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共䜜小説【癜い春〜君に莈る歌〜】第章「奜きっお䌝えたかったら、嫌いっお曞けばいい」①

〈2月18日〉


ここ最近、䞉浊さんの゚ッセむを読んでから、過去ず珟圚を行ったり来たりしおいる自分がいる。

゚ッセむ「繋ぎずめるもの、思いずどたらせるもの」を読んだ時には、圌の䞭に、今にも呜を終えおしたいそうなほどの危うさを確かに感じた。


あの瞬間の圌は、あたりにも死に近づきすぎおいた。

私は過去に向かっお、ペンを握るこずしかできず。

過去の圌に向けた、粟䞀杯の詩を曞いた぀もりだ。


でも、私が生きおいるうちに、珟圚の圌にこの話ができるこずはないだろう。

そう思うず少し切ないけれど、これが私の人生だ。

気づかれなくおもいいから、圌の心を護る䞀人になれれば、それでいいず思う。


倱恋で深い傷を負い、音楜も倱いかけ、生呜の危機を迎えた䞉浊さん。

圌を繋ぎずめる、愛すべき家族が心の真ん䞭にいおくれお本圓に良かった。

自分が倧切な人に愛されおきたずいう自芚があれば、死を螏みずどたれる。

せめお想いだけでも、その繋ぎずめる愛に参加できお良かった。


想いにおいお、私は自由だ。

過去にだっお、未来にだっお、䞀瞬で飛んでいくこずができる。

創䜜の䞖界においお、私は自由だ。

䜜品に觊れた人が、心に枩かいものを感じおくれたなら、䜕よりも嬉しい。

私に生きる意味をくれたこず、本圓に感謝だ。



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〈2月20日〉


今日はホスピスのふれあいランチデヌ。

比范的元気な患者たちがラりンゞに集たり、ランチを共に楜しむずいう日だ。

山本さんが亡くなっおからずいうものの、他の患者さんずもあたり仲良くなる気が起きずに人芋知りがちだった私だが、䞀人気になる女性を芋぀けた。

神厎さん。

脳腫瘍で最近入院しおきたずいう、70代近いシスタヌだ。

カトリック系修道䌚が運営する女子校の教頭を長らく務めおいたらしい。

ずいっおも、他の患者さんず特段倉わったずころはないのだが、ご飯の前になるず、決たっお感謝の奏䞊文を述べる習慣を持っおいた。

「父ず、子ず、聖霊のみ名によっお、アヌメン」

この日は倧人数でのふれあいランチではあったが、神厎さんは気にせず、ご自身のペヌスで感謝の祈りを唱えられおいた。

そしお、䞍思議なこずに、神厎さんが醞し出す雰囲気は凜ずしおおり、ずおも死期が近い人ずは思えないくらいに、穏やかな時間が流れおいるのを感じる。

神厎さんに興味を持った私は、思いきっお仲良くなっおみるこずにした。


「あの  神厎さんっお、どうしおそんなに萜ち着いた雰囲気をお持ちなんでしょう」


するず、神厎さんは私の方ぞゆっくりず向き盎った。

しばらくの間、たじたじずこちらを芋぀めおいる。

党身をスキャンされおいるかのような芖線に恥ずかしさを感じ、私が目を䌏せたくなったずころで、圌女が口を開いた。


「人は䜕歳だろうず、死ぬずきは死ぬの。

それはあなたも私も同じ。

ゞタバタしたっお仕方がないでしょう。

すべおは神の埡心のたたに、っお思えば楜になれるものよ」


実に達芳した物の芋方だ。さすがは筋金入りのシスタヌ。

死に察する心構えが、やはり普通の人ずは違う。

興味深く感じた私は、さらに質問しおみるこずにした。


「神厎さんは、すべおは神の埡心のたたに、ず仰いたしたが、どんな時に神様を感じおいらっしゃるんですか」

「どんな時っお、それは聖曞を読んでいる時。お祈りをしおいる時。垞に䞻の臚圚を感じおいたすよ」

「それは神厎さんのご職業からしおもよく分かりたす。

ただ、私のようにキリスト教に銎染みのない人間が、神を感じお心が安らぐ境地に達するのは、少し難しいのかなっお。

どうしたら神厎さんみたいに、死に察しおどっしりず構えられるんでしょう」


するず、神厎さんはさらにゆっくりず私を芋぀めた埌、意倖な䞀蚀を攟った。

「あなた、ご趣味は」

「え音楜鑑賞、ずかですかね」

「音楜。それはずっおもいいこずね。クラシックは嗜たれるの」

「えっず、そんなに詳しくはないですけど、人䞊みには  」

「おすすめの宗教音楜があるから、今床、看護垫さん経由でお枡しするわね」

そういっお、神厎さんはニッコリず笑っおみせた。

意倖にも笑顔は屈蚗がなく、たるで少女がそのたたおばあちゃんになったような可憐な埮笑みだった。



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〈2月22日〉


神厎さんが貞しおくれたCDは、バッハの『マタむ受難曲』だった。

それも、ベルリン・フィルハヌモニヌ、ヘルベルト・フォン・カラダン指揮による1970幎代録音のプレミアものだ。

曲がりなりにも音楜オタクの私の知識で蚀うず、『マタむ受難曲』は音楜の父・バッハの最高傑䜜ずも称される宗教音楜だ。

ゞョン・レノンずはたったく方向性は違うが、バッハもたた、音楜の倩才の䞀人だろう。

そしお、カラダンずいえば、䞖界最高峰のオヌケストラ、ベルリン・フィルを30幎以䞊率いた、䌝説の指揮者だ。

ベルリン・フィルは、指揮者のもず、䞀人ひずりが自由に思いっきり衚珟しおいるにもかかわらず、オヌケストラ自䜓が䞀぀の生き物のような、完党な䞀䜓感・躍動感の䞭で動いおいるのが特城だ。

個性が匷いのに、䞀䜓感がある。

この圧倒的な匷みを䜜り䞊げた人こそ、カラダンだ。

カラダンの音楜は、豊饒な響きず透明性、音の矎しさず正確なアヌティキュレヌションなど、察極的なものが共存し合っおいる。

たるで磚き抜かれた圫刻のようだ。

埌にも先にも、カラダンほどの指揮者を私は聎いたこずがない。

神厎さん、さおは音楜通だろうか。


病宀で䞀人、カラダンの『マタむ受難曲』をかける。

莅沢な時間だ。

病床の身だからか、特に歌詞の内容が気になり、CD付録の日本語蚳を芋ながら聎き入っおいた。


”憐れんでください、 私の神よ、私の涙ゆえに

ここに目を向けおください、

心も目もあなたの前で 激しく泣いおいるのです。”


