
50歳中年オヤジとアヤワスカ
#創作大賞2026 #エッセイ部門
【第一章 生きるか死ぬか⁈】

きっかけはこいつだった……
人食いバクテリア
発症したら数十時間で手足の壊死が
始まり、死に至るといわれている。
その致死率は30%に上る。
私が病院へ運ばれたときは、
手遅れ一歩手前の50%、
まさに丁か半か、
半分半分の確率であった。
私はただの風邪だと思っていた。
だが急に階段を登れなくなるほどの
だるさを感じた。
病院へ運ばれる道中の記憶は
ほとんどない。
救急車内で娘が何かを話しているのは
わかったが、覚えてはいない。
とにかく起きてることさえつらかった…
自分が奇跡的に助かったこと、
感染した腕の切断をまぬがれたこと、
そして自分の病名について知ったのは、
集中治療室から出ることができた
3週間後のことであった…
『TAKAさん、あなたは本当に運が良かったんですよ』
『それだけはよく覚えておいてください!』
ドクターは、運ばれた時の状況やら
行った処置、そして私が今、
生きていることが
どれほど奇跡的なのかについて
諭すように話してくれた。
だがそんなことよりも、
私は自分の腕にできた大きな傷跡や、
やせ細った体のことのほうが
気になっていた。
まだよくわかっていなかったん
だと思う…
自分自信の身に起こったことなのだが、
本当に他人事の様であった。
一般病連に移る日のことだ。
私は今日という日を、
二度と忘れることはないと思う…
病室のベットの横、
サイドテーブルには
一枚の紙きれが置いてあった。
『離婚届』
はぁ?えっ?、何??
初めて見た。
何が起きてるのか、
全く理解できなかった。
妻がその理由について、
けたたましく、まくしたてる。
となりで話してる声なのに、
何か遠くで話してる様な気がした…
いきなり外の世界に放り出され
頭がボーっとしているから?
分からないが、とにかく彼女の声は
全然耳に入ってこなかった。
その時の記憶は、今でも飛んだままだ…
私には妻と二人の子供がいる。
妻と2人でお店もしていた。
しかし、連れ添った20数年は
たった2か月で消えてしまった様だ。
本当に小説の様なことってあるんだな。
笑けてくる。ごく普通に生きてきた
つもりだったんだが、
まさか私がその小説の主人公に
なるなんて。
私は全ての財産を、
慰謝料と養育費として吐き出した。
変なものだが、不思議と生死の
狭間をふらついていた時、
私はお金に対しての興味が
無くなっていた。
聖人モード??
いやそんなんじゃない、
生きていくことに
興味が無くなったのだ…。
退院して1か月後、
早々に家を追い出されることになった。
『財産はトランクとギターだけ~♪』
って歌詞があったな。
私の場合、
『財産はトランクと100万円だけ~♪』
であった。笑って欲しいわ。
そして私は今、雲の上にいる。
中年オヤジは、旅に出た。
【第二章 旅人バー】
少しさかのぼるが、
話しておくことにする。
私は20代で日本を出て、
25年間ほどオーストラリアに
住んでいた。
だが50歳を前にして、
母国である日本で
死にたいという思いが強くなり
帰国を決意する。
そして友人と始めたのが
『旅人バー』である。
2020年のコロナの発生、
政府からの非常事態宣言、
飲食店の自粛により、
オープン半年の店は、
問答無用に吹き飛んだ。
閉店ってやつだ。
企業努力うんぬんの前に
運がなかったんだと思う。
しかしこれが、運気の上昇でも
あったかの様に転機は訪れる…
旅人バーは閉店したものの
自粛中に女房と始めた
エッセンシャルオイルの販売が当たり、
新しい店舗として東京に
居を構えることになった。
経営は順調、
元々が四国の、ど田舎生まれの田舎者、
花の都大東京に来たもんだから、
浮かれに浮かれた。
だが今度はこれが、
運気の下降になったというのか?
店が軌道に乗ったのもあり久々の帰豪、
飲んで浮かれて波乗りして、その挙句に
人食いバクテリアに侵されることに…
後は入院→離婚→そして現状に至る。
この旅の始まりは
この【旅人バー】でのお話が
きっかけとなったのである…
『行ってよかった場所はどこですか?』
店での通常トークである。
お客さんはみんな旅人バーに
来るぐらいだからほとんどが旅人だ。
世界一周の人なんてざらにいる。
その情報はまさにお宝の宝庫であった。
そして、その中にこんな話が合った…
『ペルーでやったアヤワスカが凄かった』
『アヤワスカは今抱えてる問題の答え、
生きていく上での使命を教えてくれる』
『アヤワスカをして
涙が止まらなくなった…』
何か、仰々しい内容だったので
頭の片隅に記憶として残っていた。
私はそれを思い出した。
【アヤワスカ】……
これって、今の私に一番必要な
ものじゃないのだろうか?
