【エッセイ】守るべき存在
仕事を終えて家に帰ると、扉の向こうで「キャン」と声がした。アンパンマンのチーズみたいな鳴き声だった。
わたしは「りんちゃん」と呼びながら扉を開ける。長毛でキジ白の猫が迎えてくれた。
朝家を出てから、数時間後の再会だ。まずは入念な匂いチェック、続いてみだれ頭突き。わたしはりんちゃんの顔回りをわしゃわしゃしながら目を細める。今自分は、菩薩像なさがらの穏やかな表情をしているのではないか。
どれだけ落ち込んでも、不機嫌でも、りんちゃんに触れればHPは回復する。
保護猫カフェから迎えて、約1年4か月。こんなにかわいい生き物が我が家にいることを不思議に思う瞬間がある。どうしてうちでこの子をひとり占めできているのだろう、と。
思えば、猫を飼うのはわたしの密かな夢だった。父は自身の幼少時代、猫を飼っていた無類の猫好き。一方母はその真逆で、どうしても苦手だという。わたしはよく父を猫カフェに誘った。実際一緒に行く機会はなかなかなくて、ついにそれは叶わないものになってしまった。
ある時期、近所によく来る猫がいた。野良だったのか、飼われていたのかは分からない。気づくといて、通りすがりの人になでられていることもあった。
わたしは父と、その猫を「にゃにゃさま」と呼んでいた。キジトラで整った顔立ちの子だった。近づいて写真を撮っても逃げず、人慣れしていた。
しかしにゃにゃさまは、ある時ぱったり現れなくなった。それは奇しくも、父が亡くなったのと同じ頃だった。
それから8年が経とうとしている。我が家には猫がいる。
父がいたら、りんちゃんを溺愛する確信がある。わたしが家を空けるとなれば、喜んで預かってくれるだろう。何もなくても様子を見にくる気もする。
当のりんちゃんは、わたしと夫から「かわいい」のシャワーを浴び、「はいはい」とあしらっている感じだ。人間なら、ちょっと高飛車でお姫さま的な子、といったところか。
りんちゃんの平和を守り、しあわせを保つ。それがわたしと夫に課せられた使命だ。きっと父も、空から力を貸してくれているはず。