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好きな音楽を言えないわけじゃなかった。

    聴く音楽の幅が広いと
    自分で思う。



    カラオケで
    ロックを歌ったら

    「キャラじゃない」

    と言われたことがある。





    キャラクターってなんだろう。



    常になにかを

    演じていないといけないの。



    私っぽい音楽って

    なんだろう。





    自意識が勝手に歩いて


    どこかへ行ってしまう。




    背丈も越えていく。





    別に誰も私のことなんか


    見てないって分かってる。





    気にしてないって


    知ってるんだ。








    好きな音楽が



    うまく言えなくなった。




    好きなアーティストの

    曲の一覧を見ていた時だった。




    横から友人が言った。



    「うわ!
    その人嫌い。


    キモくない?

    声も曲も全部キモい」



    笑いながら



    冗談みたいに



    軽く通り過ぎていく言葉たち。






    些細なことだ。



    悪気はないから。




    でも

    悲しかった。



    好きなアーティストを

    否定された




    それだけじゃない。




    もし私が
    もっと素敵な人間で

    あったなら。



    そうでなくてもいいや。



    怖がられていても

    なんでも良い。


    とにかく


    軽く扱っては

    いけない人間だったなら




    このアーティストは

    今、この場で

    キモいなんて



    言われなかったのになぁ。



    そんな風に考えた。



    自意識が過剰なのだ。



    悪く言わせるような

    自分の存在に嫌気がさした。




    諦めたというか

    身の程を知ったというか。



    好きなものを

    無条件に
    肯定してもらえるような


    人間ではないんだと。



    私は

    あなたを


    否定したことはないけれど



    私は

    そういう人間ではないんだと


    思い知った。




    だから

    好きなものは

    自分の中で守ってきた。



    なんだよ。






    好きなものくらい


    好きって

    言わせてくれよ!




    そうやって

    いつも聞こえない声で


    叫んでる。





    小学生にもならない

    小さな頃。




    好きだった音楽は


    ディズニーのアニメ、

    美女と野獣。





    ビデオテープを止めて

    歌詞を書き写した。



    今でも

    ほとんどの曲の
    ほとんどの歌詞を覚えている。



    あの頃
    どうしても

    世界を再現したくなった。



    なんとか周りの子たちを

    ミュージカルごっこに誘った。



    ひらがなで書いた1ページ。



    2枚、同じことを書いて


    手で押さえながら

    ノートの真ん中で切った。




    ハサミは使わなかった。



    歪んだ文字は

    擦れて薄くなった。




    一番背が高くて可愛い子に

    ベルをお願いした。



    お調子者の男の子に

    野獣を。


    その他の女子に声を掛ける。

    『朝の風景』を


    つくりたかった。



    自分がプリンセスに

    なりたいわけじゃない。


    ただただ

    音楽と世界観が好きなだけ。



    うまくはいかなかった。



    なにしろ
    全員子どもだから。


    でも『美女と野獣』を

    否定してくる子は


    一人もいなかった。






    分岐点はどこだったんだろう。




    自分が変わっていると

    思われないために


    どこになにを置くべきか。





    そんなことを

    考えるようになったのは



    いつからだろう。




    BEAT CRUSADARSと
    Perfumeのライブによく行った。


    好きだった。


    でも
    友達も好きだったから

    チケットを取るのは
    任せきり。


    開催場所も
    行き方も


    開演時間すら

    把握していない。



    一度

    私が帰り道を

    先導したことがある。



    「試しにやってみて」



    と言われたから。



    その日
    最後のバスを逃して

    長い距離を歩くことになった。



    「任せた私が馬鹿だった」



    そんなことを言わせた。




    乗り換えとか

    計画とか苦手なんだ。



    友達とは


    少しずつ

    関係が薄れていった。





    昔好きだった音楽は

    なんだか



    色が褪せるというより


    黒くて濃い。





    どうしても苦いから



    砂糖をたくさん入れた


    エスプレッソみたいな。




    だから

    今はあんまり聴かない。






    でも文章にして
    書き始めたら


    好きなものが

    たくさん言えることに

    気が付いた。



    見えるように
    公開しているから

    みんなに向けていると


    思われるだろうけど



    そういうわけじゃない。




    だって私の文章は長い。




    怪我の功名みたいに




    読める人にしか


    読めないような文章。




    だから
    こうして


    心の中を
    打ち明けられるのかも。




    好きなものが


    自分の中で再確認できた。



    言葉があるおかげで

    触れた気がしている。




    それで


    なんとか

    ライブに行ってきた。



    初めて。


    一人で。




    というか

    抽選なんて

    絶対外れると
    思っていたんだ。


    だから

    全然


    行くと思わなかった。







    当日は最悪だ。



    まず会場を
    思い込みで間違えていた。



    近場かと思ってたら


    遠い。



    試しに
    SNSで

    ライブ名を検索したら


    「着きました!」


    「今から出発します」


    そんなのを読んで。


    え?


