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【新人だった自分を忘れない】

    #創作大賞2026 #ビジネス部門

    第1章 「32歳、新人。」

    女ばかりの職場で、私が学んだこと

    プロローグ 女性ばかりの職場は、本当に怖いのか

    「女性ばかりの職場って、人間関係が大変そう。」

    そんな話を、一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

    実際、私も転職が決まったとき、一番不安だったのは仕事内容ではありませんでした。

    「どんな先輩がいるんだろう。」
    「意地悪な人がいたらどうしよう。」
    「ちゃんとやっていけるかな。」

    仕事は覚えれば何とかなる。

    でも、人間関係だけは自分一人ではどうにもならない。

    そう思っていました。

    私は32歳で、比較的大きな病院の受付事務として働き始めました。

    10年間勤め、新人からリーダーになり、約30人の受付スタッフをまとめる立場まで経験しました。

    20代から60代まで、年齢も性格もさまざまな女性たち。

    新人教育。

    お局と呼ばれる先輩との関わり。

    部署同士の調整。

    スタッフ同士の衝突。

    新人の涙。

    人が辞める瞬間も、人が生き生きと働き始める瞬間も、たくさん見てきました。

    だから今、はっきり言えることがあります。

    女性ばかりの職場だから大変なのではありません。

    「人を育てる人」がいない職場ほど、人間関係は難しくなります。

    逆に、一人でも「育てよう」と思う人がいるだけで、職場の空気は驚くほど変わります。

    これは、そんな10年間で私が学んだ話です。

    子どものために選んだ職場

    病院で働こうと思った理由は、とても現実的でした。

    当時、子どもはまだ小さく、保育園に通っていました。

    保育園から突然の電話。

    「お熱があるので、お迎えをお願いします。」

    小さな子どもがいる家庭では、珍しいことではありません。

    だからこそ、残業が少なく、定時で帰れること。

    急な休みにも理解があること。

    それが仕事選びで一番大切な条件でした。

    病院には同じように子育てをしながら働く人がたくさんいました。

    「今日は私がやるから、早く迎えに行ってあげて。」

    そんな言葉を自然にかけ合える環境は、本当にありがたかったと思います。

    もちろん、助けてもらってばかりではありません。

    誰かのお子さんが熱を出した日は、自分がその分をカバーする。

    お互い様。

    その空気があったからこそ、多くの人が長く働ける職場でもありました。

    32歳、新人。

    受付には年下の先輩もたくさんいました。

    年齢だけを見れば、私のほうが上です。

    でも、仕事では私が新人。

    だから最初から決めていたことがあります。

    それは、誰に対しても敬意を忘れないこと。

    年齢ではなく、その職場では相手が先輩です。

    仲良くなることと、慣れすぎることは違う。

    だから私は、新人の頃からリーダーになるまで、ほとんどの先輩や同僚に敬語で接していました。

    その距離感は、不思議なくらい人間関係を円滑にしてくれました。

    配属初日、私は挨拶でこう伝えました。

    「お忙しい中、お声をかけて質問させていただくことが多いと思います。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします。」