彼らの言ってたことが気になる…
50歳中年オヤジは決意する。
『私はアヤワスカをやりに行く!』
こんな生きる屍みたいでいたくはない。
どんな答えが待っているのか
わからないが行ってみよう!
正直言って信じちゃいないが、
どうせやることもないし、
生きている意味を教えてくれる
っていうのなら調度いいじゃないか。
離婚して泣けなかった分、
思いっきり泣くだけでもいい。
今さら失うものもないのだから…
そういえば一時期流行った
『自分探しの旅』
まさかこの年で自分が
やるとは思わなかった。
何歳なんだよ‼ってつっこまれても
しょうがないのである。
50歳中年には、今、アヤワスカが
必要なのだ。
【第三章 相棒】

私は彼を呼んだ。
旅人バー時代の友人YUKIである。
こういっては何だが、
50歳の中年を舐めてもらっては困る。
遠視はもちろんのこと、
頻尿にもなってきた。
おまけに4か月の入院期間を
終えたばかりの
病み上がりときたもんだ。
そう、私には旅の相棒が
必要なのである。
声を大にして言う。
『ひとりでアマゾンくんだりまで
いくに自信がない!』
YUKIはバックパッカーであり
あのインドにも行ってる強者だ。
私とは親子ほど年齢が離れているが
なぜかウマが合う。
アマゾンみたいな秘境に私を連れていける人間は彼しかいない。
彼こそが、
50歳から自分探しの旅にでる
私にとって、頼りがいのある
相棒なのである。
そして、飛行機は2人を乗せて
一路、ペルーへと旅立ったのだ。
【第4章 セレモニーに向けて】
『アヤワスカ』
ケチュア語で「魂のロープ」
「生まれ変わりのロープ」という
意味をもつ聖なるツル植物。
アマゾン北西部で伝統的に用いられる
幻覚剤であり、服飲すると嘔吐を伴う
強力な幻覚作用をもたらす。
主に先住民族がシャーマニズムの
儀式に用いる。
自らのコアとなる潜在意識に深く
アクセスし、ヴィジョンと呼ばれる
幻覚世界を飲む人に観せる。
ただし快楽のために飲むのではなく、
覚悟を持って自己の深い部分を見つめ、
心身をより良くすることが大事である。
人によっては普段心の奥に
押し込み記憶を消している
過去の辛い体験を
見せられたりもする…。
全ては浄化や自己肯定感等に
つながるための重要なプロセスであり、
体内に取り込んだアヤワスカは
確実に癒しにつながる作用を
もたらすと言われてる。
2008年にはペルー国家文化遺産に
指定される。
これがざっとした説明である。
ペルーに行くにことになった私達は
その【アヤワスカセレモニー】
に向けて、食事制限などの
様々な禁欲生活を始めた。
どうせアヤワスカをやるのなら
きちんと受けてみたい。
最低でも1週間、
それぐらい前から始めたほうが
良いとネットに書いてあった。
まずは食事制限だ。
肉、魚、刺激のある調味料はダメ。
体質を植物に近づけることが
一番アワヤスカの効果を高める
ことになるらしい。
なぜ植物なのか?
