カキフライ
私は昔、五反田にあったオイスターバーにチョイチョイ顔を出した。そこには(恐らく何処でも)食べ比べセットがあって、様々な地域の日本産生牡蠣が大皿ひと皿に盛られて供された。私は専らそれを頼んだ。私は生牡蠣はそれほど好きじゃないので、普段から積極的に口にしなかった。だから何処産の牡蠣が好き、そういう贔屓のものが私にはなかった。それで名指しで頼めなかったんだ。逆に言えば、そういう私のようなものに取っては、この食べ比べセットは有難いメニューだったと言えるのかも知れない。コスパが良かったのでコレを頼まない手はない、という貧乏根性も手伝ってということもある。
行かなくなってもう随分経つので、今もまだそこにあるかは知らない。文頭に「あった」としたのはそういうこと。
そんな感じに生牡蠣は苦手な私だけど、カキフライは大好物。それでも子供の頃は嫌いだった。「苦手」じゃなく「嫌い」。大人になって、酒が美味しいと感じるようになって、それから好きになったもののひとつがこのカキフライ。
私の子供時分好き嫌いが激しく、貝類はホタテの貝柱以外私の舌は歯は口腔は喉はそれらを悉く全く受け付けなかった。食道を通すことも許さない勢いの壮絶な拒絶っ振りを見せた。今では大分克服したし、嗜好が変わった。
そんな感じで、本題。
私には、このカキフライの正解が分からない。
カキフライが一粒ある。大体7cm、8cmがスタンダードな大きさだろう。私は貧乏性も手伝って、この大きさは一口で食べない。
ふた口で食う。詰まり私にとってカキフライをふた口で食すのがスタンダード。
そしてこれが私のカキフライの苦悩の始まり。
貝柱の所在。右か左か、左か右か。カキフライは貝柱と臓物の部位が左右何れかに分れている。カキフライって俵型でしょ。衣に包まれてる。見た目には分からないんだ、貝柱の所在が。
私はカキフライを食す場合、まず臓物をやっつけ、貝柱で締め括りたい。
カキフライをよく見ると、俵型であるものも若干左右でシェイプが違う事に気が付くだろう。片やテーパーがついて片やふっくら丸みを帯びている。私にはそのように見える。
恐らくふっくら丸い方には臓物が、テーパーかかった方には貝柱ある、私はそう踏んだ。それで、ふっくらを口に含んで真ん中あたりで噛み切って二分割した。ふっくらは口の中だ。噛んでみると何やらアルデンテ。こっちかよ!
それを教訓に二つ目のカキフライは反対にテーパーを先にした。果たして歯にはアルデンテの感触……。
見た目からは分からないと学習した私は、次に箸の腹で押してみることにした。箸から指に伝わる感触は屹度、臓物は低反発、貝柱は高反発に違いない、そう踏んだんだ。良くわからなかった……。
そんな紆余曲折を経た私は今、運を天に任せてる。為すが儘に身を委ねている。決して納得した訳じゃない。仕方ないだけだ。
私はひとつのカキフライをふた口で食す。
そして、締めは貝柱でありたい。
しかし、生憎私には貝柱の所在が分かない。右なの? 左なの?
そんな私に、誰か正解を教えて欲しい。