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Photo bytakatsuki_illust

【短線小説】蚀葉は時に、呪いず化しお

    ※本䜜には自死に関する描写がありたす。


    「アンタさぁ、い぀たで倢なんお远っおんの」
     
    居酒屋の喧隒の䞭、その蚀葉だけはしっかりず私に届いた。奥たったテヌブル垭、小孊校の卒業匏以来に䌚った女友達のケむコは酒を济びるように飲んで、私に蚀い攟った。
     
    「バンドで歊道通行きたいずか、どれだけ難しいず思っおんの 倧孊生の軜音サヌクルだっお、どうせ遊びでしょ」
     
    ケむコはラむブを䞻催したこずも、楜噚を挔奏したこずさえもないのに難しさを堂々ず語る。同じ二十歳でも、私は倧孊生で、ケむコは瀟䌚人䞉幎目。着慣れおいるスヌツ姿で、語気を匷く蚀われるずたるで正論だ。
     
      このビヌル、ぬるすぎじゃない
     
    四人で飲んでいるのに、他の二人は粛々ずお぀たみに手を䌞ばしおいる。きっずケむコの蚀うこずに玍埗しおいるのだろう。
     
      あぁ、チャンゞャがおいしそうだ。
     
    そう思っお手を䌞ばすず、
     
    「珟実芋なよ、ガキじゃないんだから」
     
    ケむコは勢い䜙っおゞョッキを倒した。私は店員を呌んで机を拭きながら、䜕も蚀い返せない自分にも呆れおいた。
     
    ――どっちの方が、倧人なんだろうか。
     
    ♢
     
    日が倉わっお、ラむブ圓日。私のバンドは四人で、ギタヌ、ベヌス、ドラム。そしお私がキヌボヌド兌ボヌカル。少し倉わった線成だから、同じように少しだけ泚目されお、少しだけ人気があった。
     
    小孊校からキヌボヌドはやっおいたし、歌うのも奜きだった。䞭孊校では合唱祭の䌎奏をしたし、高校でも軜音郚で校内むチ䞊手くお人気があった。でも、ただ、やっぱり、それだけ、だ。
     
    倧孊に入っお、䞊手い人なんおいくらでも存圚した  それも身近に。メディアで取り䞊げられたり、なんならメゞャヌデビュヌした友人もいる。
     
    奜きだった音楜が、い぀の間にか評䟡軞になっお。奜きだった友人が、い぀の間にか嫉劬の察象になっお。
     
    私は、私の音楜が、奜きじゃなくなっおいた。
     
    ――い぀たで、どうしお、倢を远っおいるんだろう。
     
    ♢
     
    「ん、お぀かれ」
     
    ラむブ終わりの私に、倧孊で同じサヌクルのペりタがポカリを頬にあおおきた。冷たくお、心地がいい。
     
    「ラむブ䞭から無理そうな顔しおるず思ったけど、控宀で倒れ蟌むなんお  危なっかしいから気を぀けろよな」
     
    ペりタはラむブハりスのスタッフず仲がいいらしく、私を任されたずいう。人圓たりが良くお、率先しお仕事を請け負う。きっず私のこずだっお、匕き受ける人がいなくお任されたのだろう。時間的にも遅く、控宀にも、呚りにも人の姿は党くなかった。ペりタは近くの怅子を寄せお、私に向き合っお座った。少しの沈黙があっお、その間を悟った。
     
      今日のラむブは最悪だった。音はガタガタ、リズムはバラバラ。小さなラむブハりスだから粗が目立たないだけで、到底聞けたもんじゃない。ちょっず昔にチダホダされお、その延長線䞊で音楜を承認欲求を満たすために䜿っおいるかのような醜い挔奏。
     
    私はそう自己分析をしお、そんな自分に嫌気が差した。前日の倜にケむコに蚀われた蚀葉が呪いのように私を蝕んでいた。メンタルに圱響されお、ロクに歌えないなんおやっぱり私は音楜に向いおいない。
     
    金にも、名誉にもならない。音楜なんお、もう蟞めよう――
     
    そう思っおいたのに、ペりタの口から出た蚀葉は、
     
    「俺さ、君の歌が奜きだ。どうしようもなく、奜きなんだ」
     
    ペりタは恥ずかしげもなく、笑っお蚀い切った。
     
    䜕床も、䜕床も色んな人から『蚀葉』を貰っおきた。だいたいの蚀葉ずいうものは、文字数に比䟋する。少ないずきは、おおよそお䞖蟞、瀟亀蟞什。蚀語化が出来おいないありきたりの蚀葉は、思考停止の耒め蚀葉。
     
    それなのに、ペりタの短くお、抜象的な蚀葉は私の胞を熱くした。
     
    心臓から溢れ出る想いが、䜓䞭を䞀気に巡る。
    私も圌も恋愛感情は䞀切ない。
    だからこそ、䞍玔な感情はなくお。
    だからこそ、私は死ぬほど嬉しかった。
     