まあ、こういったことは
深く考えないことだ。
あと、ジュースや酒は当然ながら、
タバコ、SEX、ドラッグ、そして
自慰行為に至るまで禁止事項は多い。
2人であーだこーだと相談しながら
とりあえず以上のことを
セレモニーまでの禁止事項とした。
こういう禁欲生活は苦手だが
頑張る。
ただでさえ病院生活で瘦せたのに
また痩せることになりそうだ…
ペルーの首都リマに着いて3日目、
目的のアヤワスカの為とはいえ
まともな食事はしていない。
お酒も名物料理も
一切口にしていない。
芋ばっかり食べてる。
あぁ、人参もか…
観光するお金もないし
安宿でひたすら自炊するだけの
退屈な日々である。
だが今日は、少し楽しみな日である。
ラファエルと待ち合わせを
しているからだ。
ラファは旅人バー時代の友人で
生粋のペルー人だ。

私たちはアヤワスカをすることになり、
彼にアドバイスを求めることにした。
やはり現地人に、直接聞く方が
いいと思ったからである。
『よぉ~TAKAにYUKI久しぶりだな』
『よくこんな遠くまで来たな!』
『しかもアヤワスカがやりたいって、
マジか?どうなっても知らないぞ(笑)』
『えっ?そんなにヤバいの?』
『ラファ、やったことないの?』
『俺はやったことないな』
『やりたいとも思わない』
『でもプカルパまでいくんだろ?』
『ついて来いよ、必要なものを
買いに行こう』
ラファエルとの再会も早々に、
私たちは彼と一緒に市場に向かった。
実は私たちが【アヤワスカセレモニー】
を受けるところは、
サンフランシスコ村
と呼ばれる場所である。
しかしまずはプカルパという
アマゾンの入り口と言われる町まで
行かなければならないのだ。
お金のない私たちは飛行機を
使うことができないので
バスで向かうことにした。
ラファエル曰く
そのバス移動のために
用意しておいたほうが
良いものがあるらしい。
①コカリー(コカの葉)
まずはやはりコカの葉、
高山病対策として
一番有名なものである。
コカリーを煮出しして、
水筒に詰めておくこと。
絶対的な必需品らしい。
②きつけの香水
匂いを嗅ぐだけで
高山病対策になるらしい。
なんかスペイン語で書かれていて
よくわからなかったがラファに
勧められた。
③ミネラルウォーター
とにかく水はいっぱい飲むこと。
そしてゆっくり歩けと言われた。
日本みたいに、水道の蛇口から
でる水は、飲むことができないから
注意しろと言われた。
ここで改めて思ったが、
実はペルーは公用語が
スペイン語のため、
英語をしゃべる人は限られてくる。
日本人にとってはお馴染みの
『ワン、トゥー』も
通じないんだから大変だ。
ラファエルがいるうちにいろいろと
聞いておくことにしようと思う。
『しかしお前たち、バスで行くとはなぁ~』
『俺なら絶対飛行機でいくけどな(苦笑)』
『まあ金がないなら仕方がないか(笑)
幸運を祈る!』
ラファに言われたことが
後からよくわかることになった…
【第四章 地獄のバス】
YUKIに聞いた時には涙目になった
旅はYUKIに任せているので
前日までの予定はあえて聞いていない。
『明日はバスに20時間乗ります!』
驚きすぎて声に出た。
『20時間⁇』
バスで20時間って…
そんなの実際にあるの⁇
YUKI曰く、南米はほとんどバス移動で
長時間移動なんてザラにあるらしい。
これは同じ安宿の
旅人たちに聞いた話だ。
私たちのルートだと首都リマから
プカルパまで20時間をかけ、
海抜0m〜5000mまで
一気に上がり、そして下る。
20時間しんどいだろうが
起きてた方が良いらしい。
ほとんど徹夜じゃないか。
徹夜なんて30年はしていない…。
移動中ずっと寝てたら
目が飛び出るんだって⁉︎
気圧の関係らしいが、
まるでホラーじゃないか。
目の玉なんか出たくないに決まってる。
むちゃくちゃな都市伝説だが
誠しなやかに、
そんな話があることが怖い。
とにかく
皆んなにビビらせまくられた。
現地人以外の外国人は
半分以上が高山病にかかるらしい。
眉唾だと思いたいが…(泣)
とりあえず、高山病対策だけは
しようということになった。
YUKIが160度にシートが
倒れる席を取ってくれた。
せめてこれぐらいの装備はないと
20時間はマジでやばいと思う。
特に腰が…
俺は50歳過ぎの中年なのだ。
いざ、プカルパへ出発した。
バスは全然良い。シートも最高だ。
背もたれも160度倒れるし、
これなら何とかなりそうだ。
日本の高速バスよりも良いもんだから
テンションは上がった。
しかしそんな気持ちも最初だけだった。
