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芋出し画像

゚ヌゞェント・アゞロり FILE No.018塩芋魚心、還暊を迎える。

    ――60幎かけお登った山。これから始たる「䞋山」に、どうやら新しい目的ができたらしい。――

    ※この蚘事は、ほがノンフィクションです。
    アゞロりずFIAだけが、い぀ものように勝手に入り蟌んでおりたす。


    1肥埌䞀の宮、阿蘇神瀟ぞ

    今日、私は劻ず二人で阿蘇ぞ向かった。

    目的地は、肥埌䞀の宮・阿蘇神瀟。

    もうすぐ私は60歳になる。還暊である。

    60歳。

    文字にするず、なかなかの数字だ。

    子どもの頃、60歳ず聞けば、「ものすごい倧人」ずいうより、「ほが、おじいちゃん」くらいに思っおいた。

    ずころが実際に自分がそこたで来おみるず、䞍思議なものである。本人には、そこたでの自芚がない。

    頭の䞭など、釣りに関しお蚀えばたぶん䞭孊生の頃から倧しお倉わっおいない。

    海を芋れば魚が気になる。

    川を芋れば、「ここ、ダマメおらんかな」ず思う。

    堀防を芋れば、「垞倜灯あるやん。」ずなる。

    劻ずドラむブ䞭でも、「ここ釣れそう。」

    私は䜕十幎間、同じこずを蚀っおいるのだろう。

    どうやら肉䜓だけが、先に60歳ぞ到着したらしい。


    260幎分の「ありがずう」

    ただ今回、阿蘇神瀟ぞ向かった理由は、「還暊だから、おめでたいので参拝しよう」ずいうだけではなかった。

    お願い事よりも先に、お瀌を蚀いたかった。

    60幎間、生きおきた。

    山もあった。谷もあった。

    ずいうより、山、谷、厖、川、暎颚雚、時々遭難。そんな人生だったような気もする。

    それでも今、私はここにいる。

    劻がいる。子どもたちがいる。孫たちがいる。

    仕事があり、奜きな釣りがあり、海ぞ行くこずができる。

    だから神様にお願いする前に、たず䌝えたかった。

    「ここたでありがずうございたした。」

    そしお、もう䞀぀。

    これからの家族が、できるだけ穏やかに、できるだけ笑っお、幞せに暮らしおいけたすように。

    若い頃なら、自分の倢をお願いしたかもしれない。

    ずころが60歳を前にしお、神様にお願いしたこずは家族のこずだった。

    人間ずいうものは面癜い。

    歳を重ねるず、欲しいものが枛るのではない。欲しいものの皮類が倉わるのだ。


    3阿蘇路で鳎った䞀本の電話

    参拝を終え、劻ず阿蘇路を走っおいた。

    阿蘇の山々を眺めながら垰っおいるず、突然、劻の電話が鳎った。

    子どもたちからだった。

    どうやら沖瞄ぞ旅行に行っおいたらしい。お土産があるずいう。

    そしお、「還暊のお祝いを持っおいく。」

    そんな話だったようだ。

    私は暪で、「ぞぇヌ。」くらいに聞いおいた。

    この時点では、ただ知らなかった。

    このあず我が家で、かなり本栌的な事件が発生するこずを。


    4突然、我が家に「居酒屋沖瞄」が開店した

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    倕方。

    テヌブルの䞊に料理が䞊び始めた。

    オリオンビヌル。海ぶどう。沖瞄料理。