    病院の午前中は戦場です。

    診察受付は時間との勝負。

    電話は鳴り続け、患者さんは次々に来院し、待合室は人で埋め尽くされます。

    そんな中で新人は、分からないことだらけです。

    だからといって、いきなり質問を始めることはしませんでした。

    「今、お声をかけても大丈夫ですか?」

    まず、その一言。

    たったそれだけですが、不思議と相手の表情が少し柔らかくなるのです。

    忙しい相手への配慮は、「あなたを見ています」というメッセージでもあります。

    人は、自分を気遣ってくれる人には、自然と力を貸したくなるものなのだと思います。

    第2章 お局は敵ではなく、「試される相手」だった

    仕事は少しずつ覚えればいい。

    そう思っていても、新人にとって一番大きな壁は、やはり人間関係でした。

    どこの職場にも一人や二人はいるものです。

    新人には厳しく、ちょっとしたミスも見逃さない人。

    質問をすればため息をつかれ、言葉はいつもきつい。

    朝から機嫌が悪く、近づくだけで空気が張りつめる。

    受付にも、そんな先輩がいました。

    新人が入るたびに、誰かが泣く。

    「あの人に聞くくらいなら、自分で何とかしたい。」

    そんな声を何度も耳にしました。

    もちろん、私も怖かったです。

    怒られたくない。

    嫌われたくない。

    失敗したくない。

    最初は誰だってそう思います。

    でも、ある日ふと思ったのです。

    「この人は、私が怯えることを前提に話しているのかもしれない。」

    もしそうなら、その前提を変えてみたらどうだろう。

    そこから、私なりの実験が始まりました。

    まず決めたのは、必要以上にビクビクしないこと。

    もちろん、失礼な態度を取るわけではありません。

    敬意は持つ。

    返事もきちんとする。

    でも、怯えない。

    険しい表情で近づいて来られても、こちらはいつも通り。

    笑顔で「おはようございます」と言う。

    ミスを指摘されたら、素直に「ありがとうございます。次から気をつけます」と返す。

    教えてもらったことは、その場でメモを取る。

    何度でも感謝を伝える。

    そんなことを繰り返しているうちに、不思議なことが起きました。

    相手の態度が、少しずつ変わってきたのです。

    強く言われても動じない。

    嫌味にも反応しない。

    感情で返さず、誠実に返す。

    すると相手は、だんだん拍子抜けしていくようでした。

    今振り返ると、意地悪な人は「相手が怯える」という反応を期待していることがあります。

    だから、その反応が返ってこないと、調子が狂うのでしょう。

    もう一つ、私が意識していたことがあります。

    それは、「鈍感な人」になることでした。

    嫌味を言われても、わざと深読みしない。

    聞こえなかったように「何かおっしゃいましたか?」と笑顔で聞き返す。

    悪意を真正面から受け止めない。

    それだけで、自分の心はずいぶん楽になります。

    嫌味は、受け取らなければ心まで届きません。

    もちろん、これは逃げることではありません。

    自分を守るための方法です。

    そして、少しずつ仕事に慣れてきた頃から、私は別のことも始めました。

    教えてもらったら、大げさなくらい感謝する。

    髪型が変わったら、「お似合いですね」と伝える。

    新しい服を着ていたら、「素敵ですね」と声をかける。

    ほんの小さなことです。

    でも、人は誰でも、自分を認めてもらえるとうれしいものです。

    相手がお局と呼ばれる人であっても、それは同じでした。

    やがて、以前ほどきつく言われることはなくなりました。

    それどころか、息抜きの話し相手の1人になったのです。

    もちろん、全員が変わるわけではありません。

    最後まで厳しい人もいます。

    でも、私はこの経験から一つ学びました。

    相手を変えようとしても、人は変わりません。

    変えられるのは、自分の接し方だけ。

    そして、自分の接し方が変わると、不思議なくらい相手との関係も変わることがあります。

    それは、お局攻略法でも、処世術でもありません。

    人と向き合う姿勢そのものだったのだと、今では思っています。

    第3章 守られる側から、守る側へ

    気がつけば、私はリーダーになっていました。

    新人として右も左も分からなかった私が、今度は後輩を育てる立場です。

    直属のチームは6人。

    受付全体では約30人。

    毎日、自分の仕事をこなしながらチームをまとめる日々でした。

    忙しい日は昼休憩が夕方になることも珍しくありません。

    それでも、仕事以上に大切にしていたことがあります。

    それは、「人を見る」ことでした。

    朝、チームの6人がそろったら、まずは情報共有から始めます。

    申し送りだけではありません。

    6人それぞれの体調を確認するのはもちろん、受付全体の様子についても情報を共有します。

    「あの人、昨日、少し元気がなかったね。」

    「あの人、今日は顔色が悪そうだけど、大丈夫かな。」

    そんな何気ない会話も、私たちにとっては大切な情報でした。

    体調を崩しそうな人がいると聞けば、こちらから内線をかけます。

    「無理しないで。午後は半休にしようか。」

    一日無理をして数日休むより、半日休んで明日元気に来てもらったほうが、本人にとってもチームにとってもいい。

    そんな考えでした。

