第10章 第1話 忘れる前に残したい
「どうしてYouTubeを始めたんですか?」
もし今そう聞かれたら、私は「収益化のためです」とは答えない。
もちろん、お金があれば生活は助かる。
でも、本当の始まりはもっと単純だった。
私は昔の出来事は比較的よく覚えている。
幼い頃のことや学生時代のことは、不思議なくらい思い出せる。
ところが、ここ10年ほどは違う。
昨日のことや、電話で約束した日時でさえ、気を抜くと思い出せなくなることがある。
10年以上前の私は、今とはまるで別人だった。
保険会社との交渉でも、負けたことがなかった。
自分が正しいと思ったことは、筋道を立てて伝え、請求すべきものは請求し、認められてお金が入った。
今思えば、話の中には少し屁理屈もあったかもしれない。
それでも辻褄は合っていたし、相手もそれ以上は突っ込んでこなかった。
あの頃の私は、言葉で押し切る力があったのだと思う。
でも最近の私は、まったく言葉が出てこない。
頭の中には言いたいことが浮かんでいる。
それを自分のペースで話せれば、話すこと自体はできる。
けれど、それでは相手の話を聞いていないことになる。
聞く余地を持たせないまま、自分の話だけをしてしまう。
そんなシチュエーションは、毎日のようにたくさんある。
だから私は、少し自分の話を待つ。
相手の話を聞こうとする。
でも、その間に、結果として全部忘れてしまう。
だから、何が言いたかったのか。
何を確認したかったのか。
気づいた時には、何もかも真っ白になっている。
そんなことが、今の私にはよくある。
だから私は、電話をしながらGoogleカレンダーを開く。
相手が話している間に予定を入力し、最後にお互いで確認してから電話を切る。
電話を切ってから予定を書こうとしても、もう自信がないからだ。
私の頭を例えるなら、2TBのハードディスクのようなものだと思っている。
生まれた時は空き容量がたくさんあった。
でも今は、容量がいっぱいで、新しいことを覚えるのがとても苦手になってしまった。
だから私は、「覚える」のではなく、「残す」ことを選ぶようになった。
毎日の夕食。
家族の表情。
子どもの成長。
車の作業。
何気ない日常。
写真や動画を撮るのは、誰かに見せるためではない。
未来の自分が思い出せるようにするためだ。
今思えば、その積み重ねが、私をYouTubeという世界へ導いていくことになる。
その時は、まだ知る由もなかった。