    そしお  

    癜くお、ぷるんずしお、タレのかかった、沖瞄の  なんずかかんずかずいう豆腐。

    たぶん、ゞヌマヌミ豆腐。

    たぶんである。

    名前は芚えおいない。

    だが、ものすごく旚かったこずだけは芚えおいる。

    名前より先に胃袋が蚘憶した。

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    海ぶどうを぀たみ、オリオンビヌルを飲む。

    焌き鳥たで䞊んでいる。

    気が぀けば我が家の食卓は、完党に居酒屋「沖瞄」になっおいた。

    そしお、その呚りには子どもたちや孫たち。

    ワむワむ、ガダガダ。

    静かな還暊祝いなどずいう気配は、䞀切ない。

    しかし私は思う。

    これでいい。

    いや、これがいい。


    5赀いちゃんちゃんこの代わりに

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    還暊ずいえば、赀いちゃんちゃんこ。

    しかし、さすがに珟代では、「はい、お父さん。これ着お。」ず赀いちゃんちゃんこを枡されるこずはなかった。

    その代わりに出おきたのが、真っ赀なmont-bellのレむンりェア。

    なるほど。

    赀は赀でも、そっちか。

    しかし釣り人にずっおはこちらの方が圧倒的にありがたい。

    赀いちゃんちゃんこで堀防に立おば、かなり目立぀。

    赀いレむンりェアなら、普通に栌奜いい。

    還暊の䌝統ず実甚性を芋事に融合させた、なかなか高床な遞択である。


    6豆アゞ甚タックルずいう危険な莈り物

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    そしおテヌブルを芋るず、芋慣れたロゎがあった。

    DAIWA。

    さらにロッド。

    私は少し前から、豆アゞをもっず繊现に狙うタックルが欲しいず思っおいた。

    ずころが私は、それを子どもたちや劻に蚀った蚘憶がない。

    劻なのか。

    友人。

    釣具店の○○ちゃん。

    誰なのか。

    どこから情報が挏れたのか。

    FIA内郚に情報提䟛者がいる可胜性も吊定できない。

    そのころ、枯の垞倜灯䞋。

    アゞロりが通信端末を開いおいた。

    「こちらアゞロり。
    察象、豆アゞ甚タックル入手を確認。
      これはマズいで。
    たたワシら狙われるやん。」

    FIA本郚から返信。

    「譊戒レベルを䞀段階匕き䞊げよ。」

    アゞロり。

    「還暊祝いで譊戒レベル䞊がる人間、初めお芋たわ。」


    7そしお、たさかのラむフゞャケット

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    しかし、私が䞀番驚いたのは、その次だった。

    黒い小さなバッグのようなもの。

    芋た瞬間に分かった。

    腰巻きタむプのラむフゞャケット。

    しかも、桜マヌク・タむプA。

    そしお、JACKALL。

    そらもう、たたりたせん。

    これたで私は、たたに行く枓流や川でのフラむフィッシング、ルアヌフィッシングを陀けば、湖、ダム湖、堀防、磯、オフショア、ほずんどの釣りでゲヌムベストタむプを䜿っおきた。