    子育て中の人には学校行事や夏休みがあります。

    もちろん優先してあげたい。

    でも、それだけではありません。

    独身のスタッフにも、大切な予定があります。

    友人との旅行。

    ライブやコンサート。

    家族との時間。

    誰にだって、仕事以外の人生があります。

    だから私は、「子育て中だから」「独身だから」と線を引きたくありませんでした。

    できる限り、みんなの希望をかなえたい。

    プライベートが充実している人は、仕事にも前向きになれる。

    その積み重ねが、チームの雰囲気をつくると信じていました。

    女性が多い職場では、ときどき人間関係がぎくしゃくすることがあります。

    「あの人とあの人、何かあったらしい。」

    そんな話が耳に入ることもありました。

    だからといって、すぐに呼び出して事情を聞くことはしません。

    私は、さりげなく近くへ行きました。

    何気ない会話をしながら様子を見る。

    相手が話したそうなら、静かに耳を傾ける。

    話しているうちに、「実は誤解だったんです」と笑って終わることも少なくありませんでした。

    人は、自分の話を最後まで聞いてもらえるだけで、心が軽くなることがあります。

    だから私は、解決することより、まず聞くことを大切にしていました。

    そんなある日、他部署で毎日のように泣いている新人がいるという話を耳にしました。

    仕事が覚えられない。

    特定の先輩から厳しく当たられる。

    毎朝、職場へ来るだけで精一杯。

    そんな状態だったそうです。

    私は、その姿を見て、新人だった頃の自分を思い出しました。

    質問しづらかったこと。

    怒られるたびに、自分には向いていないのではないかと思ったこと。

    誰にも相談できず、不安を抱えて帰った日々。

    だから放っておけませんでした。

    ちょうど私たちのチームは忙しく、人手が足りない時期でもありました。

    「うちへ来てもらえませんか。」

    異動できるよう調整をお願いしました。

    新しく来てくれたその人は、最初こそ自信がなさそうでしたが、毎朝笑顔でこう言ってくれました。

    「何かできることはありますか。」

    難しい仕事は、まだ任せられません。

    でも、シュレッダーをかける。

    書類を運ぶ。

    備品を補充する。

    そんな仕事一つひとつが、私たちには本当にありがたかったのです。

    「助かるよ。ありがとう。」

    そう伝えると、その人はうれしそうに笑いました。

    人は、自分の存在が誰かの役に立っていると感じた瞬間から、少しずつ変わり始めます。

    やがて仕事にも慣れ、そのまま私たちのチームに残る人もいれば、別の部署へ異動していく人もいました。

    それぞれ進む場所は違っても、共通していたのは、みんな笑顔を取り戻していたことです。

    自信をつけ、「ここならやっていける」と思えるようになってから新しい環境へ向かう姿を見るたびに、この時間は決して無駄ではなかったのだと感じていました。

    そして廊下ですれ違うと、笑顔で声をかけてくれます。

    異動して終わりではありません。

    つながりは、そのあとも続いていきました。

    そんなことを繰り返しているうちに、不思議なことが起こるようになります。

    「少し難しい人なんだけど、一度そちらで育ててもらえない?」

    そんな相談が、自然と私たちのチームへ来るようになったのです。

    問題がある人を集めたかったわけではありません。

    ただ、私はずっと思っていました。

    人は最初から問題があるのではなく、安心して働ける場所に出会えていないだけなのかもしれない、と。

    第4章 人は、安心できる場所で育つ

    「どうして、そこまで新人さんに手をかけるの?」

    同僚から、そう聞かれたことがありました。

    確かに、私は新人教育に時間をかけていました。

    マニュアルを作る。

    何度質問されても、その都度答える。

    失敗しても頭ごなしには叱らず、一緒に原因を考える。

    時には、他部署から異動してきたばかりの人に寄り添いながら、自信を取り戻せるまで見守る。

    そんな私を見て、「そこまでしなくてもいいのに」と思う人もいたようです。

    でも、私にはそうせずにはいられない理由がありました。

    新人だった頃の私は、決して恵まれた環境だったわけではありません。

    仕事によっては、まともなマニュアルもない。

    「見て覚えて。」

    「前にも教えたよね。」

    質問しづらい空気の中で、分からないまま手を動かし、間違えれば叱られる。

    そんな経験を何度もしました。

    もちろん、優しく教えてくださる先輩もいました。

    だからこそ思ったのです。

    リーダーが変われば、職場は変わる。

    環境は、人がつくるのだと。

    だから私は、自分が困ったことを一つずつ見直しました。

    「ここは説明が足りない。」

    「この手順は文字だけでは分かりにくい。」

    「新人さんは、ここで必ずつまずく。」

    仕事を覚えながら少しずつマニュアルを書き直し、誰が見ても分かるものへと整えていきました。

    それは新人のためだけではありません。

    教える側にとっても、同じ説明を何度も繰り返さなくて済みます。

    早く仕事を覚えてもらえれば、その分、みんなが休みを取りやすくなる。

    結果として、チーム全体が楽になる。

    新人教育は、未来への投資だと思っていました。

    だから、新人さんには最初に必ず伝えていた言葉があります。