    夜からなのに?


    時計を見るとまだ

    十二時。


    そんな感じなの?


    そこで場所が遠いことや


    早い時間から行くものだと知る。



    慌てて支度して

    出掛けた。



    乗り換えは



    乗り換えそうな


    早歩きの人の

    後を歩く。



    それで辿り着けた。




    グッズがすでに
    販売されていることを


    知らずに


    隣のファッションビルで


    文房具を悩んだ。



    ビルの外に出て


    やっとグッズ売り場に気付いた。



    気付けて良かった。







    すごく悩んだ。


    でも

    わかっているから


    欲しいものは買った。



    何がわかってるって

    性格上

    ライブにハマる人間ではない。



    最初で最後になるかなと

    思いながら来ている。



    グッズを買って


    カフェに入った。



    最初に

    文房具屋で買った

    無地の手帳みたいな
    立派なノートに



    書きやすいボールペン。



    カフェで

    文字を書いたり

    絵を描いた。




    書きながら

    色んな人を見る。



    カフェや

    ショップがあるけど


    外で楽しそうに

    待つ人たちもいる。



    ライブに行く人だと


    すぐにわかった。



    服や髪型が派手であったり


    何より

    グッズを身につけている人が

    ほとんどで。






    私はどうだろう。



    いつもの服。



    さっき買ったグッズは


    一つも外に出していない。




    ラベンダーのリュックは


    ぴったりと

    ファスナーが閉じている。




    手にはボールペン。




    なんでだろう。




    ここに来ても


    同じものを

    好きである人達の前ですら



    好きなものを

    見えるように



    取り出すことができなかった。




    時間までそんなことを
    考えながら


    ノートを閉じて


    スマホに

    気持ちを打ち込む。





    早めにトイレを済ませて


    会場に入る列に並ぶ。





    人間の中にいると

    強く吹く風が


    止まったように感じて


    すごい人数なのが空気でわかる。





    後ろにいた
    二人のうちの片方が言う。


    「なに。

    今日って

    ドレスコード『紫』みたいなの、

    あんの?」



    もう一人が
    長い息を吐いた。


    言いにくそうだけど

    楽しそう。



    「みんなが着てるのは

    グッズTシャツの一つだから」




    「えっ」


    もう一人が驚いたような

    声を出す。




    私はたまたま


    可愛い紫のリュックを

    愛用している。



    張り切ってるとかじゃなくて

    身に付けるものに


    色がないと

    萎れてしまう。



    通路が狭くなって

    並ぶ列が減らされる。


    さらに狭くなって

    ゆっくりと進むので


    リュックを前に持った。



    後ろの二人が

    話す。



    「ほんと最低だよ」



    「ごめんなさい。

    ごめんなさい」



    大丈夫です。




    気にしてないです。





    汚れているリュック。



    洗っても洗っても

    すぐ汚れる。




    三年前に

    姉の洋子が

    誕生日に買ってくれた。



    紫のリュックを

    探していた。


    私の思う紫じゃないと

    意味がないから


    現品を指定して


    買ってもらった。






    この色が

    どう言われたとしても


    気にならない。





    何が違うんだろう。


    思いながらゆっくり進む。




    トイレに行ってから


    開場したのに



    自分の席の位置を

    遠目で確認してから



    もう一度


    トイレに行った。




    トイレの個室が並ぶスペースと


    手を洗うスペースが


    完全に別々の

    分かれた部屋みたいになっていて


    とても新鮮だった。



    洗うはずの手で

    長い距離を移動するのは


    ちょっと嫌だなと思った。







    席に移動する。


    鑑賞する場所は

    ちょうど良かった。




    一番上の階の

    最前列。



    だから目の前に

    人はいないし



    上から全部が


    よく見える。



    そんなに大きくない会場だけど


    両方の手のひらで

    ステージが
    支えられそうな小ささ。



    なんだかとっても可愛い。



    幕が降りている。


    空気が

    曇っている。



    室内なのに
    白っぽくて


    不思議だった。





    隣の人は

    背筋をピンとして


    なにやら
    ライブの作法を心得ているような。





    反対隣の人は

    双眼鏡を持っている。


    お茶のペットボトルを

    鞄から出して

    足の間に置いていた。



    私も真似して


    リュックから

    お茶を取り出して


    足元に置いた。




    双眼鏡は

    あった方がいいと
    知っていたけど


    持ってこなかった。



    なんだか

    なにかを通してみるのは


    もったいないことのように思った。


    ただそれだけの理由。



    知らない

    違うアーティストの


    音楽が小さく流れる。




    それで曲が終わると


    もしかして
    出てくるんじゃないかと


    期待をする。


    でも

