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shibainu001
『記憶の青と、白い峰』
シベリウス 交響詩「フィンランディア」
木漏れ日が揺れる
まっすぐな白樺の林を抜けて
私は 静かな光の中を歩いてゆく
ひんやりとした澄んだ風が
白い幹と 瑞々しい緑の葉を揺らし
シベリウスの紡ぐ静かな旋律が
北欧の森からそっと流れてくるように下界のざわめきを 遠い過去へと消し去っていく
やがて 木々が途切れ、視界が大きく開く
そこに佇むのは 大正池
波ひとつないエメラルドグリーンの鏡水底からまっすぐに突き出る
葉も枝もない 灰色の枯れ木たち
時を止めたままの 剥き出しに
峰々を鋭く尖らせて 天を衝く
谷を刻むのは 眩しいほどの純白の
残雪
その荒々しいすべてが
鏡のような水面に そっくりそのまま反転する
青空と、白と、黒
重厚な金管の輝きが 厳かに満ちてゆくような
枯れ木の隙間で 息をのむほど完璧に重なる世界
名残惜しさに背を押され
川のささやきに沿って さらに歩けば旅は 木造りの河童橋へ到達する
見上げる視線のその先に
天と地を結ぶ 神々しいまでの稜線
さっきまで水底に眠っていた山々が
いま 手の届きそうなほど間近に
「フィンランディア」のあの讃歌のように
気高く、圧倒的な威厳をまとって 聳え立っている
陽光を浴びて波立つ梓川の流れと共に
白樺の優しさも
大正池の神秘も
すべてがこの 穂高の胸へと抱かれてゆく
心に深く刻まれたのは
いつまでも色褪せることのない
青と白の 聖なる記憶
いすみん
