
【連載 第22回】(放送第102回):「装飾は犯罪か?」ウィーンがモダンデザインの聖地と呼ばれる理由
「芸術は必要にのみ従う」──オットー・ワーグナー。 「装飾は犯罪である」──アドルフ・ロース。
優雅なクラシック音楽のイメージが強いハプスブルク家の都・ウィーン。しかしこの街は、実は20世紀モダンデザインが過激な産声を上げた戦場でもありました。今回は、ウィーン在住の建築家・筒井ナイルツ美矢子さんの案内で巡った、熱い「美学の衝突」のお話です。
【放送アーカイブ:皇帝を激怒させたビルと、自然と共生する市営住宅】
竜ちゃん(竜): 臣さん、近代建築の原点といえばオットー・ワーグナーです。彼が手がけた『郵便貯金局』は、外壁の大理石を留めるアルミ製のリベット(鋲)をあえて隠さず、規則正しいドット柄のデザインに昇華させている。「機能がそのまま美になる」という現代デザインの扉を開いた瞬間です。
臣さん(臣): 無駄を省いた機能美ですね。

竜: そのワーグナーの弟子のカードアドルフ・ロースはさらに過激で、王宮の真ん前に装飾を一切削ぎ落としたのっぺりとしたビル『ロースハウス』を建てました。これに激怒した皇帝フランツ・ヨーゼフ1世は、これを「穴のあいた家」と呼び、自室から見えないように一生カーテンを閉め切ったという逸話があります((笑))。
臣: 皇帝をそこまで怒らせるとは((笑))。でも、そのストイックな思想が後の世界中の建築のベースになったんですね。

竜: 一方で、ウィーンには「自然界に直線はない」と唱えた芸術家フンデルトヴァッサーの市営住宅もあります。床は波打ち、カラフルな色彩で、バルコニーの木々を家賃を払う「木の店子」と呼び、住人には自分の窓の周りを自由に装飾する「窓の権利」を認めました。
臣: 機能性をとことん追求する厳格さと、生命の奔放さを丸ごと受け入れる懐の深さ。その両方が共存しているのが面白いですね。

「木の店子」と「窓の権利」
彼は、バルコニーや屋上に植えられた木々を、家賃を払う「木の店子」だと考え、住人には自分の窓の周りを自由に装飾する「窓の権利」を認めました 。 機能性をとことん追求する厳格さと、生命の奔放さを丸ごと受け入れる懐の深さ。この相反する価値観が共存していることこそが、ウィーンという街の文化的な豊かさそのものなのです 。
【Music of The Week】
NOW AND THEN(BLUES CHAPLIN)
編集後記
相反する建築思想が、同じウィーンという街の中で互いを否定することなく美しく共存している。この懐の深さこそが、ヨーロッパの文化的な豊かさそのものなのだと、歩くだけで背筋が伸びるような視察でした。
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