    すぐにまた
    次の曲が小さく流れる。



    ちょっと

    心臓に悪い。




    そう。


    緊張している。


    ライブが終われば

    この人数が一気に
    帰ると思うと


    とてつもなく恐ろしいし




    始まったらどんな風になるかも


    想像がつかなくて怖い。



    どうしよう。


    隣の人に


    緊張しますねって


    話しかけたくなるくらい

    今、テンパっている。




    状態としては


    座っているだけ。




    隣の良き姿勢の人が


    グッズのタオルを

    膝に置いた。



    あ。


    そうか。



    今かも。





    私も置こう。


    包装のビニールは

    カフェでこっそり



    リュックの中で外していた。



    膝の上に


    可愛いタオルを置いた。




    そうか。


    友達がいたから


    これまで


    タオルはいつも
    手に持っていた。


    それは
    肯定してくれる誰かが


    そばに居て



    なんだか

    否定されることから


    守ってもらえるような。



    全然

    進歩がないなと

    思った。




    良き姿勢の人が

    革製の小さなバッグに


    グッズを
    詰め込んでいるのが見えて


    この人も

    慣れているわけじゃないんだなと


    そんな気がした。




    反対の隣の人は

    本を読んでいる。


    慣れているのかもしれない。



    タイトルは見えない。


    別に見る気もないんだけど。



    知らない人の音楽が

    始まって終わる度に



    緊張が積み重なって


    増えていった。




    着席のアナウンスが流れて


    暗転した。





    声が聞こえた。



    よく知っている声。




    照らされてから

    やっと見えるシルエット。






    水玉模様みたいに


    ライトが跳ねる。





    可愛い。



    可愛くて泣いた。



    緊張していたから。



    ほっとした。




    こんなに遠くからでも


    とっても可愛い。



    膝の上に

    乗せていたタオルで



    涙と鼻水を拭いた。



    タオルはタオルだから。



    ただの
    可愛いタオルだから。





    数曲歌ってくれて

    たくさん話しているのを見て


    すごく笑った。




    前奏が流れる。


    その人が歌う曲の中で


    いちばん好きな。





    それだけでまた


    泣いた。



    だってこの曲は


    私を何度も

    支えてくれて。




    いろんな曲を聴くから

    聴く回数は


    少なくなっていったけど。



    でも

    好きだ。




    隣の人は


    知らない。



    私が泣いている理由。




    歌っている人は


    もちろん知らない。




    私の人生なんて。




    だからいいのだと


    そう思えた。




    どんな風に


    この場を楽しむかは


    自由なのだと。




    隣の背筋の良い人は


    ときどき叫んだ。





    本を読んでいた人は


    静かに鑑賞した。



    手拍子は



    ズレてるように聴こえて


    一緒にできない。



    やりたいけど


    私には難しいことで

    やれない。






    音楽は

    直接聴いた方がいいんだと


    わかった。



    それは歌っている人そのものより


    生の演奏の感じだ。



    フルート、

    ユーフォニアム、

    ギター、ベース、


    タンバリン!



    それからコーラス。



    いろんな

    音が


    一つの

    音楽をつくる。



    歌自体の力は少し


    後ろにいく気もする。




    普段は後ろに

    下がっている音たちが


    前に出て


    それが曲を


    まるく立体にしていく。






    歌うだろうと
    わかっていて


    楽しみにしていた曲は


    やっぱり

    リズムがよくって


    ビートが気に入っていたから

    聴けてよかった。




    それで


    いつも聴き流していた曲は



    目の前で聴いたら

    とても良かった!




    まるで一緒に

    空を飛んでいるような


    そんな気がした。





    いろんなことを考えていたら


    あっという間に


    終わってしまった。




    終わった瞬間に

    イヤホンをつけた。




    このイヤホンは

    安いのを使っている。



    いつも同じものを

    2セット持ち歩いている。



    充電切れになったり

    無くしたりした時の為である。



    良い性能じゃないから

    外の音も


    拾えてしまうところがいい。





    初めての場所でも

    集中し切らないから。


    すぐに音楽を掛けた。



    ドビュッシー。




    自分のペースで
    歩けないような人混みも


    緊張しなくて済む。



    ゆっくりゆっくり


    階段を降りながら


    今日のスタッフの
    何か対応についての


    不遇を話す人たちがいた。



    音楽を大きくした。



    そうだよな。



    同じものを

    好きだからといって



    好きな人同士が

    同じ価値観で


    繋がれるわけではないよな。



    この人数全員


    同じ趣味だからって


    友達になれちゃったらさ




    一人ずつ遊ぶとして


    何年必要?



