第1話『この世で最強の「公式限定グッズ」を携えて、人間関係の砂漠から脱出した話』
「この世で最強の『公式限定グッズ』、
それが御朱印である。」
お寺ごとに異なる美しい筆跡、そこに押される鮮やかな朱色の印。それらが自分の御朱印帳に1ページずつ刻まれ、埋まっていく充実感は、アクスタ(アクリルスタンド)を並べる以上の多幸感がある。
世間では「大人の静かな趣味」なんて呼ばれているけれど、違う。これは、1300年前から続く、全人類が通るべき「最高にディープな沼」の始まりだった。
そもそも、私がこの沼に足を踏み入れたのは、人間関係に疲れ果て、過去のトラウマに心が押しつぶされそうになっていたからだ。
30代。これまでの人生で、信じていた人に裏切られたり、理不尽に傷つけられたりした記憶は、消えないトゲのように今も胸に刺さっている。「また同じように傷つくかもしれない」という恐怖から、人と接するときはいつも、相手の顔色をうかがうための透明な盾を構えてしまう。
誰かと繋がることが、いつの間にか息苦しくて、怖くてたまらなくなっていた。
「もう、誰も私の心に入ってこないでほしい……」
そんな、ドロドロに傷ついたメンタルを引きずりながら、私は逃げ出すようにお寺の境内へと足を運んだ。
スマホの電源を切り、一歩、山門をくぐる。
そこに広がっていたのは、驚くほどの静寂と、お線香の心地よい香り。そして、薄暗い本堂の奥に佇む、仏像の姿だった。
人間は裏切るし、変わるし、時に牙を向く。
でも、目の前にいるその「推し」は、1300年もの間、何万人もの人間のドロドロした悩みや祈りをただただ受け止め、一言もジャッジせず、ただ静かにそこにいてくれた。
「傷ついたままでも、怯えたままでも、ここにいていいんだよ」と、そのお顔が言っている気がして、気づけば透明な盾を握りしめていた手の力が、すっと抜けていた。

誰の顔色もうがわなくていい空間で、私は久しぶりに、深く息を吸えた。
この救われた証(現場の参戦証明)としていただいた御朱印の美しさに、私のオタク魂が震えたのだ。ここが、私の新しい「生きる現場」だと。