
あの日母になった私。世界が優しくみえた。
あの日、娘が生まれた瞬間の私は、ただただ「やっと会えた」という安心でいっぱいだった。
そのあと、世界中の人が同じように誰かに迎えられてこの世に生まれて来ていることに気づいて、心があたたかくなった。
初めての出産。娘はなかなか産まれなくて、頭だけが見えている時間が長かった。
もう私の力では産むことができないと思ってた。
助産師さんが私に最後までがんばる力をくれようとして、
「赤ちゃん触ってみますか?」と言って、まだ産まれていない娘の髪を触らせてくれた。
あの瞬間、自分のお股に“自分じゃない髪の毛”がある不思議さと、そこに確かに赤ちゃんがいる驚きで、胸がいっぱいになった。
それでも、そこから長かった。3時間は分娩台にいたと思う。
赤ちゃんも、私も、本当によく頑張った。
ようやく娘が生まれたとき、
「やっと会えた。本当にお腹の中にいたんだ……!」って心の底から安心した。
頭ではわかっていたのに、産まれるまで赤ちゃんがいる実感がなかったから。
初めての抱っこで、本能でおっぱいをのむ娘を見て、「人間って動物なんだなぁ。」って感じた。
どこか現実味がなかったけど、じわじわと母になった実感がわいてきて「なんてかわいいんだろう。」と娘が愛おしくてたまらなかった。
そしてふと、思った。
私の母も、きっと同じように私を産んでくれたんだろうな。
世界中の人が、こんな愛おしい気持ちで誰かに迎えられて産まれてきたのかな?
そう思ったら、一人ひとりの命がとんでもなく尊く見えて、胸が熱くなった。
それからしばらくの間は、街中でたくさんの人を見かけるたび「この人もあの人も愛されて産まれてきたんだろうな」と思って、胸の奥がずっとドキドキしていた。
世界が優しく見えた日、私は母になった。