたした。

    「  食べおいいの」

    蚊の鳎くような声で尋ねる母に、私は少し悪戯っぜく埮笑んで耳元で囁きたした。

    「内緒だよ」

    芋぀からないように、手早く、䞁寧にみかんの皮をむいおいきたす。郚屋の䞭に、甘酞っぱい爜やかな銙りがふわりず広がりたした。

    䞀房ず぀、母の口ぞず運んであげたす。

    「甘いみかんだね」

    母は確かにそう蚀っお、嬉しそうに咀嚌しおいたした。

    けれど──。
    以前であれば、倧奜きな柑橘類を口にするず、シワの刻たれた顔いっぱいに笑みを浮かべお「矎味しいねぇ、幞せだねぇ」ず䜕床も蚀っおくれた母。その蚀葉が、今回はどうしおも返っおきたせんでした。

    ただ静かに、口を動かすだけ。 凊方されおいるロナセンテヌプの圱響なのでしょうか
    明らかに芇気がなく、元気が倱われおしたっおいる母の姿が、そこにはありたした。

    お母さん、本圓に倧人しくなっちゃったな  

    そんな切なさを胞に閉じ蟌め、私は母の口元をそっず拭いたした。

    しかし、この埌に母が私の手を握り締め、心の奥底にある「本圓の願い」を口にするずは、この時の私はただ思っおもみなかったのです。



    みかんを食べ終わるず

    みかんを食べ終わるず、母は私の手元にある、ビニヌル袋に入った傘にふず目を留めたした。

    「雚、降っおいるの」

    「ポツポツね」
    私がそう答えた、その時でした。母が私の手をじっず芋぀めながら、ぜ぀りず呟いたのです。

    「連れおっお」

    思いがけない蚀葉に、私は䞀瞬蚀葉に詰たりたした。

    「えっ、どこに   雚が降っおいるよ」

    焊りを隠すように私が蚀うず、母は少し間を眮いおから、懇願するような、ひたむきな声でこう続けたした。

    「じゃあ  明日。明日、連れおっお、䞀緒に垰る」

    胞が、ぎゅっず激しく締め付けられたした。

    少し前には、「おんぶしお  垰る。そんなこずできないか 重たいよね ハハハ」なんお蚀っお倧笑いしおいた母。

    あの時はただ冗談めかしお笑い合えたのに、今回の倧真面目で切実な蚎えは、私の心に深く突き刺さりたした。

    お母さん、ここを退院しおも、もう家には垰れないんだよ  

    その残酷な珟実だけは、どうしおも口にするこずができたせんでした。

    「明日6月29日は仕事だよ。病院には来れないし、ただ垰れないよ。お母さんはただ立぀こずもできないでしょっ」

    私はできるだけ日垞のトヌンを保ちながら、母にそう蚀い聞かせたした。

    今の母が、私の蚀う蚀葉の意味をどこたで本圓に理解できおいるのかは分かりたせん。

    けれど、私の蚀葉を聞いた母は、蚀葉の真意は届かなくずも拒たれたこずだけは感じ取ったのか、どこかずおも寂しそうな衚情を浮かべたのです。

    その曇った顔を芋お、私は胞が匵り裂けそうになるのを必死でこらえおいたした。

    するず、静たり返った病宀に、母の小さくかすれた声が響き始めたした。

    「啌くな♪ 小鳩よ♪ 心の劻よ♪」

    それは、母がデむサヌビスで芚えたお気に入りの昭和の名曲の䞀節でした。 芇気がなく倧人しくなっおしたったはずの母が、どこか遠い懐かしい日々を思い出すように、優しくその歌を口ずさんでいたした。


    別れの切なさず、愛しい人ぞの想いが蟌められた歌詞が、いたの私たちの状況に重なり合っおいたした。

    本圓は声をあげお泣きたかった、けれど、私は泣けずにいたした。泣いおしたったら、この珟実の重さに負けおしたいそうだったからかもしれたせん。

    ただ、母の手をそっず握り返すこずしかできたせんでした。

    その手は、倏だずいうのに驚くほど冷たくなっおいたした。

    家にいるずきは、い぀も私よりも枩かい手だったのに  。 私の手の熱を感じたのか、母は「枩かいね」ず蚀っお、少しだけ埮笑んでいたした。

    「たた来週くるね」

    私はそう声をかけお、病宀を埌にしたした。

    振り返るず、母はタオルケットから手を少しだけ出しお、小さく、小さく手を振っおいたした。

    家には垰れない。次の行き先もただ決たっおいない。 そんな厖っぷちの珟実の䞭で、母のあの小さくかすれた歌声ず、静かに振られた冷たい手の感觊だけが、私の心に深く残っおいたした。

    終わりが芋えない暗闇の䞭にいるけれど、私はそのすべおを胞に抱きしめお、前を向くしかないのだず蚀い聞かせながら、病院の廊䞋を歩いおいたした。

    完



    🌿 埌曞き

    い぀も『60代のリアル』、そしお私の䞍噚甚な介護の日々を枩かく芋守り、応揎しおくださり、本圓にありがずうございたした。

    皆様からのスキや枩かいコメントが、厖っぷちで立ちすくみそうになる私の背䞭を、どれほど優しく抌しおくれたか分かりたせん。

    創䜜倧賞2026コンテストの応募締め切りに向けお走り抜けおきたこの連茉ですが、本日の第80話をもっお、ひずたずの区切りを迎えるこずにいたしたした。

    䜜䞭にある通り、実は珟実の私たちは、今たさにこの「6月28日日の面䌚」の地続きのなかにいたす。

    母の退院のタむムリミットが刻䞀刻ず迫る䞀方で、次の転院先や斜蚭はいただに決定しおいたせん。

    物語のように綺麗に問題が解決しお䞇々歳、ずいう結末をお届けできず、どこか埌味の悪い、尻切れトンボのような圢での最終回ずなっおしたったこずを、少し心苊しくも思っおいたす。

    しかし、これが私たちが盎面しおいる、綺麗事だけでは枈たない「圚宅介護の、珟圚進行圢のリアル」です。

    先の芋えない深い霧の䞭にいるような䞍安は今も消えたせん。

    けれど、あの病宀で母が私に歌っおくれた『啌くな小鳩よ』の切なくも優しい歌声を胞に、私はこれからも、母の手を匕いお䞀歩䞀歩進んでいく芚悟です。

    この『60代のリアル』は、創䜜倧賞2026コンテストの枠を飛び出し、新たな展開ずなる「第2幕」ずしお、再び皆様の元ぞ戻っおきたいず考えおいたす。

    母のその埌がどうなったのか、私たちの行く末を、たた少しだけ芗きにきおいただけたら幞いです。

    これたで䞀緒に䌎走しおくださった読者の皆様に、心からの感謝を蟌めお。 本圓に、ありがずうございたした



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    静かな気づきや日々のこずを綎っおいたす。 今は母の介護の話や事務職の話などの゚ッセヌ䞭心ですが、機䌚があればVBA×AIの話やストックむラストのこずもたた曞きたいず思っおいたす。 倉わりゆく今の自分を、そのたた蚀葉にしおいたす。