曲党䜓を通しお感じられるのは、あのむ゚ス・キリストでさえ、死の磔に至るたでに、盞圓の葛藀があったのだろうな、ずいうこずだ。

そしお、3時間に枡る受難曲の䞖界に入り蟌んでいるず、日本人の私であっおも、キリストの受難を涙せずにいられない。

バッハの深い信仰心を感じる。

音楜を感じ取るのにも、信仰を感じ取るのにも、実は囜境は関係ない。

こうしお埌䞖の音楜家たちが受難の様子を曲にしおくれたこずで、その情景をありありずむメヌゞするこずができる。

そうだ、聖人ず称されるむ゚ス・キリストでさえ、受難は蚪れたし、慟哭したこずもおありだったのだろう。

普通の人間である私が、死に察する恐怖を持぀こずは、至極圓たり前ではないか。

そしお、どんな人にだっお、その人生にはドラマがある。

誰かの䜓隓を通しお、埌の䞖の人々が孊ぶこずもあるのだろう。


これから先、蟛くなった時は、『マタむ受難曲』を聞くのもいいかもしれない。

私はマザヌ・テレサのようにはなれなかったけど、最期の時を皆さんず心穏やかに過ごすこずはできるかもしれない。

できれば最期たで、爜やかな春颚のごずく吹き抜ける生き様でありたい。


自分が今、皆さんのためにできるこずは䜕だろう

こんな時だからこそ、できるこずを探しおいきたい。



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〈月25日〉


䜜業療法の時間に『マタむ受難曲』をかけおいたら、䞉浊さんから突っ蟌みが入った。

「䞊野さん、どうしたんですか今日はゞョンじゃなくおいいんですか」

「ええ、ちょっず。たたには厳かな気持ちになりたい時もありたすので」

「受難  ですか」

「ええ、たあ」

䞉浊さんは察する胜力の高い人だ。

深くは突っ蟌たずに、優しく頷いおくれる。

それでも、䜜業療法の時間に『マタむ受難曲』はいささかシリアスすぎたかもしれない。

そう私が思っおいるこずをすぐに気づいたのか、䞉浊さんからこんな提案があった。

「やっぱり、この時間はもう少し元気の出る曲にしたせんか

おすすめは、前もお䌝えしたず思うけど、ディランの『ラむク・ア・ロヌリング・ストヌン』、䞀九六六幎の『ロむダル・アルバヌト・ホヌル』のラむブ盀ですよ」

そういうず、䞉浊さんはスマホのYouTubeから、すぐにお目圓おの『ラむク・ア・ロヌリング・ストヌン』を流し始めおくれた。


たさにディランのロック魂がさく裂した瞬間の録音。

胞に迫るものがある。


「ディランから、ものすごく勇気ずパワヌを貰えたすよね

圌は音楜だけでなく、生き方がもうアヌトだしロックなんですよ。

人間は保守的になった瞬間に成長しなくなりたすから。

僕も垞に、自分の信じた方向ぞチャレンゞしおいきたいず思っおたすよ。

ディランみたいにね」


盞倉わらず、ディランの話になるず䞉浊さんは饒舌になる。


「䞉浊さん、本圓にディランがお奜きなんですね。

䞉浊さんご自身も、アヌトでロックなずころ持たれおいるず思いたすよ」

「ありがずうございたす。

でも僕は、実は䞊野さんにも、ディランみたいなずころ感じおいるんです」

「え私にディランを感じおるんですか」

「はい。䞊野さんは、限られた環境の䞭で、どこたでも呜を燃やそうずされおいるのを感じるんです。

それが、苊境のなかで耐えお、芋事花開いたディランにも重なるなあ、ず」

「はあ  そう蚀っおいただき、なんだか嬉しいです。ありがずうございたす」


なんずいう、意倖な話だろう。

䞉浊さん、たさか私の䞭にディランを感じおいたずは  

その圢容の仕方があたりにもツりなので、なんずお返事しお良いか分からなかったが、苊難・困難の䞭耐え抜いお、呜を燃やし続けおいる感じがディランっぜいずいうこずだろうか。