やはり道のりは長い…
一度休憩しただけで
バスは延々と山を登っていく。
10時間以上が経過した…
2000m→3000m…
寝ちゃダメだ…寝ちゃだめだ…
時間は深夜0時を回ってる。
無理だ…
ピークを前にして撃沈する。
目が覚めた時には
標高1500mまで下っていた。
でも2人とも目は飛び出てなかった。
そりゃそうだろうが
とにかくよかった。
コカの葉の効能があったのかは
分からないが、
高山病にもならなかった。
だが、やはり20時間の
バス移動はきつかった…
ラファエルのいうことは正しかった。
本当に地獄のバスだったよ。
【第五章 プカルパの夜】
プカルパに到着したが、
しばらくはバスセンターの待合室から
動けなかった。腰がキツイのと
乗り物疲れである…

1時間ほどグダっとなっていた。
だがこのままというわけにもいかない。
何とか老体に鞭打って
待合室の外に出た。
ひっきりなしにオートバイに
リヤカーをつけたタクシーが
呼び込みをしている。
とりあえず、一台捕まえて
YUKIが目星をつけている
宿へと向かった。
YUKIは現地に行ってからでしか
宿を取らないのである。
その方が宿代が安いらしい。
宿に着くと、
ティムというドイツ人が出てきた。
宿のオーナーだそうだ。
背が高くてひょろっとしている。
口調がとても優しい人だった。
彼は英語が話せるので助かる。
私たちは、宿で自炊ができる
ということもあり
サンフランシスコ村
の情報を集める間は
ここに泊まり、
セレモニーに向けての
準備することにした。
だが情報を集めるにも、
スペイン語はできないし
ネットの情報だけが頼りだ。
そこでティムに話を聞いてみる。
『ティム、サンフランシスコ村に
行くんだけど、
おすすめのシャーマンはいないかい?』
一応、YUKIがネットで
評判の良いシャーマンを
見つけてたので、
その人に会いたいと
いうことも伝える。
『有名な人だよね。
良いシャーマンだけど
2週間ほどジャングルの奥地に
行ってるので今はいないよ。
どうする?それまでここで待つかい?』
どうも、彼は旅行に行ってるらしい。
うーーん、これは困った。
YUKIと相談したが、
正直言ってそんなに待てない。
時間の問題もあるが、金はかかるし、
何より禁欲生活の延長がしんどいのだ。
ティムは続ける…
『アヤワスカをやりに来たんだよね?
アジア人はみんなサンフランシスコ村へ行くけどプカルパでもできるよ』
ティム曰く、サンフランシスコ村は、
シャーマンは多いけど、
高額だったりすることから
問題も多いらしい。
この前もアジア人がトラブルにあい
大変だったとのことだ。
実はその話はYUKIも
ネットで調べていたらしく
しかも被害者は日本人だったらしい。
特に宗教観が強い奴が
アヤワスカをやると
目覚めてしまって、
高額を払いながら
そのシャーマンの下で
修行まがいのことをやるらしいのだ。
YUKIとの情報とも合うし、
ティムの話はやはり信じられる。
あとこんなことも言われた。
確かに食事制限などはあるが、
セレモニーの前日だけ食事
制限すれば良いとのことだ。
みんなスピリチュアル系西洋人の話を
真に受けてるだけなんだって。
まさに私たちは
ネットに踊らされたのである。
プカルパにもシャーマンは
いるらしいので
ティムに英語のできる
シャーマンを呼んでもらうことにした。
しかも、この宿で
アヤワスカセレモニーを
させてもらえることになった。
たまにするらしい。
料金もリーズナブルだし
交通費も浮くし一石二鳥だ。
言っておくが私は凡人である。
もちろん霊感もないから、
幽霊も見えない。
何かを感じることもできないし、
神様の声など聞こえない。
そういった超常的能力がないのである…
東京でエッセンシャルオイルを扱う店を
やっていた時(まあ今もあるんだが)
店にはスピリチャアルというものに
秀でたお客さんがよく来ていた。
その人たちは、ハイヤーセルフ(高次元)
なるものと交信できるとよく言っていた。
スピリチュアル的なところでいう
神様の呼び方のことだと思う。
よくわからないが…
また、勧められるままに、
ヨガや、瞑想もやってみた。
しかし全くもって意味がなく
結局私がハイヤーセルフと
交信することはなかった。
もちろん、今も見えたり
感じたりすることもない。
だが、今回は強制的に、
そう、毒を飲んででも、
神様の声を聴いてみたいと思う。
漫画『HUNTERxHUNTER』でいう所の
強制的に【念】を発動する様なものだ。
私はアヤワスカの力を借りて交信、
そう《天啓》を授かろうと思う!