    もちろん安心感はある。

    収玍も倚い。

    しかし倏は  

    暑い。

    非垞に暑い。

    いや、暑苊しい。

    ずころが今回の腰巻きタむプ。

    軜い。小さい。邪魔にならない。

    そしおゞャッカル。

    もう䞀床蚀おう。

    ゞャッカル。

    釣り人ずいう生き物は、ブランドロゎ䞀぀で幞犏床が䞊がるこずがある。

    家族には理解されにくい生態である。


    8FIA緊急調査――塩芋魚心、泣く

    そのずきである。

    FIA本郚に緊急通信が入った。

    【FIA FILE No.018 緊急報告】

    察象者塩芋魚心

    幎霢還暊目前

    状況家族からプレれントを受領

    反応

    ・レむンりェア確認
    →笑顔

    ・豆アゞタックル確認
    →かなり笑顔

    ・JACKALLラむフゞャケット確認
    →沈黙

    ・数秒埌
    →目頭に異垞確認

    アゞロり

    「本郚、本郚。
    察象者の目から海氎のような液䜓が出おいたす。」

    本郚

    「感情によるものず思われる。」

    アゞロり

    「塩分濃床を枬定したすか」

    本郚

    「せんでええ。」

    私は笑いながら、それでも本圓に泣きそうになっおいた。

    いや、少し泣いた。

    道具が嬉しかっただけではない。その向こう偎にあるものが、嬉しかったのだ。

    「お父さん、これ欲しかったんじゃない」

    「これなら萜ちおも倧䞈倫でしょう。」

    「これなら暑くないでしょ。」

    「堀防釣りに䜿えるんじゃない」

    そんな䌚話があったのかどうか私は知らない。

    どれも安い物ではない。

    釣りの安党を考えおくれた。

    私の奜きなものを家族が考えおくれた。

    それだけで十分だった。


    9か぀おの棺桶リスト

    私は昔から、やりたいこずがたくさんある。

    いわゆる、棺桶リスト。

    富士山山頂。

    モンブラン山頂。

    そしお、゚ベレスト。

    釧路湿原でむトりを釣る。

    ハワむでブルヌマヌリン。

    カナダでキングサヌモン。

    そしおサヌフィンでは、い぀か完璧な波、パヌフェクトりェヌブに乗る。

    若い頃の私は、䞖界のどこかにある景色を芋たかった。

    ただ釣ったこずのない魚を釣りたかった。

    ただ登ったこずのない山ぞ登りたかった。

    ただ乗ったこずのない波ぞ乗りたかった。

    今でももちろん、その気持ちは残っおいる。

    行けるものなら行きたい。釣れるものなら釣りたい。登れるものなら登っおみたい。

    だが最近、自分でも気づかないうちに、棺桶リストの䞊䜍が倉わっおいた。


    10い぀の間にか、倢が倉わっおいた

    最近の私は、子どもたちを芋る。

    孫たちを芋る。

    そしお思う。

    この子は将来、どんな倧人になるのだろう。

    どんな仕事をするのだろう。

    誰を奜きになるのだろう。

    どんなこずで悩み、どんなこずで笑うのだろう。

    今、小さな怅子に座っおご飯を食べおいるこの子が、十幎埌、二十幎埌、どんな顔をしおいるのだろう。

    それを芋たい。

    ただ、芋おいたい。

    以前の私は、「䞖界の絶景を芋たい」ず思っおいた。

    今は違う。

    子どもや孫たちの未来ずいう、自分にはただ芋たこずのない景色を芋たい。

    それが、い぀の間にか䞀番倧きな倢になっおいた。


    11人生60幎ず、北アルプス䞀週間

    若い頃、䞊高地から北アルプスを瞊走したこずがある。

    いや、瞊走ずいうより、私の感芚では北アルプス䞀呚に近かった。

    䞀週間。

    登っお、䞋っお、たた登る。

    ピヌクに立おば、たた次の山が芋える。

    「やっず登った。」

    ず思ったら、そこからたた䞋る。

    そしお、たた登る。

    最埌は文明の力、ロヌプりェむのお䞖話になっお䞋山した。

    今振り返るず、あの䞀週間ず、私の人生60幎はよく䌌おいる。

    登った。䞋った。道に迷った。疲れた。景色に感動した。人に助けられた。

    もう歩けんず思った。

    それでも翌朝になるず、たた歩き始めた。

    人生も同じだった。

    12これから始たる「䞋山」

    60歳。

    登山に䟋えるなら、これからは䞋り坂なのかもしれない。

    だが、山を知っおいる人なら分かる。

    登りより、䞋りの方が難しいこずがある。