    「ここでの研修が終われば、別の部署へ行くかもしれないね。

    部署によっては、厳しい先輩もいるかもしれない。

    だからこそ、ここにいる間に、たくさん学んでいってほしい。」

    そして、こう続けました。

    「分からないことは、何度聞いてもいい。

    でも、その代わりメモはしっかり取ろう。

    どこまで分かって、何が分からないのかを自分で考えてから質問してみよう。

    失敗したら落ち込むだけじゃなく、『なぜ失敗したのか』を考えてみよう。

    そうすれば、同じ失敗は少しずつ減っていくから。」

    少し厳しく聞こえたかもしれません。

    でも、そのあとには必ずこう付け加えていました。

    「ここにいる一か月、一緒に頑張ろう。」

    その一言で、張りつめていた表情が少し和らぐ新人さんを何人も見てきました。

    安心すると、人は質問できるようになります。

    質問できるようになると、仕事を覚えます。

    仕事を覚えると、自信がつきます。

    自信がつくと、自然と笑顔が増えていきます。

    その変化を見るのが、私は好きでした。

    新人さんには、シュレッダーや備品の補充などの雑務も積極的にお願いしました。

    「こんな仕事で申し訳ない」と思う必要はありません。

    少し気持ちが疲れたときには、黙々とできる作業が良い気分転換になることもあります。

    そして、終わったら必ず伝えていました。

    「シュレッダーかけてくれて助かった! おかげで今日はお昼が夕方にならずに済みそう。」

    「ありがとう。本当に助かったよ。」

    その一言で、新人さんの表情がパッと明るくなることがありました。

    「自分にもできることがある。」

    「ちゃんと役に立てている。」

    そう感じてもらえる時間は、仕事を覚えることと同じくらい大切だと思っていました。

    仕事は、一人では成り立ちません。

    誰かが患者さんを案内し、誰かが電話に出て、誰かが書類を整える。

    その一つひとつがつながって、初めて受付は動いています。

    だから私は、「この仕事は重要で、あの仕事は重要ではない」と考えたことはありません。

    すべての仕事に意味があり、すべての人がチームに必要な存在でした。

    新人だった頃の自分を忘れない。

    その気持ちだけは、リーダーになっても変わりませんでした。

    そして今振り返ると、その積み重ねが、人が辞めにくい職場をつくっていたのかもしれません。

    第5章 新人だった自分を忘れない

    10年間、女性が多い職場で働いてきて思うことがあります。

    「女性ばかりの職場は大変。」

    そんな言葉を耳にすることは少なくありません。

    確かに、人間関係に悩むこともありました。

    意見がぶつかることもあります。

    価値観の違いに戸惑うこともあります。

    でも、それは女性が多いからではないと、私は思っています。

    思いやりがあれば、人は安心して働ける。

    安心できる場所では、人は育つ。

    たったそれだけのことなのかもしれません。

    新人だった頃の私は、不安でいっぱいでした。

    質問しづらい空気に緊張し、失敗するたびに落ち込み、「自分には向いていないのかもしれない」と思った日もありました。

    だから先輩になったとき、心に決めていたことがあります。

    「新人だった頃の自分を忘れない。」

    それだけでした。

    質問しやすい雰囲気をつくること。

    マニュアルを整えること。

    「助かったよ」と言葉にして伝えること。

    誰かが一人で抱え込まないように気にかけること。

    困っている人がいたら、手を差し伸べること。

    どれも特別なことではありません。

    新人だった頃、自分がしてもらえたらうれしかったことを、一つずつ形にしていっただけです。

    人は、厳しい仕事だから辞めるとは限りません。

    「ここには自分の居場所がない」と感じたときに、心が折れてしまうことがあります。

    だからこそ、一人でも「あなたがいて助かった」と伝えてくれる人がいるだけで、職場は変わります。

    リーダーだからできることもあります。

    でも、先輩でも、同期でも、後輩でもできることがあります。

    相手の話を最後まで聞くこと。

    感謝を言葉にすること。

    笑顔で挨拶をすること。

    そんな小さな積み重ねが、職場の空気をつくっていくのだと思います。

    もし今、新しい職場で不安を感じている人がいるなら、焦らなくて大丈夫です。

    誠実に、一つずつ積み重ねていけば、その姿を見てくれている人は必ずいます。

    そして、いつか自分が教える立場になったとき。

    どうか、新人だった頃の自分を思い出してください。

    あの頃の不安も、緊張も、うれしかった一言も。

    その記憶は、きっと誰かを育てる力になります。

    私が10年間で学んだ一番大切なことは、仕事の進め方ではありませんでした。

    人は、人によって育つ。

    そのことを、たくさんの仲間たちが教えてくれたのです。

    新人だった頃の私に伝えたい。
    「大丈夫。その経験は、いつか誰かを支える力になるよ。」

     
     
     
    50代、スーソルトです。 20年以上、家族や仕事を優先して自分後回し生活。 自分後回し?それどころか家族の気持ちも後回しにしてた‼️ 今、自分を取り戻しながら、家族との関係も見直し中。 自分後回し&寄り添い迷子から抜け出し中。

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