こんな全てを無くした
50歳の中年男だが、
大病を患いながらも
生死の淵から
戻ってきたんだ。
このもらった命には
何か意味があるはずなのだ。
プカルパの夜は更ける…
さあ、セレモニーは2日後だ。
【第5章 50歳中年オヤジ、アヤワスカをやる】

19時スタート。
私たちはシャワーを浴び、
セレモニーの準備を始めた。
YUKIは、神様からの言葉を
メモする為にノートとペンを用意した。
事実こういう人は多くて、
せっかく頂いた《天啓》を
忘れてしまわないように
メモを取っているそうだ。
セレモニーは野外ですることになった。
空と大地を肌で感じ、
神様と繋がるためだ。
ティムがマットレスを2つ持ってきた。
ティムになぜマットレスが
いるのか聞いてみた。
『それは君たちがいつでも眠れる様にさ』
『大抵の人はアヤワスカをするとそのまま寝てしまうからね』
そういうものなのか…。
セレモニーを行う場所は、
森の中みたいだった。
ヤバそうな蟻の大軍がいたので
ティムが火炎放射器みたいな
バーナーで焼き払っている。
派手だなぁ…
いっときすると、
痩せたシャーマンがやってきた。
英語ができるシャーマンって
ことだったが片言だった。
まあ、私もYUKIも同レベルなので
文句は言えないが(苦笑)
ティム曰く、シャーマンで太ってる奴は
信用できないらしい。
お金を儲けてるから太るんだって。
まわりを見てみろ、
みんな貧乏だから痩せてるだろ?
って言われた(笑)
ティムと雑談しながら、
その痩せたシャーマンは
セレモニーの用意をしている。
大量の巻煙草があった。
あとはグラスふたつに、
アヤワスカの入ったペットボトルだ。
マットレスの枕元には洗面器と
トイレットペーパーが置かれた。
アヤワスカを飲んで吐いてしまう人は
かなりいるらしい。
虫よけの意味もあるのだろう
そこら辺の木を集めて火を焚く。
火の明かりが否応なしに
気分を高めてくれる…
シャーマンの横に置かれた
キャンドルに明かりが灯され、
厳かにアヤワスカセレモニーは
開始された…

シャーマンはまず煙草に火をつけ、
私たちに浴びせるように息を吐いた。
煙が私たちのまわりを囲む。
古今東西、儀式に煙はつきものである
とティムが言ってたのを思い出した。
そして何となく場が落ち着いたころ、
グラスにアヤワスカが注がれる。
グラスの中は、
茶色の汁でいっぱいになった。
見るからにまずそうだ…
心を決めて飲む!
一気には飲めないので
2回に分けて飲んだ。
ごくん、ごくん…
味はというと、
わかりやすく木の汁を
飲んでるみたいだ。
しかもかなり濃い…
だが吐き気はなかった。
ただただ、まずい!ってのが感想だ。
とりあえずごろんと
マットに寝そべった。
YUKIも同じようにして目を閉じてる。
この頃になると2人とも話はしない。
儀式に集中した。
飲んでから10分くらい経っただろうか…
シャーマンが歌を歌いだす。
お経?いや、お祈り??
変な歌が森の中に
静かに響き渡っていった。
彼は歌いながらも、
ずっと煙草を吸っている。
私の変化は特にない…
だが、シャーマンの煙を吐く音が
一定のペースで聞こえるのが、
すごく気になった。
そう、一定のペースで…
虫の音が聞こえる…
上空は少し風が舞っているのか?
木の葉が大きく揺らいでいる。
だが不思議と下にいる私たちが
風を感じることはない…
はて、何分立っただろう、、
特に自分としては変わりはないのだが
揺らいでいる葉っぱが立体的になり、
私のほうに迫ってくる様に見える。
視覚がおかしくなってきてるのか?
確か、幻覚作用が出てくるって
いってたなぁ…
これのことなのか?
それが最初の違和感であった。
まるで樹木とその葉が、
空を覆いつくす様に回りだした。
私は悠然とまわるそれを眺めていた。
後ろに見える夜空がやけに綺麗だった…
それからどれくらい経ったであろう
ティムがやって来た。
『どうだった?』
横で寝転がってるYUKIに
話しかけている。
YUKI…『最高でした!』
えっ?マジか⁉︎
YUKIはティムに
めちゃくちゃ良かったと話している。
横目で見るとYUKIのノートは
文字でびっしりだった。
噓でしょ?本当?何で??
私はというと、
ぐるぐる回る景色のほかは
何も感じることは無く、
ましてや噂に聞くメッセージ《天啓》
なんてものは降りて来なかった。
ティムが私のところにやってきた。
『TAKAはどうだった?』
言葉が詰まる…
正直、拍子抜けである。
私はアヤワスカが
効かないのだろうか?