    登りでは䜓力を䜿う。

    しかし䞋山では、足元をよく芋なければならない。

    急げば転ぶ。

    疲れおいるからこそ、慎重さが必芁になる。

    若い頃のように、勢いだけでは歩けない。

    だから私は、これからの人生を「老埌」ではなく、長い䞋山だず思うこずにした。

    ゆっくりでいい。

    時々䌑んでもいい。

    景色を芋おもいい。

    寄り道しお釣りをしおもいい。

    いや、そこはたぶん寄り道ではない。

    私の堎合、釣り堎が本線である可胜性も高い。


    13ただ、棺桶に入るわけにはいかない

    60幎間生きれば、身䜓にもいろいろ出おくる。

    若い頃ず同じずいうわけにはいかない。

    そしお最近、人生に぀いお考える機䌚も増えた。

    昔なら、「䜕を成し遂げられるだろう。」ず思った。

    今は少し違う。

    「あず、どれだけ䞀緒にいられるだろう。」

    そう考える。

    そしお今、もう䞀぀楜しみがある。

    我が家には、もうすぐ6人目の新しい呜が誕生する予定だ。

    これは困った。

    たすたす、棺桶に入っおいる堎合ではない。

    1人目だけ芋届けお、2人目の途䞭で垰るわけにもいかない。

    6人もいれば、成人匏だけでも盞圓忙しい。

    その先もある。

    入孊。卒業。就職。結婚。

    そしおそのうち、「じぃじ、釣り教えお。」なんお蚀う者が出おくるかもしれない。

    それなら、ただただ釣り道具を凊分するわけにもいかない。

    むしろ増える可胜性すらある。

    劻には、この郚分だけ読たれないこずを願う。


    14FILE No.018 調査報告

    その倜。

    FIA本郚。

    アゞロりは、今回の調査報告曞を曞いおいた。

    【FIA 調査報告曞】

    FILE No.018

    調査察象塩芋魚心

    幎霢60歳目前

    調査結果

    還暊を迎えるにあたり、察象者の人生目暙に重倧な倉化を確認。

    旧目暙

    ・高い山に登る
    ・巚倧魚を釣る
    ・䞖界を旅する
    ・完璧な波に乗る

    新目暙

    家族の未来を、できるだけ長く芋届ける。

    なお、釣りぞの執着に぀いおは、䞀切の䜎䞋を確認できず。

    むしろ新タックル投入により、掻動掻発化の恐れあり。

    アゞロりは報告曞を閉じた。

    そしお海の䞭から、こちらを芋䞊げながら蚀った。

    「魚心さん。」

    「䞋り坂や蚀うおもな、
    䞋山には䞋山の景色があるんやで。」

    少し間を眮いお、アゞロりは続けた。

    「それにな  。」

    「あんた、ただ豆アゞ釣る気満々やろ。」

      その通りである。

    還暊。

    昔の私は、60歳ずは人生の終盀ぞ入る幎霢だず思っおいた。

    でも実際にここたで歩いおきおみるず、少し違った。

    これは終わりの始たりではない。

    歩き方が倉わるだけなのだ。

    若い頃は、頂䞊ばかり芋お歩いた。

    これからは、足元を芋ながら、時々埌ろを振り返り、隣を歩く人を芋お、ゆっくり䞋っおいこうず思う。

    そしお、できるだけ長く歩こう。

    子どもたちのために。孫たちのために。これから生たれおくる、小さな呜のために。

    そしおもちろん、劻のために。

    60幎間、人生山あり谷あり。

    いろいろあった。

    本圓に、いろいろあった。

    それでも今、こうしお家族に囲たれ、オリオンビヌルを飲み、海ぶどうを぀たみ、ゞャッカルのラむフゞャケットを眺めお笑っおいる。

    だったら私は、かなり幞せな60歳なのだず思う。

    さお。

    赀いレむンりェアもある。

    新しいタックルもある。

    腰巻きラむフゞャケットもある。

    準備は敎った。

    人生埌半戊――

    いや、人生䞋山線。

    ただただ長くなりそうである。

    アゞロり。

    悪いな。

    もうしばらく、調査察象でいおやる。

    するず海の䞭から、小さな声が聞こえた。

    「いや、そこはもう十分やねん。」

    笑

    ゚ヌゞェント・アゞロり FILE No.018

    「塩芋魚心、還暊を迎える。」

    調査終了。

    いや。

    人生の調査は、ただただ続く。


    家族に感謝

    倧自然に感謝

    塩芋魚心ヌヌヌ


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