
週末のスパゲッティ
私の母はイタリアンが好きで、よく週末にスパゲッティを作ってくれた。
実家で暮らしていた頃の毎週土曜日は、みんなでスパゲッティを食べながら、王様のブランチを見ることが恒例だった。
うちは全員夜型人間ということもあり、物心ついた頃から週末は朝9時~10時ごろに起きて11時ごろに朝昼兼用のブランチをとることがお決まりだった。
そのあとはゆっくりと出かける準備をして、午後から近くのデパートをうろうろし、夕方にスーパーで買い物をして帰路につく、そんな平凡な週末を何年も繰り返した。
家族によっては、みんな平日と同じように早起きをして習い事に行ったり、朝からスーパーに買い物に行く人もいると知ってとても驚いた。私は一人っ子だったし、小学生の頃は週末の朝から習い事などもなかったので、父母も有り難かったのでは?と大人になった今となっては思ったりする(もちろんタイミングごとに大変な時期はあったが)。
母のスパゲッティのレパートリーはいくつかあったが、私のお気に入りはカルボナーラとサーモンとイクラのサワークリームだった。
カルボナーラは生クリーム、卵、ベーコン(いつもはペラペラのベーコンだがたまにお店のような分厚いベーコンの時もあり嬉しかった)という、今なら少し胃にもたれると身構えてしまう重たさだが、生クリームと卵のコクにちょうどいい塩加減のベーコンが相まって本当に大好きだった。
サーモンとイクラのサワークリームは、炒めたネギがはいったサワークリームベースのすっきりとしたクリームソース(たっぷり)にスパゲッティを絡め、上にはスモークサーモン、イクラが乗っており、これまた本当に美味しかった(特にソースは飲みたくなってしまうくらい)。
他にもバジルソースやボンゴレなども出てきたが、やはり記憶に残っているのはこの2つだ。大人になってからパスタを作るのが意外と難しいということを知り、母の料理の腕を改めて尊敬した。
中高生になると週末に部活や塾が始まったり、大学生になるとバイトが入ったりして、いつ最後にあの週末を過ごしたのか記憶がない。社会人になってからはすぐに実家を出てしまい、たまに帰省するタイミングがあっても、何かと予定を詰め込んでしまうので、あんなゆっくりで贅沢で普通の朝はもう訪れない。
飽きるほど毎週繰り返していた日常も、今はきっと私だけ不在になっていて、でもその代わり私には新しい日常が繰り返されるようになっていて、なんだか切ないような心許ない気持ちにもなる。
きっと何事も、永遠のような日常も、知らぬ間にふと終わってしまう。戻りたいとかそういうこととは違う。
たとえるなら、何だかもう読み終わってしまった本みたいだ。読んでいる真っ只中にはもう戻れない、もう一度読み返しても、同じ気持ちにはもうなれない、違うものになってしまう。でも、好きな本だからずっと本棚に大切にしまっておこう。あの味とあの時間をずっと覚えていよう。
そんな気持ちになっている。