YUKIは効いてるらしいのに…
ちょっと待て!!
わざわざ人生賭けて、
そう、日本から何十時間もかけて
こんなアマゾンくんだりまで来たんだ。
これではあまりにも割が合わん!
納得できん!
私はティムとシャーマンに伝えた。
『もう一杯、おかわりだ!』
2人は少し驚いてるみたいだ。
シャーマンが私に聞いた。
『もう一度飲んで大丈夫かい?』
大丈夫もくそもない、
何もなしで帰るわけにはいかない
ここまできたら意地である。
私は再び、グラスに注がれた
アヤワスカを今度は一気に飲んだ!
そして寝転んだ…そして祈る!
頼む…《天啓》を我に…

ティムもいなくなり、
先ほどと同じように
シャーマンが煙を吐く
音だけが聞こえる…
何でこんなに
一定のリズムで吐くんだろう…
また同じことを考えてる。
視覚による幻覚も変わらずある。
だがそれだけである…
2杯飲んでも結局は変わらなかった。
もう、どうでもよくなった…
あきらめた。
そんなもんだ。
人生を変える様な出来事など
そうそう起きるわけはない。
何かに期待なんて
他力本願というのか、
そういうこと自体が
間違いなのかもしれない。
自分のことは自分で考えろ!
それが私がアヤワスカから受けた
《天啓》だと思った。
まあ、YUKIが何かを感じたなら
それだけでも来た価値は
あったというものだ。
何かそれで納得できた。
私はシャーマンに儀式を終りに
してもらおうと起き上がった…
その時だ!急激に吐き気がした!!
立つと同時に私は
その場で激しく嘔吐する!
使うことなどないと思っていた
洗面器を探そうとするが間に合わない。
嘔吐は止まらない。
ピシャ―‼ ピシャー‼
そこら中にまき散らす。
やっと見つけた洗面器に
顔をつっこみさらに吐く。
止まらない…
すごい量を吐き出した。
意識が呆然となる…
洗面器をから顔を上げると、
目の前の地面に、緑色に光り輝く
インカの紋章が現れた‼
やばい!なんだこれ??
アニメで見る魔法陣みたいだった。
頭がおかしくなったのか?
ってか、異世界転生??
アニメの見過ぎか、
こんな言葉が頭をよぎる。
だが、紋章は一瞬で消え、
急に嘔吐した自分が
すごく恥ずかしくなった。
50歳にもなって何をしてるんだ…
すごい嫌悪感が襲ってきて
急いで汚れた服を脱ぐ。
『落ち着けアミーゴ!大丈夫か??』
シャーマンの声で我に返った。
やばい、私の行動は変だったのか??
実はこんな行動もよくあるらしいのだが
そんなこと私が知るはずもない。
とにかくこれ以上
服を脱ぐとシャーマンに
羽交い絞めにされそうな気がして
そのまま横になることにした。
何してんだろう(涙目)
目を閉じた。
頭がボーっとしてきた…
ふと気付いたら無意識に
自分の身体をさすっていた。
すごく落ち着く…
あっ…
腕がで凹んでいる。
そうか、手術で腕の肉が
えぐられているんだっけ…
そういえば、ここに来たキッカケは
人食いバクテリアだったなぁ…
何だか懐かしい。
忘れてた…
私は何もかも無くして
ここに来たんだった。
でも、不思議な気分だ。
考えてみると、
全てを無くしたといっても
それはお金や築き上げてきた生活
のことであって、
私自身はどうなんだろう?
バクテリアに侵されながらも
腕は切断されなかったし
手もあれば足もある。
私は今まで気にしたこともなかった
自分の身体の丈夫さに
感謝したら泣けてきた。
泣いてしまった…
『まだ終わっていない!
もう一度やり直せ!
まだ俺たちは十分動くぞ!』
身体の叫びが聞こえる。
50代でも20代に戻った気分だ!
『今日からが、第二の人生の幕開けだ!』
これが私にとっての《天啓》
だったのかどうなのかは分からない。
だけどアヤワスカをしなければ
気づかなかったと思う。
そしてここから先が
自分が思ってる以上に
辛いことなのも、よーく分かっている。
人生は甘くはない…
だがもう一度、最初から
始めてみようと思う。
【アヤワスカ】が教えてくれたのだから。
もうまわりの景色のことは忘れていた。
50歳中年オヤジは、プカルパの夜空を見ながら決意した。