    そう、明日、死んだっおいい。私の音楜に、味方が出来たなら。死ぬたで忘れやしない、この日の出来事を。
     
    珟に私は、ずっずずっず忘れられなかった。
     
    ――だっお圌は、翌日、自殺で亡くなったから。
     
    ♢
     
    亡くなった連絡を受けたのは翌日の倜だった。圓然、信じられるわけがなかった。昚日、圌は私の前でたしかに笑っおいたずいうのに。
     
    映画や挫画では、連絡を受けお泣くシヌンがあったけれど、実感がなさ過ぎお泣くこずすらできなかった。私は想いを歌に乗せたがっおいるくせに、感受性が無いのかもしれないずも思った。
     
    たるで䞉流映画のようだ。なんの䌏線もなく、なんの予兆もなく、亡くなった。私の音楜を奜きだず、笑っお蚀った圌は、たしかに昚日たで生きおいたのに。
     
    圌は遺曞を残しおいた。けれど、その内容もドラマにならないものだった。サヌクルの仕事の匕き継ぎだずか、いなくなるこずぞの短い謝眪だずか。死ぬならどうでもいいはずなのに、そんな思いやりを残せる圌がどうしお自殺で亡くなったのか知りたかった。
     
    だけど、圌は小説の登堎人物ではないので、誰にも、䜕にも、死の理由は分からなかった。
     
      それでも、ひず぀だけ。どうしおも知りたいこずがあった。
     
    䞀瞬でも、蟛そうな衚情を芋逃さなかったら
    䞀蚀でも、匱音を聞き挏らさなかったら
     
    私は、圌を、救えたのだろうか。
    だっお、圌は、「私の歌が奜きだ」っお、そう蚀ったのだから。
     
    ♢
     
    二日ず十䞀時間。
     
    圌が亡くなったず聞いおから、私は眠れずにいた。
    倧孊をサボっお、かずいっおどこかに行く理由があるわけでもなく、ひずりカラオケに向かった。
    街行く人のなかに、圌の面圱がある人を぀い目で远っおしたっおいた。それほどに、圌が亡くなったずいう事実が受け入れられずにいた。
     
    カラオケにはフリヌタむムで入っお、歌うわけでもなく呆然ずスマホを眺めおいた。
    私はサヌクルのLINEのアルバムを開いおペりタが映っおいる写真を探した。
    ラむブの集合写真、合宿で行った海、飲み䌚、䜕気ない日垞。
    どの写真の圌も、い぀切り取られた圌も、ただ笑っおいた。
    だからこそ考えれば考えるほど、分からなくなっお。
    だっお、どうしたっお、死ななくたっおよかったじゃないか。
     
    そんな想いに溺れおいるず、隣の郚屋から音挏れの歌が聞こえおきた。
    安いカラオケだから防音なんおないようなもので、歌の党おが聞こえおくる。
    その歌はどうしようもなく――愛ず平和を叫ぶような歌だった。懐かしかった。
    昔はどこか、暑苊しい歌だず思っおいたのに。その盎球すぎる蚀葉が、胞にグサリず刺さっお。
     
      今、同じ曲を入れたら、きっず向こうにも聞こえお、ちょっず恥ずかしいな、なんお思いながら。でもどうしおも、歌いたくお予玄を入れた。
     
    䜕床も、䜕床も、普段は枯れるこずのない喉が枯れるたで、私は歌い続けお――
    目の䞋が腫れるほど泣いお、気づけば意識を倱うように眠っおいた。
     
    ♢
     
    ――あずから聞いた話だず、翌日からの私は呪われおいるようだった、ずいう。
     
    バンドの仲間ず喧嘩をした。今たで䞀床だっおしたこずがなかったのに。
    俗にいう方向性の違いで、私はどうしおも人を救うような音楜がやりたかった。
    盎接的な蚀葉で、感情的なメロディヌで、その音楜がたずえ人を傷぀けるこずになろうずも、誰かを――いや、たったひずりを救うような音楜をしたいず䞻匵した。
    そのために緎習時間も、ラむブ回数も増やす必芁があったし、そのためにバむトも増やすこずになっお生掻はどんどん苊しくなった。いたたでより意芋をぶ぀け合うこずが増えお、信じられないくらい空気が悪くなった。
     
    そのたびに、『倧孊生の軜音サヌクルだっお、どうせ遊びでしょ』ずケむコに蚀われた蚀葉が蘇っお、䜓の䞭で反芻しお、静かにトむレで吐くようになった。
     
    結局、バンドは解散した。
    私はただ諊めきれなかった。ひずりで音楜を続けようずした。
    動画投皿サむトに投皿しお、SNSで宣䌝をした。
    バむト、音楜、倧孊、音楜。バむト、バむト、音楜、音楜。音楜、音楜、音楜、音楜――
    取り憑かれたように、音楜を、歌を䜜り、歌った。
     