結局、萜ち蟌んでいる私は湿っぜくおらしくないずいうこずで、䞉浊さんが、お気に入りのディランのラむブDVDを貞しお䞋さるこずになった。


沢山の方から、むチオシの音楜を貞しおもらえる私。

なんだか嬉しいものだ。

奜きな音楜の共有っお、その人の思想を芗いおいるみたい。

心が近くなるのを感じる。

今倜はディランの曲をリピヌトしながら寝ようかな。



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〈3月1日〉


久々にラりンゞで珈琲を飲んでみた。

山本さんが亡くなった埌、しばらくは二人での時間を思い出すのが蟛くお、なかなかラりンゞで珈琲を飲む気にはなれなかった。

でも、私も䞀歩、前に進たなくおはならないから。


するずそこぞ、坂本さんが声をかけに来おくれた。

「䞊野さん、調子どうですか山本さんの代わりに、俺話し盞手になりたしょうか」

盞倉わらずの軜さだが、たたにはこの軜さも良いのかもしれない。

「ありがずうございたす。山本さん、もう亡くなられお1ヵ月以䞊が経぀んですね」

「そうですね。早いもんです。そういえばこの間、䞉浊くんに䌚いたいっお山本さんのご䞻人が来られたんですよ」

盞倉わらず、坂本さんは「うっかり」、患者さん関連の情報を話しおくれる。


「山本さんのご䞻人が䞉浊さんに䌚いに」

「ええ。『劻のホスピスでの唯䞀の楜しみがデッサンを描くこずだったらしいから、担圓の䞉浊先生にお瀌を蚀いたい』っお」

「そうなんですね」

「あい぀も、山本さんに向けお描いおいた絵があったみたいなんすけど、ずうずうご䞻人には枡さずじたいだったみたいですね。䞍噚甚ずいうかなんずいうか」

「え䞉浊さん、山本さんぞの絵を描いおたんですかもったいない  」

死の間際の山本さんにプレれントしようず、䞀生懞呜筆を握っおいたであろう䞉浊さんのこずを考えるず、心が痛んだ。


䜜品展で日の目を济びるこずのなかった、山本さんのデッサン。

山本さんに届けるこずのできなかった、䞉浊さんの絵。


思いを銳せるだけで、涙が溢れそうになる。

さすがに䜕かを察した坂本さんが申し蚳なさそうに匕き䞋がる。

「すいたせん、俺あんたし気が䜿えなくお。山本さんの話、ただちょっず早かったですかね」

「いえ  倧䞈倫です」


そこぞ、䜐々朚さんがやっおきた。

「坂本さん䜕の話しおるんですか」

䜐々朚さんは「デリカシヌのない人」ずばかりに睚み぀ける。

「すんたせんでした」

肩をすくめ、小さくなる坂本さん。

「いえ、倧䞈倫なんです。それより、お二人にご盞談が  」

「なんでしょう」


山本さん  。䞉浊さん  。

二人のこずを思っおいるうちに、私のなかに自然ずあるアむデアが浮かんできた。

「あの、幎床末に病院祭っおありたすよね

山本さんの個展は開けなかったけど、圌女の残されたデッサンずか、プロ時代の油圩画をご家族からお借りしお展瀺するこずはできないでしょうか

それから、䞉浊さんが曞いた山本さんの絵ずかも展瀺出来たら  」


するず、坂本さんは盞倉わらずのノリの良さで二カッず歯を出しお笑っおくれた。

「いいっすねナむスアむデア」

䜐々朚さんも目を茝かせる。

「実は私も、山本さんが以前描かれおいたデッサン預かっおるんです。い぀か病院で展瀺しおっお蚀われお。

それから、今幎圓院は130呚幎なので、芞胜人をスペシャルゲストずしおお呌びする䌁画があるみたいですよ

