
野菜より先に、欲が育った
我が家の家庭菜園は、丁寧な暮らしに憧れて始めた。
……のではない。
次男が学校からもらった野菜の種をなんとなく育てているうちに、その野菜を、好きなタイミングで好きなだけ食べたいと思った。
そんな、ささやかな欲から始まった。
そして気づけば、一番よく育っていたものがある。
それは、野菜ではなく人間の欲だった。
我が家の家庭菜園のガーデンレタス、ナス、ピーマン、オクラは大事に大事に育てられている。
そんな小さな畑で事件が起きた。
ガーデンレタスが、想像以上に芽を出したのだ。
そもそも、植えた人間(長男)が豪快だった。
「ひとつまみをパラパラ植えてね」
そう伝えた母。
しかし長男がやったことは……
パラパラではなく
ドーン。
ひとつまみどころか、
「ここから全部芽が出たらどうするの?」
という量だった。
どうやら、彼の中の「ひとつまみ」と、私の中の「ひとつまみ」は別の単位だったらしい。
彼なりの愛情を、全部畑に詰め込んだ結果。
我が家のガーデンレタスは、密林になった。
調べてみると、ガーデンレタスは5cmくらい間隔をあけて間引くらしい。
5cm……?
今、我が家のガーデンレタス畑はどうなっているかというと。
1cmに何本いるの?というレベル。
大変だ。
間引かなければ。
ガーデンレタスは小さいうちなら、ベビーリーフとして食べられるらしい。
でも、どうせならもう少し大きくして、食べ応えのあるサイズで食べたい。そんな欲が出てくる。
野菜を育てているだけなのに、私はもう「もっと」を求めていた。
密度の高いガーデンレタスを眺めながら、私は待った。
大きく育つ、その日まで。
そしてついに
密林のようになったガーデンレタスの収穫の日が来た。
家庭菜園の総監督、次男による収穫作業開始。
「え?全部取っていい感じ?」と聞く次男。
待って。
そこは少しずつ楽しもう。
そう言いながら、母の頭の中には別の考えが浮かんでいた。
(たくさん採ったら、今日のサラダ一品完成……)
……いや、待て。
だめだ。
せっかくここまで育てたんだ。
もっと大きくなれば、これは立派なガーデンレタスなのだ。
ベビーリーフを育てているんじゃない。
そう思っていたはずなのに!!
次男に盛大に収穫されたベビーリーフ。
でも大丈夫。
これで密度も少し減った。
残ったガーデンレタスは、もっと大きく育てられる。(ポジティブ)
ベビーリーフはもちろん、私のお腹の中へ。
育てるというのは、不思議だ。
思い通りにしたいと思うほど、思い通りにはいかない。
もっと大きく。
もっと良く。
もっと立派に。
そう願っているうちに、育てている側のほうが試されている気がする。
野菜も、子どもも。
きっと、思った通りには育たない。
でも、思った通りじゃないから、おもしろい。
欲深い長男が植え、
欲深い母が待ち、
欲深い次男が収穫する。
我が家の家庭菜園は、今日も誰かの欲で育っている。