メインコンテンツへスキップ
見出し画像

【連載 第54回】(放送第134回):琥珀色の聖地・小平マメゾン ── 僕たちが預けた鍵の行方と、消えゆく記憶の栞

    景色というのは、単に見える建物や道路の形だけではないような気がします。そこを包み込んでいた空気の重さや、匂い、言葉にならない温かさといった、目に見えないすべてが景色の本質。 今夜のテーマは、独特の重みと、吸い込まれるような大人の温かさがあった場所。かつて小平市の玉川上水沿いに佇んでいた、僕たち世代の琥珀色の聖地──フレンチレストラン『マメゾン小平店』です。あの重厚なドイツ風の扉を開けて、僕たちは一体どんな大人になろうともがいていたのでしょうか。

    【放送アーカイブ:キャンドルが照らした苦いカレーの記憶と、伝票代わりの鉄の鍵】

    竜ちゃん(竜): マメゾンの始まりは1981年。使い込まれたアンティーク家具、わざと極限まで落とされた薄暗い照明、そしてテーブルの真ん中に灯された一本のキャンドル。バブルへと向かう騒がしい時代の中で、あの「静寂の演出」は、背伸びしたい僕たちにとってこれ以上ないほど甘美な大人の舞台装置でした。バンドの練習が終わると、機材車であそこへ向かうのが定番でしたね。

    画像
    伝説のレストラン「マメゾン小平店」

    臣さん(臣): あの重厚な「鉄の鍵」が伝票代わりになっていて、会計の時にそれを持ってレジへ行く。あの鉄のずっしりとした重みは今でも手に残っています。

    画像
    鉄の鍵の伝票
    画像
    マメゾンでの回想シーン

    竜: でも、あそこの美しいキャンドルの灯りは、時に残酷なほど若者の心のリアルを照らし出しました。大学1年の頃、僕と当時の親友と、僕が心から好きだった女の子の3人で、あの炎を囲んで食事をしていたんです。あそこの絶妙な暗闇は、お互いの視線がどこを向いているのかを、はっきりと見せてしまう。揺れる炎の中で、あの子の潤んだ瞳が、僕ではなく、僕の親友をまっすぐに見つめているのを目撃したあの瞬間……。

    臣: ああ……それは切ない。

    竜: 喉を通る真っ黒な『ご隠居さんのカレー』の味が、一瞬にして消えてしまいました((笑))。友情と恋の狭間で味わった、あんなに「苦い」カレーの味は後にも先にもあの時だけです。空間の設計から手元に渡される小物の一つひとつにまで、訪れる人の記憶に「体験」として深く刻み込む仕掛けが施されていた。実に見事な空間のプロデュースでした。

    【Music of The Week】

    Lady Madonna(The Beatles Cover / BLUES CHAPLIN) (ML Remote Live at Studio Step 2021.10.23)

    形はなくなっても、あの夜のキャンドルの灯りと、鉄の鍵の重みを胸に。大人の気品とロックの躍動が混ざり合う、僕たちのライブテイクをお届けします。 ── 『Lady Madonna』

    編集後記

    画像
    伝説のレストラン「マメゾン小平店」

    今、あの玉川上水沿いの場所に行っても、僕たちの涙も笑いも包み込んでくれたあの美しい洋館はもう存在しません。建物は解体され、無機質なアパートに塗り替えられてしまいました。一人の建築士として、これに如何ともしがたい強い憤りと寂しさを感じます。

    なぜ、あのような地域の人々の記憶が染み付いた唯一無二の文化を遺そうとしなかったのか。目先の効率のために街の記憶を根こそぎ壊してしまうのは、自分たちのアイデンティティを切り刻んで捨てているのと同じです。文化を守るとは、過去の物語が挟まれた「記憶の栞」を次の世代へ守り抜くこと。この消えゆく栞の美しさを、これからも刻み続けていこうと思います。

    ◆ アーカイブ動画

    揺れるキャンドルと鉄の鍵。失われた琥珀色の聖地へのオマージュと、文化への警鐘はこちらのアーカイブからお聴きいただけます。 🎥 Vol.134:思い出のレストラン『マ・メゾン』(後編) 


     
     
    結成46年、シティポップの原点とビートルズへの愛を有機的に繋ぎ、音楽を心から愉しむクリエイター。国立や立川、世田谷等のライブハウスや野外ステージで活動中。レインボータウンFM「#なじバンノスタルジア」ではパーソナリティも務めています。熟成されたバンドサウンドをあなたに。

    あなたへのおすすめ