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1分で読める小説・シロクマ文芸部「ゆっくりと」『空開き』

    富士川三希

     ゆっくりと深呼吸をすると、キンと澄み切った空気が肺まで流れ込む。吐く息は白い。わたしはゴーグルをしっかりと嵌め直した。
     今日は待ちに待った三十年ぶりの「空開き」だ。
     峰に立ち、じっとその時を待った。

     ……来た。鶴だ。
     美しいV字編隊で飛び進む鶴たちに目を奪われる。それが頭上をすり抜ける瞬間、わたしはハンググライダー機を操り、上昇気流を捉えて一気に体を浮かせた。
     みるみるうちに近づいて、V字編隊の端に加わる。
     シンとした静けさの中、防寒具の上からでも分かるほど冷たい頬を切る風の音と、バサリ、バサリと力強くも優雅に羽ばたく鶴たちの翼の音が聞こえては、空に吸い込まれていく。
     畏怖を感じるほどの、瑠璃紺の天井世界――
     ビル群の間に押し込めたような、白けた空でもなく。
     遮るものも何もない。
     身一つで空を渡るものだけが見る世界だ。

     鶴たちと渡った空を目に焼き付けて、ゆっくりと降下を開始した。
     見上げながら、ゆっくりと、ゆっくりと。元いた世界に降りていく。
     きっと、次の空開きには飛ぶこともできないのだから。

    了

    『空開き』

    ★小牧幸助さんのシロクマ文芸部のお題です。


     
     
     
    長崎県出身。ふじかわみきです。 物語を読むのも観るのも好き。ある歌詞に共感し、仕事にするなら書くことにしようと思い、転職。小売業→地方出版社営業→不動産広報(いまココ)。書ける仕事をしながら、小説の勉強中。バレー・駅伝好き。

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