    考えたらとっても怖い。



    仲良くなる前に

    最初に会った人のこと



    忘れてる。



    音楽と妄想で

    なんとか


    自分のペースで


    歩ける道まで

    出られた。





    乗り換え同様


    若干電車アプリを見ながら


    とりあえず人々の背後をつける。





    こういう時に

    なぜか目的地を

    わかりもしないのに




    先頭集団に入りたいという


    まるでダチョウのような

    習性が働く。



    走るのは遅いが




    早歩きが


    速過ぎるという特技がある。




    そうやって
    歩きすぎた結果


    行きたい駅とは


    違う駅に

    辿り着いた。




    仕方なく

    違うルートでの帰宅を決める。






    そして

    ホームに
    電車が来る。


    ここでも


    目的地を確認せずに


    乗ってしまうという

    習性を発揮する。




    反対方面だった。


    とりあえず
    心が落ち着くまで乗った。


    すると


    乗り換えれば


    結果的に
    本来帰りたかった

    駅からのルートに重なり


    遠回りした結果

    余裕で座れるという。



    さっきまで
    会場にいたであろう


    皆さんが


    後の駅から
    乗り込んできて


    あっという間に
    満員電車になった。


    どうも皆さん。


    ダチョウのように

    突っ走った結果



    策士のようになってしまった



    馬鹿です。



    どうぞ
    よろしくお願いします。




    というわけで


    最善の方法で帰宅した。






    手を洗って

    一番最初にしたのは


    グッズの確認だった。




    それで


    大きなキーホルダーは



    リュックに付けた。




    ビニールを開ける。


    夏は

    この白いTシャツを

    たくさん着るだろうと思った。



    さっきまで


    出せなかったのに。






    わかった。



    何事も

    意味を持たせるのが苦手なのだ。



    あの会場で


    付ければ


    意味ができる。




    Tシャツも

    キーホルダーも


    タオルも


    意味がある。



    前のイベントの


    お気に入りを持ってくる人もいる。


    たくさんのグッズを


    身につける人もいる。





    そうじゃなくて



    なんでもない


    気に入っている

    可愛いものとして


    それを付けたいのだ。



    意味なんて

    自分だけがわかるもので。




    お気に入りの紫の上で


    揺れる可愛いキーホルダー。




    知っている人は


    気付く程度の


    そんなおまじない。





    好きな音楽は

    これからも




    別に言わなくていい。






    いつも私は探していた。



    真ん中がどこか。





    外側は合わせる。




    でも内側はいつも



    いろんなことから

    自由になる。




    狭いところから出て良いと



    いろんなものが


    私を肯定する。







    もしも


    あなたが
    好きなものを好きって


    言えないんだとしたら



    それでいいと思う。





    だってそれはさ


    自分を信じてるってことだよ。





    自分が誰かに

    否定されてはいけない存在だって


    ちゃんと理解してる。




    好きなものは

    好きだから


    心の中は

    誰にも触らせない。



    いいじゃん。


    それで良いんだよ。





    なんでもないみたいなものに



    隠れてさ

    本当は魔法が掛かってる。




    そんな風に

    大事なものを



    日常に溶かして


    紛れ込ませる。




    そうやって

    ずっと守ってる。




    私はあなたのことを

    否定しない。



    そうやって

    否定して来ない人にだけ



    見せたら良いんだよ。




    私もそうする。



    しんどくなったら



    否定しない人の前で


    叫んだら

    良いんじゃない?




    しまっておいても良いし


    たまに見せてくれても良い。



    どっちでも良いよ。





    あなたの選択したことや

    好きなものに



    敬意を払える人間でありたいと思ってる。




    そのうちあなたの好きに


    この長い文章を

    混ぜてくれたら嬉しいなぁ。



    なんて。



    そんな図々しいことも

    思ってみたりして。





    ここで話してること


    大きな声で言うつもりないんだ。



    ただ、
    今この場所で


    読んでもらえて


    嬉しいなって思ってる。




    だから

    私の好きな曲



    こっそり教えるね。




    CharaとYUKIの

    ライブに行ったんだ。





    『ひとりかもねむ』の

    ビートが好き。




    それで実際に聴いてみたら



    『鳥のブローチ』を
    とても好きになったんだ!



    文章を書きながら



    二人の笑顔が描かれたマグカップで


    コーヒーを飲む。



    これからはずっと

    一緒なんだと思ったら



    幸せな気持ちになったよ!




    YUKIの歌う曲の中で



    『プリズム』が

    いちばん好き。




    ありがとう。



    私の好きなこと

    聞いてくれて。


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