
ナナツボシ 第23話「魚」
(エピローグ)
静かな朝だった。
喫茶ラズベリーのランプは、今日も変わらず灯っている。
あのあと、衝撃の事実が発覚した。
というか、正体が見えた。
ナナが悩んでいた“潮騒ちゃんプロジェクト”は、アイドルデビューを謳った詐欺だった。
潮騒プロダクションの社長は、未成年に対するわいせつ行為ほう助の疑いで逮捕された。
結局、ナナの選択は正しかった。
でも、それは“正しかったから救われた”という話じゃない。
あのときのナナは、ただ自分の感覚で拒んだだけだ。
理由より先に、違和感を選んだ。
それが、たぶん一番強い選び方だった。
窓の外で、魚のように光が揺れた。
この街の光は、今日も静かだった。
何も変わっていないようで、少しだけ違う。
ナナと僕の距離は、まだ言葉では説明できないままだ。
近いのか、遠いのか、それすら曖昧で。
僕は、ときどき思う。
出会う前から、もうどこかで繋がっていたのではないかと。
言葉はあまり役に立たない。
代わりに残るのは、同じリズムみたいなものだった。
話していない時間でも、
離れている時間でも、
なぜか途切れない何か。
それは約束じゃないし、名前もない。
だけど僕たちは、もう戻る場所を必要としていない。
街は何もなかったかのように動いている。
ナナは今日もここにいる。
ミーコはギターを弾いている。
それだけで、この世界は成立してしまう。
でも、確実に何かが変わった気がする。
僕たちの物語は、きっとまだ終わらないんだと思う。
魚みたいに泳いで、どこにも属せないまま。
それでも生きている何かがある。
この街は、僕たちのものじゃない。
それでも、確かに繋がっている場所だった。
コンクリートの隙間に、光が沈んでいく。
戻る場所は、もういらない。
僕はふと、ランプを見上げた。
この暖かな灯がある限り、二人のリズムは続いていく。
——おわり——
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