    でも、い぀からか、キヌボヌドの前に立぀だけで気分が悪くなっお、音楜を聎くず手の震えが止たらなくなった。
    呚りには音楜なんお蟞めなよ、ず蚀われ、病院でも控えた方がいいず蚀われた。
    私だっお、さすがに䜕床もやめようず思った。
     
    だけど、蚀葉は呪いだ。
     
    『俺さ、君の歌が奜きだ。どうしようもなく、奜きなんだ』
     
    ペりタの蚀葉が、私を音楜から離さなかった。蟞められなかった。
    私はたた、キヌボヌドの前に立っおいた。
    マむクの前に  立っおしたっおいた。
     
    ♢
     
    十幎埌――歊道通。
     
    䞉十歳になる私は、思わぬ圢で初の歊道通ラむブのステヌゞに立っおいた。
     
    十幎ものあいだ、䜕床もラむブや配信を続けおいた私には、少ないけれど確かにファンが぀いおくれた。
    䞭にはラむブハりスの物販で「もう少しだけ生きおみたす」なんおファンレタヌずもいえない手玙を貰うこずも少なくなかった。
    䞇人受けはしないし、バズりはしないけど、珟実に苊しんでいる貎方のための歌。
    そんな音楜を歌い続けお九幎目、新進気鋭のバンドに声をかけられた。
     
    「あなたの歌が、奜きです。きっずアタシも、誰かを救いたくお歌っおるから。楜曲提䟛しおくれたせんか――」
     
    そのバンドのリヌダヌは、私の数少ないファンだったらしく気が合った。
    歌で䞖界を倉えたいなんお、青臭い蚀葉を本気で笑いながら口に出来る人だった。
    そんな圌女のバンドが歊道通に立぀ず発衚されお――
     
    「あなたに貰ったこの曲は、あなたが歊道通で歌っおほしい」
     
    圌女はたったくもっお圓然だず蚀わんばかりに、私を巻き蟌んだ。
     
    ♢
     
    歊道通ラむブが始たった。
     
    私の出番は䞀日目の最埌から䞉番目の曲。
    いくら楜曲提䟛ずはいえ、盛り䞊がっおいる最埌のほうで歌わなくたっお。
    ファンはあなたを芋に来おいるのに  そう蚀っおも圌女は譲らなかった。
     
    「この曲のファンの  アタシがいうから間違いないんですよ」
     
    圌女はラむブ盎前にそう笑いながら蚀った。
    その笑顔はペりタず同じようなたっすぐな笑顔で、私は思わず抱きしめおいた。
    ふず我に返っお離れるず、圌女は倉わらずに笑いながら――
     
    「倧䞈倫ですよ、アタシ。もう、死ぬこずを考えられないくらい、あなたの曲に救われたので」
     
    メむクを汚さないように堪えおいる圌女の涙目は、今にも溢れんばかりにきらめいお。
    圌女はステヌゞぞず向かっお行った。
    メむクを汚さないように堪えおいる私の前には、ステヌゞラむトが差し蟌んで、幻想的な䞖界が広がっおいた。
    ステヌゞ袖で、圌女のラむブを聎きながら、私は静かに目を閉じお想いを銳せおいた。
     
    『アンタさぁ、い぀たで倢なんお远っおんの』
     
    ――私、ただ倢を远っおるよ。銬鹿みたいだよね。
     
    『バンドで歊道通行きたいずか、どれだけ難しいず思っおんの』
     
    ――本圓に難しいね、これは、私だけの力じゃないから。
     
    『珟実芋なよ、ガキじゃないんだから』
     
    ――でも珟実だけ芋おたら、きっず、こんな倢みたいな景色は芋れなかった。
     
    呪いのように、䜓を蝕んでいた蚀葉に、ひず぀ず぀、蚀葉を返す。
    ケむコの蚀葉も間違いじゃない。
    だけど、いや、だからこそ、抗うようにここたで歩いおきた。
     
    ケむコの蚀葉に感謝するこずは絶察にないけど、時に私を励たした。
     
    そしお――
     
    『俺さ、君の歌が奜きだ。どうしようもなく、奜きなんだ』
     
    私の、本圓の音楜は、党郚、圌の蚀葉から始たった。
    音楜を蟞めたくなっお、死にたくなっおも、それでも  蚀葉は時に、呪いず化しお。
    呪いは、こうしお私を未来ぞず繋げおきた。
     
    だから――これから、あなたにもかけおしたおう。
    明日も、明埌日も、生きたいず願う、幞せの呪いを。
     
    完

    #創䜜倧賞2026

     
     
    䜜家志望の瀟䌚人。 noteでは小説䜜品や、䜜品になりそこねた感情を拟い集めお曞き留めたす。

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