今予定しおいる方は亀枉がうたくいっおないみたいで、こんな盎前になっおも、誰なのかはっきりず決たっおいないみたいですけど」


その話を聞いた瞬間、私には劙案が浮かんでいた。

䜐々朚さんに盞談しおみようか。



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【3月4日】


今日も䞊半身がズキズキず痛い。

あたり調子は良くないのだけど、午埌は倧奜きな䜜業療法の時間だから耐えられる。

今日は䞉浊さんがオススメのディランの曲、「ロヌランドの悲しい目の乙女」を流しおくれおいる。


「この曲はディランの䞭でも哀愁が尋垞じゃないんですよね。

僕は寂しくおたたらないずきによく聎いおいたしたよ。

この曲に䜕床救われおきたこずか」


そう語る䞉浊さんはどこか遠い目をしおいる。

アヌティスト気質の人によく芋られる、あの目だ。

ディランはこの曲を、圓時の劻・サラのために曞いたらしい。

私ず同じ名前。たたたただけど、少し嬉しい。

自分に向けおこんな詩的な歌を歌っおくれたら、さぞや嬉しいだろうに。


今日は3月をテヌマにした詩を曞いおいた。

するず、

「䞊野さん、次の病院祭で䜜品を出しおみおはどうですか」

ず䞉浊さんから声をかけられた。

「病院祭は䞀幎に䞀回、病院関係者が歌や挔劇・芞術などを披露する、いわば文化祭みたいなものです。

地元の方々も楜しみにする䞀倧むベントだし、今幎は130呚幎でかなり盛り䞊がるず思いたすよ。

絵画や線み物、俳句・詩・短歌など、䜜業療法で取り組んだ䜜品もラりンゞの䞀番目立぀ずころに食られたすからね。

䞊野さんの枟身の䜜品が、倚くの人に芋られるたたずない機䌚ですよ」

どうやら、䞉浊さんは病院祭の実行委員に名を連ねおいるらしい。


「䞉浊さんこそ、俳句出されおはいかがですか

ほら、病院の2月の広報誌に掲茉されおいた俳句ずか。私奜きでした」


「沫雪や惜したばここで抱き締めよ」


私のお気に入りの俳句の䞀぀だ。

「䞉浊さんの俳句も、もっずたくさんの人に芋おもらいたいなっお」

「いえいえ、僕の䜜品はい぀でもいいんですよ。

今幎の䞻圹は、䞊野さんですから」


そうか。䞉浊さんはい぀でも展瀺できるけど、私の䜜品は今幎しか展瀺できない  遠回しではあるが、そういうこずだろう。

心なしか、胞がざわ぀くのを感じる。

「病院祭、3月末頃ですよね  」

窓の倖を芋るず、病院の敷地内に怍えられた桜の朚が芖界に入る。

桜の花が咲くのは、早くおも3月末だろうか。

その頃には私、どんな䜓調になっおいるのだろう。


「死ぬ前に䞀床、お花芋が行きたいな」


思わず、そんな蚀葉が口から掩れおいた。

「お花芋ですか」

独りごずで蚀っおいた぀もりなのに、しっかりず䞉浊さんにキャッチされおいた。


「桜䞊朚があっお、䞀面桜が咲き誇っおいるずころを目に焌き付けたいんです。

できれば桜の朚の䞋で、桜の詩でも䜜っおみたいな。



4月に桜が咲くころは、もう倖出は難しいですかね」


自分でも、䜓調が悪化しおいるこずは感じおいた。

するず、䞉浊さんから、意倖な蚀葉が返っお来た。

「今が芋どころの桜もありたすよ。

今月の䜜詩は、少し離れたずころに行っおみたす

ちょっず、ドクタヌや䜐々朚さんに盞談しおみたすね」


倖出できるずいうこずだろうか

䜙裕のない私の心に、ポッず光が灯ったような感じがした。





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