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空いた椅子に座ってくれたかわいらしい君へ

    久しぶりに、自分の内側に入れてもいいと思った人との関係が、今日終わった。別れは案外あっさりしていた。「今日で会うの最後ね」と言ったら、「うん」と彼は返して、少し黙って、私の耳を優しく撫で、私の家から自分の家に帰っていった。

    私より六つ年下の彼。年下らしい生意気さ、不安定さ、いじらしさを持ちながらも、私の知らないことをよく知っていて、感性や物事の視点が私と違っていた。はじめて二人で会ったときは何を話したらいいのかと思っていた。けれど、気づいたら、くだらない話や時には真剣な話を二人で時間を忘れるほどするようになっていた。そうして、ベッドで隣にいてもぐっすり眠れるくらいには、私にとって一緒にいて安心できる存在に彼はなった。

    ただ、彼が私にもたらすのは安心と楽しさだけではなかった。彼には1年ほど付き合っている同棲中の彼女がいる。中途半端に吊るされている不安と憤りも、セットで彼は私に与え続けていた。

    彼から全く連絡が返ってこない日があった。大抵そういう日は、彼女と一緒にいるのだろう。連絡を返さず、私の存在を彼女に隠したいという気持ちが丸見えだ。安定と刺激、安心と楽しさを同時に求めていることがバレバレの彼の行動に苛立ちを感じる日もあった。

    彼はよく、私に彼女の話もした。ただ、それは純粋な気持ちからではないと私は解釈している。そこには、私の反応を観察しているような、試しているような仕草と表情があった。彼は私に無関心ではなかったと思うし、好意も少なからずあっただろう。少なくとも、私はそう思っている。そうして、時間が経つにつれて、彼の存在は、私の心を揺らすものに変わっていった。

    去年の十二月。長らく引きずり続けていた元恋人に会った。彼は良くも悪くも何も変わっていなくて、私は彼が好きだったのではなく、彼と付き合っていた時の煌びやかな思い出が好きなだけだったと気づけた。ようやく、私の心の中にある恋愛の椅子が空いた。そこにたまたま座ったのが、件の彼なだけだ。

    彼は、いつも私のやることなすことに素直に反応してくれる。飲み会があると言えば、誰と行くのか、どこに行くのかを聞いてくる。「年齢的にも付き合うのは現実的ではない」と喧嘩をした時に言ったら、縋るように腕を掴んでくる。「中途半端な関係はどこかで切りたくなる時が来るから、連絡が返ってこなくなったらそうだと思って」と伝えると、いきなり連絡の頻度が高くなる。なんでもない関係のはずなのに、「会いたいな」「会えるかなって思って」「会いに行くね」とわざと甘く伝えてくる。

    私は彼が好きというよりも、彼がどう私に反応をしてくれるのかを見るのが好きだったのだと思う。

    ただ、そんな関係は健全ではない。それに私は、中途半端で曖昧に消費される関係が、何よりも苦手だ。覚悟を持って私を選んでくれる人でないと、私は愛せない。

    だから、終わりにしようと伝えた。会う前から、今日が最後なら、二人でいた時間の中で一番楽しい日にしようと、楽しく、陽気に振る舞った。映画を見て、酒を飲み、音楽を聞いて、踊り、同じ家に帰って、同じ布団で眠った。何度も思った。このままでいいんじゃないかと。

    それでも、自分の尊厳のために伝えた。
    そして彼はあっさり受け入れた。本当の心中は知らない。少なくとも表面上は、動揺を見せてこなかった。

    彼は私のことをどう思っていたのだろう。しかし、彼が帰って四十平米の一LDKに一人でいる私の心は、とても晴れやかだ。そして、存外、私は彼の反応だけではなくて、しっかり彼に惹かれていたのだ。

    駆け引きをしなくて良くなった今、私はようやく彼に素直に伝えた。彼に惹かれていたこと。でも中途半端な関係を続ける器用さを私は持ち合わせていないこと。彼といる時間が本当に楽しかったこと。その感謝を素直に彼に連絡した。

    返事はない。でもいいよ、それで。

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